Reproductive Immunology and Biology
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Review Article
Future directions of investigation on gamete and gonadal immunology in the male
Masahiro Itoh
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2017 Volume 32 Pages 1-6

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Summary

This review addresses the testicular autoimmunity that could be one of the causes of idiopathic male infertility. In human male infertility of immunologic origin, the level of anti-sperm antibodies is a well-known parameter. However, detection of the autoantibodies on sera and/or semen is not sufficient to diagnose testicular autoimmunity. The characteristic features of testicular autoimmunity include the detection of inflammatory cell infiltration into the testis(=orchitis), spermatogenic disturbance, T cell responses against target testicular autoantigens, serum autoantibodies against the target antigens, and binding of the autoantibodies to the target antigen-bearing cells inside the testis. Recently, there is increasing evidence that the spermatogenic disturbance of autoimmune origin may be an etiological factor in male reproductive failure, perhaps even more often than expected. However, it is very difficult to estimate the incidence of testicular autoimmunity in men, as most male patients first realize they are infertile when they start trying to conceive a child, and there is a possibility that their testes may already exhibit the end stage of testicular autoimmunity, in which lymphocytic inflammation and immunoglobulin deposition in their testes subsided long ago and only the spermatogenic disturbance such as maturation arrest and Sertoli cell only syndrome remains. On the basis of gradually increasing clinical data, investigation using experimental models of testicular autoimmunity is quite helpful to estimate physiopathology and epidemiology of the spermatogenic disturbance of autoimmune origin. From various results from experimental animals, it appears that although the testis is regarded as an immunologically privileged organ and resistant to inflammation, it is also immunologically fragile and highly susceptible to autoimmune inflammation. In the present review, the author will present future subjects in the field of male reproductive immunology.

はじめに

ヒト精子形成障害は、ほとんど無症状のまま進行し、挙児を希望する初診時には病状が完成していることが多く、その原因の特定は極めて困難である。これまでに、男性不妊患者における「精巣抗原に対する自己免疫現象」の関与が指摘された症例報告は多くはない。しかし、その関与により精子形成障害に至った患者は、実際には、決して少なくないことが徐々に明らかになりつつある[1]。本総説では、基礎医学的に、または、臨床医学的に今後研究されるべき免疫学的男性不妊症の課題を提示したい。

自己免疫性精子形成障害とは

精巣内の生殖細胞は、精祖細胞(精原細胞)→精母細胞→精子細胞→精子の一連の細胞群からなるが、免疫寛容が成立する胎児期~幼児期よりはるかに遅れて思春期以降に減数分裂を経て現れる精子細胞と精子は、精祖細胞や精母細胞とは全く「別物」の半数体細胞として、「強い自己免疫源性をもつ新たな抗原」を有するようになる。このことは、精子細胞・精子に特有な抗原に対してneonatal toleranceが誘導されておらず、それら抗原が「自己でありながらも非自己(新自己)」として免疫系に認識されてしまうことを意味している。正常下では、精子細胞・精子は主に精細管のSertoli cellsで構成される血液―精巣関門で守られているが、何らかの理由でその関門の破綻が起こると、関門外へと自己抗原が漏出し、それらに対しての自己免疫性炎症が惹起される[2-4]。実際に、実験動物において、同系の精子細胞・精子を皮下注射することにより簡単に自己免疫性精子形成障害を誘導することができ、精巣内へのリンパ球の浸潤や抗体・補体の沈着が起こる(Table 1)。また、実験動物の片側精巣に外傷を加えただけで反対側の自己免疫性精子形成障害を誘導することもできる(Table 1)。どちらも、疾患を有している動物のCD4+T cellsの養子移入で疾患をrecipientsに発症できることから細胞性免疫主体の疾患といえるが、病変の形成には液性免疫も関与していることが分かっている[1]。一方、別の実験系で、effector T cellsとTreg cellsの両者のbalanceの失調を実験動物で誘導すると、人為的に精子細胞・精子の免疫系への曝露(感作)を行わなくとも、自己免疫性精子形成障害が多臓器の自己免疫疾患とともに発症する(Table 1)。

