Journal of Japanese Society for International Nursing
Online ISSN : 2434-1452
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Research Note
Brazilian mothers’ perceptions and behaviors about injury prevention in their children
Kuniyo  Shiba
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2024 Volume 7 Issue 2 Pages 21-30

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Abstract

目的

在留ブラジル人の母親 ( 以下 、 母親と記す ) における育児や事故防止に関する情報の入手先 、 および 、 子ども の事故防止に関する母親の認識と行動を明らかにする 。

方法

A 県内の保育所に通う未就学の 0 〜 6 歳児をもつ母親 358 名にポルトガル語版の無記名自記式質問紙調査を行 った 。

結果

母親の事故防止に関する情報の入手先は 、 家族 65.2% 、 ブラジル人の友人・知人 58.4% 、 広報誌 50.6% 、 SNS39.3% 、 保育園 37.1% であったが 、 医療者と TV( ブラジル ) は 30% 未満であった 。 育児情報の主な入手先 も 、 家族が 86.5% 、 ブラジル人の友人・知人は 65.2% であった 。 インターネット上の事故防止に関する Web サ イトの情報は 58.4% の母親が認知していたが 、 母子健康手帳や育児雑誌・育児書の情報認知は 28% であった 。

95% 以上の母親が 、 子どもは未熟なので事故を起こしやすく 、 子どもを事故から守るのは親の責任であり 、 子ど もには危険から身を守る方法を教える必要があると認識していた 。 また 、 83% の母親が子どもの事故は親が気を つけても予防しきれないと考えていたが 、 11 項目中 7 項目の子どもの事故防止に関する行動を 90% 以上の母親 が実行していた 。 実行群が 80% 未満の行動は 、 階段に入れないように上下に柵を設置している 、 ベッドやソファ 等に寝かせた時転落しないように柵やクッションでガードしている 、 風呂場に必ず施錠し浴槽に残し湯をしない ようにしている 、 ドアと壁の隙間に子どもが指をはさまないように対策しているであった 。

考察

母親の事故防止情報の入手先は育児情報と同様に主に家族やブラジル人の友人・知人であり 、 母親への情報提 供では母国語でのアクセスのしやすさが重要であることが明らかになった 。 また 、 紙媒体より SNS の情報が入 手され 、 インターネット上の Web サイトにある情報の認知度が高かったことから 、 オンラインでの情報提供の 方が有効であることが示唆された 。 事故防止に関する情報は育児情報に比べて家族や友人・知人からの入手が少 なかったことから 、 事故防止に関する情報の入手は制約されている可能性が示唆された 。

結論

在留ブラジル人の母親は事故防止に関する良好な認識を持ち 、 ほとんど母親が事故防止行動を実行しているこ とが明らかになった 。 ごく少数の母親は 、 事故防止に関する知識や情報入手が不足している可能性があるため 、 知識や情報を提供する必要がある 。

Translated Abstract

Objective

To clarify the sources of childcare information and child injury prevention information for Brazilian mothers living in Japan (hereafter referred to as "mothers"), and to clarify their perceptions and injury prevention behaviors.

Methods

A Portuguese self-administered anonymous questionnaire survey was conducted on 358 mothers with children aged 0–6 years.

Results

Mothers obtained information on injury prevention primarily from their families and Brazilian friends, in addition to public information magazines, SNS, and daycare centers, but only < 30% of them were health care providers and TV(Brazil). Moreover, the main sources of information on childcare were also their families and Brazilian friends and acquaintances.

58% of mothers knew websites with information about injury prevention, but only 28% of them recognized information in maternal and child health handbooks and childcare magazines.

Approximately 95% of the mothers believed that "children are prone to injury, thus, it is the parents' responsibility to protect their children from injury and they should teach their children how to protect themselves from danger".

Although 83% of mothers believed that, even if parents are careful, they cannot prevent their children from getting hurt, > 90% of them implemented 7 of the 11 injury prevention behaviors. Less than 80% of mothers performed the other 4 preventive behaviors.

