Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Post-discharge life adaptations of spouses of allotransplanted male patients
Noriko YokotaTomohiko KamimuraChihiro FujimaruMasae Oda
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2015 Volume 10 Issue 3 Pages 201-208

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Abstract

【目的】同種造血幹細胞移植を受けた男性患者の退院後の生活に配偶者が対処するプロセスを検討した.【方法】6名の配偶者に夫の退院後の困難と対処について半構造化面接法を用いてデータ収集を行い,インタビューデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにて質的記述的に分析した.“取り組むべき責務”“夫の日常生活管理”“経験して得る自信”“家庭の中での習慣化”のサブカテゴリーより‘感染対策の習慣化’のカテゴリーを,“実感する夫とのズレ”“価値観の変化”“それぞれの妥協点”“移植がもたらした恩恵”“消えない不安”のサブカテゴリーより‘気がかりの変容’のカテゴリーを導いた.【結論】配偶者は自己効力感を育み感染対策を習慣化,変えられない生活様式と移植後の夫との生活に折り合いをつけていた.配偶者の気がかりは時間とともに変容していたが,再発や移植片対宿主病などの病状や経済的な困窮への不安は続いていた.

緒言

 同種造血幹細胞移植(移植)を受けた患者(移植患者)は,白血病再発などの不確実性や移植片対宿主病(Graft versus host disease, GVHD)による身体機能低下を抱え,発病前とは変化した身体的・心理社会的状況の中で,退院後の生活を再構築していくと報告されている1).その過程では,家族の協力が不可欠である一方,自分の病状が家族の生活に影響を与えているといった,周囲との関係に変化が生じることも報告されている2).また,肺がん患者を介護する家族のquality of life(QOL)は,患者のQOLに相関し,家族の心理社会的QOLは患者の病状や苦悩を反映して経時的に変化するとも報告されている3).そのため,家族との関係性を重視する日本人の移植患者では,家族に対する支援を提供することが,患者QOL向上に寄与しうる.

 とくに,男性患者の女性配偶者(以下,配偶者)は,在宅療養における食や環境などを調整する第一の生活支援者であり,主婦,母親としての役割も担っていることが多く,日常生活でさまざまな出来事に対処している.男性がん患者の配偶者は,女性がん患者の配偶者と比べ,がん患者だけでなく家族全員の世話も求められるため心理的苦痛が大きいと報告されている4).移植患者の配偶者は,患者が移植後の人生や生活を再構築する過程において,患者の身体的・心理社会的に困難な体験を傍らで共有し,苦悩しながら対処している可能性がある.しかし,男性移植患者の在宅療養における配偶者の困難な体験を記述した研究はない.

 本研究では,男性移植患者と配偶者に対する看護支援についての示唆を得るために,移植を受け退院した男性患者の配偶者が,在宅療養中の生活の中で遭遇した困難な体験に対処し折り合いをつけていくプロセスを明らかにすることを目的とする.

方法

1 研究デザイン

 本研究は,研究参加者の生の語りを記述し,さらに抽象化した現象から概念を抽出し,その概念間の関係を抽象化することを目的としているため5),帰納的アプローチによる質的研究法を選択した.中でも,木下による修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Modified grounded theory approach, M-GTA)6)を用いた.M-GTAは,明らかにしようとしている現象が社会的相互作用に関係し,人間行動の説明と予測に優れた理論を生み出していこうとするような研究に有効であり,時間を経て変化するようなプロセス的現象に有効である.したがって,本研究は,移植後から現在に至るまでの研究参加者の体験という現象を捉え,その体験を通し他者との関係性の中で変化していくというプロセスを明らかにすることが目的であることから,M-GTAによる分析が適切であると考えた.

2 データ収集期間

 2013年3月〜8月

3 用語の定義

 配偶者:本研究では,移植を受けた男性患者の配偶者(妻)とする.

 家族:婚姻で結ばれた夫婦であり,子供,親族の同居の如何は問わない.

 家庭:家族が生活する場所.

