2022 Volume 23 Issue 1 Pages 76-93
In this paper, an exploratory analysis of employees in an information technology company( Cybozu Inc.) is conducted by examining team communication skills and team characteristics that engender collective creativity, which is a factor in corporate competitiveness. First, group interviews of 8 employees were conducted to understand team communication skills and team characteristics by using categorical analysis. A questionnaire survey was then developed based on the keywords extracted from the interviews. Through quantitative analysis, which was conducted among 597 employees, with 186 respondents and a valid response rate of 31.2%, six concepts related to team communication skills and two related to team characteristics were identified. Existing creativity scales were then employed to determine the positive effects of the identified factors on collective creativity. The results of this analysis revealed an aspect of the group emergence mechanism that had not previously been examined.
本稿の目的は,企業の競争力を高める要因として集団の創造性(creativity)に着目し,それを生み出す従業員のチームコミュニケーションスキルおよび集団特性に関する概念について探索的な検討を試みることである。
近年,急速なテクノロジーの発展に伴い,様々な企業において製品・サービスの開発や新規事業の立ち上げ,あるいは,組織運営の改革といった社内イノベーションが進められている。また,既存の製品・サービスの売り上げの成長が鈍化する中で,成熟企業における人事戦略上の課題は,新たな利益を生み出す製品・サービスなどのアイデアが生まれやすい仕組みをつくることであろう。このような変化が求められる環境下において,組織とステイクホルダーのいずれにとっても重要で価値ある成果を生み出す源泉としてクリエイティビティはますます注目を集めている(Zhou & George, 2001; George & Zhou, 2002)。Oldham & Cummings(1996)は,アイデアを創出し,問題を解決しながら最終的に経済的価値を実現することがイノベーションとするならば,そのアイデアを生み出すことがクリエイティビティであると述べている。アイデアを創出し,イノベーションを起こすためには様々な専門知識を持つ人々のコラボレーションが必要であり,そのチームワークを発揮するためには多くの経験やトレーニングを積むことが重要である(Paulus & Kenworthy, 2018)。製品・サービスについては,Apple Inc. のような時代を代表する画期的な製品やそれらを生み出した天才的な起業家に注目が集まりがちだが,企業に利益をもたらすアイデアは部門や部署を越えたチーム単位の議論によって生み出されることが多い。そのため,企業は個々の従業員のクリエイティビティを高め,チームの中で創造的なアイデアを生み出すことを促す取り組みを検討する必要があり,仕事を通じた従業員のクリエイティビティ開発(Shalley, Gilson & Blum, 2009; Liu, Liao & Loi, 2012; Yoshida, Sendjaya, Hirst & Cooper, 2014),イノベーションやクリエイティビティを促進する集団の特性に関する研究(Anderson & West, 1998, Edmondson, 1999)に関心が集まっている。
