2016 Volume 11 Issue 1 Pages 101-108
Advance Care Planning(以下ACP)は進行がん患者のquality of lifeを大きく規定する要因として重要である.本研究はACPに関する日本人の進行がん患者の意向を探索するため,ホスピス入院中の患者10名を対象とした半構造化面接によるインタビュー調査を行った.9名はACPの意義があると答えたが,1名は意義がないと答えた.望ましい話し合いの時期は患者により意見が異なり,治療中から,転移が判明した時,ホスピス入院時,主治医が適切と判断した時などであった.望ましい話し合いの相手はほとんどの患者が主治医と答えた.ACPにおける家族の役割や文書化の意義は患者により大きく意見が異なり,賛否が分かれた.患者にACPの希望があるかを早い時期から確認し,希望する場合には話し合いが必要な時期を主治医が判断するとともに,家族の役割について個別に確認することが必要であることが示唆された.
進行がん患者のquality of lifeの最も大きな規定要因として,「状態が悪くなった時の対応について話し合っておくこと」(Advance Care Planning,以下ACP)があることが大規模なコホート研究などにおいて検証されている1〜8).すなわち,状態が悪くなった時に希望する医療行為や療養の場所についてあらかじめ話し合っておくことができた患者では,望んだ場所で過ごすことができ,希望に一致しない病院や集中治療室への入院期間が短く,また患者家族の評価するquality of lifeが高く,遺族の健康度も高かった1〜8).これらを受けて,終末期の対応についてあらかじめ話し合うことをどう促進するかに関する介入試験が行われている9〜11).
ACPの一部であるadvance directive(終末期に希望する医療行為に関して事前に指示しておく文書,または代理人を指示しておく文書)は,各国で法制化されている12,13).我が国においても,ACPの重要性が認識されるようになりつつあり,厚生労働省では,終末期患者,家族と医療者の合意形成のプロセスを示すものとして,2008年5月に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定した14).しかしながら,実際に我が国の終末期の患者・家族を対象として,患者・家族がどのような話し合いを希望しているかについての調査研究はほとんどない.
本研究の目的は,日本人の患者・家族の意向にあったACPのモデルを作成するための予備的な研究として,進行がん患者・家族から見た「状態が悪くなった時の対応についてあらかじめ話し合っておくこと」に関する希望を探索することである.
2013年11月から2014年10月に聖隷三方原病院ホスピス科に入院した患者を対象とした.対象患者の適格基準は,(1)がんの診断が臨床的もしくは組織学的に確認されている患者,(2)遠隔転移または局所再発進行のがん患者,(3)ホスピス病棟に入院中の患者,(4)20歳以上の患者,のすべてを満たすものとした.除外基準は,(1)臨床的に明らかな認知機能障害のあるもの,(2)身体症状が重篤で,担当医または調査担当者が研究の参加に妥当でないと判断したもの,(3)精神症状が重篤で,担当医または調査担当者が研究の参加に妥当でないと判断したもの,(4)説明・同意文書の内容を理解できないもの,のうちいずれかを満たすものとした.適格基準を満たす入院患者を主治医が抽出した.適格基準を満たした場合,主治医が研究の概要を口頭で説明し,了解が得られた患者に対して,あらためて研究者より患者に対して本研究について倫理審査委員会で承認された同意説明文書を用いて説明をおこなった後,同意の得られた患者に対して調査を実施した.