Table 1

精巣の生検において、リンパ球浸潤および抗体や補体の沈着を伴う精子形成障害が認められ、さらに精巣抗原に対する自己免疫反応(細胞性免疫と液性免疫)が血清・血球検査にて検出されれば自己免疫性精子形成障害と診断できるが、実際には、その診断は極めて困難である。疾患の活動期には上記所見が認められても、終末期にはリンパ球浸潤は既に消褪し精子形成障害像だけを呈していることが臨床的に多いからである。実験的自己免疫性精子形成障害モデルの終末像においても、リンパ球浸潤はほとんど消え去り、maturation arrest(生殖細胞の成熟障害)、Sertoli cell only syndrome(生殖細胞の欠失)および精細管基底膜の肥厚の残存を呈することがわかっている。

原因が明らかでない男性不妊症を「特発性男性不妊症」と呼ぶが、そのほとんどがmaturation arrest、Sertoli cell only syndrome、精細管基底膜肥厚を伴う精子形成障害像を示す。この特発性男性不妊症のどのくらいの割合が自己免疫性のものであるかということは未だ明らかではない。

今後の研究が期待される課題

1)ヒト自己免疫性精子形成障害の疫学調査

臨床医学的には、まず正確な診断が重要である。しかし、男性不妊患者は、精巣生検を受ける時点で、精子形成障害像が既に非可逆的に完成していることが多く、リンパ球浸潤や抗体の沈着を検出することは困難と推測される。ヒトまたは実験動物に共通の組織学的知見として、精巣縦隔、すなわち直精細管と精巣網の周囲間質(曲精細管の終末部から精巣上体管へとつながる精巣輸出管の起始部までの領域)が最もリンパ球浸潤を受けやすいことがわかっているが、この部位の生検は、その後の精子通過障害を引き起こす危険性が高く、避けなければならない[1]。よって、精巣内リンパ球浸潤が消褪して精子形成障害像のみが残存する終末期になる前に検出できる非侵襲的な検査方法の開発と実施が求められている。従来の血清および精液中の抗精子抗体(液性免疫能)や各種cytokinesの検出検査に加えて、精子抗原に対する細胞性免疫能の検出および精巣外から非侵襲的に組織レベルで描出できる画像検査法の開発などが待たれる。もしも、思春期以降の男子にルーチン検査としてこれらを実施することが可能となれば、より正確な診断、疫学的解析および早期の治療が、将来的に可能となるであろう。

2)自己免疫性精子形成障害start機構

従来は抗精子抗体の精細管内への流入が疾患のstart機序と推察されていたが、現在では否定的である。その機序の理解には、精巣内で標的となる自己抗原とそれに特異的なeffector T cells(Th1/Th17)とのencounterがどのように起こるのかを突き止めることが肝要である。精子細胞・精子の精巣外での感作(皮下注射)や実験的免疫失調により活性化された精巣特異的effector T cellsが、精巣内に浸潤し始める時期に、精細管内に潜り込んで直接的に精子細胞・精子にaccess(contact)するような像は認められない。リンパ球浸潤は精巣間質が主であり、精細管内に浸潤しないままに、間質炎が精子形成障害を誘導する像が観察されている。そのことは、リンパ球がSertoli cellsで構成される血液―精巣関門の外側の間質において精子細胞・精子の自己抗原を認識できる微小環境が正常下に備わっていることを示唆し、その機序として、Sertoli cellsによる生殖細胞の貪食→貪食・分解された自己抗原の精細管外への一部漏出→精細管周囲間質に存在する多くのmacrophages/dendritic cellsによる漏出抗原の捕獲と抗原提示→抗原提示を受けたautoreactive lymphocytesの刺激が可能性として考えられる。さらに、精巣におけるリンパ球性間質炎由来の各種cytokines(IL-1,IL-6,IL-17,IFN-γ,TNF-αなど)が精細管内の生殖細胞の増殖・分化・死に対して抗原特異的でなく抗原非特異的に影響を与えている可能性が示唆されているが、詳細は未だ明らかになっていない。

