The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
The Clinical Application and Future Perspective of Fluorescence Imaging in the Treatment of Lung Cancer
Toyofumi Fengshi Chen-Yoshikawa
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2023 Volume 43 Issue 4 Pages 302-307

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Abstract

放射線画像の進歩とともに微小な肺結節がますます検出されるようになり,手術の低侵襲化とともに,胸腔鏡下手術の時代となった.さらに,微小結節の同定や区域切除にインドシアニングリーン(indocyanine green: ICG)などの蛍光色素が用いられている.そこで,今回,呼吸器外科手術の中心となる肺がん治療における蛍光イメージングについて,近年臨床応用が広まっているICGの利用を中心に概説する.

Translated Abstract

As radiological imaging has progressed, smaller nodules are more frequently detected. The trend of minimal invasiveness in thoracic surgery has paved the way for video-assisted thoracic surgery. In localization for small nodules and segmentectomy for such nodules, fluorescent dyes, such as indocyanine green (ICG) have been used more often. Therefore, we herein describe the utility of fluorescent imaging in the treatment of lung cancer, which is currently the mainstream of thoracic surgery, focusing on the clinical application of ICG.

1.  はじめに

蛍光色素を用いたイメージングが,様々な外科領域で広く使用されるようなり.呼吸器領域においては,インドシアニングリーン(indocyanine green: ICG)を用いた手法が注目されている1,2).現在,本邦における呼吸器外科手術の半数以上は,いわゆる肺がんに対する手術で,その標準術式は肺葉切除である.しかしながら,近年,手術の低侵襲化とともに,創部を小さくできる胸腔鏡手術だけでなく,切除する肺の領域を小さくできる区域切除や部分切除が,わが国をはじめ多くの国で積極的に行われるようになった.肺葉切除とは異なり,区域切除や部分切除では,腫瘍や区域間面の位置の同定が重要となる.

呼吸器外科領域では,肺の区域切除における区域間面の描出におけるICGの利用が,最も普及が進んでいる.さらに,微小な肺結節などに対する術前マーキングの際にもICGが利用され始め,今後の展開が期待されている.また,肺癌を含む肺内結節の位置同定やセンチネルリンパ節の同定なども,ICGの新たな利用法として模索されている3-5).なお,胸部手術術後のリンパ瘻の手術にICGを用いたリンパ管造影が利用されることもある6,7).また,ICG以外の蛍光色素として,ポルフィリンの前駆体である5-アミノレブリン酸(5-ALA)を用いた手法も,ごく少数だが,呼吸器外科領域で報告されている8)

今回,呼吸器外科手術の中心となる肺がん治療における蛍光イメージングについて,ICGを例にとり,利用されている分野ごとに概説する.

2.  区域間面の可視化

CTの普及率の高い本邦では,ヘリカルCTなどの画像技術の進歩とともに,微小な肺結節が検出される頻度が増加している(Fig.1).また,本邦のみならず世界においても,死因となる癌として肺癌が最も多いという現状から,このような微小な肺結節の診断と治療が,呼吸器外科領域において最も注目されている.

Fig.1 

Small lung nodule (arrow).

肺は,左右で計5葉に分かれており,肺癌における標準手術は,この一つの葉を切除する肺葉切除である.しかし,このような微小結節の場合,より小さく肺を切除する方法である区域切除が,積極的縮小手術として選択されることが増えている.

左下葉は,S6,S8,S9,S10という4つの区域に分かれており,例えば,S6に微小結節があり,S6区域切除を行う場合を想定する.切除すべきS6と残すべき他の3つの区域(まとめて底区という)の境界は外観からは判定できない(Fig.2).これまでは,切除すべき区域(S6)の気管支を離断してから換気を行う方法で,換気される部分と換気されない(虚脱)部分の違いから,換気虚脱ラインを作成し,その境界を区域間面としていた.しかしながら,そのようなラインが明確に確認できない症例も多く,また,胸腔鏡手術では,肺を膨らませると視野が悪くなるなど弊害も多く,実際には,おおよその外観からの予測で区域切除ラインが決定されることも多い.

Fig.2 

Lung anatomy and schematic view of small lung nodule in S6.

腫瘍が区域の中心に存在したり,切離すべき区域間面から遠いような場合には,おおよその予測で区域間面を想定しても実臨床上は大きな問題はないが,区域間面に近い症例などでは,断端までの距離が十分に取れないという問題が生じる.そこで,ICGが臓器血流を表現するという点に着眼し,ICGを用いた区域間面の描出が,近年,呼吸器外科領域で普及してきた.つまり,切除すべき区域の肺動脈(A6)を切離後に,末梢の静脈からICGを注入すると,血流のない切除すべき区域であるS6のみが,ICGの蛍光を示さずに暗転する(これをnegative stain法という).したがって,ICGで光っている部分(底区)とそうでない部分(暗転している部分,S6)の境界が区域間面となり,この部分を目安に区域切除を行うことで,より正確な区域切除が行い得る(Fig.3).

