要 旨
早産は、自然早産と人工早産に分けられるが、およそ7割が自然早産とされている。また、この自然早産の既往歴自体が次回妊娠時の自然早産のリスクであるとされ、近年、その繰り返す確率は、22.3%であると報告されている。このような自然早産の原因は多岐に渡るが、子宮内の炎症(≒組織学的絨毛膜羊膜炎)がその中心である。よって、切迫早産と診断された際、性器出血、子宮口開大などの臨床症状から治療が行われるが、同時に直接評価が難しい子宮内環境(炎症と感染)がその予後に重要であると言える。特に、超早産などの早期の自然早産例では、羊水中の細菌とUreaplasma/Mycoplasmaの重複感染が関与していることがわかってきた。このような病態を考慮し、抗菌薬の選択、黄体ホルモンを投与により、妊娠期間延長効果があることがわかったものの、すでに高度の炎症が存在するケースでは治療に難渋しやすく、治療限界があるとも言える。よって、妊娠中は子宮内環境が破綻しないような対策が必要である。妊娠維持に必須の制御性T細胞は、腸内Clostridium属と相関があることがマウスによる動物実験からわかってきた。また、腸内のClostridium属が少ない切迫早産患者は、早産しやすいことも分かっている。妊娠判明後、Clostridium属を含むプロバイオティクス療法が、自然早産を予防できる可能性があるのではなかろうか。
1.緒言
本邦の早産率は、約5.7%とされており、そのうちおよそ7割が自然早産を占めるとされている[1]。自然早産を引き起こすリスク因子は、既往自然早産歴、円錐切除術の既往歴、細菌性腟症、子宮内感染、子宮内炎症(≒組織学的絨毛膜羊膜炎)、尿路感染症、無症候性細菌尿、歯周病、若年女性、ART妊娠、やせ妊婦、ステロイドユーザー、多胎妊娠、羊水過多、喫煙、低所得など、実に多岐に存在する。自然早産は反復する特徴があり、その繰り返す確率は、22.3%であると報告されている[2]。これらのうち、特に子宮内の炎症が重要な因子であり、自然早産に深く関与していることがわかってきた[3]。富山大学では、切迫早産患者の子宮内感染・炎症を羊水から評価し、その病態についてまとめ、病態別に新しい治療戦略を考案している。これらを紹介し、自然早産の特徴と治療限界、さらには予防策につき考えてみたい。
2.対象と方法
当院で管理した切迫早産患者を対象とした。切迫早産とは、規則的な子宮収縮を認め、かつ、子宮頸管の熟化(子宮口開大、または、子宮頸管長25mm未満)を認めた場合とした。ただし、塩酸リトドリン、または、硫酸マグネシウムの点滴(Tocolysis)治療を行っていない場合には、対象から除外した。また、尿路感染症や子宮筋腫の変性に伴った一時的な子宮収縮により点滴治療を施行したケースも対象から除外した。
これらの切迫早産患者のうち、妊娠32週未満で羊水検査による子宮内の炎症と感染を評価し得た患者(富山大学附属病院倫理員会承認:No.187)を対象とした。ただし、Tocolysis治療に抵抗性の重症切迫早産例(数日以内に自然早産が強く予測される症例)には、羊水検査は行っていない。
3.組織学的絨毛膜羊膜炎と自然早産との関連性
分娩後に評価が可能となる組織学的絨毛膜羊膜炎(histological chorioamnionitis: hCAM)と自然早産時の分娩週数につき、図1に示した。分娩週数が早期であるほど、hCAMの頻度は上昇するばかりでなく、その重症度も重度であった。また、hCAMのIII度症例では、新生児短期予後不良例は、59.1%と高率であった。すなわち、早期の自然早産(主に超早産)であるほど、子宮内環境の破綻が高度である故、自然早産が起こりやすく、早産児は未熟であるばかりでなく、子宮内炎症の影響も受けやすい(胎児炎症反応症候群)という重大な臨床的特徴があることが判明した
[4]。

図1
4.組織学的絨毛膜羊膜炎と羊水中IL-8値との相関
これらhCAMは、分娩後の胎盤病理学的検査で診断されるため、分娩前に正確に予測することは難しい。一般的には、母体の体温、白血球数、および、CRP値を測定することで組織学的絨毛膜羊膜炎を予測することになるが、羊水中のinterleukin-8(IL-8)値は、これらに比し、有意な相関があることがわかった(図2)。さらに、羊水中IL-8値が高値であるほど、hCAMは、需要であった(IL-8値は、III度で55.9ng/mL以上、II度で17.3ng/mL以上、I度で9.9ng/mL以上)。すなわち、羊水中IL-8値により、hCAMの重症度を妊娠中に予測することが可能であることが判明した[4]。

