Japan Journal of Human Resource Management
Online ISSN : 2424-0788
Print ISSN : 1881-3828
Foreword
Need for Interdisciplinary Studies in Human Resource Management That Encourages Deep-level Diversity
Jun ISHIKAWA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 21 Issue 2 Pages 2-4

Details

今日ほど,組織を取り巻く環境の不確実性が高まっている時代はない。技術進歩は加速化し,顧客ニーズは多様化し,競争環境も激変している。そしてこのコロナ禍である。どの組織にとっても,過去の成功体験を活かしづらく,正しい方向を見いだすのが難しい。

そのような時代に最も有効なのは,集団による学習である。なぜなら,誰も正解を知らないからである。新型コロナ1つとっても,どこまで広がるのか,いつ収束するのか,一度抗体を身につけたらかからないのか誰も分からない。そのような時に,1人の知に全面的に依存するのはあまりにもリスクが高すぎる。様々な人が知恵を出し合い,試行錯誤を重ね,その試行錯誤から学び合うことが必要になる。リーダーシップでいえば,シェアド・リーダーシップである。1人のリーダーシップに頼り切るのではなく,全てのメンバーが必要な時に必要なリーダーシップを発揮していくことが必要になる。

その際に重視しなければならないのが多様性である。いくら集団で知恵を絞ったとしても,同じような考え方や価値観を持った人が同じような情報をもとに議論するのでは,新しいアイデアは生まれない。実際に,コンフリクトを抑えることができれば,多様性が高い集団の方が創造性が高いことも明らかになっている。

一方で,多様性には,様々な側面があることに留意が必要である。日本企業において多様性の話をすると,性別や国籍の多様性が話題に上ることが多い。確かに,これらも多様性である。しかし,年齢や学歴,専門領域など,多様性には様々な側面がある。性別や国籍の多様性も重要であるが,こればかりに注意が向けられ,他の多様性への検討がおざなりになるのは問題である。

University of TexasのHarrisonらは,多様性を表面的多様性と深層的多様性に分類している。表面的多様性とは,年齢や性別,国籍,人種など,デモグラフィックな特徴に基づく多様性である。一方の深層的多様性とは,態度や信念,価値観に関する多様性である。保持している情報などもこれに含めてよいだろう。

このように多様性を分類してみると,深層的多様性の重要性が理解できる。もちろん,性別や国籍などの多様性を高めることは,組織として社会的責任を果たす上でも,また,オープンさをアピールするためにも重要である。しかし,不確実性に対応するためには,深層的多様性が重要になる。例え,性別,国籍が多様であっても,考え方や価値観,保持している情報が全く同じであれば,様々な英知を結集することができないからである。

ところが,深層的多様性を促進するHRMの研究は驚くほど少ない。これまで,深層的多様性について,多くの研究が行われてきた。しかし,その多くは,深層的多様性がグループの成果や創造性に及ぼす影響や,その影響をモデレートする要因に焦点を当てている。これらの研究は,深層的多様性を所与のものとして捉えており,何が深層的多様性を高めるのかを明らかにしようとしていないのである。

しかし,HRMは組織メンバーの深層的多様性に影響を及ぼすと考えられる。どのような基準でどのような人を採用するのか,どのような基準でどのような報酬を提供するのか,どのような方法でどのような人材を育成するのか,などは全てメンバーの深層的多様性に強く影響するはずである。

不確実性が高い時代に深層的多様性が重要なのであれば,今まさに,深層的多様性を促進するHRMに関する研究が求められる。そして,そのためには,学際的な研究が必要になるだろう。なぜなら,多様性に関する研究の蓄積はOB(組織行動論)分野にあり,これらの知見を活用したHRM研究が必要になるからである。

ただし,学際的な研究をする際には,理論的枠組みが必要になる。ここでいう理論的枠組みとは,現象を捉えるためのレンズのことである。我々は目の前の現象の全てを研究のフレームワークに取り込むことはできない。このため,レンズ,すなわち理論的枠組みに従って概念を選択することになる。理論的枠組みは,学際的研究でなくても重要であるが,とりわけ,学際的な研究では重要になる。なぜなら,ディシプリンを超えて共用できるレンズを通して現象を捉える必要があるからである。単に,HRMの概念とOBの概念を組み合わせただけでは,学際的な研究にならないのである。深層的多様性を対象とする場合も,Social Identity Theoryを用いるのか,Social Information Processing Theoryを用いるのか,また,Self-Categorization Theoryを用いるのかによって,選択すべき概念も異なれば,方法論も異なるはずである。どのような理論に依拠するのか,なぜ当該理論に依拠するのかを明らかにした上で,学際的な研究に取り組むことが必要になる。

難しい挑戦ではあるが,日本労務学会こそが,そのような研究の起点になると信じている。理由は2つある。1つは,日本労務学会は,もともと学際性を重視してきた学会だからである。様々なディシプリンの研究者が集まり,相互に尊重し,交流し,刺激しあってきた学会だからこそ,つまり多様性を重視してきた学会だからこそ,多様性とHRMという学際的な研究に取り組めるだろう。2つ目に,日本の組織のHRM研究の蓄積があるからである。一般に,日本の組織の表層的多様性は低いといわれている。しかし,専門分野や職能分野が異なる人が横断的に連携するマネジメントを得意にしてきた面もある。つまり,深層的多様性が機能してきた面もある。日本の組織が強みとしてきたマネジメントを多様性の視点から捉え直し,新しい知見を見いだすことができるだろう。

不確実性に対応しなければならないのは,日本の組織だけではない。つまり,深層的多様性を促進するHRMが必要になっているのは,日本の組織だけではない。だからこそ,日本労務学会から世界に知見を発信することができると信じている。

  • 石川 淳

立教大学

 
© 2021 Japan Society of Human Resource Management
feedback
Top