Fig.3 

Intraoperative view of intersegmental plane in S6 segmentectomy (arrows).

本法は,呼吸器外科手術でICGの保険適応がなかった時代には,少数の施設で,施設の倫理委員会を通して行われてきた.しかし,近年,血流がある領域の描出を目的としたICGの使用が保険適応になり,呼吸器外科領域においても,肺の区域切除における肺血流残存領域の検出という意味で,区域間面を同定するためにICGが使用できるようになった.なお,本法では,血流にのったICGが流れ去ってしまうと,蛍光が消失してしまうために時間的制約が生じるが,流出する肺静脈を一時的にクランプしておく工夫や,ICGを気道内に投与するなどの新しい方法(気道内に投与する場合には,切除する区域をICGで光らせることになり,positive stain法といわれ,また,長時間蛍光を発する利点もあり)も報告されているが,あまり普及していない9-11)

広く行われているnegative stain法におけるICGの投与法は,通常の体格の大人の患者の場合,ICG 25 mgを10ccの注射用水で溶解し,3ccを末梢静脈の補液ルートから静脈注射して投与する.一般的に,投与後数秒すると,血流にのったICGが蛍光カメラで捉えられ,蛍光色素として発光し,20秒程度発色するが,血流とともにその光は減弱して見えなくなる.この間に,区域切除の切離ラインとなる位置を電気メスなどでマーキングしておく.なお,限られた時間内に上手くマーキングできなかった場合は,追加投与も可能である.

しかしながら,少数であるが,区域切離面を明確に示すことができない場合があることには注意が必要である.その原因としては,気腫肺によってICGの蛍光が遮られて胸膜越しに見えにくくなっていることや,術中の無気肺によって肺動脈の攣縮が起こるなど,一過性の肺動脈分岐の血流減少などが考えられる.予防としては,手術中に一旦虚脱させていた肺を再換気してからICGを投与するなどが行われるが,明確な原因はわかっておらず,本法がより広く利用されるためには,今後の詳細な検討は必須であろう.

3.  肺腫瘍の可視化

肺腫瘍の位置同定においては,理想的には,肺内の微小結節を直接的に蛍光色素でマーキングすることが望まれる12).これまでに,いくつかのグループから,肺の悪性腫瘍への特異度や腫瘍深度に対応する透過性を改良したマーキング用の色素が開発されており,今後の更なる開発に期待がもたれる5).現時点では,いくつかの特殊な肺腫瘍において再現性を持ち蛍光マーキングすることができるに過ぎない(Fig.4).具体的には,肝細胞癌や肝芽腫のように,ICGが強く取り込まれるが,腫瘍から排泄されにくいことが分かっているような腫瘍の肺転移の際に臨床応用されている13).しかしながら,分化度の高い悪性腫瘍にはとりこまれにくいなど,なかなか,全ての腫瘍組織において,一様にICGが取り込まれるわけではない14)

Fig.4 

ICG uptake in pulmonary metastasis of hepatoblastoma (arrow).

今後,癌抗原についての理解が進むとともに,悪性腫瘍に特異的な抗体に組み込まれた蛍光マーキング法の開発にも期待したい.同法が確立されると,腫瘍の位置がリアルタイムで同定できるだけでなく,抗体に抗腫瘍薬や抗腫瘍効果を持った物質を搭載させることで,癌細胞を直接的に攻撃する治療薬の開発につながるなど,検出だけでなく治療にいたるまで,癌領域における大きな躍進の原動力として期待がもたれる.

4.  リンパ流の可視化

癌が,リンパ管を通して最初に流れ着くリンパ節をセンチネルリンパ節といい,乳癌などでは,センチネルリンパ節に癌の転移がなければ,リンパ節郭清を省略,または選択的に行うなど,術式を決定する手段として使われている.肺癌は,Skipリンパ節転移が多いため,センチネルリンパ節の概念については一定の見解は得られていないが,これまでに本邦からもICGを用いて多くの研究がなされてきた3,4,15)

また,肺癌手術におけるリンパ節郭清後のリンパ瘻など,胸部手術術後の合併症に対し,術前に,ICGを足背や鼠径部の皮下に注入して,胸腔内のリンパの流れを可視化して瘻孔の部位の同定を行うことも実臨床で試みられており,有用な結果が報告されている6,7)

5.  術前マーキングの可視化

医療技術の進歩とともに,医療の低侵襲化が進み,呼吸器外科領域でも,大きな開胸ではなく,内視鏡カメラを用いた胸腔鏡下手術がアプローチの第一選択となった.さらに,ロボット補助下や単孔式の胸腔鏡手術も広く行われるようになった1).また,近年,CT等の画像技術の進歩に伴い,末梢肺に微小病変が発見されるケースが増加している.これら微小病変は内科的診断法(CTガイド下生検や気管支鏡下生検)では診断が困難であり,悪性疾患が疑われるものに対しては積極的な外科的診断,さらには治療の対象となる.しかし,実際に手術を行うとなると,これらの病変は,視認困難なだけでなく,触知困難なことも多い.ましてや胸腔鏡下では,さらにその同定が困難となる.

