Reproductive Immunology and Biology
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The role of autophagy for protein aggregation in preeclampsia
Akitoshi NakashimaTae KusabirakiAiko AokiTomoko ShimaAzusa SameshimaSatoshi YonedaShi-Bin ChengOsamu YoshinoMasahito IkawaTamotsu YoshimoriSurendra SharmaShigeru Saito
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2018 Volume 33 Pages 18-25

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要 旨

妊娠高血圧腎症(Preeclampsia, 以下PE)はPlacenta-mediated pregnancy complications(胎盤関連妊娠合併症)の一つであり、その他に子宮内胎児発育遅延(Fetal growth restriction、以下FGR)、死産、常位胎盤早期剝離などが含まれる。つまり、重篤な周産期合併症の多くは胎盤形成と密接に関係していることを意味している。これまで、PEの病態形成として2ステップセオリーが提唱され、第一ステップとしての胎盤形成不全、第二ステップとしての血管内皮障害が起こるとされてきた[1]。これまで我々は、細胞自身がもつオートファジー(自食作用)という機構に注目し、EVT機能(浸潤および血管リモデリング)抑制がオートファジー抑制に関与することを明らかにしてきた[2]。さらに、近年、胎盤特異的Atg7欠損マウスを作成し、そのマウスでは胎盤形成不全及び母獣血圧の上昇を認めることも報告した[3]。一方で同マウスは、蛋白尿および胎児発育不全を合併しないことも明らかとなった。つまり、胎盤におけるオートファジー抑制はPEの第一ステップと強く関与し、第二ステップには寄与しないことも分かってきた。加えて、神経変性疾患にみられる凝集蛋白蓄積は、オートファジー抑制を介してPE胎盤の病態形成にも関与することが示唆されている。そこで、PEにおけるオートファジーと凝集蛋白蓄積について、本編で概説する。

1.緒言

妊娠高血圧腎症(PE)は、母体及び胎児の生命を脅かす重篤な妊娠合併症であるが、現在のところ分娩のみが有効な治療手段である。PEは“学説の疾患”と言われるほど、さまざまな仮説が提唱されているが、その中でも2段階仮説が中心であろう[1]。その仮説では、第一段階において胎盤低形成が起こり、第二段階において抗血管新生阻害因子の増加により、全身性の内皮傷害が起こり、その結果、胎盤機能低下・母体血圧上昇・蛋白尿などが発現し、胎児発育不全(fetal growth restriction 以下FGR)などが出現する、と考えられている。ここに炎症やホルモンに関連した液性因子を含む制御が関与し、病態悪化に関わる。抗血管新生阻害因子とは、可溶型Flt-1(soluble Fms-like tyrosine kinase-1 以下sFlt1)および可溶型エンドグリン(soluble Endoglin 以下sEng)であり、それら抗血管新生阻害因子投与によりマウスやラットにPE様症状を誘導できることが知られている[4,5]。また、PEに進展していく妊婦ではsFlt1およびsEngがPE発症前に上昇することも分かっている[6]。これら因子の除去は、重症PE妊婦の症状を軽減し、妊娠期間を延長することが分かっているが、未だ実臨床への応用はされていない[7]。そこで、現在はPE発症を予知し、その進展を阻害する予防医学的見地からのアスピリン内服治療がなされ、有効性が報告されている[8]。その有効性は、アジア地域の国々での国際試験でも検証されている。

本総説において、オートファジーのメカニズムを解説するとともに、これまで第一段階の原因として、免疫系異常・低酸素・酸化ストレス等が提唱されてきたが、その一つにオートファジー不全が関与することを紹介する。また、ヒトPE胎盤におけるオートファジーの役割を検討する中で、神経変性疾患等にみられる凝集蛋白蓄積がオートファジー抑制によってPE胎盤でも起こりうることも提唱する。

