2021 Volume 21 Issue 2 Pages 44-57
The purpose of this paper is to direct attention to prosocial motivation, which has been attracting increasing interest recently in organizational behavior research, as well as to examine how it has been applied and developed in organizational behavior research, while summarizing its conceptual development. Prosocial motivation was originally considered from interest in the factors that arouse prosocial behavior. Study has progressed since then, however, and it has developed as part of motivation research as the desire or motive to benefit others’ welfare—particularly in the field of organizational behavior research. From this background, the paper points out that differences in orientation and hierarchy are observed when the concept of prosocial motivation is compared in early research and in recent organizational behavior research, and it summarizes the conceptual differences. Furthermore, in empirical research in the organizational behavior field, prosocial motivation research is generated from interest in topics such as prosocial behavior in organizations and prosocial job design; research on the antecedents of prosocial motivation is also increasing. Finally, the paper discusses future research subjects based on this accumulation of research.
本論文の目的は,近年組織行動研究で関心が高まっている向社会的モチベーションに注目し,概念的な発展を整理しながら,組織行動研究においてどのように適用・展開されてきたのかを検討することである。向社会的モチベーションは,当初は向社会的行動を喚起する要因への関心から検討されていたが,その後検討が進み,特に組織行動研究の分野ではモチベーション研究の一環としても発展してきている。こうした背景から,初期の研究と近年の組織行動研究における向社会的モチベーション概念を比較すると,志向性や階層性において差異が見られる点を指摘し,概念を整理する。また組織行動分野の実証研究においては,組織における向社会的行動や向社会的な職務設計などの問題関心から向社会的モチベーション研究が蓄積されるとともに,向社会的モチベーションの先行要因に関する研究も増え始めている。最後にこうした研究蓄積をふまえつつ,今後の研究課題について論じる。
近年,組織行動研究において向社会的モチベーション(prosocial motivation)への関心が高まっている。成員の向社会的モチベーション,つまり「他者に恩恵を与えよう」とする動機が経営組織の有効性に寄与することが示唆されたためである。
向社会的モチベーション研究はキティ・ジェノヴィーズ事件(Latané & Darley, 1970)をきっかけに発展した向社会的行動(prosocial behavior)研究から派生した研究である。2000年以降,向社会的モチベーション研究は組織行動論の分野にも応用され,2016年には組織や職場における向社会性(prosociality)1に関する包括的なレビューも発表された(Bolino & Grant, 2016)。成員の向社会的モチベーションが組織に及ぼす影響に関する検証が重ねられた結果,好影響が多く指摘され,向社会的モチベーションの重要性が主張され始めている。