したがって,実臨床では,病変が大きくなるまで経過観察を選択せざるを得ないこともしばしばである.一方,患者の希望や臨床的意義が高い場合には,病変は小さいが,確実に切除をするために,肺葉切除を行わざるを得ない,また時には,この区域をとれば病変が入っているであろう,という予測の下に区域切除が行われているのが実情である.しかしながら,切除標本から術中に病変を発見して迅速診断で確認できないことも多い.また,実際に取り残したために,再手術となった例も報告されている.

したがって,このような病変に対しては,術前または術中に何らかのマーキングが必要である.しかしながら,最もよく行われてきた術前CTガイド下マーキングでは,空気塞栓による心筋梗塞・脳梗塞,出血,気胸の合併症が報告されており,また,病変の存在部位による制限も多い16-18)

そこで,これに代わる方法として,CT画像を基に再構成したバーチャル気管支鏡によるナビゲーション下に,実際の気管支鏡を用いて染料(インジゴカルミン)を用いて,胸膜表面に術前マーキングを行う方法である,VAL-MAP(Virtual Assisted Lung MAPping)法が開発された19,20).VAL-MAPでは,複数のマーキングが容易に可能であるため,胸膜表面につけた複数のマーキングを手掛かりにして,微小肺病変や切除ラインの位置情報を術中に得ることができ,有用な手術補助手段となる.しかしながら,胸膜直下にマーキングを行うことの技術的な難易度や,マーキング部位のCTにおける位置確認が困難なことが多いこと,高度炭粉沈着がある重喫煙者の肺におけるマーキング部位の視認性といった問題点も明らかとなった.そこで,視認性の問題点を解決するために,インジゴカルミンの代わりにICGと造影剤を用いる手法(ICG-VAL-MAP)が開発された.ICG-VAL-MAPでは,VAL-MAPと比べ,造影剤を用いることで,気管支鏡を用いたマーキング時の注入状態やマーキング後のCTでのマーキング位置を,より確実に視覚化できる.さらに,蛍光カメラを用いることで,術中のマーキングの位置を容易に確認できる21)

以下に,ICG-VAL-MAPの手技について概説する.まず,手術の48時間前までに,通常の気管支鏡検査と同じ流れで,局所麻酔下に気管支鏡検査を行う(Fig.5).なお,事前に,患者のCTデータを用いてバーチャル気管支鏡を作成し,マーキングすべき気管支の枝を選んでおく.気管支鏡用の散布チューブを用いてICGと造影剤を事前に混ぜた色素溶液を狙ったところに注入する.現在は,ICG溶液(25 mg/10 ml)の0.5 mlを造影剤4.5 mlによく混和して,そのうちの0.1~0.3 mlを注入している.実際には,目的とする気管支を選んで散布チューブを進め,透視を用いて胸膜直下に色素を注入する.注入する際に,透視を同時に用いると,注入する色素に造影剤が混ぜてあるため,リアルタイムに確認できる(Fig.6).次に,マーキング後のCTを撮像し,マーキング部位と腫瘍との位置関係などにつき,3次元CT再構成画像を作成して,術前に予測しておく(Fig.7).最後に,作成した3次元画像をガイドにして肺切除を行う(Fig.8, 9).

Fig.5 

Preoperative marking in ICG-VAL-MAP.

Fig.6 

Visualization of marking under fluoroscopy (arrow).

Fig.7 

Post-marking CT image (arrow).

Fig.8 

Preoperative surgical simulation using three-dimensional CT.

Fig.9 

Intraoperative view.

ICG-VAL-MAPは,ICGという蛍光色素と造影剤を用いた蛍光イメージングであり,これまで行われてきた,蛍光色素を用いないVAL-MAPの弱点ともいうべき,視認性を向上させた.現時点では,気管支鏡という手技が必要であるが,経皮的マーキングより副作用が少なく,また,自分がマーキングしたいところにマーキングできるという点で,本法の役割は大きい.徳野らの報告によると,合併症はVAL-MAPと同等と,安全に行える手技であり,視認性は非常に高い21).しかしながら,本法はICGや造影剤の適応外使用となるため,十分に配慮して行う必要がある.また,本法は,あくまで間接的な腫瘍のマーキングであり,今後,腫瘍自体を直接的に光らせる,真の意味での腫瘍マーキングが可能となる蛍光色素の開発に期待がもたれる.

6.  おわりに

呼吸器外科領域においても,ICGなど,蛍光イメージングを用いた手術手技が広く行われ始めた.今回,呼吸器外科における蛍光ガイド手術の現状と将来展望について紹介した.呼吸器外科における蛍光イメージングの応用は始まったばかりであり,今後,さらなる経験と新知見の集積をもとに,さらなる発展が期待される.

利益相反の開示

利益相反なし.

引用文献
 
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