Conclusion

Mothers obtained injury prevention information primarily from their families and Brazilian friends, indicating the importance of information accessibility in their native language. Moreover, it was suggested that online information dissemination was more efficient. Information on injury prevention from family, friends seems to be more limited than childcare information from them. Most mothers were found to practice injury prevention behavior, indicating that they have a high level of awareness of injury prevention. A small number of mothers could require education and information on injury prevention.

Ⅰ.背景

わが国の子どもの死因は「不慮の事故」が5〜9歳で第2位、1〜4歳と10〜14歳で第3位である(国民衛生の動向,2022)。子どもは発達途上にあり、自分の身を守ることができない。発達途上にある子ども、特に年少児を事故から守るためには、養育者である親が子どもの事故リスクを理解し、予防に努めることが重要である(松永,奈良間,2009)。国内では小児の事故や事故防止に関する母親の認識や事故防止行動についての先行研究が報告されている(眞壁他,2019)。しかし、在留外国人の親を対象とした子どもの事故防止に関する先行研究は見当たらない。

在留外国人の数は2018年12月時点で約273万人(法務省,2018a)であり、国籍別人数では中国・韓国・ベトナム・フィリピン・ブラジルの順に多い。都道府県別にみると、A県の在留外国人数は260,952人であり、東京都の567,789人に次いで多い。在留ブラジル人全体の29.3%にあたる59,334人がA県に在住しており、日本の都道府県の中で最も多い。

また,法務省の出入国在留管理庁が公開している在留外国人統計を参照すると,1990年には56,429人であった在留ブラジル人の中で0~14歳児は59,111人(4.8%)であったのに対し,2000年以降は在留ブラジル人総数が増加し,それに伴い0~14歳児も2000年時点(法務省,2000)で292,977人(15.2%),2010年(法務省,2010)では在留ブラジル人230,552人中0~14歳児は40,315人(17.5%),2020年12月時点(法務省,2020)の在留ブラジル人208,798人中0~14歳児は34,035人(16.3%)と増加しており,日本国内で子育てをする在留ブラジル人も増加していると推測できる。

近年、外国人が多く居住する地域では多言語での情報提供が行われているが、子どもの事故防止に関する情報についても多言語での情報提供が行われているかは確認できていない。ブラジル人の母親は日本での滞在歴が長くなっても日本語が苦手なものが多く、子育てに関する情報源は比較的身内に限られ、社会資源の活用が少ないことが報告されている(坂本他,2017)。日本語が苦手で社会資源が十分活用されていないとされるブラジル人の母親が日本国内で子どもの事故防止情報にアクセスできているかは不明である。在留外国人の情報入手に関する先行研究の中で子どもの事故防止に焦点をあてたものは見あたらず、在留ブラジル人を対象としたものも見つからなかった。

そこで、在留ブラジル人の母親は、どのように子どもの事故防止情報を入手しているのか、また、母親の子どもの事故防止に関する意識や行動はどのようなものなのかを明らかにし、支援の必要性や方向性を検討する必要がある。

Ⅱ.目的と定義

1. 目的

在留ブラジル人の母親(以下、母親)における育児や事故防止に関する情報の入手先、および、子どもの事故防止に関する母親の認識と行動の実態を明らかにする。

2. 用語の操作的定義

1) 子どもの事故:不慮の事故は小児の死因上位にあり、年代別に見た不慮の事故の内訳では、窒息・交通事故・溺水の割合が多い(消費者庁,2016)。小児の事故は、死亡しないまでも救急搬送や受診を要する重篤な傷害に繋がりうる為、本研究では子どもの事故を「交通事故、溺水・溺死、窒息、転倒・転落、火傷、異物の誤嚥・誤飲、指をはさむ等の死亡や重篤な傷害につながる可能性のある事故」と定義する。

2) 在留外国人:本研究では、出入国在留管理庁ホームページ上に掲載された在留外国人統計 用語の解説を参照し、在留外国人を「中長期在留者および特別永住者」と定義する。

3) 子どもの事故防止に関する母親の認識:本研究では子どもの事故防止に関する母親の認識を「子どもの事故防止に関する行動の実行に影響する可能性がある母親の考え」と定義する。

4) 子どもの事故防止に関する母親の行動:本研究では子どもの事故防止に関する母親の行動を「子どもの事故を予防するために母親が実行することが期待されている行動」と定義する。