クリエイティビティとは,製品・サービス,プロセスおよび手段において新奇で有用なアイデアを生み出すことである(Amabile, 1988; Oldham & Cummings, 1996; Zhou & George, 2001)。19世紀以前から研究の蓄積がなされてきたが,当初クリエイティビティは人間性そのものであり,高い創造性を発揮できるのは天才であると捉えられてきた(Sternberg, 2011)。19世紀に入ると,クリエイティビティとは何か,また,クリエイティブ人材の特性やクリエイティビティを促進する環境へ関心が向けられ,20世紀の定量研究の基礎が作られてきた(Becker, 1995)。その後,多くの実証研究でクリエイティビティがビジネスフィールドにおいて有益なものであることが示されてきた。イノベーションを志向する組織において,従業員のクリエイティビティは,今日の激動するビジネス環境の中で競争力の維持や向上に貢献することが示唆されている(Amabile, 1988; Woodman, Sawyer, & Griffin, 1993; Zhou & George, 2001)。
これまでクリエイティビティの先行要因は,モチベーション(Eisenberger & Shanock, 2003)や成長欲求(Shalley et al., 2009),リーダーシップ(Oldham & Cummings, 1996; Liu et al., 2012),リーダーシップスタイル(Yoshida et al., 2014; Shafi, Lei, Song & Sarker, 2020)といった個人の資質や影響力に基づくものと捉えられてきた。一方,James & Drown(2012)は集団のクリエイティビティについて個人と集団との間に相互作用があるグループダイナミクス(group dynamics)の対象として分析する必要性を指摘している。具体的には,チームワークそのものは所属メンバー個人のレベルに還元できない全体性の特性を備えており(山口,2008),チーム活動は組織風土や組織文化,人事施策などから影響を受けていることが想定される(山口,2020)。山口(2020)は,「集団で意見交換をしながら考える方が,互いに知的刺激を与えあい,創造的なアイデアの創出につながりやすいと考える(p.18)」と述べ,メンバー間の相互作用が集団のクリエイティビティに影響を与えることを示唆した。このように近年では,集団のクリエイティビティにも関心が集まり,個人と集団の間にある相互作用について研究が行われるようになった(e.g. 周 , 2014;Paulus & Kenworthy, 2018)。クリエイティビティに影響を及ぼす代表的な集団の特性として,チームの風土(team climate)(Anderson & West, 1998)チームの心理的安全性(team psychological safety)(Edmondson, 1999)があげられる。
ただし,クリエイティビティを検討するうえで,個人と集団の相互作用に関する実証研究が十分に蓄積されていないことには留意すべきである(James & Drown, 2012)。たとえば,従業員の創造的な行動を測定する尺度として,George & Zhou(2001)やZhou & George(2001)がCreativity Scale 13項目を使用し,稲水(2018)は一部改変して使用している。この尺度は,個人の行動によってクリエイティビティを測定しているため,測定されたクリエイティビティが個人レベルか集団レベルかについて曖昧さが残る。Liu & Sekiguchi(2019)では,大学で日本語を専攻する中国人留学生54チーム222名を対象に,この分野に関連する9人の専門家によって測定されたクリエイティビティを分析に使用している。この方法はチームにおけるクリエイティビティを測定する手段として有効であるが,複数の組織や大企業のように階層が多い組織を対象とした場合,評価者による測定にばらつきが生じるなど妥当性を担保することが困難であると考えられる。また,クリエイティビティに関する主要な概念を整理したPaulus & Kenworthy(2018)よると,心理的安全性や支援的環境といった制約のある集団の特性に焦点を当てた研究では,一部に矛盾する結果が示されているという。集団の特性については,多様な知識や意見がある集団の方がクリエイティビティが高まるという仮説がある(Scott, 2007 水谷訳 2009)一方,多様性からコミュケーション摩擦が起こることが指摘されている(Janis, 1982)。三浦・飛田(2002)の研究では,多様性だけでは集団のクリエイティビティは高まらず,類似性との相乗効果が重要であることが確認されている。また,Carmeli & Spreitzer (2009)は,従業員の革新的行動への媒介要因としてバイタリティをあげているが,活気があったとしてもそのチームが創造的でも革新的でもないことも考えられる。また,メンバー間の信頼関係が構築され,チームワークが良い状態であったとしても創造的なチームではない可能性がある。さらに,創造的なアイデアを生み出す能力があるメンバーであったとしても所属するチームの特性によってその能力を発揮できないこともあろう。このようにクリエイティビティに関する個人と集団との関係は複雑であり,業務内容やチーム目標に依存する可能性があると考えられる。つまり,クリエイティビティを従属変数とする場合は,独立変数が個人であるのか,集団であるのかを区別して検討する必要があるといえる。したがって,本稿では概念抽出後にクリエイティビティを従属変数とし,個人のチームコミュニケーションスキルと集団特性を独立変数として,各々の影響を確認する。
