Japan Journal of Human Resource Management
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Print ISSN : 1881-3828
Book Review
OGAWA, Shinichi "Small-group Activities as Japanese-style Management: Development, Diffusion, and Transformation of Quality Circles"
Shintaro MATSUNAGA
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2022 Volume 23 Issue 1 Pages 94-98

Details

『日本的経営としての小集団活動:QCサークルの形成・普及・変容』,小川 慎一 著;学文社,2020年11月,A5判・256頁

1. はじめに

本書は,日本における産業・労働社会学分野で活躍してきた著者が積み上げてきた,小集団活動研究の成果を取りまとめたものである。著者の博士学位請求論文をベースとしつつ,その後発表された業績に加筆修正が施され,体系的な書籍として出版された。通読することによって,本書の副題にある通り,小集団活動(QCサークル)をめぐる「形成・普及・変容」の歴史的過程を知ることのできる書物となっている。

評者は,著者と同じく社会学に足場を置いて労働研究に取り組んでいるが,小集団活動という対象については浅学であり,本書を読み進めるなかで新たに得た知識が多くを占めていた。したがって,小集団活動という研究対象に対する知見についてよりも,評者なりに考える本書の社会学分野における労働研究としての意義に論点を絞って紹介をさせていただくことにしたい。

2. 本書の内容

まずは本書の内容について整理する。以下が本書の目次となっている。全9章+2つの補論という構成となっている。

  • 第1章 本書の対象と方法

    第2章 小集団活動とは

    第3章 「安かろう悪かろう」から小集団活動へ

    第4章 品質管理の受容から小集団活動へ ―企業における一事例

    第5章 小集団活動の普及と労働者の意識 ―労使コミュニケーション調査

    第6章 小集団活動の展開と変容 ―企業における一事例

    補論1 シックスシグマの一例

    第7章 ブームの終焉と新たな試行錯誤

    第8章 企業どうしで支え合う小集団活動

    補論2 大会審査と講評の模擬体験

    第9章 結論

各章の内容は,以下のようになっている。第1章では,小集団活動という研究対象を扱った社会科学諸分野の先行研究が体系的にレビューされている。とくに小集団活動が「計画と実行の統合」という議論のもとで扱われてきたことと,そしてタイトルにもある「日本的経営」の1つの特徴として扱うという視点が示されている。そのうえで,組織社会学・経済社会学における新制度派アプローチ(制度的同型性の議論)の分析視点に基づき,「誕生や普及,変容を含めた日本における小集団活動のいわばライフコース」(p.24)を捉えるという方針が掲げられている。

第2章には,第3章以降の分析的な議論を理解するうえでの前提として,小集団活動において実際に用いられてきた問題解決手法や手順が整理されている。

第3章では,日本で小集団活動が誕生した歴史的過程が議論されている。小集団活動はアメリカにおける品質管理に起源をもち,戦時中から研究されていたが,実際には1960年代に日本企業の経営強化策の1つとして普及した。著者はこうした普及が可能になった条件として,QCサークルにおいて用いられる簡便な手法がパッケージ化されたことを歴史的経緯から特定している。

第4章では,東芝府中工場を事例として,品質管理の受容から小集団活動導入初期までの経緯について,「計画と実行の統合」との関連で議論されている。一般技能者が自らの経験やカンに基づいて製造作業を行っていた1950年代前半以降,徐々にデータや計測が重視され,かつ簡便法のパッケージ化も進み,計画と実行は分離された。著者の主張は,小集団活動における「計画と実行の統合」はこの分離を前提としてこそ成立しているというものであり,「部分的な分離を伴う計画と実行の分離」として把握することが適切であるとの見解を示している。

第5章では,労働者がどのように小集団活動を受け止めていたのかが,厚生労働省「労使コミュニケーション調査」をもとに明らかにされている。1984年,1994年の調査結果においておおむね労働者が肯定的に受け止めていた事実が確認されている。

