Japan Journal of Human Resource Management
Online ISSN : 2424-0788
Print ISSN : 1881-3828
Articles
Impact of Successor Career Formation on Corporate Performance after Business Succession
Ken SATO
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2019 Volume 20 Issue 1 Pages 4-18

Details
Abstract

This study analyzes the determinants of the performance of small and medium-sized enterprises after taking over other businesses with a focus on the career formation of successors. Experience in other companies was analyzed based on the classification of experience in the same industry and in other industries. The results of the analysis are as follows. First, occupational careers (own experience, experience in other companies in the same industry, experience in other companies in other industries) enhance management ability and have a positive effect on strategies/measures, although only experience in other companies in other industries has a positive effect on changes in strategy. Moreover, cross-boundary experience may have a positive effect on management capacity formation. Second, successors from unrelated companies have a positive effect on changes in strategy. Third, external education, such as from external educational institutions and stakeholders, has a positive effect on management ability in terms of successor education. Furthermore, advice and delegation of leadership by former management members have a positive effect. The results show the possibility of career formation support.

1. 問題の所在

本稿の目的は,事業承継前の後継者のキャリア形成が,経営能力と事業承継後の中小企業の企業パフォーマンスに対してどのような影響を与えているのかを明らかにすることである。

日本の中小企業は,戦後日本の経済成長を支える高い技術力で雇用創出など地域経済をけん引する役割を担ってきた。しかし,2016年に中小企業の休廃業・解散件数は過去最多となり,売上高経常利益率が判明している企業の50.5%が黒字状態で廃業していることが明らかになった(中小企業庁,2017a)。

これまでは,1980年代から低迷し続けている開業率を改善するために新規開業を促進することが,日本の中小企業政策の重要政策の一つであった。というのも,新規開業によって,競争や新たなサービスの供給といったイノベーションが促され,雇用を生み出し地域経済が活性化すると考えられていたからである。しかし,地域経済をけん引する中小企業も廃業する可能性もある現在において,今後は新規開業の促進を重視するだけでなく,こういった中小企業を存続させることも重要となってくるのだろう。

廃業の要因は経済環境など様々であるが,その一つの要因に経営者の高齢化と後継者の不在があると考えられる。中小企業経営者の年齢は,1995年のピーク年齢(最頻値)が47歳であるのに対し2015年は66歳になっており,中小企業経営者の4割を65歳以上の年齢が占めている1。そして,70歳を過ぎても多くの経営者が後継者を決定できずに(東京商工会議所,2018),結果として後継者不在による廃業につながっているケースもある。このような状況を受け,中小企業庁(2017b)は,経営者の高齢化が改善されない場合,2020年頃に団塊経営者の大量引退期が到来すると警鐘を鳴らしている。後継者不在による廃業が増加することにより,雇用や高い技術力が失われてしまい,地域経済に大きな負の影響を与えるだろう。

つまり,経営者の高齢化が進む現在において,これまで蓄積されてきた取引先・技術力や従業員といった経営資源を次世代にバトンタッチする事業承継が急がれているといえよう。しかし,会社存続を重視した後継者を選別しないような事業承継によって,能力が高いとはいえない後継者が経営者に指名されてしまった場合,その企業は永続的に存続し,なおかつ発展できるのだろうか。中小企業の場合,大企業と比べて経営者の力が企業の力となる傾向がより強いと考えられ,経営者の能力が経営状況を左右することから,次期経営者の選択は重視されるべき経営課題といえる。

安田(2006b)によると,事業承継の問題は二点ある。一点目は,存続するべき企業が承継され,退出するべき企業が退出する機能の側面。二点目は,後継者が承継後に企業パフォーマンスを低下させないかという側面である。つまり,安田(2006b)のいう問題の二点目から考えると,経営能力の低い後継者が就任してしまった場合,高い企業パフォーマンスを維持してきた企業であっても企業パフォーマンスの悪化に追い込まれてしまう可能性がある。事業承継において後継者の選択も重要であるが,次期経営者である後継者のキャリアと人材育成を検討することは,事業承継の問題を考える上でも一層重要になってくるといえるだろう。従って,本稿では後継者のキャリアと人材育成に注目しながら,事業承継後の企業パフォーマンスの決定要因を分析する。これまでの研究でも,事業承継後の企業パフォーマンスの決定要因は分析されてきたが,後継者のキャリアと人材育成に焦点を当てた分析は多くはないため,それゆえに本稿が新しい分析を追加する意義はあると考える。

