Reproductive Immunology and Biology
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Review Article
The role of NLRP3 inflammasome on preeclampsia
Koumei ShirasunaHironori TakahashiAkihide Ohkuchi
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2019 Volume 34 Pages 1-8

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要 旨

次世代を残すための妊娠機構は厳密に管理され、その制御に免疫機構が関与している。NLRP3インフラマソームは感染の関与しない『無菌性炎症』を制御する免疫機構であるが、このNLRP3インフラマソームが妊娠高血圧腎症(PE)を含む多くの異常妊娠に関与することが分かってきた。実際に、PE患者の体内では、NLRP3インフラマソーム活性化を誘導する様々な内因性物質(尿酸結晶やコレステロール結晶等)が増加し、胎盤を中心として過度の炎症応答が誘導される。一方、NLRP3インフラマソームを抑制制御することによってPE病態が軽減できる可能性も分かってきている。妊娠機構におけるNLRP3インフラマソームを理解することで、新たな治療法等への応用に繋がることが期待される。

1.妊娠における免疫機構の関与

次世代を残すためのイベントは厳密に制御され、多くの妊娠機構に対して免疫機構が関与する。例えば、マクロファージが卵巣機能を調節して着床・妊娠を維持すること、半異物(semi-allograft)である胎児を許容するためには制御性T細胞が重要であることなど、その働きは多岐に渡る[1, 2]。一方、免疫機構の破綻や過剰な炎症性サイトカイン産生等によって着床障害、流・早産、妊娠高血圧腎症(preeclampsia、PE)等が起きる[3, 4]。多くの異常妊娠では病原体等の感染は関与しておらず、どのように炎症が惹起されるのかは不明である。このような炎症は『無菌性炎症』と認識され、その誘導経路の1つであるインフラマソームと呼ばれるタンパク質複合体が注目されている。

2.NLRP3インフラマソームとは

インフラマソームは、体内に蓄積した様々なdanger/damage-associated molecular patterns(DAMPs)や主に病原体由来で外因性のpathogen-associated molecular patterns(PAMPs)に反応して炎症応答を誘導し、代表的な炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)1βやIL-18の産生を厳密に制御する免疫機構である[5]。インフラマソームは、NOD like receptors(NLR)等の自然免疫受容体とアダプター分子apoptosis-associated speck-like protein containing a caspase recruitment domain(ASC)が会合し、その下流でCaspase-1が活性化される分子複合体の総称である(図1)。細胞内においてIL-1βは前駆体として存在し、IL-1β前駆体は活性化Caspase-1により分子内切断をうけて分泌・生理活性を発揮する。数種類のインフラマソーム機構のうち最も研究が進んでいるのがNLR family, pyrin domain containing 3(NLRP3)インフラマソームである。NLRP3インフラマソームは、尿酸結晶、コレステロール結晶、遊離脂肪酸、細胞外DNAや細胞外小胞など、病原体成分以外の多岐に渡る内因性DAMPsに応じて活性化が起きる。

図 1

NLRP3インフラマソームを活性化する細胞内シグナルについては多くのことが分かってきた(図1);①尿酸結晶等の結晶構造によって細胞内のリソソームが破壊され、タンパク質分解酵素のカテプシンBやカルシウムイオンが流出する、②ミトコンドリア機能不全によって大量の活性酸素種が産生される、③小胞体ストレスやオートファジー等の細胞内ストレス応答が過剰になる、④微小管構造の変化に伴い、小胞体に局在するNLRP3とミトコンドリアに局在するASCが近接する、等の様々な事象が危険信号となってNLRP3インフラマソームが活性化される[5, 6]。過剰なNLRP3インフラマソーム活性化による暴走は、痛風、糖尿病、動脈硬化、アルツハイマー病など様々な炎症性疾患を誘導する。また近年になって、NLRP3インフラマソームがPE、肥満妊娠、流・早産などの多くの異常妊娠に関与することが分かってきた。

3.PEとNLRP3インフラマソーム

PEは全妊娠の約5~10%に発症する病態であり、妊産婦死亡の主原因の一つである。PE発症妊婦は高血圧や蛋白尿を呈し、胎盤機能異常や胎児発育不全などが誘発され、症状が増悪した場合は死亡するケースもある。本病態は、出産後にその症状が軽快するため胎盤の存在が密接に関連すると推察されている。PE発症概念として、胎盤が慢性的な低酸素や炎症環境に暴露され、抗血管新生因子である可溶型Endoglin(sEng)や可溶型fms様チロシンキナーゼ1(sFlt-1)産生が増加し大量に母体に流出する。母体血中を循環するsEngやsFlt-1が血管内皮障害を惹起し、PE病態が出現すると理解されている[7, 8]