これまで国内においてチームワークに関する個人のスキルを測定する尺度の開発がなされているが(三沢・佐相・山口,2009;相川・髙本・杉森・古屋 , 2012),これらは正確なオペレーションが求められる医療従事者やまだ実社会に出ていない大学生が主な対象とされている。国内のITベンチャー企業などの先進企業において集団のクリエイティビティを生み出すチームコミュニケーションスキルを測定する尺度は,筆者らが探した限り見当たらない。また,クリエイティビティを促進する集団特性の測定の検討もなされていない。我が国において企業が集団のクリエイティビティを生み出す仕組みを作り出すことは競争優位性の維持・向上に欠かせない人事戦略の一つとなる。そのため,クリエイティビティを生み出す従業員のチームコミュニケーションスキルおよび集団特性に関する概念を把握することは必須であると考える。
本研究においては,多様な個性を活かしてチームでイノベーションを志向するITベンチャー企業と連携し,従業員の集団のクリエイティビティを生み出すチームコミュニケーションスキルおよび集団特性の探索的検討を試みる。具体的には,次の2ステップで研究を行う。研究1では,インタビュー調査を行い,クリエイティビティを生み出す個人のチームコミュニケーションスキルおよび集団特性を定性分析から概念化し,キーワードを抽出する。研究2では,研究1のキーワードをもとに個人のチームコミュニケーションスキルおよび集団特性に関する質問項目を作成し,定量分析から概念の精査を試みる。最後に,既存のクリエイティビティ尺度を従属変数とした階層的重回帰分析を行い,クリエイティビティへの影響について確認をする。
なお,本稿における定性および定量調査に基づく探索的な概念抽出を通して,集団の創造性を生み出すチームコミュニケーションスキルおよび集団特性の尺度を開発することを今後予定している。
本調査の対象企業であるサイボウズ株式会社(以下,サイボウズ社)は,1997年に設立されたITベンチャー企業である。事業内容は,グループウェアといったチームコラボレーションを支援するソフトウェアの開発・販売・運用の他,制度や風土改革をはじめとする組織コンサルティングサービスの提供である。国内では,東京,宮城,横浜,名古屋,大阪,広島,松山,福岡の8か所に,海外では,中国,ベトナム,米国,オーストラリアの4か所に拠点をおきグローバルに事業を展開している。従業員数は2020年12月末時点で単体647名(グループ連結857名)1である。
サイボウズ社の特徴としては,独自性のあるワークスタイルが挙げられる。「100人いたら100通りの働き方があってよい」という考えのもと,性別や国籍などに関係なく,従業員それぞれが望む多様な働き方を実現できるようにしている。たとえば,在宅勤務や副(複)業などの勤務形態や勤務時間,勤務場所を自由に選択できる制度を導入している。このワークスタイルを生み出した背景には,人材の採用と定着に悩んだ過去がある。サイボウズ社は,「離職率28%」という過去最も高い数値を記録したことを契機に,組織や評価制度の見直しをはかり,ワークライフバランスに配慮した制度や社内コミュニケーションを活性化する施策を実施し,ワークスタイルの変革に取り組んできた。これらの取り組みを継続した結果,離職率が4%前後まで低下し,採用と教育のコストを抑えることができた。現在では,“チームワークあふれる「社会」を創る”という理想に共感する多様な人材によってチームワークが発揮され,イノベーションが創出されているという2。
以上の経緯からサイボウズ社では,ワークスタイルの変革に必要な「多様性を尊重する」「公明正大である」「議論を大事にする」という組織風土が醸成されており,現在もチームの活性化を促す仕組みづくりに取り組んでいる。このような組織風土や制度,チームコラボレーションを支援するためのソフトウェアを備えたサイボウズ社を対象とすることで,これまでにないチームコミュニケーションスキルおよび集団特性に関する概念を生成し,キーワードを抽出することができると考えた。
研究1の目的は,サイボウズ社の従業員にインタビューを行い,チームコミュニケーションスキルおよび集団特性に関する概念からキーワードを抽出することである。
3-2. 調査対象と調査方法調査対象者は,サイボウズ社の従業員8名である。管理職3名,一般社員5名であった。勤続年数は,1年~15年(平均8.8年)であった。調査対象者の属性は,表1に示した通りである。グループインタビューは,4名を1グループとした。具体的には,従業員A,B,C,Dをグループ1とし,従業員E,F,G,Hをグループ2として実施した。なお,調査対象者の選定にあたっては,サイボウズ社のチームワークについて語れること,グループ編成においては管理職と一般職のバランス,勤続年数にばらつきがあるよう依頼した。