本稿の構成は以下の通りとなる。まず次節では,経営能力と企業パフォーマンスの関係,事業承継後の企業パフォーマンスに関する先行研究を整理する。第3節では,分析のフレームワークと仮説を提示する。第4節はデータセットと変数を説明し,第5節は分析方法と結果を叙述する。第6節は結論である。

2. 先行研究

本節では,経営能力と企業パフォーマンス(以下パフォーマンス)に関する先行研究を整理する。中小企業の経営判断は経営者自身によるものが多く,経営能力がパフォーマンスを大きく左右するといえる。それゆえに,経営能力とパフォーマンスの関係について多くの実証分析が行われてきた。そこで,研究が蓄積されている新規開業企業を対象とした先行研究を整理した後に,事業承継後の企業を対象とした先行研究を整理することで,これまでの分析のフレームワークと変数を把握し,本研究の位置づけを明確にする。

新規開業企業の先駆的研究であるStorey(1994)は,①企業家属性,②企業属性,③企業戦略の3要素の組み合わせによりパフォーマンスが決定すると考えた。この中でも①企業家属性が経営能力を示している。Storey(1994)以降,欧米を中心に開業後のパフォーマンスに関する実証分析が進められた(例えば,Audretsch,1995Åstebro&Yong,2016など)。

日本においても,これまで多くの研究が行われてきた(例えば,松繁,2002岡室,2005など)。ただし,実際,経営能力自体を測定することは困難である。それゆえ先行研究は,経営者の経営能力の決定要因に注目してきた。代表的な要因として,3つの変数があげられる。

第一に,先行研究でも多く利用されている変数として教育があげられる。これまでの実証分析では,学歴がパフォーマンスに正の影響を与える結果が得られている(Honjo,2004)。ただし,他の先行研究では有意な結果が得られない場合もある(岡室,2005)。第二に,家庭環境があげられる。親が自営業である場合,子どもが起業を実現,または起業後のパフォーマンスが高いという仮説があるが,パフォーマンスに対して有意な影響はみられていない(安田,2005)。第三に,重要な変数として考えられるのは職業キャリアである。経営能力は,職業キャリアによっても構築されると言えよう。松繁(2002)は職業経験について,会社を成長させるために必要な情報や技能は,仕事経験を通じてしか身につかないことを指摘している。例えば,熊田(2010)では,管理職経験は起業後のパフォーマンスに正の影響を与えていることが明らかになっている。一方,斯業経験は,パフォーマンスに正の影響を与えている結果と(Harada,2003),負の影響もしくは影響が無い結果に分かれている(岡室,2005)。

なお,企業内の管理職のキャリア形成では,関連が深い職能領域内での幅広い職務の経験が有効であることが確認されている(小池,2005)。ただし,このような経験が経営能力の形成には役立たない可能性もある。例えば,Lazear & Gibbs(2014)によると,企業家には従業員と異なる,幅広い能力が必要とされる。そもそも,企業家には,マージナル・マン2のような業界外の知識を業界内に導入するような才能が求められる。それならば,他社や他業界の経験や知識が企業家の経営能力を高める可能性もある3。企業家の能力形成には,組織内学習だけでなく,組織の境界を越えて学習する越境的学習という概念が重要である(例えば,石山(2018)参照)。

次に,事業承継後のパフォーマンスの研究について整理しよう。海外ではいくつかの実証分析が行われているが(例えば,Lentz & Laband,1990Venter, Boshoff & Maas,2005など),日本では事業承継の実証分析は少ない。数少ない研究として,川上(2005)安田(2006a),および沈(2014)がある。

安田(2006a)は,親族承継と非親族承継ではパフォーマンスに差が無く,高学歴は非親族承継のみ正の効果を持つことを確認している。一方,沈(2014)は,学歴から生じる初任給の差を経営能力の差と定義した上で,後継者をエリートと非エリートに分類し,同族企業の非エリート親族承継は,エリート親族承継や非同族企業の非エリート専門経営者承継と比較してパフォーマンスの悪化を招き,学歴が問題となるのは同族企業のみであることを確認している。

なお,本稿が注目する職業キャリアについては,安田(2006a)が他社経験ダミーを使用して分析しているが,統計的に有意な結果を得られていない。また,沈(2014)も他社経験ダミーを説明変数とした分析を行ったが,他社経験はパフォーマンスに負の効果を持つことを確認している。

