Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Survey of diet and meal preparation by Japanese bereaved caregivers for terminal cancer patients followed at home
Takuya ShinjoYusuke StohAkihiro IshikawaMasahiro GoshimaMasako SakamotoYuri Morimoto
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Keywords: cancer, diet, caregiver
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2015 Volume 10 Issue 4 Pages 238-244

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Abstract

在宅療養をしていた終末期がん患者の食事と調理の現状について,介護者を対象に調査を行った。神戸の5つの診療所で治療され,自宅で死亡した200名を対象として,患者遺族(主介護者)に質問紙を2014年2月に発送した。回収率は66%,遺族の平均年齢は62歳だった。全体の57%の遺族が,患者の食事について負担感を感じていた.負担感の決定因子は,1)医療者から食べ方の指導をうけた経験(P=0.012),2)家族として療養中の食事を調理することに難しさと(P=0.001),3)食欲が低下した患者に食事を食べさせることに難しさを感じていたことだった(P=0.004).終末期がん患者の食事,調理についての知見はまだ不十分でさらに今後の研究が必要である.

緒言

 がん患者の生活の質(QOL: quality of life)に,日々の食事は大きく関連している1).終末期のがん患者は,食欲不振を伴うことが多く2),日常の食事の問題は患者,介護者の両者にとって重大な問題となる3).しかし,終末期がん患者の食事に関しては,栄養学的見地からも実践的な知見は少なく,患者のみならず,食事を作る実際に調理する介護者の悩みも大きい3), 4), 5), 6)

 現在までに,終末期がん患者の食事に関する研究は,患者,介護者それぞれの考え,精神的な苦悩に関する質的研究3), 7),看護師による食事指導の介入8),食材を含む栄養指導が報告されているが6),終末期がん患者の食事に関する研究はまだ十分とは言えない.

 したがって,本研究の目的は,在宅療養をしていた終末期がん患者の,介護者の食事・調理に関する負担感と関与する因子について調査することとした.

方法

1 対象

 本研究は,終末期がん患者と家族の食事,補完代替療法について調査した研究の付帯研究である9)

 神戸市内の無床診療所のうち,調査協力の承諾を得た5施設において,2013年8月1日より以前の各施設適格条件,除外基準を満たす各施設連続40名,合計200名を調査対象として設定した.2014年2月から3月に質問紙を郵送で発送した.返答のない遺族に対しては,2014年4月に再度同じ質問紙を発送した.質問紙は各施設で判断した,患者の主な介護者に発送し返答を求めた.

 適格基準は,患者ががんと診断されていること,20歳以上であること.質問紙を発送する遺族が20歳以上,患者の初診から死亡まで3日以上,総合病院より診療所に紹介され,自宅で死亡した患者とした.

 除外基準は,1)遺族(キーパーソン,身元引受人)の同定ができない,2)治療関連死で死亡した,3)死亡時の状況から,遺族が認知症,精神障害,視覚障害などのために調査用紙に記入できない,4)死亡時および現在の状況から,精神的に著しく不安定なために研究の施行が望ましくないを,それぞれの施設で判断した.229名の対象者のうち,29名が除外され,200名を対象とした.除外数の内訳は,遺族の同定ができない(独居を含む)15人,精神的に著しく不安定14人であった.研究責任施設(神戸松蔭女子学院大学)の倫理委員会で研究計画は承認され,各診療所の院長が,同意の上で参加した.

2 調査項目

 終末期がん患者の介護者を対象とした食事・調理に関する信頼性と妥当性が確認された調査方法がないため,本研究の調査項目は,系統的文献検索,がん診療の経験のある医師・看護師によるフォーカスグループの討論を経て作成した3), 4), 5), 6), 10), 11).作成した質問紙を2013年9月に,本研究に参加していない,がん診療の経験のある看護師5名,栄養士2名,遺族20名に返答と質問紙の評価を得た.結果を基に質問紙を改訂し,さらにフォーカスグループで討論し質問紙を完成した.(研究で使用した質問紙は,https://db.tt/ta5eC21lから入手できる).

 遺族の背景因子として,年齢,性別,患者との関係,患者の死亡から調査までの期間を質問した.

 主調査項目として,食事についての負担感を調査するため,「療養中の食事について難しさや負担を感じたことがありますか」に対して,「全く感じていなかった」から「強く感じていた」まで5件法で質問した.

 食事指導に関する実態を調査するため,在宅療養中に食事指導を受けた職種(医師,看護師,栄養士,看護士・ヘルパー),「食事について相談できる雰囲気,環境」,「食べ方の指導」,「特定の食材,食品の推奨」,「特定の食材,食品の制限」にそれぞれの質問に例示を付した上で,「はい」・「いいえ」で質問した.