 対処するプロセス:研究参加者が困難な体験に,対処し折り合いをつけていくプロセス

4 研究参加者の選定

 選定基準は,A総合病院で移植を受け通院治療中で,移植前より仕事を持ち,移植後も同じ職場に復帰した,壮年期から中年期(25〜64歳)男性患者の配偶者6名とした(表1).また,移植患者と同居しており,一般的なコミュニュケーションがとれ,研究者からが研究の主旨を口頭と書面で説明を受け,研究参加の同意を得られた人とした.

表1 研究参加者概要

5 データ収集方法

 研究参加者が退院後に患者と在宅療養を送る過程において,最初に体験した困難な出来事について,対処法とその時の思い,その出来事は現在どうしているのかなど,変化してく過程が語られるように,研究者が作成したインタビューガイドを用いて,個室または個室に準ずる部屋にて半構造化面接を1回実施した.語られた内容は,許可を得てICレコーダーに録音し逐語録を作成した.患者の許可を得て,診療録から基本的属性,疾患名などを情報収集した.

6 分析方法

 面接内容の逐語録をデータとして,分析焦点者を「移植を受け退院後に,免疫力が完全に回復していない状態で在宅療養を経て職場復帰をし,生活の再構築を行っている通院治療中の男性患者の配偶者」とした.分析テーマは,「分析焦点者は,退院後の在宅療養中に夫をどのように受け入れ,困難な体験にどのように対処し折り合いをつけていったのか,そのプロセス」とした.はじめに1例目のデータを熟読し,分析テーマに関連する箇所に着眼し,そのデータが分析焦点者にとってどのような意味を持つのか解釈をし,その意味が忠実に表現するように命名し概念とした.概念を生成したら,概念の名称とその定義,具体例を分析ワークシートに記載した.この過程において,データの解釈についての疑問や考えついたことなどは全て,理論的メモとして記載した.3例の分析結果をデータベースとし,残りの3例については,子供と同居していない研究参加者を選択し,困難な出来事に類似例があるのか,対極例が存在しうるのか両方向で比較検討しながら分析を進め,新たな概念生成や具体例として追加記載した.分析過程では研究者間でメンバーチェキングを続けた.生成された概念間の意味内容が同類の概念を集めカテゴリーとした.カテゴリーとしてまとめられる同類の概念が無い場合は,そのままカテゴリーと同等の説明力を持つ概念とした.生成された概念やカテゴリーの相互の関係性を考え,明らかにしたい現象を説明する変化のプロセスを結果図として図式化した.1例目の分析テーマの設定時から分析過程まで,質的研究の複数の研究者のスーパーバイズを受け,資料の照合を行い研究の真実性・妥当性を高めた.

7 倫理的配慮

 研究参加者には,口頭と書面で研究の主旨を説明し,面談に応じるか否かは自由意志に委ね,拒否をしても日々の診療やケアに何ら影響しないこと,「語り」の内容によって不利益を生じないこと,個人情報に配慮すること,ICレコーダーへの録音に許可を得て,研究以外の目的には使用しないことを口頭と文書で説明し承諾を得た.研究内容は原三伸病院および国際医療福祉大学研究倫理審査委員会で承認され,研究者はヘルシンキ宣言に従って実施した.

結果

1 研究参加者の概要

 6名から研究参加の同意が得られた.年齢は35〜59歳で,同居する家族人数は2〜6名,12歳以下の子供と同居3名,面接時間は24〜70分だった(表1).

2 分析結果

 生成された24概念から,意味内容の同類性から8サブカテゴリーを生成し,1概念はサブカテゴリーと同等の説明力をもつ概念であった.これら8サブカテゴリーと1概念で2カテゴリーを生成した(表2).これらのカテゴリーの関係性を包括的に表す結果図を作成し(図1),その結果図を簡潔に文章化したストーリーラインを例示する.なお,‘’カテゴリー,“”はサブカテゴリー,[]は概念,「斜字」は具体例である.