Ⅲ.方法

1. 研究対象

A県内の保育所に通う未就学の0~6歳児をもつ在留ブラジル人の母親358名を対象とした。A県内の0〜6歳の在留ブラジルの子どもは2018年の時点で5,027人であり(法務省,2018b)、本研究の対象者は全体の約7%にあたる。尚、本研究では両親ともに在留ブラジル人であるか否かは確認していない。

2. 調査時期

2018年10月~12月に調査した。

3. 調査方法

無記名自記式質問紙による質問紙調査法(※ポルトガル語版を使用)とした。ポルトガル語翻訳版質問紙の作成では、研究者が日本での在留期間が長く日本語の堪能な在留ブラジル人の知人に研究協力者として翻訳を依頼した。翻訳された質問紙は研究者が日本語への逆翻訳を行い、翻訳を担当したブラジル人協力者とともに翻訳内容の妥当性を確認した。プレテストは実施しなかったが、複数の在留ブラジル人にわかりにくい質問がないかを確認してもらった。

1) 調査内容

対象者の属性では、母親の年代・子どもの年齢・母親の職業(子どもと接する機会の多い小児看護師や保育士等の職業か)、国籍・滞在期間・使用言語について尋ねた。また、事故防止に関する認識・行動と関連する可能性がある項目として、情報(育児に関する情報、事故防止に関する情報)の入手先に関する2項目(表1)、子どもの外傷への対処経験(子どもの外傷頻度、子どもの外傷による受診経験、子どもの外傷による救急搬送経験)に関する3項目(表2)、子どもの事故防止に関する情報源(母子健康手帳、Webサイト、育児雑誌・育児書)の認知度に関する3項目についても尋ねた。事故防止に関する認識と行動に関する項目は、田中(2007)が作成した新事故防止マニュアル等を参考に認識4項目(表3)と行動11項目(表4)とし、回答方法は「とてもそう」~「まったくそうでない」の6段階判定とした。

2) データ収集方法

対象者の抽出は、2017年6月時点の法務省統計(法務省,2017)をもとにA県内の市町村別外国人住民数を調べ、ブラジル人住民数が多い順に各自治体の公立保育園を管轄する部署に協力を依頼した。研究協力に承諾の得られた8市の公立保育園に通う0~6歳のブラジル人園児358名(※2018年12月時点の法務省統計データによる A県内の0~6歳のブラジル人の子ども5,027名の7.1 %)の母親を対象者とした。対象者には保育園を介して質問紙と返信用封筒を配布し、回収は研究者の宛先を記入した返信用封筒を用いて対象者自身に投函してもらった。

3) 分析方法

記述統計量による集計を行った。属性のうち、子どもの年齢については複数の子どもをもつ親は複数回答になるため、「0歳児あり・なし」、「1〜4歳児あり・なし」、「5・6歳児あり・なし」のそれぞれ2群として集計した。

子どもの事故防止に関する母親の認識(表3)は「とてもそう思う」「そう思う」「ややそう思う」を認識群、「あまりそう思わない」「そう思わない」「まったくそう思わない」を非認識群として集計した。また、子どもの事故防止に関する母親の行動(表4)は、「常にそうしている」「そうしている」「概ねそうしている」を実行群、「あまりそうしていない」「そうしていない」「全くそうしていない」を非実行群として集計した。

4) 倫理的配慮

本研究は、研究者の所属機関であった愛知県立大学研究倫理審査委員会において承認を受けて実施した(30愛県大学情第6 - 44号)。対象者には、質問紙に説明文を添付し、個人情報保護のため無記名式質問紙とし、研究協力の任意性を保つために質問紙は対象者自身で投函してもらった。研究協力への同意の確認は、質問紙の返信をもって協力に同意したものとみなした。

IV. 結果

質問紙の回収数は98(回収率27.4%)であった。本研究では在留ブラジル人に協力を依頼したが、回収された質問紙には国籍がペルーやフィリピン等も含まれ、それらは分析対象から除外した。有効回答数は89(有効回答率90.8%)であった。