 病期別に食事についての遺族の負担感を調査するため,診断前の未治療の期間,化学療法中,放射線療法中,手術後(3カ月以上),終末期(抗がん治療終了後)に分けて,「全く感じていなかった」から「強く感じていた」まで5件法で質問した.該当しない治療については返答しないように求めた.

 食事について負担感を感じた理由を調査するため,「食事について配慮する時間,金銭的余裕がなかった」,「医療者からの栄養指導が不十分だった」,「調理する習慣がないため,指導を生かすことができなかった」,「症状の変化を恐れるあまり,積極的に食事をさせることができなかった」,「食事を調理することに難しさを感じた」,「食欲が低下した患者に食事を食べさせることに難しさを感じた」,「特定の食品を制限,禁止することに難しさを感じた」に対して,「そう思わない」から「とてもそう思う」まで5件法で質問した.

3 カルテ調査

 各施設の主治医は,患者の背景因子として,年齢,性別,原発臓器,初診時のPerformance Status,初診から死亡までの期間を調査した.

4 解析

 比較のため,調査対象者を調査後に比較に妥当な2群に分類した.食事についての遺族の負担感,「療養中の食事について難しさや負担を感じたことがありますか」に対して,「強く感じていた」,「感じていた」と返答した遺族を,負担感が高い群とし,それ以外を負担感が低い群に分類した.

 単変量解析を連続関数には,t検定を,カテゴリー変数には,カイ2乗分析を用いた.二項ロジスティック回帰分析を,条件付き変数増加法にて,単変量解析で統計学的に有意な項目に対して行った.解析結果は,P<0.05で統計学的に有意と判断した.解析にはStatistical Package for Social Sciences(version 20.0; IBM)を用いた.

結果

 200名の遺族に発送し,131名(回収率66%)が返答した。主調査項目に返答のなかった,6名を除外し125名(63%)を解析対象とした.

 患者と遺族の背景因子について表1に示す。患者の平均年齢は74歳,遺族の平均年齢は62歳だった。

表1 背景因子

 遺族の食事についての負担感は,「全く感じていなかった」(n=11, 8.4%),「あまり感じていなかった」(n=23, 18%),「どちらともいえない」(n=16, 12%),「感じていた」(n=49, 37%),「強く感じていた」(n=26, 20%)であった.負担感を感じていると返答した遺族が57%とほぼ半数であった.

 食事指導に関する実態(表2)は,食事指導を受けたのは,医師から(66%),看護師から(60%)で,食事について相談できる雰囲気,環境はほとんどの遺族があったと返答した.しかし,特定の食材,食品の推奨(27%)や制限(33%)が指導されたと返答した遺族は少なかった.

表2 遺族の食事指導に関する実態

 病期別の食事についての遺族の負担感(表3)では,抗がん治療を終了した後の終末期に負担感が高くなっていた.

表3 病期別の遺族の食事についての負担感と,負担感を感じた理由

 食事について負担感を感じた理由(表3)では,「食欲が低下した患者に食事を食べさせることに難しさを感じた」が最も負担感が高かった.

 遺族の食事についての負担感の決定因子(表4, 表5)では,単変量解析では,食事についての負担感が高い群の方が,食事指導をうけた職種が,「医師」(P=0.001),「看護師」(P=0.005),「食べ方の指導があった」(P=0.001),「特定の食材,食品の推奨あった」(P=0.01),「特定の食材,食品の制限があった」(P=0.005)と返答した頻度が高かった.病期別の食事についての遺族の負担感は,「診断前の未治療の期間」(P<0.001),「化学療法中」(P=0.001),「終末期」(P<0.001)に,食事についての負担感が高い群がより負担感が高かった.食事について負担感を感じた理由は,「医療者からの栄養指導が不十分だった」(P=0.003),「調理する習慣がないため,指導を生かすことができなかった」(P=0.037),「症状の変化を恐れるあまり,積極的に食事をさせることができなかった」(P=0.001),「食事を調理することに難しさを感じた」(P<0.001),「食欲が低下した患者に食事を食べさせることに難しさを感じた」(P<0.001),「特定の食品を制限,禁止することに難しさを感じた」(P<0.001)ことに,食事についての負担感が高い群がより負担感が高かった.

表4 遺族の食事についての負担感の決定因子 その1
表5 遺族の食事についての負担感の決定因子 その2

 多変量解析では(表5),食事指導に関する実態として,「食べ方の指導」があり(オッズ比[95%信頼区間]; 6.9[1.5-30.6], P=0.012),食事について負担感を感じた理由として,「家族として療養中の食事を調理することに難しさを感じた」(2.6[1.5-4.5], P=0.001),「食欲が低下した患者に食事を食べさせることに難しさを感じた」(2.2[1.3-3.9], P=0.004)ことが,遺族の食事についての負担感の決定因子であった.