ただし,先行研究のように職業キャリアを他社経験に絞って分析するだけでは限界がある。経営能力形成の要因である職業キャリアに関しては,もっと詳しく検討する必要があろう。例えば,他社経験については,同業他社と異業種他社の違いがそれぞれ指摘されているが4,これまで分析が行われていない(山口,2014)。川上(2005)は,現在の事業と関連のない企業に勤める経験がパフォーマンスに対して正の効果を持つことを確認しているが,質問紙の項目は「勤務先で現在の事業に関連する仕事をしていたか」という内容で,職業キャリアを細かく捉えているとは言えない。なお,質的調査の中には,後継者教育のプロセスを分析している先行研究もある。血縁関係に焦点を当てた研究が多いが(例えば,堀越,2015落合,2016など),久保田(2011)は社外経験による知識獲得,新規プロジェクト遂行の実績で得られる社内外からの信頼確保の重要性を指摘している。本稿では,事例研究の発見にも留意しつつ,どのような職業キャリアがパフォーマンスに良い影響を与えるのかを計量的に分析したい。

ところで,被説明変数を企業のパフォーマンスではなく,承継後の戦略・施策とした研究もある(村上・古泉,2010小野瀬,2014)。ただし,その戦略がパフォーマンスにどういった影響を与えているのかが明らかになっていない。経営能力は戦略を生み出し,その結果パフォーマンスを高めると考えると,経営能力と戦略とパフォーマンスの関係を分析すべきである。さらに,先行研究における戦略・施策は充分に整理されているとは言えない。従って本稿では,これまでの先行研究における分析枠組みを拡張し,「経営能力→戦略・施策→パフォーマンス」という因果関係の検証を行う。

3. 分析フレームワークと仮説

前節における先行研究の検討から,「経営能力→パフォーマンス」と「経営能力→戦略・施策」の別々の関係は実証分析によって明らかになっているが,「経営能力→戦略・施策→パフォーマンス」の関係は分析されてこなかったことがわかる。図1に示したように,先行研究でも経営能力を推定することは難しいと述べられているが,本稿では「戦略・施策を積極的に展開する」ことを経営能力の成果として位置付けることはできる。さらに,後継者の経営能力の決定要因として職業キャリア,血縁,教育の3つの説明変数に注目する。前節で説明した通り,これらの変数は後継者の経営能力を高め,そして戦略・施策を生み出し,企業のパフォーマンスを高めると考えられる。続けて,一つひとつの変数を説明しよう。

図1 分析のフレームワーク図

第一に,新規開業企業を対象とした実証分析では,管理職経験,斯業経験という職業キャリアの変数の分析が行われ,正の効果を持つ結果も得られていた。しかし,事業承継企業の先行研究では,職業キャリアは他社経験だけが扱われている。その上,そのような他社経験もパフォーマンスに対して正の効果の結果は得られていない。そこで本稿では,職業キャリアの変数を再検討して分析を行う。

まず,自社経験は社内事情の理解や自社事業に関する実務経験のために必要と考えられる。一方で,三井(20022015)は,同業他社や異業種他社の経験は後継者の経営能力形成に役立ち,さらに他社経験でも異業種他社での経験が重要となる可能性を指摘している。

これらの職業キャリアを,学習による能力形成の視点から考えると,自社経験は承継企業という単一的な職場での,OJTを中心とした状況的学習5と考えることができる。一方,同業他社や異業種他社での仕事経験は,承継企業という境界6を越境した経験と考えることができる。「越境経験」は葛藤,摩擦,軋轢,矛盾が生じるが(香川,2011),既存の実践を問い直し新たな成果を生み出す可能性も指摘できる(Engeström,2008)。これらのことから,次の三つの仮説が導かれる。

  • 仮説1:自社経験は経営能力を高め,積極的な戦略・施策の展開をもたらす。
  • 仮説2:同業他社経験は経営能力を高め,積極的な戦略・施策の展開をもたらす。
  • 仮説3:異業種他社経験は経営能力を高め,積極的な戦略・施策の展開をもたらす。