本稿の目的は,組織行動研究で関心が高まっている向社会的モチベーションに注目し,概念的な発展を整理しながら,組織行動研究においてどのように適用,展開されてきたのかを検討することである。特に初期の向社会的モチベーション研究と,近年の組織行動研究における向社会的モチベーション研究に着目し,それぞれにおける向社会的モチベーションの概念定義を整理する。その際に向社会的モチベーションの志向性2と階層性について,初期の向社会的モチベーション研究と組織行動研究における向社会的モチベーションの異同を比較する。次に,向社会的モチベーションの知見が昨今の組織行動研究にどう応用されたかについて,向社会的行動や向社会的職務設計などの観点から概説する。加えて職場における外的要因が成員の向社会的モチベーションに及ぼす影響について言及し,マネジメントへの理論的示唆を提示する。最後に,組織における向社会的モチベーション研究の貢献を整理し,今後の展望について述べる。
向社会的モチベーションは,一般的に向社会的行動を喚起する要因として検討された動機づけ(motivation)3を指すものである。70年代前半には向社会的行動自体に関心を持ち,向社会的行動を阻害もしくは促進する外的状況要因が検討されることが多かったが,向社会的行動の生起における個人の内的プロセスの理解にも関心が移行した(e.g., 松崎・浜崎,1990)。これにより行動を喚起する個人要因についても検討され,たとえば個人の性格特性や共感性が向社会的行動に及ぼす影響が検討され(鈴木,1992; 登張,2005),向社会的パーソナリティ尺度も開発されている(Penner, Fritzsche, Craiger, & Freifeld, 1995)。さらに,向社会的行動に対する意欲の源泉は何かという問いが提示され(e.g., Batson & Powell, 2003),動機づけ要因に重きを置いた研究も行われた。本稿では,行動側面よりも動機づけの側面を重視した研究を向社会的モチベーション研究と捉える。つまり向社会的モチベーションの種類や性質,向社会的モチベーションの先行要因,向社会的モチベーションによる認知や行動への影響を検討した研究群の総称として扱う。
これら向社会的モチベーション研究は,主に社会心理学や発達心理学分野で発展した研究であるが,90年代以降行動経済学や組織行動研究など多方面に適用された。たとえば,組織行動研究では主に従業員や経営者の向社会的モチベーション(組織における向社会的モチベーション)が検討されている。本項では様々な研究の基礎となった80年代から90年代における初期の向社会的モチベーション研究と,組織行動研究分野の,特に2000年代以降に行われた向社会的モチベーション研究に着目し,それぞれの研究における向社会的モチベーション概念について比較する。ただし,本稿の主目的は組織における向社会的モチベーション研究について概説することである。そのため,初期の向社会的モチベーション研究のうち,組織成員の向社会的モチベーションを扱った研究においてもしばしば言及されるBatson(1987)および関連研究(e.g., Batson, 2011)に特に焦点をあてる。
まず,Batson(1987)によれば向社会的モチベーションは向社会的行動に対するモチベーション(motivation for prosocial behavior)4を意味する。Batson(1987)において向社会的モチベーションの定義が明瞭に提示されているわけではないが,「向社会的行動に対するモチベーション」が何を指すのかはモチベーションと向社会的行動の意味を通して把握できる。
モチベーションは一般的に「特定の行動を始発し,その行動を一定の方向に導き,行動の強度を決定し,持続させる」(Kanfer, 1990, p. 78)力や心理プロセスを指す。この特定の行動として,向社会的行動に着目した概念が向社会的モチベーションである。向社会的行動は,反社会的行動の対義語として提唱され(Batson & Powell, 2003),最近では「他者に利益・恩恵をもたらす行為」(Schroeder & Graziano, 2015, “What is Prosocial Behavior?”, para. 1)と定義されることが多い。「その行動の動機は不明であるにしても表面上意図的で自発的なポジティヴ行動」(松崎・浜崎, 1990, p. 195)とあるように,行動の性質が他者に利益をもたらすものであれば,行動意図がどのようなものであれ向社会的行動5とされる。したがってBatson(1987)における向社会的モチベーションは他者の福利を増進させる行動を始めさせ,方向づけ,維持させる力や心理プロセスを意味する。事実,Batson(2011)では,向社会的行動に対する目標指向的な動機を指して向社会的モチベーションとしている。
