2022 Volume 23 Issue 1 Pages 2-3
日本労務学会が1970年に設立され,翌1971年に立教大学で第1回大会が開催されてから50年が経過した。この50年間の日本における,人事労務(管理)の動きを見ていると,変化が目覚しい部分もあれば,そうでない部分もある。特に,人事労務のあり方における既存のパラダイムの支配的地位は失われつつあるが,新たなパラダイムが社会的に確立されたわけではない。新しいトレンドと称されるものも,実は過去の取り組みの焼き直しであったりすることが多い。
私見を述べるならば,今後は,「働き方」「働かせ方」の柔軟な調整が,労使双方の合意可能性の範疇で行われることが期待される。組織も個人も,特定の目標や戦略を何十年も保持しながら雇用関係に関わるような時代ではなくなる。雇用関係に関する柔軟な調整の結果,「働き方」「働かせ方」は,組織間や組織内,人々の間や各人のキャリアの中で多様化する。こうした雇用関係が社会全体の効率性のみならず,公正性や持続性を持てるようにするため,人材関連企業や労働行政機構は新たな,かつ大きな役割を担うべきである。
人事労務研究においては,人事労務や雇用関係に関わる多様なアクターやそれらの関係性への目配り,マクロを構成するミクロ,ミクロの背景にあるマクロへの理論的想像力が欠かせなくなる。研究に携わる者が実務に対して何をなしうるのか。局所的な視野しか持ちえない個別の研究者が,どう連携して大局観や複眼性を集団として構成するのか。学会が果たすべき役割は大きい。
人事労務研究を活性化させる「旗印」を,第50回全国大会のプログラム委員会として,大会実行委員会と共に考えた。最終的には,「日本の人事労務研究の将来展望」という統一論題を設けた。人事労務研究の「これまで」を振り返ってこそ,「これから」を展望することが可能になるという,「研究者の常識」ではありつつも実践困難な事柄に向き合おうとした。特別シンポジウムや2つのプログラム委員会企画はその姿勢の表れであった。筆者は2017年より学会設立50周年企画に関わってきたが,それとの連動性も織り込んだ。
こうした想いを会報で全会員に伝えたのが2019年末であったが,その数ヶ月後,新型コロナウイルス感染症の流行により,全国大会の開催自体が危ぶまれるようになった。上林憲雄大会実行委員長,島貫智行学会長を中心とした多くの方々と意見交換した結果,第50回大会は予定の期日と同日程で,自由論題のみにプログラムを絞りつつ,オンラインで開催することとした。
特別シンポジウムやプログラム委員会企画ではなく,オンライン開催という方法論で,人事労務研究の「これから」を問うことになった。オンライン学会のノウハウがなく,先例も乏しい中,「学術の熱気」をオンライン上で創出するための試行錯誤を,大会実行委員会とプログラム委員会が一丸となって行った。もっとも,いくら業務手順を整備し,関係者による内容理解に務めたとしても,参加者に十分な価値提供が行えるとは限らない。試行の域を出ない全国大会であるため,参加費徴取を見送った。結果的には,多くの課題が見つかる中でも,多くの参加者から好意的な評価をいただいた。
感染症流行下でも第50回全国大会を開催することを決定した際には,第51回全国大会についても神戸大学が主催校となり,特別シンポジウムやプログラム委員会企画を改めて実施することも同時に決定した。そして,2020年秋の段階で,第51回全国大会についてもオンラインで行うことを決定した。オンライン学会へのニーズ,大会スタッフの運営ノウハウ,そして企画の全体像を踏まえ,参加費を徴取することにした。結果的には,第50回全国大会を超える参加申し込み,実際の参加をいただいた。オンライン会議ツールが広く普及して1年ほど経ったということもあり,参加者同士のやりとりもより活発になった。
今日の研究発表の多くはスライドショーを用いて行われ,「報告者による話題提供→全体での質疑応答」というルーティンも確立されている。そのため,オンライン化の中でも,報告者からの情報発信の量や質には大きな変化がないように思われた。また,全体での質疑応答についても,研究に関するやりとりは多分に形式知や論理に基づいて行われるため,オンライン化の顕著な弊害は報告されなかった。チャット機能を有効活用し,コミュニケーションの量と質を向上させている事例もあった。
本稿の執筆を機に,先般の全国大会の意義を改めて見出すことができた。特に,大きなテーマに正面から向き合うことの意義は大きい。例えば,プログラム委員会として用意した3つの研究企画は,登壇者に新たなインプットを求めるものであった。これまでの蓄積の単純な「使い回し」が行いにくい状況下での登壇者の話題提供は,自然と熱量やライブ感を伴うものとなった。そうした「ゆらぎ」は,オンライン上であったにもかかわらず,多くの視聴者に届いたように思われた。
先般の全国大会では,極めてスリリングな情報のやりとりが,各所で見られた。オンライン大会では,通信障害などの固有の不確実性があり,大会運営の担当者は,常にそれに備えなければならない。しかし,大会運営の傍で触れることになるスリリングな研究実践は,遺漏のない大会運営という「お役目」を時として忘れさせた。大会の参加者,参加予定者にそのことで不便をかけてしまったとしたら,弁解の余地はない。
オンライン形式での2度の全国大会にさまざまな立場で参加していただいた全ての方々に,プログラム委員会を代表して心よりの御礼を申し上げたい。

神戸大学経済経営研究所准教授