第二に,質的調査の堀越(2015)落合(2016)が示したように,先代経営者と血縁関係にあれば,非連続的な異動や昇進といった早期選抜が可能となり,エリート教育によって経営能力形成も進むと考えられる。一方,非血縁関係にあるほうが,能力の高い人材を後継者に指名できるため,経営能力に対して正の効果を持つ可能性もある(沈,2014)。このように先代経営者との血縁関係の有無は予測できないため,次の二つの対になる仮説を提示する。

  • 仮説4a:先代経営者と血縁関係にある後継者は非血縁の後継者より経営能力を高め,積極的な戦略・施策の展開をもたらす。
  • 仮説4b:先代経営者と非血縁関係にある後継者は血縁の後継者より経営能力を高め,積極的な戦略・施策の展開をもたらす。

第三に,教育は先行研究でもパフォーマンスへの正の効果が明らかである。特に本稿では,教育の中でも後継者教育に分析の焦点を当てる。そのため,後継者が経営者に就任する前に先代経営者から受けた後継者教育の変数を利用する。後継者教育については,これまで計量分析が行われることは少なかったが,経営者からの後継者教育は,経営能力に対し正の効果が期待できる。最後に,経営能力の成果としての戦略・施策の展開は,パフォーマンスに正の効果を持つと期待できることから,次の二つの仮説が導かれる。

  • 仮説5:先代経営者による後継者教育は経営能力を高め,積極的な戦略・施策の展開をもたらす。
  • 仮説6:戦略・施策の積極的な展開は,パフォーマンスの向上をもたらす。

4. データセットと変数

4.1 データセット

本稿では,東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJデータアーカイブから提供を受けた「中小企業の事業承継に関するアンケート(日本政策金融公庫総合研究所)」の調査データの再分析を行う。この調査は,日本政策金融公庫の融資先24,569社を対象とした2009年の調査である。調査票の送付・回収ともに郵送で行い,現経営者(代表者・事業主)本人が回答する様式となっている。回答は無記名で,回収数は9,397社(回収率38.2%)である。

分析では,回答者のうち創業者を除く,事業承継を経験した二代目経営者以降の企業からなるサンプルを用いることにする7。また,中小企業基本法に定められている中小企業の定義である300人以下の規模とするため,従業員数300人以上のサンプルを除き,最終的には4,307のとなった。ただし,利用する変数に欠損値がある場合は,そのサンプルを除いている。

4.2 変数

次に,被説明変数と説明変数について,前節で先述した分析のフレームワークに従い,それぞれ検討していく。

はじめに,被説明変数である戦略・施策について検討する。後継者が事業承継後に経営を改善するために実行した取組みの質問は,複数回答方式で14項目である。しかし,内容が幅広く整理分類されていない内容となっていることから,本稿では,整理分類を行った上で,新たに3つの変数に加工する。なお,変数の加工にあたり,林・山田(2017)が用いた分析フレームワークである三品(2016)の戦略の重層構造を参考にする。なお,江島(2014)は,欧米諸国での中小企業の生存要因や失敗要因に関する実証分析では市場開発,製品開発,組織機構の3分野に関する経営戦略の議論が多いことを指摘している。

第一に,「新たな事業分野への進出」,「新たな顧客層の開拓」,「新たな経営理念の確立」の3項目について「1:どれかを選択」,「0:どれも選択しない」という戦略の変更を作成する。第二に,「新商品と新サービスの開発と販売」,「製品とサービスの新しい生産方法や新しい提供方法の開発」,「取引先の選別」,「新部門や子会社等の立ち上げ」の4項目について「1:どれかを選択」,「0:どれも選択しない」という製品施策を作成する。第三に,「経営幹部の交代」,「従業員の経営参加や権限委譲」,「不採算部門などの整理」,「店舗・工場・事務所などの増設と拡張」,「社内の情報化の促進」の5項目について「1:どれかを選択」,「0:どれも選択しない」という管理施策を作成する。

また,事業承継後に後継者が積極的に戦略・施策を展開したことを,数値として把握するために複数回答の項目を足し合わせ,戦略・施策を連続変数化する。表1に示したのは,戦略・施策の基本統計量である。