3)自己免疫性精子形成障害の標的抗原の同定

過去のさまざまな研究により、自己免疫性精子形成障害には、精子細胞・精子のみならず、精祖細胞、精母細胞、Sertoli cells、Leydig cells、精細管基底膜の自己抗原に対する免疫反応も関わっている可能性が示唆されている[1-4]。実験的にも精巣とadjuvantsを人工的に混ぜて実験動物に免疫すると上記のすべての免疫反応の誘導が可能である。しかし、adjuvantsを用いずに精巣細胞のみで免疫した実験動物においては、精子細胞・精子抗原に対する自己免疫反応のみが誘導されて疾患へと至る。このadjuvantsを使用しない実験動物モデルの血清抗体を用いることによって候補抗原は現在かなり絞られてきており、種を超えた共通抗原も候補に挙げられている[5,6]。今までに抗精子抗体を誘導する抗原は数多く同定されてきたが、細胞性免疫によって精子形成障害が惹起される自己抗原の詳細は未だ明らかになっていない[7]。本疾患の原因となる自己抗原の最終的な同定には、その候補抗原に対するT cell cloneを樹立し、その養子移入実験によって疾患がrecipientsに誘導されることを確認する必要がある[1]。もしも、自己抗原が同定できれば、それを用いたリンパ球刺激試験によるリンパ球増殖、白血球遊走阻止および各種cytokines分泌などの検査法の確立が可能となる。

4)自己免疫性精子形成障害の疾患感受性

自己免疫性精子形成障害への高感受性は、自己抗原に対する免疫反応の強さおよび標的となる精巣組織のimmune privilege環境の脆弱さの両者が関与するが、影響の強さは前者が主と考えられている。様々な純系マウスを用いた実験的自己免疫性精子形成障害モデルの研究により、疾患感受性の制御はMHC-linked genesとnon-MHC-linked genesによるpolygenicなものであることがわかっている[2-4]。疾患抵抗性(低感受性)のメカニズムの理解は未だ混沌としているが、抵抗性動物では、精巣特異的Treg cellsが備わっていることが大きな役割を果たしているようである。精子細胞・精子抗原の精細管外への生理的漏出の可能性について前述したが、これが疾患抵抗性の動物においては抗原特異的Treg cellsを誘導していることに役立っているのかもしれない。実際に、正常下でも、血清中に抗精子および抗精子細胞(自然)抗体が検出されるため、精巣抗原に対するnatural autoimmunityあるいはphysiological autoimmunityが働いている可能性が指摘されている[1]。これにより、漏出自己抗原のautoclearanceやautoreactive lymphocytesへの刺激が生理的に行われていることが推察されるが、詳細は不明である。人為的な精巣抗原への曝露の様式(少量曝露、大量曝露、急性曝露、慢性曝露など)により、autoreactive lymphocytesのpopulationは、effectorに傾いたり、regulatoryに傾いたりする。このinduced-Treg cellsを用いることによって、自己免疫性精子形成障害の予防や早期の治療への応用の可能性が拡がる[1]

5)環境毒性物質の自己免疫性精子形成障害への 影響

近年、特に先進諸国において、時代とともに精液中精子数が漸減しているといわれている。その理由は明らかではないが、社会的なストレスや様々な環境毒性物質への曝露による生殖機能の抑制などが推測されている。実際に、環境毒性物質の精巣細胞への直接的影響を調べた研究は多いが、それが免疫学的に精巣に対してどのような影響を及ぼしているかという問題はこれからの課題である。精巣は、ある意味、自身を免疫学的に破壊してしまう強力な爆弾(精子細胞・精子という異物)を宿している器官といえる。生殖系や免疫系を取り巻く環境の変化次第で、爆発してしまう危険性は十分に考えられる。既に重金属であるカドミウムやプラスチック合成剤であるフタル酸への曝露が実験的自己免疫性精子形成障害の発症率および感受性を高めることが明らかとなっている[1]。環境毒性物質が、①血液―精巣関門を破綻せしめる、②adjuvant作用を発揮する、または、③Treg cellsの機能低下を誘導するなどのメカニズムが考えられる。今後、様々な重金属、農薬、殺虫剤、大気・土壌・水質汚染物質などの慢性曝露による精巣免疫疾患発症への影響などの研究が待たれる。また、ニコチンやアルコールおよび放射線などの精巣免疫への影響の研究も今後の課題である。