表2 移植後患者の配偶者が困難な体験に対処し折り合いをつけるプロセスのカテゴリーと概念
図1 移植後患者の配偶者が困難な体験に対処し折り合いをつけるプロセス

1)ストーリーライン

 移植患者の配偶者が,在宅療養中に遭遇した体験に対処し折り合いをつけるプロセスは,‘感染対策の習慣化’,‘気がかりの変容’のカテゴリーで説明できた.まず‘感染対策の習慣化’について述べる.配偶者は,退院によって入院から在宅に療養環境が変化する中で,感染対策を第一に“取り組むべき責務”として捉えていた.感染させないために[家庭での生物禁止食]を徹底するが,食欲が改善していないため[摂食してもらえない食事]となっても,次は食べてもらえると思い,夫の嗜好にあわせ,食欲が回復するまで提供し続けた.そして,うがいや手洗いなど[家族で行う感染予防]を考案して継続し,子供が感染症に罹患した場合は,夫を感染症から護るために[夫の逆隔離]を行っていた.また,夫の体調を気遣い,[受診すべきかの迷い]を体験しながら,受診することで安心感を得る一方,いつまで継続すべきかわからない制限された生活に,[先の見えない閉塞感] を感じていた.しかし,生活の中で,「これは大丈夫,こうすれば大丈夫」であることを繰り返し,夫を安全に管理することを責務と捉え,[経験して得る自信]を得て,“夫の日常生活管理”をしていた.そして,移植前と同様である[変えられない生活様式]の中で,家族全員の価値観が変化し,家の中を清潔に保つということを[習慣化していく感染予防]として受け入れて継続し,感染対策を“家庭の中で習慣化”させていた.

 次に,‘気がかりの変容’について述べる.長期入院療養を経て退院した夫と,夫不在の過程で培われた習慣や感覚には乖離が生じており,退院直後は,“実感する夫とのズレ”に違和感を感じていた.配偶者は,感染対策など“取り組むべき責務”が増加している時に,休養中ではあることを理解していても,[ごろ寝している夫への苛立]を感じ,生活上の清潔に関する[夫との汚さのズレ]も生じていた.夫が在宅していることで配偶者自身の[自由な時間の減少]もあり,夫が退院したことで起きた生活の変化に窮屈であることを実感していた.しかし,夫の日々の様子を見て,[元気な姿が一番]と思い,健康に対する“価値観の変化”が起こっていた.また,夫と[経過の悪い患者と比較]をして安心し,[子供中心のスケジュール]を変更できない事柄と受け入れ,その中で自分の家庭のあり方を築くために“それぞれの妥協点”を見いだしていた.そして,移植前よりも[子供の世話に協力的]になった夫を見て,[家族のつながり]を実感し“移植がもたらした恩恵”に気づくようになっていった.一方,“消えない不安”として,職場復帰ができていない現状に,[生活費の負担]が続き,いつ出現するかわからない[感染症,GVHD,再発の不安]があるため,[夫の体調管理]を続けなければならい現状に,配偶者の不安は,退院直後よりは減少するものの移植後1年経過しても依然として存在していた.

2)移植患者の配偶者が困難な体験に対処し折り合いをつけるプロセス

 次にカテゴリーの内容を説明する.

 (1)‘感染対策の習慣化’は,“取り組むべき責務”,“夫の日常生活管理”,“家庭の中で習慣化”,のサブカテゴリーと[経験して得る自信]のサブカテゴリーと同等の意味をもつ概念から導き出された.

 ①“取り組むべき責務”は,移植前に行っていた家事と,感染予防など「手洗いうがいは家族でやろうと言って,子供にも帰ったらそのまま洗面所に行きなさいって言っている.」のように家族の中でのルールを考案して実施することであった.

 ②“夫の日常生活管理”は,夫の体調の変化に対し,「熱を出した時に,病院に行くべきか行かないべきかとか.ちょっと迷ったり.」と体験しながら管理することであった.

 ③“家庭の中で習慣化”は,感染予防を「当たり前,そうせんといかんと思ったけん,それが今はもう慣れたんでしょうね.」と習慣化することであった.

 ④[経験して得る自信]は,調理法など「だんだんちょっとずつ前の日の残りは必ず火を通して,なんともなかったから,じゃあ次.」と,経験して安全を確信することであった.