表1 戦略・施策に関する基本統計量

次に,同じく被説明変数となるパフォーマンスについて検討する。事業承継後のパフォーマンスについて,沈(2014)はROAを使った承継前後3年間の業績比較,安田(2006a)は同時期に承継が発生した他の企業とのパフォーマンス比較である常時従業員年平均成長率を用いている。ただし,本稿では事業承継後の戦略・施策がパフォーマンスに与える影響を推定するため,承継後3年間という短い期間でパフォーマンスを評価することはできない。そこで本稿では,事業承継時と比較した調査時点での業績を事業承継後のパフォーマンスとして採用する。回答者比率は,「悪くなった」が18.7%,「やや悪くなった」が18.1%,「あまり変わらない」が16.7%,「やや良くなった」が25.2%,「良くなった」が21.4%である。ただし,この変数は回答者の判断に基づく点に留意が必要である。

続いて,説明変数について検討する。はじめに,経営能力の決定要因(職業キャリア,後継者教育,血縁),後継者の属性などを示した(表2)。

表2 経営能力の決定要因,後継者の属性,従業員規模に関する基本統計量

まず,職業キャリアの変数として,「①貴社で勤務,②貴社の子会社・別会社で勤務,③同業種の他社で勤務,④異業種の他社で勤務,⑤上記以外の勤務先で勤務(公務員等),⑥勤務経験なし(複数回答)」の質問がある。本稿では,職業キャリアの変数を再検討し,これらの変数を新たに「①・②→自社経験,③→同業他社経験,④・⑤→異業種他社経験」の3つのダミー変数(1:どちらかを選択,0:どれも選択しない)として加工した。

続いて,後継者教育の変数について検討する。現経営者(後継者)が承継準備期間に先代経営者から受けた取組みについて,複数回答方式で12項目(取引先や同業者など社外で修業,先代との仕事経験,経営者となるための助言,外部教育機関などへ派遣,補佐役の配置,段階的な権限委譲,事業の将来性や魅力の維持,相続税・贈与税に関する税負担の軽減,役員・従業員・株主の協力体制の確立,取引先・金融機関の紹介)がある。幅広く整理分類されていない内容となっており,本稿では後継者教育に焦点を当てるため,後継者教育に関わる「先代との仕事経験」,「経営者となるための助言」,「補佐役の配置」,「外部教育機関などへ派遣」,「段階的な権限委譲」,「取引先・金融機関の紹介」の6つの項目をダミー変数(1:どれかを選択,0:どれも選択しない)として加工した。

血縁は,先代経営者との関係について質問している項目を「1:長男などの実子,娘婿,配偶者,それ以外の親族」,「0:従業員,社外の人」としてダミー変数化した。

さらに,後継者の属性に関する変数として経営者に就任した年齢,事業承継経過年数がある。また,計画的な承継を「1:後継者候補として計画的に準備をして承継した」,「0:後継者候補の一人ではあったが準備もないまま承継した,後継者候補ではなく準備もないまま承継した」としてダミー変数化した。

なお,産業は14あり,建設業を基準にダミー変数化している。承継後における先代の関与の回答者比率は,「関与なし(先代経営者はまったく関与しなかった)」が38.0%,「関与なし&助言(経営には関与しなかったが,求めればアドバイスをくれた)」が31.4%,「積極的助言(最終判断は現経営者に任せたが,積極的に意見を述べた)」が21.2%,「関与あり(特定の経営判断は,先代経営者が意思決定した)」が5.9%,「過剰な関与(経営判断の多くは先代経営者が意思決定した)」が3.5%であり,「関与なし」を基準にダミー変数化している。承継直前の業績の回答者比率は,「悪かった」が14.8%,「やや悪かった」が27.5%,「やや良かった」が43.6%,「良かった」が14.1%であり,「悪かった」を基準にダミー変数化している。

5. 分析

本節では,第3節で示した分析のフレームワークに従い,事業承継後の戦略・施策の展開とパフォーマンスを決定する要因を分析しよう。

5.1 推定モデル

推定分析は2つの段階に分かれる。はじめに推定①は,経営能力の決定要因が戦略・施策にどのような影響を与えるのかという疑問に答えるためのものであり,推定式は次の通りとなる。

  • 推定式①:\(S_i\)(戦略・施策)
  •  = \(f\)(職業キャリア\(_i\), 後継者教育\(_i\),
  •   血縁\(_i\), 統制変数\(_i\))+ \(e_i\)

戦略・施策の変数は,整理分類した3つのダミー変数(戦略の変更,製品施策,管理施策)と,戦略・施策を足し合わせて数値化した連続変数がある。ダミー変数の場合,戦略・施策を展開できるか否かという0と1の被説明変数をとるためプロビット推定を採用し,戦略・施策の連続変数の場合,最小二乗法(OLS)を採用する。説明変数は,職業キャリア,血縁,後継者教育である。

