要 旨
近年、生殖免疫において自然免疫の重要性が指摘されている。その中で、強力な抗原提示能とサイトカイン産生能を有する樹状細胞(dendritic cells:
DCs)や、数は少ないながらも異物に対して迅速且つ大量のサイトカイン、細胞障害性因子を放出するinvariant natural killer
T(iNKT)細胞は、流早産発症と深く関与している。本稿では、マウス、ヒト両面から、これら自然免疫担当細胞の役割や炎症を惹起する抗原について考察し、新しい流早産発症メカニズムについての知見を述べる。
1.生殖免疫における自然免疫の役割
近年多様な抗原種に対して迅速に反応する自然免疫の重要性が、生殖免疫領域において注目されている[1]。自然免疫担当細胞の一つである樹状細胞(dendritic cells:
DCs)は強い抗原提示能のみならず様々なサイトカイン群を産生し、免疫の指揮者的役割を担う。これまでの報告では、DCsは着床期や妊娠初期に重要な働きを担う可能性や[2,3]、母児間免疫寛容の構築に重要であること[4,5]、DCs亜分画のアンバランスはマウス流産を引き起こす[6]、など広く研究対象となりつつある。一方、遺伝子再構成を伴わないTCRを有し(invariant
TCR)、抗原特異性が低いT細胞の亜群であるinvariant natural killer
T(iNKT)細胞は、多様な抗原を補足したDCs上のCD1d分子やIL-12を介して活性化され、迅速に且つ大量のサイトカイン、細胞障害性物質を放出し、炎症起点に重要な細胞群である。本稿ではDCs、iNKT細胞を中心とした流早産発症メカニズムについての我々の結果を示すとともに、自然免疫と流早産発症についての最近の知見を紹介する。なお本稿ではiNKT細胞はブロードな抗原に即時的に反応するという観点から、自然免疫担当細胞として取り扱う。
2.DCs、iNKT細胞と妊娠
〈α-GCを用いたマウス流産モデル〉
糖脂質の一つであるα-GC(α-galactosylceramide)
はiNKT細胞の活性化剤として様々な研究で用いられている。いくつかの研究グループでα-GCを用いた妊娠マウス流早産モデルの解析が行われているが[7-9]、我々もこのα-GCを用いて、無菌性炎症に起因するマウス流産モデルの研究を進めている。α-GCを妊娠7.5日のマウス(B6
x B6)に腹腔内投与すると有為な流産が誘導されるが、我々はその際活性化したNK1.1+
iNKT細胞、さらにDEC-205+ DCsが子宮筋層に有為に集積する事を見いだした[10]。マウス、ヒト両者においてDCsには様々な亜群の存在が指摘されているが、AroraらはDCs亜群の一つであるDEC-205+
DCsがα-GCを補足しiNKT細胞に抗原提示し得る事を示しており[11]、α-GC投与妊娠マウスにおいて局所にNK1.1+
iNKT細胞、DEC-205+
DCsが集積するという上記の我々の結果を指示する。さらに興味深いことに、これまでα-GCはiNKT細胞の活性化剤として知られていたが、これは同時にDEC-205+
DCs上のCD80、CD86の共刺激因子も発現増強させ[10,12]、α-GCはiNKT細胞のみならずDCsの活性化にも関与する事が示唆された。
以上により、α-GC投与マウス流産ではDEC-205+ DCsやNK1.1+
iNKT細胞が重要な役割を担う可能性が示唆されたが、次にこれら細胞群の集積や活性化が流産の原因なのか、または単に結果なのかを検証するため、DEC-205+
DCs、NK1.1+
iNKT細胞の養子免疫実験を行った。非妊娠マウス骨髄細胞からGM-CSF、IL-4添加のもと、α-GCとの共培養下で骨髄誘導性樹状細胞(bone marrow
derived DCs: BMDCs)を作り、これらを磁気ビーズ法により各DCs亜群(DEC-205+
DCs、DCIR2+ DCs)に分け、それぞれを妊娠7.5日のマウス(B6 x B6)に養子免疫した。その結果、α-GC
と共培養したDEC-205+ BMDCs投与で有為な流産が誘導され(Fig.
1)、その際脱落膜、子宮筋層にIFN-γ、IL-4、パーフォリン、グランザイムBの産生が亢進したiNKT細胞の集積を認めた(Fig. 2)[13]。一般にDEC-205+
DCsはTh1傾向を、一方DCIR2+
DCsはTh2傾向を有するDCs亜群とされているが、興味深いことにDEC-205+ BMDCsはDCIR2+
BMDCsに比してα-GCを有為にCD1d分子上に提示し、さらに子宮筋層、脱落膜へのmigrationが優位である事が見いだされた。次にNK1.1+
iNKT細胞が直接マウス流産を引き起こすかを検討するため、非妊娠マウス脾臓から分離したNK1.1+
iNKT細胞を、iNKT欠損マウスであるJα18-/-マウスにα-GC腹腔内投与とともに養子免疫したところ、ここでも有為な流産が誘導された(Fig. 3)[13]。これらの結果より、DEC-205+
DCsやNK1.1+
iNKT細胞は直接マウス流産を引き起こすことが示された。以上より、糖脂質α-GCによって引き起こされるマウス流産は、活性化したDEC-205+
DCsが胚局所にmigration、その細胞表面上のCD1dを介してα-GCが提示され、NK1.1+
iNKT細胞の活性化を誘導しIFN-γ、IL-4、パーフォリン、グランザイムBの産生亢進、マウス流産を引き起こすというメカニズムが明らかになった。