本調査は,2019年6月に調査者3名がサイボウズ社を訪問し,グループインタビュー形式で行った。インタビューはサイボウズ社の会議室において,グループ1,グループ2の順に進めた。所要時間は1グループにつき90分であった。インタビューは半構造化面接とし,以下の3つの内容に基づいて実施した。(a)良いチームワークについて,(b)良いチームワークを生み出すために行っていること,(c)コミュニケーションスキルやチームの中での成長体験,であった。調査対象者には,インタビュー実施前にチームワークの概念について確認を行った。サイボウズ社では,チームワークとは目標を達成するために,チームメンバーで役割を分担して協働すること(山口,2008)であり,良いチームワークには「効果」「効率」「満足」「学習」の4つのアウトプットがある(Hoegl & Gemuenden, 2001)と定義し,全社で共有している。
調査対象者には,調査協力の依頼時に書面にて調査の目的や方法,調査結果の公表,プライバシー保護等について説明し,全員から同意と了承を得てインタビューを実施した。具体的には,研究協力は任意であること,インタビューをICレコーダーで録音して分析に使用すること,録音記録は研究者が厳重に管理し,学術目的以外に使用しないこと,研究結果公表時に個人が特定されないよう十分配慮することを伝えた。
なお,インタビュー調査を実施した2019年6月は,3~4割程度の従業員がテレワークを実施している状況であった。
3-3. 分析手法本調査の分析には,大谷(2007, 2019)が開発した質的データ分析手法であるSCAT(Stepsfor Coding and Theorization)4を援用した。SCATは,特定の学派の手法に基づくものではないが,グラウンデッド・セオリーをはじめとするいくつかの手法の背景と関係をもつ,従来のコーディングと質的データ分析を統合した新たな質的データ分析のアプローチである(大谷,2007)。また,SCAT を用いた分析は,複数の研究者による協働の分析作業に適しているだけでなく,分析過程を明示化することで省察可能性を高められるという利点がある(大谷,2007, 2019)。本研究では,複数の研究者がともに分析を行うため,定式的で明示的な手続きを持つSCATが適していると考え,採用した。
次に,本調査の具体的な分析手続きを述べる。はじめに,グループインタビューの発話(質的)データから逐語記録を作成した。逐語記録では,発話,内容ごとに切り分けた全180のテクストをSCATのスプレッドシートを用いて作成した。SCATのスプレットシートを用いることで,概念を抽出する過程を明確にし,調査者3名でひとつひとつの意味を検討し,読み替える作業を繰り返すことで恣意的な分析にならないよう配慮した。なお,個人が特定されないよう記号による管理を行った。以上の手続きで特に留意した点は,集団の特性なのか,個人の心理,スキル,行動なのかを詳細に検討しながらコーディングしたことである。
続いて,大谷(2007)が示すSCATによる4ステップコーディングの手続きに従い,分析手続きを進めた。〈1〉注目すべき語句を取り出し,次に〈2〉その語句の言い換えを行い,さらに〈3〉それを説明するテクスト外の概念を検討し,最後に〈4〉テーマや構成概念を抽出した。先述したように,近年,クリエイティビティは理論上「個人」と「集団」に分けて議論がなされている。しかしながら,既存のクリエイティビティ尺度は,主に「個人の行動」に焦点を当てられており,個人と集団の区分が不明確である。それゆえ,本調査の分析においては,集団であるか,個人であるかの区別を重視した。コーディング後は,調査者3名が協働して〈2〉,〈3〉,〈4〉を読み直し,その上でコードを繰り返し詳細に検討した。
3-4. 分析結果 (1) コーディング発話(質的)データを分析した結果,調査対象者らがチームワークの特性について共通した認識を持っていることが確認された。また,サイボウズ社の従業員間のコミュニケーションの中から,使用頻度の高い社内用語や意味の共有がなされている「共通用語」が抽出された。テクスト段階で各自が異なる発話をしていても,その意味を検討し,読み替えを重ねた結果,同じ意味であると解釈される語句も確認できた。同様に良いチームワークの状態を生み出す個人と集団の要因についても,いくつかの共通するコードにまとめられた。分析結果例は,表2に示した通りである。コーディングの手続きについては以下に,調査対象者Aの発話データ59を用いて例示する。
あとは,フリーアドレスになったりして,自分が何をしているか言っておかないと不安な人がどうもいそうだなと思い始めて。ちょっと,できるだけ書こうかなとか。あとは,プライベートだと,子どもが1年生になったとか,なんか休むことがありそうだとか思うので言っておこうかなとか。なんか,結構そういう,周りが何かあったときに助けてもらえそうだな,みたいなので出しているというのはあります。(A)
これに対して,まず調査者らで研究トピックに関わる語,気になる語,疑問に思う語といった〈1〉テクストの中の注目すべき語句として,[(プライベートを)できるだけ書こうかな。]を書き出した。次に,〈2〉テクストの中の語句の言い換えを[私生活を公開する]とし,〈3〉左を説明するようなテクスト外の概念として,[自己開示するべき,自己開示を受け入れる環境]を記入した。最後に,〈1〉から〈3〉の内容から浮上するテーマ・構成概念を,チームメンバー間で自己開示することが有益であり,私生活の情報も開示しあえる場と捉え,〈4〉テーマ・構成概念として,[メンバー間の開示開放性(オープンネス)(集団特性)]とした。