職業キャリアは正の効果が予測できるが,自社経験よりも他社経験が強く,さらに他社経験の中でも異業種他社経験が経営能力を高め,戦略・施策に強い正の効果を持つと予測できる。血縁は正負の効果が分かれる可能性があり,予測不可能である。後継者教育は,正の効果を持つことが予測できる。統制変数は,承継後の先代の関与と承継前の業績,後継者属性といえる,計画的な承継の有無,経営者に就任した年齢,事業承継経過年数,企業属性の従業員数,産業を用いる。

一方,推定②では,戦略・施策が企業のパフォーマンスに与える効果を分析するものである。被説明変数のパフォーマンスは5段階の変数なので,順序プロビット推定を採用する。パフォーマンスを高めるために戦略・施策を展開するので,正の効果が予測される。推定式は以下の通りとなる。

  • 推定式②:\(P_i\)(パフォーマンス)
  •  = \(f\)(\(\bar{S}_i\)(戦略・施策), 統制変数\(_i\))+ \(e_i\)

なお,推定②の説明変数となる戦略・施策は推定①の被説明変数である。それゆえ,戦略・施策を展開したか否かの推定値を説明変数として,展開した場合とそうでない場合のパフォーマンスの差を計測することになる。なお,推定①では4つの推定を行ったので,それぞれの推定値を用いて分析する。加えて,後継者属性である事業承継経過年数と企業属性である従業員数,産業を統制変数とする。

5.2 推定結果

推定結果は,表3表4に示した通りである。はじめに,戦略・施策を被説明変数にした表3から確認する。

表3 経営能力の決定要因と戦略・施策の分析(推定①)
表4 戦略・施策とパフォーマンスの分析(推定②)

第一に,戦略の変更に関する推定結果を確認する。職業キャリアは,異業種他社経験の係数が有意な正の値である一方で,自社経験は有意ではあるが負の値であった。また,血縁関係の係数は有意な負の値であった。後継者教育は,経営者になるための助言,外部教育機関などへの派遣,段階的な権限委譲,取引先・金融機関の紹介の4つの説明変数の係数が有意な正の値であった。

第二に,製品施策に関する推定結果を確認する。3つの職業キャリアの係数は,有意な正の値であった。血縁関係は係数が正であったが,統計的に有意な値にならなかった。また,後継者教育は,戦略の変更と同様4つの係数が有意な正の値であった。

第三に,管理施策に関する推定結果を確認する。職業キャリアでは異業種他社経験の係数のみが有意な正の値となり,一方で血縁関係は統計的に有意な値にならなかった。また,後継者教育では,経営者となるための助言と外部教育機関派遣,取引先等の紹介の3つの係数が有意な正の値であった。

最後に,戦略施策数に関する推定結果を確認する。3つの職業キャリアの係数は,有意な正の値を持っているが,係数を見てみると「自社経験→同業他社経験→異業種他社経験」の順に係数が高まっていることが確認できる。つまり,異業種での他社経験があれば,戦略・施策を積極的に展開しているといえる。一方,血縁関係は,有意な値ではなかった。また,後継者教育は,戦略の変更と製品施策と同様の4つの係数が有意な正の値となった。

以上,戦略・施策を被説明変数とした分析の結果をまとめると,自社経験と同業他社経験は,製品施策のみではあったが,有意な正の効果を持つことから,仮説1と仮説2が部分的に支持されたといえる。異業種他社経験は,戦略の変更,製品施策,管理施策に対して有意な正の効果を持ち,仮説3が支持された。一方,血縁関係は,戦略の変更に対してのみ有意な負の効果を持つことから,仮説4aが棄却され,仮説4bは部分的に支持された。後継者教育は,助言や権限委譲,教育機関の派遣,取引先紹介が有意な正の効果を持つことから,仮説5が部分的に支持されたといえる。

続いて,承継後のパフォーマンスを被説明変数にした推定②の結果を確認する(表4)。戦略の変更,製品施策,管理施策,戦略施策数の係数は,パフォーマンスに対して有意な正の値である。つまり,承継後の戦略・施策は,パフォーマンスを高める効果を持ち,仮説6が支持されたといえる。3つの戦略・施策を同時に入れたモデルでは,戦略の変更のみが有意な正の値となり,さらに戦略・施策別に係数を比較すると,「管理施策→製品施策→戦略の変更」の順番に係数が高いことが確認できる。すなわち,戦略の変更がパフォーマンスに与える影響が最も大きいと解釈できる。ただし,説明変数間に相関が高いので,多重共線性に留意する必要性がある。