2.オートファジーの分子機構とノックアウトマウスの表現型

オートファジー(Autophagy)は、自己(Auto)を食べる(phage≒phagy)という意味であり、プロテアソーム系と並ぶ細胞内蛋白分解機能のひとつである。また、オートファジーは東京工業大学大隅良典栄誉教授によって解明された細胞内機構で、その研究成果により2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞されたことも記憶に新しい。細胞を構成するタンパク質などの高分子は、一定期間後細胞によって能動的に分解されており、合成と分解のバランスによって生命は維持されている。その中で、プロテアソーム系は短寿命タンパク質の選択的分解を担い、オートファジーは細胞構成成分など多くの長寿命タンパク質を非選択的に分解する機構として存在する普遍的な機構である。図1に示すように、飢餓や低酸素等の刺激が細胞に加わると、細胞質内に隔離膜が出現し、湾曲・伸長しながらミトコンドリアやペルキシソーム等のオルガネラを包み込む。隔離膜の末端同士が融合し直径約1μmの2重膜構造が完成し、それをオートファゴソームと呼ぶ。その後リソソームと融合することでオートリソソームとなり内容物を消化することで、タンパクを除去する[9]。オートファジーは、主に細胞飢餓によって活性化されるエネルギー産生機構および、細胞内のタンパク品質管理という2面性をもつことも知られている。それ以外にも、リソソーム膜の陥入によって細胞質内物質を取り込むミクロオートファジー(これに比し、通常のオートファジーはマクロオートファジーと呼ばれる)や、特定のモチーフを持つタンパクをHsc70およびLAMP2Aを介してリソソームに取り込むシャペロン介在性オートファジーなどがある。

図 1

オートファジーは発生・分化、発癌抑制、抗原提示、免疫応答、病原体排除、炎症反応抑制、心不全抑制、糖尿病抑制、プログラム細胞死など多彩な機能を有するが、その機構は大きく分けて、先に述べたように3つのステップに分かれる(図1)。各ステップに関与する因子を一部記載した。それらのノックアウトマウスの表現型は各ステップにおいて特徴があり、初期ステップの欠損は重篤な表現型を示す傾向にある(表1)[10]。これには2つの原因があると考えられ、1)後期ステップ程、他の因子が欠損因子を相補するとする可能性と、2)上流因子であるほどオートファジー経路以外への影響が出るため、と推測されている。他にもオートファジーと生殖への影響として、卵巣特異的BCLN1欠損によって、卵巣におけるプロゲステロン産生の低下により早産が引き起こされること[11]、オートファジー隔離膜の伸長に必須因子Atg5を受精卵においてノックアウトすると、胚盤胞への到達率が低下することも分かっており[12]、オートファジーはエネルギー産生などを介して、生命維持に寄与していることが明らかになっている。

表 1

3.胎盤特異的オートファジーノックアウトマウスとPE胎盤形成における役割

我々は、胎盤におけるオートファジー機能の解明を目指して、胎盤特異的Atg7欠損(cKO)マウスを大阪大学吉森保教授、伊川正人教授らとの共同研究で作成した[3]。Atg7遺伝子は、図1に示すようにオートフォゴソーム形成に関わる2経路を制御することが知られており、その欠損により胎盤におけるオートファジーが抑制されることが分かった。そして、それらcKO胎盤を移入された偽妊娠マウスは、コントロール胎盤(EGFPを発現させている)に比し、その母獣は妊娠後期に有意に血圧が上昇し、胎盤が有意に縮小することが明らかとなった(図2)。一方で、胎児重量及び母獣からは蛋白尿の増加は認めなかった。また、オートファジーの基質であるp62蛋白をオートファジー抑制マーカーとして免疫染色を行ったところ、マウス胎盤におけるSpongiotrophoblst層およびGiant trophoblastにp62が蓄積し、それらの部位がよりオートファジー抑制に晒されている可能性が示唆された。次に機能評価のため、ヒトEVT細胞のように、胎盤の最外層に存在するGiant trophoblastの子宮側への浸潤を評価したところ、浸潤細胞の低下および血管リモデリング不全が観察された。これは、我々がヒトEVT細胞においてオートファジー欠損させた細胞でみられた特徴と一致するものであり、PEの第一ステップである胎盤低形成に関連する胎盤病理学的特徴でもあった[2]。また、胎盤低形成のメカニズムとしてLabyrinth層およびSpongiotrophoblst層においてアポトーシス細胞が増加し、その結果胎盤低形成につながることが示唆された。最後に、分子メカニズムを明らかにすべく、PEの第二ステップに関連する因子(COMT、PlGF、sENG、sFlt1)の発現をcKOとコントロールで比較したが、抗血管新生阻害因子およびCOMTには発現変化は認めず、cKOにおいてPlGFのmRNAレベルが有意に低下していた。これらのことから、胎盤におけるオートファジー抑制は胎盤低形成に関与することが示唆されるが、PEの第二ステップには直接的関与が低いことが分かった(図3)。