図 1

図 2

図 3
〈ヒト早産と自然免疫〉
絨毛膜羊膜炎(chorioamnionitis:
CAM)はヒト妊娠において早産発症の主要な要因と考えられている。しかしながら、近年このCAMを有さない早産事例が少なからず存在することが指摘されており、これらの事例は原因不明に分類せざるを得ない。特に妊娠週数が経るにつれ早産事例におけるCAMの割合は減少し、妊娠34週以降で早産に至る後期早産ではCAMの存在は20%以下であるとの報告もある[14]。我々は、このCAMを有さない早産のメカニズムを検討するため、後期早産で分娩に至った胎盤脱落膜の細胞解析を行ったところ、DEC-205+
DCsの集積と共にCAM陽性症例に比してCAM陰性症例ではiNKT細胞の有為な集積を認めた[15]。現在我々は早期~中期早産の胎盤でも解析を行っており、同様の所見を得ている。さらに、iNKT細胞への脂質抗原提示分子であるCD1dの発現は、DCsだけでなくマクロファージにも多く、DCsのみならずマクロファージも早産発症に関与している可能性がある。以上の結果は、CAMを有さないヒト早産において、DCsやiNKT細胞を中心とする自然免疫の関与を示唆する。早産におけるiNKT細胞の関与は他の研究グループでも報告されつつあり[8,16]、今後症例、報告の蓄積が期待される。
これまでCAMは、病理学的に組織への好中球浸潤をその指標として来た。しかしながら近年、リンパ球や単球の浸潤を考慮したchronic CAM
(cCAM)の重要性が指摘されており、これまでのCAMはacute CAM(aCAM)として区別すべきとの意見がある[17,18]。すなわちこれまでCAM陰性であった症例の中に、cCAMが内包している可能性があり、今後病理医との連携、コンセンサス構築も重要と思われる。現在我々はcCAMとDCsやiNKT細胞、NK細胞に起因する早産との相関を検索している。
3.自然免疫を制御するリガンド
以上の検討により、DCsやiNKT細胞を初めとする自然免疫はマウスのみならずヒトでも重要な働きを担う可能性が示された。本研究の動物実験で使用しているα-GCは海洋生物である海綿から抽出した糖脂質であり、マウス、ヒトには存在しない。このような物質で誘導されたマウス流産は一見特殊な流産モデルに思われる。しかしながら、近年、生体内の内因性、外因性物質、病原微生物の菌体成分や代謝物質として様々な糖脂質が見いだされており、iNKT細胞のリガンドに成り得ることが報告されている[19]。さらに近年、糖脂質β-glucosylceramide(GluCer)がミンクルというレセプターを介してDCs等の抗原提示細胞を活性化し得る事が報告された[20]。これらの知見は、自然界や生体内においてDCs、iNKT細胞を活性化し得る糖脂質抗原がかなりの割合で存在する事を意味し、これらが流早産の要因に成り得る可能性を示唆する。当初我々は無菌性炎症に起因するマウス流産モデルとしてα-GCを用いたが、近年のこれらの知見により、α-GC投与は内因性抗原だけでなく感染、また感染による二次的産物も含めた自然免疫が関与したマウス流早産モデルとして有用ではないかと考えている。近年α-GC投与によって誘導されたマウス早産は、ペルオキシゾーム増殖因子活性化レセプターγ(PPARγ:
Peroxisome Proliferator-Activated Receptorγ)のアゴニストであるロシグリタゾン投与により改善[8]、さらに当帰芍薬散経口投与マウスではα-GC投与による流産率を改善させるとの報告もある[21]。さらに広く自然界や食物、漢方薬などの薬剤に含まれる脂質、糖脂質、テルペノイド、サポニン、グリチルリチンは特にDCsを活性化、または抑制する効果が指摘されている。これらの知見は“自然免疫系制御による流早産予防”という新しい治療概念を構築する可能性がある。
4.新しい流早産発症メカニズム
これまで、マウス、ヒト流早産においてDCs、iNKT細胞の関与を解析してきた。iNKT細胞は、抗原刺激に対して迅速かつ大量のサイトカイン、細胞障害性因子を産生することから、現在我々はiNKT細胞は流早産発症の要因だけでなく、胎盤における炎症開始の“トリガー”としての役割も担うのではないかと考えている。何らかの抗原を感知した抗原提示細胞はiNKT細胞を活性化させ、様々なサイトカイン、細胞障害性物質を産生する。これにより胎盤局所の組織、細胞障害が引き起こされ内因性抗原が放出、これらを再び抗原提示細胞が認識、活性化を受けIL-12などの炎症性サイトカイン産生亢進、NK細胞、T細胞、好中球を含めたさらなる炎症の増悪を引き起こす可能性がある(Fig.
4)。これら炎症の発端になる抗原は現在不明であるが、アラーミン、damage-associated molecular
patterns(DAMPs)と呼ばれる内因性抗原や、PAMPs(pathogen-associated molecular
patterns)と呼ばれる病原微生物由来の抗原がその反応起点となり、DCsやマクロファージ上のパターン認識受容体(pattern recognition
receptors: PRRs)と反応し炎症を惹起するのではないかと考えている。代表的なアラーミンであるhigh-mobility group box
1(HMGB1)は細胞障害により放出される内因性抗原であり、代謝産物である尿酸、胎児成分であるcell-free fetal
DNAもその候補であり、これら抗原が流早産を含めた妊娠合併症と深い関わり合いがある可能性も報告されている[22]。このように、自然免疫系やこれを発動する内因性、外因性のリガンドが、これまで原因不明に分類されていた流早産発症に関与しているかもしれない。

図 4
5.まとめ
DCsやiNKT細胞を始めとする自然免疫の検索は、流早産発症の新しいメカニズムを構築し得る可能性があり、さらにこれら自然免疫細胞の制御が可能になれば流早産新規治療法の足がかりとなる。
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