これに対し,組織行動研究における向社会的モチベーションは「向社会的な変化をもたらすモチベーション」(the motivation to make a prosocial difference: Grant, 2007)や「他者に恩恵をもたらすために努力しようとする欲求」(Grant, 2008b, p. 49)と定義される。これらは,Batson(1987)に基づいてこそいるものの,他者の福利を増進させるために労力を費やそうとする意欲として概念化されている点が特徴である。組織行動研究のうち成員の向社会的モチベーションを検討した研究にはこの定義を用いるものが多く,近年の組織における向社会的モチベーションの主流な定義と言える(e.g., Bolino & Grant, 2016)。
すでに述べたように,向社会的モチベーション研究は多分野に適用されている。特に,2000年代以降の組織行動論や組織心理学における向社会的モチベーション研究では,向社会的モチベーションの中でもさらに「仕事」という文脈に絞って検討する傾向が主流となりつつあり,独自の発展が見られる。次項では,初期研究における向社会的モチベーションと近年の組織行動研究における向社会的モチベーションの異同について,志向性と階層性の観点から比較する。
2-2. 向社会的モチベーションの志向性:利他性と利己性表面上相手の福利を増進させる行動であったとしても,背景の動機や行動意図は様々であるため,向社会的モチベーションは自己利益を志向することも,他者利益を志向することも起こりうるとされる。本項では,初期の向社会的モチベーション研究と組織における向社会的モチベーション研究において,それぞれモチベーションの志向性をどう捉えているかについて述べる。
初期の向社会的モチベーション研究のうち,Batson(1994, 2011)では向社会的モチベーションを,最終目標が「誰の福利」に向いているかという志向性に基づいて4つの様式(利他性,利己性,集団性,原理性)に区分した。たとえば,向社会的行動に対して特に利他的に動機づけられているとは,ひとりあるいは複数の「他者福利の増進を最終目標とする」動機づけ状態である(Batson, 1987, p. 67; Batson, 2011: 邦訳 p. 311)。反対に,報酬への期待や罰の回避,嫌悪感情の低減は自己利益と関連する。これら自己利益の増進を最終目標としている場合,この個人が起こす向社会的行動は利己的な最終目標を達成するための道具的手段に過ぎない。これを利己的(egoistic)向社会的モチベーションといい,「自己福利の増進を最終目標とする」動機づけの状態を指す。このように行動の道具的目標が他者福利の増大にあっても,最終目標も同様に他者福利の増進にあるとは限らない。むしろ,向社会的モチベーション研究では長い間利己的(self-serving)動機の観点からのアプローチが支配的ですらあったと指摘されている(Batson, 1987, p. 66)。
組織における向社会的モチベーション研究でも同様に,向社会的モチベーションに純粋な利他性や自己犠牲が含まれることはあるが同一視されるべきではないとした(Grant & Berry, 2011)。向社会的モチベーションの前提として成員が無私無欲であることを求めていないばかりか,自分の利益のために向社会的であろうとすることを否定しない点で両研究は共通している。
しかし,向社会的モチベーションに利他性が含まれることはあっても同義ではない(Bolino & Grant, 2016; Grant & Berry, 2011)とする前提を,組織行動研究における概念定義が厳密に反映しているかについては慎重な検討を要する。前述したように,組織行動研究における向社会的モチベーションの定義は「他者に恩恵をもたらすために努力しようとする欲求」(Grant, 2008b)が主流である。志向性の違いが区別できる形には必ずしもなっておらず,最終目標が誰の福利を志向しているかについては曖昧となっている。組織行動研究で主に使用される向社会的モチベーション尺度(Grant, 2008b)の項目からも,志向性の差異まで測定することは難しい。
しかしながら,Batson(1987, 2011)における最も重要な知見は,向社会的モチベーションの中でも特に利他的な動機づけが,モチベーションの強度や持続性の面で利己性よりも優れることを示した点である。さらに向社会的モチベーションの各様式は一方が他方を補うことも,競合し打ち消し合うこともあるとした。これは向社会的モチベーションの志向性を弁別することの重要性を示唆している。動機づけの背景にある利己と利他の側面による異なる働きについては長く議論の的となってきただけでなく,さらなる検討の必要性が指摘されてきた(De Dreu & Nauta, 2009)ことからも,組織行動研究における向社会的モチベーションの志向性は今後も重要な論点となりうる。