(2) ストーリー・ライン次に,4ステップコーディングで生成された語句を用いて,「サイボウズ社の従業員は」を主語としたストーリー・ラインを作成した(表3)。大谷(2019)は,SCATの〈4〉とストーリー・ラインの関係において,すべての語句を使って書くことで,データの分析結果として書き表せるとした。本研究でも,大谷(2019)の手続きに従い,ストーリー・ラインを作成した。
まず,SCATで,〈4〉に書いたコード(テーマ,構成概念)の語句を用いて,一つの意味で繋がるように文章を作成した。次に,作成した文章に〈4〉で生成された語句が使われたかを確認するために,ストーリー・ラインの中の〈4〉のコードに下線を引いた。最後に,接続詞や主語である「サイボウズ社の従業員は」を補った。この手順から分析によって明らかとなった意味がプロットされた。
さらに,ストーリー・ラインを読み解くことで浮かび上がった調査対象者の姿は,以下の3点に整理できた。一つ目は,調査対象者が自社の特徴として,組織内の公平性が確保されており,従業員同士でチームの理想やビジョンについての対話がなされ,意思決定に参加しやすいと認識している点である。二つ目は,従業員それぞれが個人と組織の目標の整合性や議論の進め方を意識してチームに参加している点である。三つ目は,従業員同士が多様性を受け入れ,傾聴や共感を大切にしつつ自己開示し,社内ツールの使い分けを意識しながらコミュニケーションをとっている点である。以上の点から,調査対象者が自社の特性を意識しつつ,チームがより良い状態になるように主体的に参画し,互いにコミュニケーションの活性化に関与していると解釈できた。また,活性化したチームでは,従業員が参加すること自体に楽しさを感じ,そのチームで展開されたチームの理想やビジョンについての対話から新たな学びを得ている姿も浮かび上がった。さらに,サイボウズ社が常に新しい商品・サービスの開発や組織改革に力を入れていることを考慮すると,チームワークが良い状態の一つとして「集団のクリエイティビティが生み出される状態」がみえてきた。
(3) キーワードの抽出続いて,キーワードを抽出するため〈4〉のテーマ・構成概念から表現が類似している項目のカテゴリー化を行った。その結果,集団のクリエイティビティを生み出す個人のチームコミュニケーションスキルとして12のカテゴリーが生成され,次のキーワードを抽出した。「自己開示」「多様性への耐性(多様性,摩擦,曖昧さ)」「楽観的な展望」「当事者性」「仕事への好奇心」「共感の表現力」「非権力関係の構築」「リフレーミング能力」「人格否定なしの否定」「個人目標設定の適切さ」「論理的な説明」「コミュニケーションの使い分け」である(表4)。これらのキーワードは,リーダーシップ論の文脈で説明できるものも含まれるが,広くチームコミュニケーションスキルの概念としてまとめられる。
さらに,集団のクリエイティビティを生み出す集団特性として5つのカテゴリーが生成され,次のキーワードを抽出した。誰でも参加しやすい参加開放性および自分の意見や感情を出しやすい開示開放性からなる「開放性」,チームへの参加や所属すること自体が楽しいという「快適性」,チームワークを通じての「探索的(探求的)学習」,チームの理想やビジョンについてメンバーと語ることができるという「理想の対話・共有」があげられた。一方,チームワークの阻害要因としては,チームメンバーと親しくなることを目的としない「コミュニケーションの自己目的化の否定」が抽出された(表4)。
研究1では,サイボウズ社の従業員にグループインタビューを実施し,個人のチームコミュニケーションスキルおよび集団特性に関する概念からキーワード抽出を行った。その結果,チームコミュニケーションスキルは12のキーワードが抽出され,サイボウズ社の従業員がチームの中で自己開示をし,共感による他者理解を踏まえた働きかけをすることでチームメンバーの多様性を受け入れ,適切な目標設定のもと好奇心を持って業務に向き合っている様子がみられた。また,フラットな関係性のもとで否定や対立を恐れず,建設的に議論を進め,コミュニケーション・ツールの使い分けを意識しながら多様な働き方をするメンバーと協働していることが示された。これらの結果と既存のチ―ムワーク能力に関する尺度を比較することで,似通った概念が1つ確認された。相川他(2012)のチ―ムワーク能力は「コミュニケーション能力」「チーム志向能力」「バックアップ能力」「モニタリング能力」「リーダーシップ能力」の5つの尺度16の下位尺度で構成されている。コミュニケーション能力の「読解」は,「話をしているとき,相手の表情のわずかな変化も感じ取れる」,「記号化」は「自分の気持ちを表情でうまく表現できる」といった他者理解や共感を測定することから,本調査結果の「共感の表現力」の概念と類似する可能性がある。チームワークを形成するための最も基本的なスキルであることから,クリエイティビティを志向するチームにおいても必要なスキルと認識されたものと考えられる。一方で,本調査結果の「自己開示」「多様性への耐性」「楽観的な展望」「当事者性」「仕事への好奇心」「非権力関係の構築」「リフレーミング能力」「人格否定なしの否定」「個人目標設定の適切さ」「論理的な説明」「コミュニケーションの使い分け」を測定する尺度は確認されなかった。これらは「多様性を尊重する」「公明正大である」「議論を大事にする」組織であるサイボウズ社において,チームの創造性を促進する独自のスキルと考えられる。