6)細胞、組織、器官レベルでの精巣移植の試み

精巣が持つimmune privilegeおよびimmune fragilityの両面性や両者のbalanceを解析するうえで、自己免疫性精子形成障害モデルは有用であった。また、それとは別に、精巣の細胞、組織、器官を移植し、それらがrecipientsにおいてどのように生着するのかあるいは拒絶されるのかという研究も精巣の免疫学的両面性を解析する一助になると考えられる。拒絶される場合は精巣組織へのリンパ球の浸潤や精子形成障害が起こると考えられ、自己免疫性精子形成障害モデル様の組織反応を観察できることができるであろう。実際に、異系または異種の精祖細胞を免疫正常動物の精細管内へ移植することによる異系または異種精子形成の誘導の成功が報告されている[6]。これは、精巣のimmune privilegeを示唆するものであろう。また、Sertoli cellsやLeydig cellsの精巣内への移植の試みもされているが、それらの免疫学的な解析は未だなされていない。組織レベルでは、異種精巣組織の免疫不全動物への移植による異種精子形成の誘導の成功の報告はあるが、免疫正常動物への移植の試みの報告はまだない。さらに、精巣―精巣輸出管―精巣上体―精管とその栄養血管をセットで行う器官レベルの移植の試みは、その移植技術の難しさから、今までごく少数の報告に止まっていたが、最近、従来よりも簡易な器官移植方法が開発され、今後の免疫学的な解析が期待されるところである[8]

7)新たな自己免疫性精子形成障害モデルの開発 の試み

Table 1に今までの実験的自己免疫性精子形成障害モデルの種類をまとめた。これらに加えて、臨床的モデルではないが、全く別の発想で疾患を誘導する試みは、基礎医学的に精巣の免疫環境を解析するために有用と考えられる。たとえば、♂recipientに♀リンパ球、思春期前♂リンパ球、または新生児期に去勢した♂リンパ球をdonor細胞として養子移入したらどうなるのであろうか? Donor細胞にとって、精子細胞・精子は完全にforeignであり、免疫学的に標的となる可能性は高いと考えられる。また、逆に、同系の♀recipientに精巣移植を試みたら何が起こるのだろうか? さらに、autoimmune/autoinflammatory syndrome induced by adjuvants(ASIA)により精子形成障害が誘導されることはないのであろうか?実際に、結核死菌を含んだcomplete Freund’s adjuvantや百日咳死菌を実験動物に注射すると、Th2よりもTh1側に免疫反応が傾く、血液―精巣関門が軽度破壊される、免疫抑制的に働くテストステロン分泌が減少する、精巣内macrophages/dendritic cellsによるMHC class II antigens表現が増強される、抗精巣細胞抗体が産生される、あるいは、精巣細胞特異的killer T cellsが誘導されるなどの現象が個々に報告されている。よって、これらadjuvantsを適量かつ適当な間隔で反復刺激(遷延感作)する方法によって、精巣抗原を用いなくとも、自己免疫性精子形成障害を誘導できる可能性もある [1]

さいごに

生殖免疫学の分野で男性生殖器を専門的に取り組んでいる研究者は世界的に決して多くはない。♂生殖細胞の増殖・分化・死のcell biologyには多くの研究者が関わっているが、それら細胞への自己免疫反応に焦点を当てて取り組んでいる研究者はminor populationに属す。精巣は、血液―精巣関門により免疫学的に保護されている器官、すなわち、脳や網膜と並んでimmunologically privileged organであるとされる一方、実験的にadjuvantsを用いずとも自己免疫性精子形成障害を容易に惹起できることより、免疫学的に脆い器官、すなわちimmunologically fragile organあるいはautoimmunity-susceptible organ であるともいえる。この両面性は、biologicalに深い現象といえる[1]。本総説に触れて、♂生殖細胞の増殖・分化・死が免疫学的にどのように監視されながら展開されているのかという研究に、ひとりでも多くの研究者に興味をもっていただけたらと願う。

謝 辞

本学会の創設期よりgamete and gonadal immunologyをリードし、われわれ後進を温かくご指導いただいた故磯島晋三先生(兵庫医科大学)、故北条憲二先生(香川医科大学)、そして故香山浩二先生(兵庫医科大学)に心よりの謝意を表します。

文 献
 
© 2017 Japan Society for Immunology of Reproduction
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