ヒト胎盤組織や単離したtrophoblast cells(初代および株化)にはNLRP3、ASC、Caspase-1が発現し、NLRP3インフラマソームが機能している[9, 10]。PE病態では、自然免疫細胞の活性化や制御性T細胞の減退が起き、胎盤内には炎症性細胞が浸潤すること等から慢性炎症状態になることが病因の一端と考えられる。PE患者の胎盤や末梢血白血球では、NLRP3、Caspase-1、IL-1β発現が健常妊娠よりも高い[11, 12]。さらに、PE患者の胎盤や血液中では、NLRP3インフラマソーム活性化を直接誘導する尿酸結晶、遊離脂肪酸、細胞外DNA(核やミトコンドリア由来)等、多くの危険信号の発現が高い。

4.PE病態誘導関連因子とNLRP3インフラマソーム

体内の尿酸が飽和すると尿酸結晶が形成され、死細胞から放出される尿酸結晶は危険信号としてセンシングされ、NLRP3インフラマソームを活性化することで痛風の原因となる。一方、DAMPsである尿酸結晶はPE患者の体内で増加し、絨毛膜細胞や胎盤組織からNLRP3インフラマソーム依存的にIL-1β分泌を誘導する[11, 13, 14]。妊娠ラットに尿酸結晶を投与すると、胎盤内にマクロファージが動員されてIL-1β分泌が増加し、胎児発育不全が誘導される[13]。また、尿酸結晶はNLRP3インフラマソーム依存的にマクロファージや好中球を動員してIL-1β分泌を刺激する。以上から、高レベルの尿酸結晶はNLRP3インフラマソーム活性化を介して胎盤炎症を誘導し、PEに陥ることが考えられる。

尿酸結晶と同様に、過剰なコレステロールも結晶化することで炎症反応を惹起して動脈硬化を促進するが、これはコレステロール結晶が細胞内でリソソーム傷害を引き起こした結果、NLRP3インフラマソームを活性化させたために発生する[15]。PE患者の血清中コレステロールは正常妊婦よりも高く、胎盤内にはコレステロールが蓄積している[14]。胎盤組織にコレステロール結晶を添加するとIL-1β分泌が刺激され、この反応はNLRP3インフラマソーム阻害剤であるMCC950によって軽減される[14]。胎盤細胞に加え、マクロファージや血管内皮細胞においてもコレステロール結晶によってNLRP3インフラマソームの活性化が起きることから、PE患者の胎盤炎症にコレステロールが関与する可能性が考えられる。

妊婦の肥満に伴いPEを含む異常妊娠のリスクが増加し、肥満や糖尿病で増加する遊離脂肪酸やグルコースが危険信号となり得る。遊離脂肪酸の中でも飽和脂肪酸であるパルミチン酸(PA)がPEや肥満妊婦の血液中で増加し、PAは臍帯血管内皮細胞において脂肪滴蓄積、ミトコンドリア機能異常やアポトーシスを引き起こして血管機能異常に関与する[16, 17]。また、ヒト胎盤細胞においてPAはNLRP3インフラマソーム依存的にIL-1βを分泌させ、アポトーシスを誘導する[18]。また、PAは細胞内に取り込まれるとクリスタル化され、これがリソソーム傷害を誘導してカテプシンBの放出が起き、結果としてNLRP3インフラマソーム活性化依存的にIL-1β分泌につながることも判明している[19]。一方、肥満妊婦の血中や胎盤内では高レベルのグルコースが見られ、過剰なグルコースはヒトtrophoblastからNLRP3インフラマソーム依存的にIL-1β分泌を誘導する[20]。つまり、妊娠中の肥満により脂質代謝異常が発生し、体内で過剰になった遊離脂肪酸やグルコースによってNLRP3インフラマソームが活性化することでPE病態が誘導される可能性が考えられる。