考察

 今回の結果から,57%の遺族が食事についての負担感を感じていたことが分かった.過去の研究でも,食欲不振のあるがん患者の介護者は,精神的な負担を強く感じていることが分かっており3), 4), 5), 6), 7), 8),本研究で実際にほぼ半数の遺族(介護者)で負担感があることが分かった.先行研究では,日本のホスピス,緩和ケア病棟でケア,治療を受けていた終末期がん患者の遺族は,患者の栄養摂取低下時に,38%が「とてもつらかった」,33%が「つらかった」と合わせて,71%の遺族が心的負担を感じたと回答しており,本研究より高頻度であった10).先行研究では,食事ができないほど衰弱した患者を想定した調査であったため,本研究よりもつらさ,負担感を感じる頻度が高くなったと推測される.また先行研究は,ホスピス,緩和ケア病棟の輸液に関する調査であり10),本研究は在宅療養をしていた患者の食事の調査であるため,直接の比較はできないが,療養の場にかかわらず,食欲不振のある,がん患者の家族,介護者は心的負担が強いことが分かった.

 本研究では,実際にどのように食事を調理するかについて難しさを感じた遺族ほど,食事についての負担感が強かったことが分かった.また,医師や看護師から食事指導をうけたと返答し,さらに医療者からの栄養指導が不十分だったと返答した遺族ほど食事についての負担感が高かったことから,食事の指導を受けたにもかかわらず,医師や看護師から十分な指導が受けられなかった可能性を推測した.

 過去の研究でも,どの様な食材を用いると良いのか,どの様に調理したら良いのかといった実践的な方法はまだ未確立で6), 9),がんの再発を防ぐという観点からの食事方法についてもまだ限られた知見しかない11).そのため,多くの介護者が,具体的な食材の選択,調理方法が分からないため,一般的に健康に良いと考えられている方法を取り入れている可能性が示唆される9)

 多変量解析の結果から,「食事指導に関する実態として,『食べ方の指導』があった」と返答した遺族の方が,食事についての負担感が高かった.医療者からの指導を受けたにもかかわらず,負担感が高くなった理由として,患者の食事に関心の高い介護者ほど感じる負担が大きくなっていると推測した.

 過去の研究では,食事が苦痛ではなく楽しめるようになる,食事制限をせず患者が欲しがるものを食べさせるようにといった,食事指導としては具体的ではない内容に関する家族への教育的介入が報告されている1), 12).また,医療者が,食欲不振の終末期がん患者と介護者にどのような援助をしたらよいのかよく分からず,有効なケアができないこともある9).さらに,調理に関して介護者は心的負担を感じている3), 13).したがって,患者の食事に関心の高い介護者の負担感を軽減するには,医療者は精神的なケアと共に,日々の食事,調理に関してより具体的な指導を介護者に行う必要が示唆された10), 12), 13), 14), 15)

 本研究では,食事を調理することに難しさを感じただけではなく,食欲が低下した患者に食事を食べさせること,食事の介助をすることに難しさを感じたことが分かった.がんが進行し全身の状態が悪化することで,多くの患者が嚥下困難となり,食べること,飲むことができなくなる16), 17).患者に食事を食べさせたときに,誤嚥させてしまうことが介護者にとって強い苦痛であることが報告されている18).本調査では,遺族が患者の誤嚥を経験したかは調査していない.しかし,過去の研究の知見と,本調査の結果から,患者に食事を介助する方法として,例えば誤嚥を避けるといった指導を,医療者は介護者にする必要があると考えた.

 本研究の限界として,調査対象が在宅療養で緩和ケアを受けた終末期がん患者のみであることから,結果を病院に入院している患者を含む,全てのがん患者に一般化して考えにくいこと,調査対象が遺族であることから,患者の意向が十分反映されていないこと,後方視的な研究で,リコールバイアスが存在し,とくに死別直前の終末期の状況が反映されやすいこと,本研究で使用した質問紙の信頼性と妥当性を十分検討していないことがある.

結論

 在宅療養をしていた終末期がん患者の,遺族(介護者)のほぼ半数は,食事・調理に関する負担感を感じていた.負担感の決定因子は3つあり,1)医療者から食べ方の指導をうけた経験と,2)家族として療養中の食事の調理の難しさと,3)食欲が低下した患者に食事を食べさせることの難しさを感じていたことだった.終末期がん患者の食事,調理についての知見はまだ不十分でさらに今後の研究が必要である.

References
 
© 2015 by Japanese Society for Palliative Medicine
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