また,集団特性は5つのキーワードが抽出された。チーム内での議論やアイデア創出のプロセスはオープンで,その場に参加して自由に意見を述べることができる。また,仲良くなるためのコミュニケーションではなく,チームの理想やビジョンについて語りあえる環境であることが示された。抽出された「開放性」「快適性」「探索的(探求的)学習」「理想の対話・共有」「コミュニケーションの自己目的化の否定」は,サイボウズ社の組織風土を反映した集団の特性といえる。このように本調査結果には国内の先行研究と似通った概念も含まれる可能性が確認されたが,集団のクリエイティビティを生み出すであろう新たなキーワードが抽出できたと考える。
加えて,本稿ではクリエイティビティを検討するうえで個人レベルであるか,集団レベルであるかの区別を重視して分析したことで各々のキーワードを抽出することができた。よって,本調査結果は,クリエイティビティを生み出す個人のチームコミュニケーションスキルおよび集団特性を区別する一つの基準になると考える。
ただし,本調査結果は,調査対象企業の8名の従業員による語りに基づくものであり,先行研究の概念と類似する可能性やキーワード間の重複も考えられる。したがって,研究2では定量的に分析し,概念の精査を行う。
研究2では,研究1のキーワードに基づき,個人のチームコミュニケーションスキルと集団特性に関する質問項目を作成し,定量調査から概念の抽出を試みる。そのうえで,クリエイティビティへの効果を確認するため,既存のクリエイティビティ尺度を従属変数とした階層的重回帰分析を行う。
4-2. 調査手続きと調査対象者の属性サイボウズ社の直接雇用の従業員(正社員,契約社員,アルバイト)6597名を対象に質問紙調査を実施した。調査者らがGoogle Formsで調査フォームを作成し,サイボウズ社の担当者が,調査協力の依頼と調査フォームのURLをグループウェア上に掲示した。調査期間は,2020年2月3日から3月9日で,186名から回答が得られた。有効回答率は31.2%であった。
調査対象者は186名(男性99名,女性86名,未回答1名)で,うち管理職は26名であった。営業系,技術・専門系,事務系,その他と職能・職種から偏りなく,回答が得られた。調査対象者の属性を表5に示す。
質問項目作成の手続きとして,サイボウズ社の従業員を対象に行ったグループインタビューから,集団のクリエイティビティを生み出すチームコミュニケーションスキルで12,集団特性で5つのキーワードを抽出した。キーワードをもとに,グループインタビュー時の発話とチームワークやクリエイティビティに関する文献,記事等を参考にしてチームコミュニケーションスキル48項目と集団特性24項目の質問項目を作成した。質問項目は,調査者らが協議して作成し,質問の適切さやワーディングについては,調査者ら全員で繰り返し確認して完成させた。調査では,以下の変数を使用した。
SCAT分析から抽出した12のキーワード,「自己開示」「多様性への耐性(多様性,摩擦,曖昧さ)」「楽観的な展望」「当事者性」「仕事への好奇心」「共感の表現力」「非権力関係の構築」「リフレーミング能力」「人格否定なしの否定」「個人目標設定の適切さ」「論理的な説明」「コミュニケーションの使い分け」を測定するために作成した48項目を使用した。
SCAT分析から抽出した5つのキーワード,「開放性」「快適性」「探索的(探求的)学習」「理想の対話・共有」「コミュニケーションの自己目的化の否定」を測定する24項目を作成し,使用した。
Zhou & George(2001)による従業員の創造的な行動を測定するCreativity Scale13項目を日本語訳したものを用いた。
いずれの尺度も「1.あてはまらない」から「5.あてはまる」の5件法で回答を求めた。
性別,年齢,勤続年数,職位,職能・職種の回答を求めた。
4-4. 分析結果 (1) チームコミュニケーションスキルの因子構造チームコミュニケーションスキルの48項目について,主因子法,Promax回転による探索的因子分析を行った。固有値の減衰状況(9.298,3.651,2.796,2.245,2.119,1.731,1.471…)と因子の解釈可能性から6因子構造が妥当と判断した。各項目の因子負荷量が,|.40|以上,他の因子への負荷量が|.40|未満,共通性が.20以上を目安として分析を繰り返した結果,6因子25項目が抽出された(表6)。cs29は負荷量が.39であるが,本分析は概念抽出が目的であり,cs29は尺度項目の改良を前提として残すこととした。