5.3 考察

職業キャリア,血縁,後継者教育は戦略・施策の展開に正の効果があり,さらに,それら戦略・施策は承継後のパフォーマンスに正の効果があることが確認された。つまり,職業キャリア,血縁,後継者教育は戦略・施策を介してパフォーマンスを高めているという分析フレームワーク通りの解釈ができる。

通常,経営戦略に基づいて各種施策が決定するので,戦略・施策の中でも戦略の変更は重要となる可能性がある。特に職業キャリアでは,異業種他社経験のみが正の効果を持つ結果となった。さらに,他の戦略・施策に対しても正の効果を持つため,承継前の異業種他社での経験は注目するべきだろう。では,なぜ戦略の変更が重要となり,異業種他社経験は強い効果を持つのだろうか。続けて,その理由を考察したい。

創業のように創業者が一から戦略を展開する場合と異なり,事業承継は先代が残した戦略も含めた経営資産を,後継者が引き継ぐ。つまり,業績が低迷している場合や新たな事業分野進出には,先代から続いていた戦略を変更する必要がある。江島(2014)は,中小企業の戦略やマネジメントの変更は経営上リスクとなるが,企業の存続と発展のためには必要不可欠であることを確認している。また,林・山田(2017)は,戦略を変更するにあたり,後継者の経営能力が問題になることを指摘している。すなわち,製品施策や管理施策と比較して戦略の変更は重要であり,後継者には戦略の変更を展開できる経営能力が求められるといえる。

異業種他社経験について,新規開業企業を対象にした分析ではパフォーマンスに対する効果が分かれていたが(Åstebro & Yong,2016Anne & Arjen,2017),本稿での分析では事業承継企業には正の効果を持ち,異業種他社での経験は後継者にとって重要な職業キャリアであるといえる。本稿の分析結果は,マージナル・マンのように業界外の知識を承継企業に導入する才能が後継者にも求められる可能性を示唆している。

自社経験や同業他社経験は,企業内特殊的技能,産業内特殊的技能の獲得に役立ち,さらにパフォーマンスに対しても効果を持つ職業キャリアである。一方,戦略の変更を展開できるような経営能力形成には限界があるといえよう。つまり,自社経験と同業他社経験での学習は,後継者の人材育成としては経験の幅を限定してしまう可能性が考えられる。言い換えれば,異業種他社経験のような承継企業・業界の境界を超える「越境経験」は,後継者の経験の幅を広げ,承継企業と異なる知識や経営手法の獲得を生み出す可能性がある。そして,承継企業や業界の常識にとらわれない戦略の変更を生み出すのに役立つと考えられる。

6. 結論

本稿では,職業キャリア,血縁,後継者教育という経営能力の決定要因といえる変数が,事業承継後の戦略・施策に与える影響を検証し,さらにその戦略・施策が事業承継後のパフォーマンスにどのような影響を与えているのかを分析した。分析結果から明らかになったのは,次の4点である。

  • ⑴ 職業キャリアは,後継者の経営能力を高め戦略・施策に有意な正の効果を持ち,その中でも他社経験は自社経験と比較して強い効果を持つ。さらに,異業種他社経験のみが,後継者に求められる戦略の変更に対して正の効果を持つことが明らかになった。このような異業種での他社経験という「越境経験」が学習を生み出している可能性を指摘できる。
  • ⑵ 非血縁後継者が,戦略の変更に有意な効果を持つ。その理由として,能力の高い後継者が選抜されている可能性がある。また,家族経営が多い中小企業の中で,非血縁後継者はマージナルな位置にいると考えることもできる。つまり,非血縁後継者は,これまでの社内や業界の常識にとらわれずに戦略を取れるといえる。
  • ⑶ 後継者教育は,社外と社内の教育機会が戦略・施策に対して有意な正の効果が確認できた。まず,社外での教育機会に関しては,外部教育機関への派遣,取引先・金融機関の紹介が正の効果を持つことが確認され,Off-JTといった研修効果や,利害関係者を事前に把握することで新たな取引や資金調達に対して有利な立場になる効果があると考えられる。さらに社内の教育機会は,経営者になるための助言,段階的な権限移譲が正の効果を持つ一方で,先代との仕事経験と補佐役の配置が有意でなかった。この結果は,先代経営者が承継前に関与しすぎずに,助言しながら権限移譲することが必要であるといえよう。
  • ⑷ 戦略・施策は,パフォーマンスに正の効果を持つことが確認された。さらに,推定係数から「管理施策→製品施策→戦略の変更」の順番で,パフォーマンスに対して正の効果が大きくなっていることが確認できた。この分析結果から,職業キャリアや一部の後継者教育の変数は,戦略・施策を通じて間接的にパフォーマンスに対して正の効果を持つといえる。