第6章では,東芝柳町工場を事例として,小集団活動の導入後における展開の経緯が議論されている。1960年代に導入された小集団活動が1990年代までにかけてどのような変容を遂げたかが明らかにされている。当初の小集団活動は一般技能者が職場の問題を自主的に発見・解決するというもので,定常的業務との関連は薄かったが,1980年代後半にかけて改善成果を定常的業務に定着させる取り組みが広まってくることになる。こうした小集団活動の内容が,定常的業務として吸収されてくることになる。

補論1では,2000年代初頭の東芝を事例として,小集団活動に取って代わられて行われることになったシックスシグマの導入が紹介されている。シックスシグマは小集団活動と同じパッケージが用いられるが,テーマ設定などが企業の経営戦略などに基づき,トップダウンのものになっているという特徴がある。

第7章では,1980年代半ば以降に小集団活動の実施率が低下してきたなかにおいて,普及団体(QCサークル本部)がどのように対応してきたのか,2000年代の動向が議論されている。QCサークル本部は個々の企業の先駆的事例を踏まえながら,これまでとは異なる非同一職場・非継続型の活動を推奨し,新たな活動形態を打ち出している。こうした転換は,日本の製造拠点のものづくりが高度化し,現場技能者のみで解決可能な問題が少なくなったことも1つの背景にあると著者は指摘する。

第8章では,QCサークル本部が日本各地に設置している地域組織による,小集団活動実施率低下への対応が明らかにされている。地域組織はそこに属する企業のボランティア的な協力関係において運営されている。この協力関係は,小集団活動を媒介とした企業横断的な人間関係によって支えられており,「外延的な社会的空間」を形成していることを著者は見いだしている。

補論2では,著者が受講した小集団活動の各種大会のための審査員研修会,講評者研修会での体験に基づく調査報告が展開されている。

第9章では,本書の知見が整理されたうえでの理論的示唆と今後の課題が示されている。小集団活動における計画と実行の分離/計画をめぐる二分法的な把握の限界が指摘され,また小集団活動がそれにかかわる成員の行動に価値観や指針を与えるような1つの制度として把握でき,現在も維持されていることが議論されている。課題としては,日本国内外にあるより多様な小集団活動の把握と,新制度派アプローチの日本的経営・日本的雇用慣行へのさらなる展開が掲げられている。

3. 本書の意義

以上が評者が理解したところの本書の内容であるが,ごく限定的な要約であるので,ここでは紹介できない歴史資料やヒアリングに基づく詳細な分析も含めて,各読者が自ら読み進めてもらいたい。ここでは,社会学分野の労働研究者としての立場で,本書の意義と可能性について若干のコメントを行いたい。

まず,著者が小集団活動を日本的経営をめぐる制度の1つとして扱い,それを新制度派アプローチに基づいて分析したことについては,広い応用可能性があるだろう。著者は,長期雇用・能力主義的な年功制・新卒採用慣行などを例として,同型化の視点から企業間の相互参照などを跡づけていくような研究方針を提案している。社会的行為を1つの分析単位とする社会学にとって,こうした方針が有望であるかどうかは,実際に同型化という動きが行為としてみられるかどうかにかかってくると思われるが,企業が手探りに人事制度の導入・改定を行っていくことなどを捉える際には有効な視点として生きてくるだろう。

著者が明示的に議論しているわけではないが,本書を通読して評者が興味を引かれたのは,小集団活動という対象が独特に照らし出す企業や労働者の共同性のあり方がみえてくる点である。産業・労働社会学のなかにも多様な理論的立場が存在するが,1つ少なくとも共通する視点として,企業や職場において成員が形成する「共同性」を捉えようとする視点がある(尾高 1953)。この共同性は,対面的な人間関係においてももちろん成立するが,日本的雇用慣行のもとでは企業それ自体が1つの共同性(企業コミュニティ)として把握できることなどが指摘されてきた(稲上 2005)。つまり,共同性といってもそれがカバーする範囲は多様かつ多層的であり,その内実を分析的に取り出していくことによって,まずもって経済的な活動といえる労働が,必ずしも経済的な側面に還元されない社会的な性質をどのような形で有しているのかを社会学における労働研究は捉えてきたといえる。