第1因子は,チームの目的や目標を理解して発言,行動できていることを表す8項目で構成されていることから「目標設定力」とした。第2因子は,チームメンバーの反応や上下関係を意識せず自分の意見を発信できるスキルや意見の対立を避けない傾向を表す4項目で構成されていることから「自己開示力」とした。第3因子は,意見が対立しても感情的にならずに受け入れ,冷静に議論できるスキルを表す4項目で構成されていることから「調整力」とした。第4因子は,メンバーの感情を感じ取り,気持ちを読み解くスキルを表す3項目から構成されていることから「共感力」とした。第5因子は,状況に応じたコミュニケーションの方法を選択し,使い分けるスキルを表す3項目から構成されていることから「コミュニケーション選択力」とした。第6因子は,意思決定において心動かされるものや面白さ,直感を重視する傾向を表す3項目から構成されていることから「好奇心」とした。
各下位尺度について信頼性係数(Cronbachのα係数)を算出したところ,「目標設定力」でα=.79,「自己開示力」でα=.73,「調整力」でα=.73,「共感力」でα=.75,「コミュニケーション選択力」でα=.68,「好奇心」でα=.62であった。「コミュニケーション選択力」と「好奇心」以外は概ね高い内的整合性が示された。「コミュニケーション選択力」と「好奇心」の値は低いが,3項目であることと,.60-.70以上が望ましいとする基準(Bagozzi, 1994)から許容されると判断した。各下位尺度の平均値を下位尺度得点として,分析に使用した。
(2) 集団特性の因子構造集団特性の質問項目24項目について,主因子法,Promax回転による探索的因子分析を行った。固有値の減衰状況(6.840,1.972,1.501,1.422…)と因子の解釈可能性から2因子構造が妥当と判断した。各項目の因子負荷量が|.40|以上,他の因子への負荷量が|.40|未満,共通性が.20以上を基準として,分析を繰り返した。その結果,2因子10項目が抽出された(表7)。
第1因子は,メンバー間で組織や仕事の理想を語り,共有できるなど利益や効率の追求だけではない,理想を志向できる集団の特性を表す5項目で構成されていることから,「理想の共有」とした。第2因子は,誰でも議論に入りやすい,失敗を気にせず自分の考えを発言できるなど,安全で開かれた集団の特性を表す5項目で構成されていることから,「開放性」とした。
各下位尺度について信頼性係数(Cronbachのα係数)を算出したところ,「理想の共有」でα=.79,「開放性」でα=.77と概ね高い内的整合性が示されたことから,平均値を下位尺度得点として分析に使用した。
(3) 変数間の関連性変数間の相関分析を行い,結果を表8に示す。チームコミュニケーションスキルと集団特性には,弱から中程度の正の相関が見られた。
次に,チームコミュニケーションスキルと集団特性がクリエイティビティに及ぼす効果を検証した。クリエイティビティ尺度は,Zhou & George(2001)と同様の1因子構造を採用し,信頼性係数を算出した。α=.90で十分な値が得られていることから,項目の得点平均値を尺度得点として分析に使用した。
まず,チームコミュニケーションスキルがクリエイティビティに及ぼす効果を検討するため,チームコミュニケーションスキルの6つの下位尺度を独立変数,クリエイティビティを従属変数とした階層的重回帰分析を行った(表9)。ステップ1で,統制変数として性別と職位(管理職,一般職のダミー)を投入し,R2は有意であった。ステップ2でチームコミュニケーションスキルの6つの下位尺度を投入したところ,R2の変化量は有意であった(F(6,177)=24.66, p <.001)。「目標設定力」「自己開示力」「好奇心」がクリエイティビティに有意な正の影響を示した。「調整力」「共感力」「コミュニケーション能力」は有意な影響を示さなかった。
続いて,集団特性がクリエイティビティに及ぼす効果を検討するため集団特性の2つの下位尺度を独立変数,クリエイティビティを従属変数とした階層的重回帰分析を行った(表10)。ステップ1で,統制変数として性別と職位(管理職,一般職のダミー)を投入し,R2は有意であった。ステップ2で,集団特性の2つの下位尺度を投入したところ,R2の変化量は有意であった(F(2,181)=19.65, p <.001)。「開放性」は有意傾向であるが,「理想の共有」はクリエイティビティに有意な正の影響を示した。
研究2では,研究1で抽出されたキーワードから個人のチームコミュニケーションスキルと集団特性に関する質問項目を作成したうえで定量調査から概念の抽出を試み,クリエイティビティへの効果を検証した。分析の結果,チームコミュニケーションスキルは6因子,集団特性は2因子となり,尺度間には弱から中程度の正の相関が確認された。さらに,チームコミュニケーションスキルおよび集団特性のクリエイティビティへの影響を検討するため,階層的重回帰分析を行った。チームコミュニケーションスキルでは,「目標設定力」「自己開示力」「好奇心」がクリエイティビティに有意な正の影響を示したが,「調整力」「共感力」「コミュニケーション選択力」は有意な影響を示さなかった。有意な影響を示さなかった3つの力は,対立場面で感情をコントロールする力や相手の感情を読み取る力,コミュニケーションの環境やツールを選択する力である。