1. 属性

母親の年代は、30歳代が61名(68.5%)で最も多かった。母親の職業では、子どもと接することの多い保育士や小児看護領域の看護師等である(あったを含む)が8名(9.6%)含まれた。子どもの年齢(複数回答)では、0歳児ありが9名(10.1%)、1~4歳児ありが60名(67.4%)、5・6歳児ありが47名(52.8%)であった。在留期間は平均12.0 ±7.8年(最小1.0年、最大30.0年)、使用言語は「母国語と少しの日本語」が74名(84.1%)、「母国語のみ」は12名(13.6%)であった。

2. 育児および事故防止に関する情報の入手先(表1)

育児に関する情報の入手先は、「家族」77名(86.5%)、「ブラジル人の友達・知人」63名(70.8%)、「保育園」38名(42.7%)、「医療職」34名(38.2%)、広報誌33名(37.1%)、「SNS」30名(33.7%)の順であった。事故防止に関する情報(以下、事故防止情報)の入手先も「家族」が58名(65.2%)で最も多く、「ブラジル人の友達・知人」52名(58.4%)、「広報誌」45名(50.6%)、「SNS」35名(39.3%)、「保育園」33名(37.1%)の順で、「医療職」「TV(ブラジル)」はともに25名(28.1%)であった。

表1 育児および子どもの事故や事故防止に関する情報の入手先(n=89,複数回答可)

3. 子どもの外傷への対処経験(表2)

子どもの外傷頻度では外傷の頻度が多い群が29名(33.3%)であった。外傷による受診経験ありは31名(35.2%)、外傷による救急搬送経験ありは1名(1.1%)であった。

表2 子どもの外傷への対処経験

4. 事故防止の情報源の認知度

母子健康手帳(以下、母子手帳)の事故防止ページを読んだことがあるのは20名(22.5%)、知っているが読んではいないは12名(13.5%)、知らないが56名(62.9%)、無回答1名(1.1%)であった。なお、本研究では対象者が日本語版・ポルトガル語版のどちらを使用していたかを確認していない。

インターネット上の事故防止に関するWebサイトを見たことがあるのは52名(58.4%)、見たことがないのは36名(40.4%)、興味がないは1名(1.1%)であった。育児雑誌・育児書における事故や事故防止に関するページを読んだのは23名(25.8%)、知っていたがまだ読んでいないは46名(51.7%)、興味がないが1名(1.1%)、育児雑誌や育児書は読まないは17名(19.1%)、無回答2名(2.2%)であった。なお、本研究では対象者が日本語版・ポルトガル語版のいずれの育児雑誌・育児書を利用していたのかを確認していない。

5. 事故防止に関する認識・行動

事故防止に関する認識(以下、認識)における認識群は、4項目中3項目が95%以上であった(表3)。「子どもには危険から身を守る方法を教える必要がある」が88名(98.9%)、「子どもを事故から守るのは親の責任である」は87名(97.8%)、「子どもは未熟なので事故を起こしやすい」は85名(95.5%)であったが、「子どもの事故は親が気をつけても予防しきれない」の認識群は74名(83.1%)であった。

事故防止に関する行動(以下、行動)の実行群は、11項目中7項目が90%以上であった(表4)。特に、「子どもと歩く時には手をつなぎ車道と反対側を歩かせるようにしている」と「子どもに危険なもの・場所・身を守るためのルールを教えている」の実行群は共に88名(98.9%)であった。一方、実行群が80%未満の項目は、「子どもが階段に入れないように上下に柵を設置している」41名(46.1%)、「ベッドやソファ等に寝かせた時転落しないように柵やクッションでガードしている」56名(62.9%)、「風呂場に必ず施錠し浴槽に残し湯をしないようにしている」62名(69.7%)、「ドアと壁の隙間に子どもが指をはさまないように対策している」71名(79.8%)の4項目であった。これらの4項目は実行群90%以上の項目より無回答が多かった。

表3 ブラジル人の母親における子どもの事故防止に関する認識(n=89)

表4 ブラジル人の母親における子どもの事故防止に関する行動(n=89)