図2
また、切迫早産と診断され入院管理となった場合には、出血や子宮口開大等による臨床症状から、分娩時期を予測し、ステロイドのタイミングなどが検討されるが、この臨床症状と同様、子宮内炎症も分娩時期とよく相関することがわかった[5]。さらに、この2つの因子から具体的な分娩時期の予測が可能となり[6]、臨床的にも役立っている。
5.子宮内炎症と羊水中病原微生物との関連性
羊水中の病原微生物は、一般培養検査では、11%に認められたが、当院で開発した迅速・高感度PCR法[7]により評価した場合、38%に認められ、さらにこのようなPCR陽性例でも、PCR陰性例に比し、早産予後は不良であることがわかった[8]。大きな特徴として、出生体重が小さいほど、病原微生物の頻度が増加しており(図3)、特に、Ureaplasma/Mycoplasmaと細菌の重複感染例では、子宮内炎症が高度に惹起される特徴があり[8]、超早産を引き起こすひとつの重大な原因と考えられた。Ureaplasma/Mycoplasmaと細菌とでは、炎症惹起に関わるToll
like receptorが異なっていることが、高度の子宮内炎症惹起の理由ではないかと推測している。また、子宮内感染を示唆するとの報告[9]があった超音波像sludgeは、当院の検討では、子宮内炎症を反映した結果であると考えられた[10]。

図3
6.抗菌薬の有効性
切迫早産に対する抗菌薬の有効性は、現在のところ否定的であり、かえって新生児予後は不良となるのではないかという指摘が、Cochraneで報告されている[11]。ただし、母体の感染症は有意に減少できたとしている。しかしながら、これらのまとめでは、羊水中の病原微生物を同定した抗菌薬使用ではないこと、また、諸外国での切迫早産の診断は、本邦に比較し重症度が高い症例であることなどを考えると納得できる結果ともいえる。
当科では、以前、臨床症状に応じて子宮内感染が疑われる症例に、セフェム系抗菌薬、または、マクロライド系抗菌薬を経験的に投与していた。これらを後方視的に検討した結果、病原微生物別に適切に使用していた症例では、不適切に使用された症例に比較し、約4週間の妊娠期間延長効果が認められた[12]。臨床的に興味深い点として、病原微生物陰性例に対する抗菌薬の投与は、かえって妊娠期間を短縮していた(図4)。切迫早産に対する抗菌薬の投与は、慎重に検討すべきなのかもしれない。

図4
7.無菌性子宮内炎症に対する17OHP-Cの効果
無菌性子宮内炎症の原因は、子宮内血腫、胎便、ウイルス感染等が考えられているが、明らかにはされていない。このような切迫早産に、反復する自然早産を予防する効果があると報告された黄体ホルモン[13]を投与した場合、軽度の子宮内炎症を伴うタイプでは、妊娠期間の延長効果(図5)、また、特にlate
pretermの早産児を有意に減少される効果を認めた[14]。

図5
8.腸内細菌叢と自然早産
切迫早産患者で実際に自然早産するケースの腸内細菌叢をT-RFLP法にて解析した結果、正常妊婦のものに比し、Clostridium属が有意に少ないことが判明した[15]。マウスの実験報告ではあるが、Clostridium属が妊娠維持に必須の制御性T細胞の誘導に関与していること[16]を考慮するとこの結果は、極めて興味深い。無菌性の切迫早産に対する抗菌薬の投与がかえって妊娠期間を短縮している点は、腸内細菌叢の変化が影響しているのかもしれない。また、近年、プロバイオティックミルク[17]、味噌汁や納豆[18]が自然早産予防に関与しているとの報告もあり、腸内細菌が妊娠維持に大きく関連していることはまず間違いないだろう。
9.今後の展望
本邦では、切迫早産の症状が比較的軽度な段階から医療介入ができるため、子宮内環境が完全に破綻する前から、抗菌薬、あるいは17OHP-Cによるある程度の予後の改善は可能であるかもしれない。しかしながら、臨床症状が出現する理由が子宮内環境の破綻であることを考えると根本的な治療とはならず、新生児予後を大きく改善することには限界があるだろう。よって、妊娠初期から、妊娠維持に必要な環境を整えておくことが重要であると言える。後方視的検討ではあるが、Clostridium属を含むプロバイオティクスが、32週未満の早産を有意に減少させたとする研究結果には、自然早産を予防する大きなヒントが詰まっている気がしてならない[19]。
一方で、切迫早産に対するtocolysis治療は、長期入院を余儀なくされ、母体の精神的ストレスや医療費の問題など安易に行われるべきではないものの現時点ではスタンダードとも言える治療のひとつになっている。比較的軽症例にも行われる現状を把握し、今後は見直すべきと思われる[20, 21]。
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