図 2
図 3

4.ヒトPE胎盤にオートファジーの役割と凝集蛋白蓄積のメカニズム(仮説)

ここまで、我々はオートファジー抑制がPE発症に関わることを示した。一方で、他のグループからはPE胎盤ではオートファジーが活性化しているという報告もある[13,14] 。そこで、我々は胎盤特異的オートファジー欠損マウスを作成し、オートファジー抑制がPE発症の一因となり得ることを示した。加えて、その後の検討により同マウス胎盤において凝集蛋白が蓄積していることを示唆するデータが得られている(論文投稿中データ)。同様の現象は、これまでマウスを用いた神経細胞特異的Atg5欠損マウスの実験において証明されており、その結果、そのマウスは進行性の運動障害を起こし、神経変性疾患モデルとなる[15]。さらに、PE患者の尿中および胎盤に凝集蛋白が検出されることも分かっている[16,17]。そして、凝集蛋白による毒性は、分裂細胞よりも非分裂細胞により影響が出やすいと考えられており、細胞分裂が起こらないと、より多くの凝集蛋白が蓄積し細胞機能を抑制することになるのだろう。そのため、これらの現象は胎盤形成が完成した第2三半期以降に起こりやすいと、我々は推測している。では、如何にしてヒトPE胎盤において凝集蛋白が蓄積するのか?そこには、オートファジーの最終段階に関与するリソソーム数の減少が関与している(投稿中データ)。オートファジーが最終段階で抑制された場合、細胞内のオートファゴソームは増加するが、オートリソソームは減少し、オートファジーは抑制された状態となる(図4)。これまでPE胎盤やFGR胎盤におけるオートファゴソーム増加を示した論文は、そこをミスリードした結果ではないないかと考えられる。一方で、現在生体組織においてオートファジー活性を正確に評価することができないため、我々の仮説の証明には更なる検討が必要であることも申し添えておく。

図 4

5.PE胎盤におけるオートファジー: 今後の展望

PE(早発)重症例およびPE軽症例は異なる病態であると認識されてきている。一方で、Placenta-mediated pregnancy complicationsにおいて、共に胎盤低形成という共通性を持ちながら、PE重症+FGR合併例とFGR単独例(母体血圧上昇なし)の病態の違いは明らかとなっていない。今回の我々の検討からは、オートファジー不全による胎盤低形成には、FGRを伴わなかったことから、オートファジー不全はFGR単独例にはあまり寄与していないのではないかと考えており、その病態の違いを解明すべく研究を進めている。現時点では、生体臓器におけるオートファジー活性を推測することは難しいが、今後そのような技術が開発できれば、胎盤における薬剤を介したオートファジー活性を評価できるようになり、非常に有益なツールになると考えている。そしてそれは、PE胎盤で低下したオートファジーを改善する、新たな治療戦略になると考えられる。

文 献
 
© 2018 Japan Society for Immunology of Reproduction
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