 (2)‘気がかりの変容’は,“実感する夫とのズレ”,“価値観の変化”,“それぞれの妥協点”,“移植がもたらした恩恵”,“消えない不安”の4つのサブカテゴリーから導き出された.

 ①“実感する夫とのズレ”は,「旦那が家に居るのに自分だけ遊びに行くっていうわけにもいかないし.」と,生活の中でのさまざまなズレを感じることであった.

 ②“価値観の変化”は,「元気になっていくのが一番じゃないって言われて.そしたらなんか気持ちがちょっと楽になった.」と,他に変えられない健康を意識することであった.

 ③“それぞれの妥協点”は,「子供が小さいので,全てを主人に合わせることができない.」と移植前と変わらない子供中心の時間が必要なことであった.

 ④“移植がもたらした恩恵”は,「すぐに主人の体調を気遣ったり,家族がみんな本当に優しくなった.」と,移植によって起こったよい変化であった.

 ⑤“消えない不安”は,夫がいつ職場復帰できるのかがわからないため,「金銭的な問題,いつ仕事が出来るんだろう.ちょっと悩んだ時もあります.」といった不安などであった.

考察

 まず,感染対策の習慣化カテゴリーのプロセスについて考察する.移植患者と家族は,入院中から感染予防の必要性を繰り返し説明され7),退院前にも自宅での感染予防対策について詳細な指導を受ける.免疫抑制剤投与中やGVHD発症時は,易感染状態であるため8),感染対策は配偶者にとって重大な“取り組むべき責務”と認識されていた.移植前から配偶者の役割である食事の提供は,感染対策の中でも,最初に遭遇する困難として多く語られた.配偶者は退院指導をもとに,食材の選択から調理器具の洗浄などの全過程において,安全な食事提供に配慮していた.しかし,夫の食器を消毒し,反対に夫が潔癖症のようになって家族と一緒の皿や鍋の使用を避けるなど,過度な対策を実施している場合もあり,「どこまで綺麗にしていたらいいのかわからない」と,困惑していた.それでも,「食材にはしっかり火を通す,生ものはだめ」と自分の中でルールを作り,食事毎に夫が感染症を起こしていないという事実を実感し,自分の提供した食事が間違っていないことを成功体験と認識していた.この成功体験の積み重ねが,「外食の時はちょっと危ないかなって.だから,家では今ではきっちりやっています.それさえ気をつけてればいいんじゃないですかね.」と,自分のルールに従えば,感染対策としての対処が可能であるという感覚を得て,自己効力感につなげていると考えられた.がん患者を介護する家族が困難な出来事に対処し,高い自己効力感を持つことは,家族の希望に関連すると報告されている9).移植患者の配偶者も,さまざまな困難に向き合いながら自己効力感を得ることは,移植患者,家族のQOL向上に影響を与える可能性がある.

 移植後の夫が退院することで日常生活に変化が生じる一方,家族構成や配偶者の主婦,母親としての役割など,変わらない生活があることを理解することも重要である.その中で,配偶者だけでなく家族全員が,発病前とは異なる移植後の夫,父親であることを受け入れ,制約の多い日常生活に「慣れた,当たり前」と思うように変化していた.肺がん患者の家族の困難として,未告知の家族の存在がある故の,患者・家族メンバー間の関係を保つ難しさが報告されている10).移植治療では,意思決定から家族間で話し合い,家族の支援のもとに移植が進められるため,「生ものがだめでしょ,家族みんなで我慢しています」の語りのように家族全員が移植治療への理解や協力が得られやすいと考えられる.だからこそ配偶者は,身体的・心理的負担であった感染対策を家族の協力のもとに習慣化でき,元来の変え得ない日常生活と新たに求められる感染対策とに,折り合いをつけられていると考えられた.