小集団活動という対象の面白さは,まさにこの多様かつ多層的な共同性を小集団活動が帯びており,かつ著者の歴史的なアプローチによってその共同性の変遷を見て取ることができるという点である。小集団活動は,「集団」とある以上,まずは職場において形成されている共同性とかかわりをもつはずである。これは「経験とカン」の時代においては一般技能者の共同性と一致していたかもしれない。しかし小集団活動の展開のなかで定常的な業務との結びつきを強めていくことによって,共同性はある職場のある職種だけではなく,より企業という単位に近づいていくことになるだろう。さらに著者が第8章で述べているように,小集団活動のつながりは企業横断的な共同性も作り上げている。品質管理に由来する活動が,さまざまな変遷を遂げつつこうした成員にかかわる共同性の広がりを生みだしているという点からも,本書が読まれる意義があるように評者には感じた。企業横断的な関係に関する第7・8章は著者の博士論文以降の研究のようだが,これらの成果も統合されて著書としてまとめられたことは本書の価値を高めているように思える。

4. 本書の課題・可能性

ここまで述べたように本書の意義には確固たるものがあると考えるが,さらに研究を進展させていくにあたって,評者として考える部分が2点あったので,それぞれ述べたい。

第1に,小集団活動が「制度」として把握しうること,そして日本的経営と深くかかわる自体に異論はないものの,その内実についてはさらなる検討の余地があったように思われる点である。たしかに小集団活動は,活動にかかわる企業に価値観や行動方針(業務改善・従業員のモチベーション向上)を与えている。しかし,著者自身が歴史的過程の分析から明らかにしているように,小集団活動はアメリカの品質管理をベースとしつつ日本独自の文脈で徐々に普及し,その後も変容してきたものである。こうした議論を受けて評者が興味を引かれるのは,日本的雇用慣行をめぐる諸制度とどのような関係にあったのだろうかという点である。小集団活動は,職場集団として知恵を集めて業務改善を行っていくなかで,成員の企業へのコミットメントを強めていくような機能も有するだろう。そうであれば,たとえば同様に企業へのコミットメントに影響を与えるような長期雇用慣行は小集団活動とどのような関係性を有すると考えるべきなのか。もう少し踏み込めば,小集団活動が与えている業務改善やモチベーション向上といった価値観は,小集団活動によってこそ支えられているものなのか,それとも他の諸制度とのセットによって支えられているのか。小集団活動の登場・変容は他の日本的雇用慣行の諸制度の変容の影響下にあるものなのか,それともそれ自体自律性を有する制度なのか。このような「制度間関係」についても議論が積み重ねられていくと,「日本的経営」と小集団活動の関係性がよりクリアに浮かび上がってくるように思われた。

第2に,本書の末尾で,著者は大学院時代に科学社会学に関心をもっており,小集団活動について「科学的知識が専門家だけでなく,非専門家への受容された例」(p.239)として扱っていたことを述べている。小集団活動研究が労働研究の領域で盛んに研究されていたことからそうした科学社会学的な議論が前面に押し出されなくなったのだろうかと推察するが,評者には労働研究としてもそうした視点は依然として重要なものであるように思える。というのも,小集団活動の変容史を著者の議論から把握するだけでも,科学的知識をどのように組織的に導入・展開するかという問題が組織成員にとっての実践的な問題であったことが明らかなためである。具体的には,小集団活動が変容してきた背景として,日本の製造拠点が高度なものづくりを期待され,現場技能者のみで解決可能な問題が少なくなってきたことを著者は指摘している(p.171)。このように,企業内において業務に関する知識をどのように配分するべきかという問題は,小集団活動のあり方と密接にかかわっている。著者の当初の関心は,「知識の社会的配分」(Schutz 1964=1980)の観点から労働現象を読み解いていくような研究にも開かれているように感じる。知識に関する社会学的視点を生かしたような労働研究が今後現れてくることも,個人的には期待したい。

上記の点は本書の価値を損ねるようなものではなく,あくまで今後の可能性にかかわる部分である。この価値ある著書を,多くの読者に手に取ってもらいたい。

(評者=長野大学企業情報学部准教授)

【参考文献】
 
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