細胞はエクソソームを含む細胞外小胞(EV)を分泌することで細胞・臓器間コニュニケーションを行う。健常妊娠の状態でもEVは非妊娠女性に比べて増加するが、PE患者ではEVがさらに増加し、質的にも変化する[21]。PE患者のtrophoblast由来EVにはsFlt-1やsEngが多く含まれ、血管新生を阻害することや免疫細胞の性質を変化させる[22, 23]。つまり、胎盤からEVが放出され、そこに含まれる様々な因子群(タンパク質、脂質、RNA、DNA、miRNA等)が危険信号として母体に伝達され、PE発症につながると考えられる。実際にKohliらは、妊娠マウスにEVを投与するとNLRP3インフラマソーム依存的にPE様病態(高血圧・腎機能異常・胎児発育不全)が起きることを見出した[24]。具体的には、EV投与によって胎盤内に血小板が集積し、活性化した血小板からはATPが過剰に産生され、このATPが胎盤内のNLRP3インフラマソーム活性化シグナルとなり、IL-1βが分泌されることで母体の血管や腎臓などで炎症応答が惹起される。この病態モデルに、IL-1受容体アンタゴニストであるanakinraを投与するとEVで誘導したPE病態が改善されたことから、NLRP3インフラマソームが新たな治療ターゲットになり得るかもしれない。

EVと同様に、胎盤からは細胞外DNA(cfDNA)や細胞外胎児DNA(cffDNA)が放出され、これらの母体血中濃度はPE病態と正の相関がみられる[25-27]。cfDNAをセンシングするtoll-like receptor(TLR)9は、基本的に非メチル化CpG領域を多く含む細菌由来DNAを認識するが、哺乳類細胞由来の核DNAやミトコンドリアDNAも認識する。例えば、肝臓でアポトーシスを起こした細胞から放出された細胞外DNAは、TLR9活性化によりIL-1β産生を刺激することで炎症を誘導するが、NLRP3欠損マウスではcfDNA量が減少して肝機能障害が改善される[28]。PEではcfDNA量が高いことに加え、胎盤におけるTLR9発現が高くなる。実際に、PE患者から抽出したcfDNAは胎盤細胞で炎症反応を誘導し、血管内皮細胞からのsEng産生が増加する[29]。さらに、TLR9リガンドを妊娠マウスに投与すると高血圧、蛋白尿、胎児発育不全などのPE病態が誘導され、これらの反応はTLR9欠損マウスで改善される[30]。また、胎盤細胞内では細胞内DNAセンサーであるinterferon-inducible protein 16も作用し、sFl1-1およびsEng産生を増加させる[31]。以上から、胎盤から産生されたcfDNAはTLR9システムで認識され、NLRP3インフラマソーム活性化を伴いPEを発症させる可能性がある。

PE病態の最も特徴的な表現型は母体高血圧であり、レニン―アンギオテンシン(Ang)経路の活性化が関与する。実際に、ヒトのアンギオテンシノーゲン遺伝子導入雌マウスにヒトのレニン遺伝子導入雄マウスを交配することで妊娠後期にPE症状が発症し、アンギオテンシン受容体の欠損または阻害薬によって病態が改善される[32]。そこで筆者らは、NLRP3インフラマソームの重要性を検討するため、AngIIを妊娠マウスに持続的に投与することでPEモデルを作製した。AngIIによって急激な高血圧が誘導され、胎盤内に多くの好中球が集積し、腎機能異常と胎仔発育不全が誘導された[33]。NLRP3欠損妊娠マウスではAngII誘導性の高血圧が抑制されるが、腎機能異常と低体重胎仔には関与しない。非妊娠の食塩誘導性高血圧モデルなどでも、NLRP3インフラマソーム欠損またはNLRP3阻害剤であるMCC950処置によって腎機能保護や高血圧が改善された[34, 35]。興味深いことに、AngIIはNLRP3インフラマソーム活性化に関与するのではなく、NLRP3分子依存的に炎症性サイトカインIL-6産生を制御していた[33]。また、NLRP3欠損マウスの心筋ではIL-6‐STAT3経路が抑制されることや、NLRP3欠損マクロファージではNF-κB活性およびIL-1β遺伝子発現が低下するなど、NLRP3はインフラマソームとは独立した制御機構が存在する[36, 37]

5.まとめ

NLRP3インフラマソーム機構は生体防御から様々な疾患発症に関与する。妊娠や胎盤機能においても、母体の危険信号が増加することでNLRP3インフラマソームがそれらを感知し、PEに加えて早産や習慣流産などの多くの異常妊娠に繋がる(図2)。NLRP3インフラマソームを抑制制御することで炎症応答が低下するだけではなく、高血圧や胎盤由来抗血管新生因子群の発現も調節できる可能性があり、今後の基礎研究によって新たな知見が生まれ、臨床応用可能な治療法等への応用に繋がると期待される。

図 2
引用文献
 
© 2019 Japan Society for Immunology of Reproduction
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