これまでの実証分析では,職業キャリアは他社経験としてのみ用いられ,重視されてこなかった。だが,本稿の分析結果は,承継後にパフォーマンスを低下させないためにも,後継者の人材育成,特に職業キャリアが重要であり,意識的に異業種で経験を積ませるような戦略的なキャリア開発が求められていることを示唆している。

ただし,実際のところ,経営資源の限られている中小企業は,自社や業界を超えたキャリア開発はハードルが高いといえる。加えて,このようなキャリア開発のためには,後継者を早期選抜して多様な経験を積ませることも必要である。他方,能力の低い後継者を選抜した場合,パフォーマンス悪化を招く可能性もある。つまり,いかに育成(make)するかだけではなく,能力の高い後継者を選択するために異業種他社経験者を積極的に採用(buy)し,候補者の人材プールを形成することも重要になる。

最後に,本稿の限界と検討課題を述べる。第一に,職業キャリアの中でも,異業種他社経験が最も経営能力を高める効果を持つことを明らかにしたが,承継企業との具体的な業種の違いは明らかにできなかった。他社経験という「越境経験」が効果を持つ理由は,そこに学習という過程が生まれている可能性を指摘したが,職業キャリアを通じての学習メカニズムについて詳細な記述ができなかった。今後は,さらなる量的調査や質的調査による分析で検討することが必要であろう。第二に,企業規模は300人以下の中小企業を対象にした分析であったが,小企業などに限定して分析することで,中企業と小企業でパフォーマンスの決定要因が異なる可能性も今後検討する必要があろう。

 【謝辞】

本稿作成に当たり,東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJデータアーカイブから「中小企業の事業承継に関するアンケート調査,2009」(寄託者:日本政策金融公庫総合研究所)の個票データの提供を受けました。本論文作成にあたり,梅崎修教授(法政大学)からは多大なご指導を頂きました。また匿名の査読者の先生方から貴重なコメントを頂きました。ここに記して深く感謝を意を表します。

(筆者=法政大学大学院キャリアデザイン学研究科,研究生)

【注】
1  ㈱帝国データバンク「COSMOS2企業概要ファイル」に登録されている中小企業経営者の年齢推移。

2  宮本(2004)は,社会的にマージナル(周辺的)な位置にいる人々ほど既存の秩序や社会的価値に抵抗し,それが革新の源泉になることを指摘している。

3  Anne & Arjen(2017)は異業種を含めた職業から得た知識などがパフォーマンスを高めることを確認しているが,Åstebro & Yong(2016)は起業した業界の仕組みを学ぶのに費やされる時間が多くなる影響などから,異業種経験がパフォーマンスを低下させることを確認している。

4  同業他社経験について三井(2002)によると,同業・関連業種などで武者修行をさせ,将来自社で役立つ経営手法を身に付けさせるという。また,異業種他社経験について三井(2015)は,金融機関での様々な企業実態を見る経験や承継企業と別の業種での経験が,知識の幅を広げ重要な経験になることを指摘している。

5  他者との相互作用に注目した,熟練者による徒弟制度的な学習(Brown,Collins & Duguid,1989)。

6  石山(2018)は越境的学習には境界を超える行為が必要と指摘し,その境界を自らが準拠している状況とその他の状況の境と定義している。自らが準拠している状況を,本稿では後継者の承継企業と定義する。

7  労働力人口でない15歳以下で経営者に就任したサンプルと,減益傾向に陥りやすい70歳(中小企業庁,2013)を越えたサンプル,承継経過年数が1年未満のサンプルも除いた。

【引用文献】
 
© 2020 Japan Society of Human Resource Management
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