Ⅴ. 考察

1. 母親における子どもの事故防止情報の入手先と情報源の認知度

在留ブラジル人の母親における子どもの事故防止情報の主な入手先は、育児情報と同様に、家族やブラジル人の友達・知人であった。坂本他(2017)は、ブラジル人の母親は日本での滞在歴が長くなっても日本語が苦手なものが多く、子育てに関する情報源は比較的身内に限られていたと報告している。本研究では、対象者の在留期間は12.0 ± 7.8年であったが、使用言語は「母国語と少しの日本語」84.1%、「母国語のみ」13.6%であったことから、坂本らが言う「日本での滞在歴が長くなっても日本語が苦手な母親」であったといえる。家族やブラジル人の友人・知人であれば、母国語でのコミュニケーションが可能である。情報入手が次に多かった広報誌(50.6%)は、A県内のブラジル人居住者の多い地域ではポルトガル語版の広報誌が提供されていることから、広報誌も母国語でアクセス可能な情報源である。SNS(39.3%)が多かった理由も、母国語でのアクセスのしやすさが共通している。以上より、母親たちに情報提供する上では、母国語でのアクセスのしやすさが重要であることが明らかになった。

母親は主に家族やブラジル人の知人・友人から育児や子どもの事故防止情報を入手していることが明らかになったが、事故防止情報と一般的育児情報の情報入手割合を比較すると、家族からの情報入手は65.2%と86.5%、ブラジル人の知人・友人から情報入手は58.4%と70.8%のように、事故防止情報の入手割合のほうが低い一方で、広報誌からの情報入手は50.6%と37.1%、SNSでは39.3%と33.7%のように事故防止情報の入手割合の方が高く、事故防止情報と一般的な育児情報では情報入手先に若干の違いがあることが明らかになった。

事故防止情報源の認知度では「インターネット上の事故防止に関するWebサイトを見たことがある」が58.4%であった。一方で、「母子健康手帳(以下、母子手帳)の事故防止ページを読んだことがある」のは22.7%、知らないが63.6%であった。本研究では対象者が日本語版・ポルトガル語版のどちらを使用していたかを確認していないが、翻訳版の母子手帳には日本語版にある事故防止に関する付録が含まれないことが影響した可能性がある。

現在は、インターネットやSNS等の通信手段が普及し、ブラジル本国にいる家族や友達などから子どもの事故に関する情報を入手することも容易であり、日本で子育てする母親が母国ブラジルから情報を入手することも可能である。ブラジルで唯一あらゆる種類の事故から子どもと青年を救うために活動している非政府、非営利団体であるCriança Segura は、5大陸33か国に存在する、子ども時代の事故を防止するための最初で唯一のグローバルネットワークSafe Kids Worldwideの一部である。Criança Seguraのホームページ(Criança Segura Brasil.,2021)にあるEntenda os Acidentes(事故を理解する)やAprenda a Prevenir(予防する方法を学ぶ)には、日本語が苦手な母親でもアクセスしやすい事故防止情報が多く掲載されている。Criança Seguraのホームページ(Criança Segura Brasil.,2021) に掲載されたデータを見ると、ブラジルでも日本でも子どもに多発する事故の種類は共通している。例えば、0歳児の事故による死亡では窒息、交通事故、転倒・転落、1~4歳児では溺水・溺死、交通事故、窒息、火傷、中毒などが挙がっている。母国語の情報であれば母親にとって理解しやすいことから、Criança Seguraのような事故防止に関するポルトガル語のWebサイトを紹介することも一つの方法であると考える。

事故防止情報の入手先で、母親に関わる機会があり、情報提供が可能な保育園は37.1%、医療者は28.1%であった。日本人を対象とした研究ではあるが、事故防止情報を得る機会について「母親教室」「乳児健康診査」「赤ちゃん訪問」と回答した保護者はヒヤリハット経験が少なく、保健師と関わる機会が影響したと考えられるとしている(上野,2018)。保健師との関わりの中で具体的にどのような情報を提供されたことがヒヤリハット経験の少なさに繋がったのか、ブラジル人の母親の場合はどうような情報が事故防止につながるのかは確認されていない。しかし、小尾・松村(2018)は妊娠期から育児期にかけて在留外国人の母親が保健師から受けた支援について、育児期は母親の育児と母国の育児文化を認めながら指導してくれたなどの継続的支援が、在留外国人の母親に安心を与える効果をもたらしていたことが示唆されたと報告しており、情報からの孤立や孤独感に対して継続して相談を行うことの必要を示している。本研究では、医療者から情報入手と言っても、具体的に誰から、いつ、どのような内容の情報を、どのような形で得ているのかは確認しておらず、また、母親たちが医療職にどのような内容を期待しているのかも不明である。今後は、医療職がどのような情報を発信していけば良いのか、中でも看護職には何が求められているのかをさらに検討していく必要がある。