2-3. 向社会的モチベーションの階層性:特性や状態としての側面向社会的モチベーションを特性(trait)もしくは状態(state)と捉える論点は,初期の向社会的モチベーション研究においても,経営組織に知見を適用する際にも,各々の研究関心に従って応用された。特性の観点からアプローチする研究は,どんな特性を持つ個人が特性としての向社会的モチベーションを強く持つのかに関心を持つ。なぜなら,成員が安定的な特性としての向社会的モチベーションを有するならば,彼らは比較的持続的に向社会的であることが期待されるためである。逆に状況や文脈に焦点をあてる研究では,いつ,どのようにして人は向社会的となるのかに関心が高い。どのような環境を整えれば,モチベーションの不安定性を減らし,向社会的なモチベーションを維持できるのかを明らかにするためである。初期の向社会的モチベーション研究では,個人特性の観点からアプローチする研究(e.g., Penner et al., 1995)と状態としての側面からアプローチする研究(e.g., Batson, 1987)のどちらも見られる。
しかし,初期研究と比べ,近年の組織における向社会的モチベーション研究は,向社会的モチベーションの捉え方が異なる傾向がある。本項では,階層性モデルの組織における向社会的モチベーション研究への適用(Grant & Berg, 2011)について述べ,向社会的モチベーションの階層の差異について指摘する。
モチベーションを階層化したVallerand(1997)の階層モデルによれば,モチベーションは上層から全体的(global),文脈的(contextual),状況的(situational)水準の3つに分類される。最上層である全体レベルのモチベーションは個人の性格特性や価値観など,時間軸や特定の状況条件に影響されにくい永続的かつ安定的な特性としてのモチベーションを意味する。中層に位置する文脈レベルのモチベーションは,学習や仕事,余暇など,文脈や場面におけるモチベーションを指す。最後に,特定の状況や,実験操作された条件下において発生するモチベーションを,最下層に位置する状況レベルのモチベーションだとした。
Grant & Berg(2011)では向社会的モチベーションの知見を組織行動研究に適用する際に,この階層モデルを用いて同じように分類した。これに基づけば向社会的性格特性や向社会的価値観は全体的向社会的モチベーションに該当する。全体的向社会的モチベーションは,目標や行動に対する安定した素質的志向性や態度を指すためである。対して,自身の役割を通じて他者に恩恵をもたらそうとする願望は,文脈的向社会的モチベーションとされる。最後に,Batson(1987)の目標指向的な心理状態としての向社会的モチベーションなどは,瞬間的状況における一時的な動機づけを意味し,実験条件の設定を用いて動機づけの高低を操作したため,状況的向社会的モチベーションに該当する。Grant & Berg(2011)では,この状況的向社会的モチベーションが状態としての向社会的モチベーションの典型例だとした。たとえば組織行動研究では,従業員の向社会的モチベーションを測定する際に他者志向性(Meglino & Korsgaard, 2007)や向社会的価値観の傾向を測定するもの,組織市民行動(以下,OCB)に対する行動理由のうち向社会的価値を重視する程度を問うもの(Rioux & Penner, 2001),仕事意欲や職務態度において他者福利を尊重する理由や程度を回答させるもの(De Dreu & Nauta, 2009; Grant, 2008b)などが用いられている。これらを各階層にあてはめるならば,前者の2つは全体的モチベーションに比較的近く,3つ目は文脈的モチベーションに該当する(Grant & Berg, 2011)。
向社会的モチベーションの知見を組織行動研究へ適用した研究において,近年最も主流な研究は,職場や仕事という文脈において抱く向社会的モチベーションを向社会的モチベーションだと捉える研究(e.g., Grant, 2008b)である。事実,Grant(2008b)の定義や向社会的モチベーション尺度(以下,PMS)は組織における向社会的モチベーション研究の中で多く使用され,従業員が起こす向社会的行動に関する研究でPMSが採用されることもある。このように,近年の組織行動研究における「向社会的モチベーション」は,向社会的モチベーションの中でも「文脈レベルの向社会的モチベーション」を指す場合が多いことに留意する必要がある。
これまで様々な行動変数に先行する要因として向社会的モチベーションを捉え,行動変数との関係を検証する研究が組織における向社会的モチベーション研究では主流であった。しかし研究の蓄積に伴い,向社会的モチベーションの有効性が認識され,向社会的モチベーションを引き起こす先行要因についても関心が集まりつつある。さらに,文脈レベルの向社会的モチベーションに焦点があてられたことにより,成員の仕事に対する向社会的意味づけや向社会的職務設計にも応用されるなど研究の幅は年々広がりを見せている。