 次に,気がかりの変容カテゴリーのプロセスについて考察する.配偶者は,3カ月以上の長期入院治療の間,夫不在の日常生活を余儀なくされていたが.退院という変化で,移植前とは身体的・心理的に変容した夫との日常生活再開に,さまざまな“実感する夫とのズレ”を最初に感じていた.夫が在宅療養しているため,「外出できない,友達を呼べない」ことをあらためて実感し,従来の自分の日常生活も制約されていることが心理的負担となっていた.しかし,夫が元気になっていく姿を見ることで健康の大切さを実感し,自身の価値観を変化させることで現実を受け入れていた.抑うつ症状を示すことが多いと言われている終末期のがん患者の配偶者は,現状を受け入れることで看病に伴う心理的に負担な状況に対処できるようになると報告されており11),移植患者の配偶者も制約のある日常生活と,移植を乗り越えた夫を受け入れることで,新たな生活に対処していると考えられた.

 移植患者は,配偶者や家族に対して,入院中に果たせていなかった家族の中での役割を取り戻すために,移植前よりも[子供の世話に協力的]になったと考えられた.そして,移植を乗り越えた夫,父親が居ることでお互いを気遣い,思いやる気持ちが増し,「家族がみんな優しくなった」と良い変化であると捉えていた.このようにがん治療を受けることで,家族の絆が増すといった変化は,外来化学療法を受けている固形がん患者の配偶者と同様の結果であった12).そして,“移植がもたらした恩恵”を実感することは,家族の絆の強化につながり,多岐にわたる心理的負担に対処する力となり得ると思われた.移植は,患者にとって長期の入院を要するつらい治療であり,夫に寄り添い支える配偶者にとってもつらい体験である.配偶者は,移植がもたらした恩恵に気づき,実感することで,退院後の移植患者を受け入れて再構築される生活に,折り合いをつけていると考えられた.

 移植後の家族のつながりが強化され,移植患者が在宅で元気に過ごしていても,職場復帰できないと経済的な負担は解消されない.配偶者は,遷延するGVHDや再発などの病状の不確実性の中で,経済的な負担もあり,折り合いをつけられない“消えない不安”を感じ続けている可能性がある.配偶者は,退院後の状態が落ち着いた時期には,治癒への期待や病気の克服といった希望を感じる反面,「いつ再発するかわからない」といった思いが混在している状態が続くと考えられる.後藤らは,夫の入院中における移植患者の配偶者の孤立感は,夫の治療経過を共有している病棟看護師につらい思いを表出することで,軽減できる可能性を指摘している13).病棟看護師は,患者の移植の意思決定期から移植後の経過,そして家族背景に至る情報を熟知しており,配偶者の心のよりどころとなって,個別化した支援が提供できる可能性がある.

 移植患者と家族を継続的に支援するうえで,看護師は,心理的負担に対し傾聴や共感し,対処が肯定的に評価できることを伝え,誤った理解があれば修正するなど個別化した指導を実施し,配偶者が自己効力感を得られる環境を整備することが重要である.そして,配偶者のQOL維持を図ることが,移植患者や配偶者を含めた家族の退院後の生活の再構築を支え,結果的に移植患者の長期QOL向上に寄与する可能性がある.

 本研究は,男性の同種移植患者の配偶者を対象に限定して一般化を目指したが,疾患の違いや単施設で研究参加者も少数で,データ収集の面談も1回のみであり十分な理論生成には至っていない.今後は,データを増やす一方,本結果を基に実践を重ね移植患者と家族が望む支援を充実させていくことが課題である.

結論

 移植を受けた男性患者の配偶者が,退院後に遭遇した困難な体験に対処し折り合いをつけるプロセスは,‘感染対策の習慣化’‘気がかりの変容’の2つのカテゴリーから説明できた.感染対策の習慣化を促進するためには,病状や環境にあわせた経時的かつ個別化した支援が重要である.配偶者が気がかりの変容に対処するには,心理的負担が大きいことが明らかとなった.配偶者が移植後の夫を支え続けるためには,困難な出来事に対処しているプロセスを肯定的に評価できることを伝え,患者や配偶者を含めた家族に移植がもたらした恩恵への気づきを促すことが重要と考えられた.

References
 
© 2015 by Japanese Society for Palliative Medicine
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