英語ではない多言語での外国人患者への対応に日本人医療者は苦慮していることが報告(久保他,2014)されており、ポルトガル語によるコミュニケーションが必要な母親への情報提供は、情報提供する側にとっても容易ではない。通訳者の活用、看護職への語学研修や看護教育での多文化・多言語教育の取り組み等が行われているが、日本語が苦手な母親にも理解しやすいように、災害に関する情報提供などで活用されている「やさしい日本語」(出入国在留管理庁・文化庁,2020)を事故防止情報の提供や予防教育においても利用することも一手段である。また、幼い子どもにも理解できる視聴覚教材や文字以外で情報を伝えるブラジル人向けの教育媒体を開発して、母子を対象とした予防教育を行うという方法もあると考える。

2. 子どもの外傷への対処経験

「子どもの外傷による受診経験あり」は35.2%であったが、消費者庁(2018)によると1〜3歳児をもつ日本人の母親の52.1%に1〜6回の受診経験があった。本研究の結果を見る限り、ブラジル人の母親の方が日本人の母親より外傷による受診経験が少ない。眞壁他(2019)による1歳6ヶ月児をもつ日本人の母親を対象とした調査では、家庭における事故経験ありは44.1%であったという。本研究では事故経験自体を質問していないが、在留ブラジル人の受診行動については、ブラジルに比べ日本の方が病気や外傷の際に通院しにくさを感じている母親が50%以上いたことが報告されている(坂本他,2017)ことから、子どもの外傷時に母親が必要な受診行動を適切にとることができているのかを確認していく必要がある。

3. 子どもの事故防止に関する母親の認識と行動

認識のうち、「子どもには危険から身を守る方法を教える必要がある」「子どもを事故から守るのは親の責任」「子どもは未熟なので事故を起こしやすい」の3項目は認識群が95%以上であったことから、母親の事故防止に関する意識は高いことが明らかになった。一方で、ごく少数ではあるが、非認識群の母親は、事故防止に関する知識や情報入手が不足している可能性があることから、安全教育や事故情報の提供が必要であると考える。

本研究の対象者は0~6歳の子どもをもつ母親で、その多くは幼児期の子どもをもつ母親であった。田中(2005)は、子どもの事故は発達と密接に関連しており、保護者が子どもの発達を正しく理解し、その時期に多い事故と今後の発達に伴い増加する事故について知り、適確に対応することにより大部分の事故は防止することが可能としている。しかし、実際には80%以上の母親が「子どもの事故は親が気をつけても予防しきれない」としていた。幼児期の子どもは、運動機能が発達することで活動範囲が拡大し、好奇心が旺盛になることや、集団生活を開始して母親と離れて過ごす時間ができることなどが、母親の「子どもの事故は親が気をつけても予防しきれない」という認識に影響した可能性があると考える。一方で、80%以上の母親が「子どもの事故は親が気をつけても予防しきれない」と認識しながらも、行動11項目中7項目については8割以上の母親が事故防止行動を実行していることも明らかになった。子どもを事故から守ろうとする行動を実行しながらも、母親の多くが、子どもの事故に関する不安や緊張感を抱えている可能性が読み取れる。また、97.8%の母親が「子どもを事故から守るのは親の責任」と認識していることから、万が一、事故が起きた際には親が自責の念を強く感じ、自分を責める可能性がある。実際に、本研究における母親の子どもの外傷への対処経験では、外傷の頻度が多い群が33.3%、外傷による受診経験ありは35.2%、外傷による救急搬送経験ありは1.1%であった。救急搬送の必要な重篤な状況には至っていないが、30%以上の母親が受診の必要な程度の子どもの外傷を体験していた。在留ブラジル人の母親が、子どもの事故による外傷の程度に関わらず、子どもが受傷した際にどのような支援を受けているかは明らかにされていないが、親への精神的支援も必要であると考えることから、この点についても明らかにしていく必要がある。