向社会的モチベーションが向社会的行動と正の関係にあることは自明とも言える。しかし,次の論点のもと,組織における向社会的モチベーション研究は発展を遂げてきた。第一に,組織における向社会的行動には具体的にどういった行動までが含まれ,向社会的モチベーションと向社会的行動との正の関係は常に盤石であるのかについてである。第二に,向社会的に振る舞うことを日常的に求められる業種や職種において,向社会的モチベーションは個人のパフォーマンスにどのような影響をもたらすのかについてである。最後に,外部要因による影響についてである。本節では上記の論点をなぞりつつ,経営組織における向社会的モチベーション研究について記述する。具体的には向社会的モチベーション研究の大半を占める(1)組織における様々な向社会的行動の先行要因や調整変数として向社会的モチベーションを捉えた研究群と,(2)向社会的な業種に従事する成員の向社会的モチベーションが,様々なアウトカムにどう影響するのかについて扱った研究を概説する。最後に,近年検討され始めている(3)向社会的モチベーションを醸成する先行要因に関する知見を整理する。
3-1. 組織における向社会的行動の先行要因としての向社会的モチベーション組織における向社会的モチベーション研究では,長らくOCBやOCBに含まれる対人援助が注目されがちだった(Bolino & Grant, 2016)ものの,より広範な支援行動や協力行動にも応用され始めている。たとえば知識の共有(Connelly, Ford, Turel, Gallupe, & Zweig, 2014)やメンタリング6,協力(Hu & Liden, 2015)などが検討された。本項ではこの中でも向社会的モチベーションとの関係を検討した研究を取り上げ,特にOCB,知識共有と隠蔽,協力と創造性との関係について紹介する。
1) OCBOCBとは,公式の報酬体系では明示的に報酬の対象とならないにもかかわらず,職務要件を超えて従業員によって自己裁量的に行われる組織にとって有益な行動である(Organ, Podsakoff, & MacKenzie, 2006)。他者の範囲を組織全体にまで広げるならば,向社会的行動とOCBは整合的とも考えられ,特定個人に対して行われる援助行動もOCBの下位次元に一部含まれることから,成員の向社会的特性や向社会的モチベーションがOCBに及ぼす影響が研究された(Cardador & Wrzesniewski, 2015; Hu & Liden, 2015; Grant & Mayer, 2009; Rioux & Penner, 2001)。
向社会的モチベーションとOCBの正の関係を検証するに留まらず,利己的性質を持つ動機づけとの相互作用もしばしば検討されている。組織に忠実な良い兵士(good soldier)と,周りに自分を良く見せたいだけの良い演者(good actor)のどちらがOCBを生み出すのかはOCB研究の文脈でも扱われてきた論点である(Bolino, 1999)。向社会的モチベーション研究でも利己的性質の強い動機と向社会的な動機は競合するのか,相互独立的なのか,もしくは相関するのかについて検討されている(e.g., De Dreu & Nauta, 2009; Meglino & Korsgaard, 2004, 2007)。
向社会的モチベーションと利己的な性質を持つ動機づけとの相互作用を扱った研究として,たとえばGrant & Mayer(2009)が挙げられる。向社会的モチベーション7(Grant, 2008b)と比較的自己利益を重視する動機づけと考えられる印象管理動機(Rioux & Penner, 2001)が,OCBにどのような影響を及ぼすのかについて検証した研究である。結果,向社会的モチベーションと対人的市民行動間の正の関係が,印象管理動機によって強まることを示した。これは,自身の評判を良くしたいという利己的な最終目標と,他者の福利を増大させるという目標が提携的OCBを遂行する際には両立しやすく,印象管理動機と向社会的モチベーションが正に相互作用したと考えられている。
Grant & Mayer(2009)とは相反する結果も報告されている。米国の警察官と銀行員を調査対象としたCardador & Wrzesniewski(2015)では利己的な動機の類型として,印象管理動機の代わりに競争的モチベーションに着目し,提携的OCB と挑戦的OCBへの影響を検証した。結果,向社会的モチベーションは提携的OCBと正に相関したのに対し,競争的モチベーションは有意な関係が示されなかった。また,向社会的モチベーションとOCBの正の関係が競争的モチベーションによって負に調整されることを明らかにしている。さらに,競争的モチベーションが弱い場合であれば向社会的モチベーションの強さが挑戦的OCBの遂行頻度に正に影響することが示された。この他にも,Takeuchi, Bolino, & Lin(2015)では台湾の金融機関従事者を対象に得たデータを用いて,向社会的価値動機(Rioux & Penner, 2001)と個人に向けたOCB間の正の関係を印象管理動機が弱めることを報告している。