これらは,主にチームメンバー間の親密度を高めるために必要なスキルと考えられ,時に議論の応酬となるクリエイティビティの創出には直接影響しなかった可能性がある。相川他(2012)のチームワーク能力に関する尺度とチームコミュニケーションスキルの「共感の表現力」が類似する可能性を示した研究1の結果と合わせて考えると,チームコミュニケーションスキルが2つ以上の異なる特徴で構成されている可能性が考えられる。よって今後は,クリエイティビティを生み出すチームコミュニケーションスキルの構造についてより精緻に検討を重ねる必要があるといえる。集団特性では,クリエイティビティに対して「開放性」が有意傾向,「理想の共有」は有意な正の影響があり,いずれもクリエイティビティを生み出す特性であると考えられる。
本稿では,集団のクリエイティビティを生み出す従業員のチームコミュニケーションスキルおよび集団特性に関する概念について探索的な検討を試みた。これまでクリエイティビティは理論上「個人」と「集団」に分けて議論がなされてきたが,既存のクリエイティビティ尺度は,個人と集団との区分が不明確であった。そこで本調査では,個人レベルであるか集団レベルであるかの区別を重視し,クリエイティビティを生み出す概念について,サイボウズ社を対象として定性および定量調査によって検討した。
研究1では,従業員のインタビューデータをSCATで分析した結果,集団のクリエイティビティを生み出す個人のチームコミュニケーションスキルは12のキーワード,集団特性は5つのキーワードが抽出された。サイボウズ社は,チームで常に新しい商品・サービスの開発や組織改革に取り組んでいるため,その過程から抽出されたキーワードは集団のクリエイティビティとの関連が高い要因であると考えられる。また,ストーリー・ラインから,集団のクリエイティビティが生み出される状態がチームワークの良い状態の一つであることが示唆された。チームコミュニケーションスキルでは,国内の先行研究にはない集団のクリエイティビティとの関連が予想されるキーワードが抽出されたが,相川他(2012)のチームワーク能力に関する尺度と似通ったキーワードも含まれることが確認された。加えて,発話データを個人レベルと集団レベルに区別して分析したことで,個人のチームコミュニケーションスキルと集団特性の各々のキーワードを抽出することができた。
研究2では,研究1で抽出されたキーワードをもとに作成した尺度を用いて質問紙調査をした結果,チームコミュニケーションスキルは6因子,集団特性は2因子が抽出された。さらに,チームコミュニケーションスキルと集団特性を独立変数とし,それぞれがクリエイティビティに与える影響を検証した。その結果,チームコミュニケーションスキルでは,「目標設定力」,「自己開示力」,「好奇心」がクリエイティビティに有意な正の影響を示したが,「調整力」,「共感力」,「コミュニケーション選択力」は有意な影響を示さなかった。集団特性では,「開放性」は有意傾向で,「理想の共有」は有意な正の影響を示した。チームコミュニケーションスキルの下位尺度によるクリエイティビティへの影響の違いから,チームコミュニケーションスキルが2つ以上の異なる特徴で構成されている可能性が示唆された。今後,尺度開発研究を進めるにあたって各尺度の概念と質問項目の精度を高める必要性も確認された。
(2) 今後の展望と課題これまで国内において,チームワークに関するコミュニケーションスキルの検討がなされてきたが,集団のクリエイティビティを生み出すコミュニケーションスキルについて検討された研究は,筆者らが調べた限りでは見当たらない。また,クリエイティビティを検討するうえで,個人と集団を明確に区別した研究も見当たらない。本稿において,個人のチームコミュニケーションスキルと集団の特性を整理できたことは,クリエイティビティ研究に寄与したといえる。加えて,探索的な分析によって個人のチームコミュニケーションスキルと集団特性の概念を示すことで,創造的な組織のチームビルディングの議論に対して新たな観点が提示できたと考える。今後,本稿の知見に基づき,チームコミュニケーションスキルと集団特性の尺度開発をすることで,集団のクリエイティビティを生み出す個人のチームコミュニケーションスキルの状態や集団の特性を数値化することができる。その結果,集団のクリエイティビティの開発における施策の効果測定など,組織開発や人材開発に実践的なインプリケーションを与えるであろう。
最後に,本稿の限界と課題を述べる。本稿で使用したクリエイティビティ尺度は国内外で用いられているが,個人と集団の相互作用が複雑であるため,個人と集団のクリエイティビティを明確に識別できていないことが課題である。また,定性調査から始めたことで探索的な検討ができたが,本研究で得られた知見の汎用性を高めるためには今後も検証を重ねていく必要がある。つまり,本稿で作成されたチームコミュニケーションスキルと集団特性の尺度の精度を高めるためには,業種や職種を拡大したサンプルで尺度を検証する必要があろう。
(筆者=藤澤 広美/立教大学経営学部助教 廣川 佳子/立教大学経営学部特任准教授 梅崎 修/法政大学キャリアデザイン学部教授)