また、母親の98.9%が「子どもには危険から身を守る方法を教える必要がある」と認識し、行動でも「子どもに危険なもの・場所・身を守るためのルールを教えている」と回答していたことから、母親の安全教育に関する意識は高く、安全教育を実行していることも明らかになった。今後、どのような年齢の子どもにどのようなことを教えているのかを調査する必要がある。

さらに、「子どもが階段に入れないように上下に柵を設置している」の実行群は46.1%で最も低値であった。この項目は対象者全体の非実行群が21.3%、無回答が32.6%であった。結果には居住環境が影響した可能性が考えられる。同様に「ベッドやソファから転落しないように柵やクッションでガードしている」「風呂場に必ず施錠し浴槽に残し湯をしないようにしている」も無回答がそれぞれ10.0%、9.0%であった、ベッドを使用していない、浴槽に湯を溜めないなどの生活習慣が影響した可能性が考えられる。今後、居住環境や生活習慣の影響を考慮に入れた調査が必要である。

Ⅵ. 本研究の限界と今後の課題

本研究の対象者は、1県内で子育てする一部の母親に限定されていることから、結果の一般化には限界がある。また、子どもの事故防止に関する母親の行動については、本人の認識に基づく自己申告のため、行動の実態と一致していない可能性も否定できないことから、行動観察による調査による検証が必要である。さらに、年齢による事故の起こりやすさ・起こりにくさやブラジル人の生活習慣が結果に影響した可能性も考えられる。これらが本研究の限界である。他にも情報収集の仕方等に関する課題が残されたことや、考察に示した多くの課題が明らかになったことから、母親はどのような年齢の子どもにどのようなことを教えているのか、対象者の居住環境や生活習慣の影響を考慮に入れた調査などについて、今後も調査する必要があると考える。

Ⅶ. 結論

在留ブラジル人の母親は、事故防止に関する情報を主に家族やブラジル人の友達・知人から入手していた。また、広報誌、SNSのような母国語でアクセスしやすい情報源からも入手していたことから、母親への情報提供では母国語でのアクセスのしやすさが重要であることが明らかになった。

事故防止に関するWebサイトの情報は約6割の母親が認知していた。しかし、母子健康手帳や育児雑誌・育児書の情報の認知は約2割であったことから、紙媒体よりオンラインによる情報提供の方が有効であることが示唆された。

在留ブラジル人の母親の事故防止に関する認識として、9割以上の母親が、子どもを事故から守るのは親の責任、子どもには危険から身を守る方法を教える必要がある、子どもは未熟なので事故を起こしやすいと考え、8 割以上の母親は子どもの事故は親が気をつけても予防しきれないと考えていることが明らかになった。ごく少数の母親については、知識や情報入手の不足が考えられ、安全教育や情報提供の必要性が示唆された。

在留ブラジル人の母親は子どもの事故は親が気をつけても予防しきれないと考える一方で、9割以上の母親は11項目中7項目の行動を実行していた。残りの4項目「階段に入れないように上下に柵を設置している」「ベッドやソファ等に寝かせた時転落しないように柵やクッションでガードしている」「風呂場に必ず施錠し浴槽に残し湯をしないようにしている」「ドアと壁の隙間に子どもが指をはさまないように対策している」は実行群が8割未満であった。この4項目は無回答も多く、居住環境や生活習慣が結果に影響した可能性が考えられ、再調査が必要と考える。

謝辞

本研究結果は、日本小児看護学会第29回学術集会(2019年8月)において発表した。尚、2016(平成28)年度科研費(課題番号:16K12160、研究代表者:柴邦代)による助成研究の一部である。

COI

本研究について、筆頭著者および共著者には、報告すべき利益相反に関する開示事項はない。

引用文献
 
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