2) 知識の共有と隠蔽問題解決のために自身が有する知識や専門知識を他の誰かに提供する行動である知識の共有(knowledge sharing)は,競争相手にもなりうる相手を自身の時間や情報資源を費やして援助するという点からしばしば向社会的行動として扱われる(Connelly et al., 2014)。最近では知識の共有を促す要因として向社会的モチベーションを捉えるだけでなく,知識の隠蔽(Knowledge hiding)行為を減少させる可能性についても検討されている(Babič, Černe, Connelly, Dysvik, & Škerlavaj, 2019; Škerlavaj, Connelly, Cerne, & Dysvik, 2018)。
知識の隠蔽は,他人から要求された知識や情報を隠蔽しようとする意図的な試みとして定義される(Connelly, Zweig, Webster, & Trougakos, 2012)。Connelly et al.(2014)でも指摘されているように,組織としては知識が活発に共有されることが望ましいものの無理強いはできず,逐一監視することも不可能である。そのため知識の意図的な隠蔽を防ぐ要因が検討され,向社会的モチベーションによる抑制効果にも関心が集まるようになった。たとえば,Škerlavaj et al.(2018)では時間的に逼迫する状況が知識の隠蔽につながるとした仮定のもと,向社会的モチベーションがこの関係を緩和する可能性について検証した。向社会的モチベーションに強く動機づけられる成員は,より他者の視点に立とうとし,他者の福利に配慮して良い関係を維持しようとすると考えられるためである。結果,向社会的モチベーションによる直接的な調整効果は確認されなかったものの,他者の視点に立って他者の考えや感情を推測しようとする視点取得(perspective-taking)を介し間接的に知識の隠蔽を和らげることが示された。また,Babič et al.(2019)は,チーム全体における向社会的モチベーション(Grant & Berg, 2011; Hu & Liden, 2015)を組み込んだ知識の隠蔽モデルを検討している。結果,個々人の向社会的モチベーションが集積することで集団的な(collective)向社会的モチベーションが創発するとの前提のもと,集団的な向社会的モチベーションが知識の隠蔽を抑制することを示した。
3) 協力と創造性向社会的モチベーションの多くが個人レベルでの動機づけを検討したのに対し,チームレベルでの向社会的モチベーションが協力やOCB,定着意志にもたらす影響について,先駆けて検証したものにHu & Liden(2015)がある。彼らはチームにおける向社会的モチベーションが協力につながり,チームの有効性が高まるだけでなく定着意思にも正の影響を及ぼすことを示した。
最後に,創造性への影響を検証した研究(Grant & Berry, 2011)を紹介する。直観的に理解しやすい対人援助や協力に比べ,創造的であろうとすることが向社会的行動や向社会的モチベーションと関連するとは想定しにくいとも言える。しかし,創造性の持つ新奇性と有用性という2つの側面に焦点をあてることで,内発的動機づけと創造性の関係における向社会的モチベーションの調整効果を説明した。分析の結果,向社会的モチベーションが他者の視点に立とうとする視点取得行動と正に関連するだけでなく,向社会的モチベーションの値が高いときに内発的動機づけと創造性の正の関係を強めることを明らかにしている。
3-2. 向社会的な業種に従事する成員の向社会的モチベーション医療や教育,非営利活動法人,公共サービス職など,一般に向社会的であることが強く求められる業種に従事する成員の性格特性やモチベーションについては,これまで多方面から検討されてきた(e.g., Besley & Ghatak, 2005; Francois,2000; Perry, 1996)。たとえばFrancois(2000)は,成員が利他的特性を持ち向社会的に動機づけられている場合,非営利組織は過剰な費用削減努力を行わないという特性ゆえに成員の利他性を損なうことなく従事させることが可能だと指摘している。
組織行動論の観点から向社会的な業種に従事する成員のパフォーマンスを検証したGrant(2008b)やGrant & Sumanth(2009)も,示唆に富むものである。Grant(2008b)では「他者の福利に影響を及ぼす仕事において社会的,相互依存的に従事する成員に焦点をあて」(Grant, 2008b, p. 55),彼らの仕事に対する内発的動機づけと向社会的モチベーションがどのように相互作用し,生産性やパフォーマンスに影響を及ぼすのかを検証している。58名の消防士を対象に調査を行った結果,成員の向社会的モチベーションと時間外勤務間の関係は,内発的動機づけが強いときに正の関係となることを示した。また,140名のファンドレイザーから得たデータから,向社会的モチベーションと生産性およびパフォーマンスの関係も,内発的動機づけが高いときに正となることを明らかにしている。
同様にGrant & Sumanth(2009)でも,病院や教育,非営利組織など人類の福利増進を経営目的として掲げるミッション主導型組織に焦点をあて,従業員の向社会的モチベーションとパフォーマンスの関係を検証している。結果,向社会的モチベーションと成員のパフォーマンスの関係は上司への信頼もしくは知覚されたタスクの重要性が高いときに正になることを示している。この結果は,向社会的モチベーションが向社会的行動に対してだけでなく,職務全般におけるパフォーマンスを高めることを指摘した。
当初Grant(2008b)などのPMSに関するアイディアは向社会的な業種に従事する成員のモチベーションに基づくものであったが,一般に向社会的とされる業種でなくとも,自分の仕事や役割に向社会的な価値を見出し,仕事という文脈のもと自身の役割を通じて向社会的影響力を発揮しようとする成員にも応用された(Grant & Berry, 2011)。以後,向社会的業種に限らず,より一般的な業種に対しても向社会的モチベーションと結果変数の関係に影響を及ぼす外部要因に関する研究が進められるようになったと言える。
3-3. 向社会的モチベーションに影響を与える要因このように,向社会的モチベーションが組織の有効性に寄与する結果が多く報告され,成員の向社会的モチベーションは組織にとって好ましいとの認識が共有されつつある。これを機に,状況レベルや状態としての向社会的モチベーションを捉える研究を中心として,不安定な向社会的モチベーションを誘発する外的要因に徐々に関心が集まっている。Grant(2007)およびBatson(2011)の知見を踏まえ,成員の向社会的モチベーションに影響すると考えられる外的要因について整理する。
Grant(2007)では従業員と受益者とをつなぐ関係的職務設計に関するフレームワークを提示し,Grant(2008a)ではこの枠組みに基づき,職務設計が個人の向社会的モチベーションに及ぼす影響を検証している。ここでの受益者とは,同僚や上司,部下,顧客,地域社会など,成員の行動によって利益を得る組織内外の個人や社会集団を指す(Grant, 2007, pp. 395-396)。
成員の向社会的モチベーションに影響を及ぼす職務特性として2点提示された(Grant, 2008a)。仕事を通して受益者に影響をもたらす機会の程度(規模,頻度,範囲)を指す「仕事が受益者に与える影響」と,仕事がどの程度関係的で,受益者と交流する機会があるかを意味する「受益者との接触」である。仕事が受益者に与える影響が大きい場合,自分の行動が他者を左右する経験を介して向社会的モチベーションが生じるとした。前述した向社会的な業種に従事する成員が代表的な例である。医師が患者に与える影響が大きいことは想像に難くなく,このような仕事に従事しているという状況が医師の向社会的モチベーションを高めるわけである。さらに,接触が高頻度で起こる場合受益者への共感が生じ,情緒的コミットメントにつながると説明した。これはBatson(2011)における「援助を必要としている存在として他者を知覚する」こと,つまり援助要求への気づきが共感的配慮に結びつくとしたメカニズムとも整合的である。潜在的受益者と仕事上接触する機会が多いということは,それだけ援助を要している他者に露出されるため,より助けを必要としている存在に気づきやすくなるとも考えられるためである。Grant et al.(2007)の実験でも,具体的な受益者の存在を提示することによってファンドレイザーのパフォーマンスが向上したことが報告された。
Batson(2011)では個人要因と状況要因の両方によって共感的配慮の感情が生まれ,次いで向社会的(の中でも特に利他的な)モチベーションが引き起こされるモデルを提示している。これに対し,Grant(2007)では状況要因と向社会的モチベーションをつなぐ心理的状態として,情緒的なコミットメントと受益者に対する影響力の知覚をモデルに加え,実際にデータを用いて検証している(Grant, 2008a)。
これらの枠組みに基づくならば,さらに次の関係が示唆される。職務が相互依存的であるほど他者と協力する必要が生じ,助けを必要とする存在に気づきやすい。また,タスクの重要性と成員の向社会的モチベーションは正に関連する可能性も考えられる。タスクの重要性を高く認知しているいうことは,それだけ自分の仕事が潜在的な受益者に及ぼす影響の程度も大きいと知覚するためである。関連する研究結果として,向社会的価値観がタスクの重要性とパフォーマンス間の正の関係を強めることが報告されている(Grant, 2008c)。向社会的モチベーションの先行要因としてではないものの,上司への信頼がタスク重要性の知覚につながり,向社会的モチベーションとパフォーマンスの正の関係を調整することも指摘されている(Grant & Sumanth, 2009)。
加えて,潜在的受益者との距離が近く,彼らからのフィードバックが頻繁に得られる環境下では,自身の行動が相手にどのような影響を及ぼしたのかを知覚しやすくなる。助けの手を差し伸べたことに対する最も直観的なフィードバックは,感謝である。実際に,受益者からの感謝表現が支援者の向社会的行動や向社会的意思決定に正の影響を及ぼすことが報告されている(Grant & Gino, 2010; Kong & Belkin, 2019)。一方フィードバックに多く露出される環境下では,自分の行動が意図に反して裏目に出たことを知覚する機会も増える。この場合は「受益者に対する肯定的な影響の知覚」に寄与せず(Grant, 2008a),向社会的モチベーションは高まらないと考えられる。
向社会的モチベーションは外的な要因に影響を受けづらいことが報告される一方で(Lebel & Patil, 2018),状況や環境に影響を受けるとする研究も上記のようにされつつある。外的要因が向社会的モチベーションに与える影響については,今後さらに検討される必要がある。
本稿では「向社会的行動を引き起こすモチベーション」を検討した初期の向社会的モチベーション研究と,「仕事という文脈において他者に恩恵をもたらそうとするモチベーション」に焦点をあてた近年の組織行動研究について扱った。特に志向性と階層性の観点から,初期の研究と近年の組織行動研究における向社会的モチベーションの異同を指摘した。成員が向社会的であることと無私無欲であることは必ずしも同義ではなく,利己的に向社会的なケースが存在する点は両研究において共通しており,向社会的モチベーションに内包される利己や利他の関係は今なお検討が続けられている。また,組織行動研究における近年の研究関心は,向社会的行動に対する全体レベルや状況レベルのモチベーションとしてよりも仕事という文脈レベルでの向社会的モチベーションに移行している点について述べた。これにより,職場内で行われる特定の向社会的行動に対する動機づけを探索するだけでなく,仕事の文脈における動機づけと行動,職務設計,職場環境との関係について独自に検討された点は特筆すべきである。
組織における向社会的モチベーション研究はここ十数年の間目まぐるしい発展を見せ,成員の向社会的モチベーションが組織にもたらす恩恵について様々な知見が蓄積された。しかし,組織行動研究で主流となりつつある定義や測定尺度が表す向社会的モチベーションの範囲は限定的であり,既存の尺度では向社会的モチベーションの志向性を弁別しにくいなど,課題も残されている。さらに「成員が向社会的に動機づけられるほど組織にとって有益であるか」について解を出すためには,より広範な議論が必要となるだろう。尺度の適切さを含めいくつかの課題が考えられるが,これまで向社会的モチベーションの有効性を指摘する研究が多かった点を踏まえ,向社会的モチベーションによる負の側面について指摘する。
これまでの向社会的モチベーション研究は組織への好影響に焦点をあてたものが多く,悪影響を検討しているものは比較的少ない。しかし,悪影響に関する考察が,従業員の向社会的特性や向社会的行動を扱った研究全般において全くされなかったわけではない(Bolino & Grant, 2016)。成員の向社会的性質によって自身の負担が増え,長期的には成員と組織の双方にとって好ましくない結果が生じることが示唆されている(e.g., Bolino, Hsiung, Harvey, & LePine, 2015; Bolino & Turnley, 2005)。他にもメンタリングの文脈では利己的な受益者の行動が機能不全なメンタリングと関連することが指摘された。たとえば受益者であるプロテジェとメンター間のネガティブな関係について検証したEby & McManus(2004)は,収集したデータ全90件のうち11件は受益者の利己的な振る舞いや搾取に関連するものであったことを報告している。近年,職務設計や職場環境が成員の向社会的モチベーションに及ぼす影響を検討した研究も増えつつあるが,向社会的モチベーションによる悪影響が考えられるならば,これに組織がどう対応すべきかに関する検討も必要である。成員の疲弊を防ぎつつ,向社会的モチベーションを醸成し,向社会的モチベーションの肯定的な影響力を持続的に高める際に必要となるマネジメントについて,さらなる研究の蓄積が待たれる。
本稿の執筆にあたって,多くの先生方から大変貴重なご指摘やご助言を賜りました。島貫智行先生(一橋大学)には,日頃よりたくさんのご指導をいただいております。また,坂爪洋美先生(法政大学)と佐藤佑樹先生(流通経済大学)には,貴重なご指摘とアドバイスをいただきました。ここに記して深謝申し上げます。
(筆者=一橋大学大学院商学研究科博士後期課程)