2 方法半構造化面接によるインタビュー調査を行った.面接は研究者(AN)が行った.進行がん患者と家族のACPに関する希望が明らかになるように,先行研究を参考に質問を作成した15〜22).本論文におけるACPの定義は「状態が悪くなった時の対応について話し合っておくこと」とし,患者に対するACPの説明は,「先々,体の具合が悪くなった時に希望する治療(心肺蘇生や延命治療など)や希望する療養の場所,生活について話し合いをしておくこと」とした.主な質問内容は(1)ACPの全般的な意義:「先々具合が悪くなった時にどのような治療を希望するか,どのようなことを希望するかを『あらかじめ』話し合っておくことは意義があると思われますか.それはどうしてですか」(2)話し合いをする望ましい時期:「もし,話し合うとしたら,それはどういう時期がいいですか.**さんの場合でしたら,いつ,どのような話し合いをしたらいいとおもわれますか.それはどうしてですか」(3)話し合いを始める望ましい医療者:「もし,話し合うとしたら,職種としては医師,看護師,ソーシャルワーカーなどがありますが,**さんは,誰と話し合うのが良いと思われますか.それはなぜですか.」(4)話し合いにおける望ましい家族の役割:「ご家族の誰とどのように話すのがいいでしょうか.患者さまに先にお話しするほうがいいでしょうか,ご家族にお話しするほうがいいでしょうか,同時にするほうがいいでしょうか.それはどうしてですか」(5)文書化の意義:「話し合った結果を文字に残しておくことについてはどう思われますか.例えば,外国ではあらかじめ必要なことを書いておくような法律上の規定があり,日本でも制度化される可能性がありますが,どのように思われますか.それはなぜですか.」(6)医療者に求める望ましい話し合い方:「話し合いを行うときにどのようなことに留意してほしいですか.」であった.それぞれの質問に対する回答とその理由を聞いた.面接時間は1回30分程度,面接回数は1回とした.
診療記録から患者の医学的社会的背景(年齢,性別,がん種,がんの治療状況,ECOGの基準によるPS)を取得した.
3 解析インタビュー内容はICレコーダーに録音し,逐語録を作成した.記述の中で,各質問への回答に相当する記載を意味単位として抽出した.回答とその理由について,意味内容の類似性・相違性からカテゴリーを作成した.カテゴリーの作成は研究者2名で独立して行い討議で一致させた.そののちに,緩和ケア領域での研究の経験が豊富な共同研究者TMのスーパーバイズを受けて一致させた.いずれも患者との診療関係はなかった.データを「 」,答えのカテゴリーを【 】,理由のカテゴリーを[ ],で示した.
4 倫理的配慮本研究は,聖隷三方原病院における倫理委員会の承認を得て実施した.
期間中のホスピス科入院患者を連続サンプリングし,母数は335名であった.入院時に意識障害が存在しインタビューが不可能と判断された患者,重篤な身体症状および精神症状が存在した患者,担当医により研究への参加が精神的侵襲となると判断された患者(病状の受容が困難,否認がある,悲嘆が強い)は調査対象から除外したが,除外理由の内訳はデータとして取得しなかった.適格患者は13名であった.13名中3名はインタビューが苦手(n=2),悪くなったときのことは考えたくない(n=1),の理由で辞退し,インタビュー実施患者は10名であった.インタビュー実施患者の背景を表1に示す.
1 ACPの全般的な意義10名中9名の患者が,状態が悪くなったときのことについてあらかじめ話し合っておくことに【意義がある】と答えた(表2).1名は[希望をもっていたいから]という理由で【意義がない】と答えた.この患者は「悪い悪いばっかり考えなしで,少しでも前向きで明るくしていたいもんで,あんまり考えたことないな.こうなった場合どうする,ああなった場合どうするって,そこまで考えたくなかったね.」と述べ,この患者についてはインタビューの継続が精神的な侵襲になると判断して,インタビューを終了した.
意義がある理由として,最も多かったものは[将来への備えになるから]で7名であった.ある患者は「その時に及んであたふたしないというか,バタバタしないっていうのはねえ.泰然自若として,物事を運んでいくっていうのは,大事じゃないかと思うね」と語り,その時になってあわてないために意義があると述べた.またある患者は「仕事しながら治療をしてくと,病院へ通うっていうのも難しいし,通院してても車の運転とかだんだんきつくなってきて(実際に大変だから前もって話しておいた方がいい)」と語り,将来の生活の見通しが必要であるという意見を述べた.1名は自分の意思を表示できなくなったときのために備えておくことの必要性を述べた.次いで6名が[延命治療に関する意思が以前からあるから],3名は[家族のためになるから]を理由としてあげた.[延命治療に対する意思が以前からあるから]と述べた患者は,研究者がACPの説明の具体例として「延命治療」という言葉を挙げた際に,「延命治療したくないですね」「そういうことはしたくありませんっていうね,紙をね,病院へ出しておきました」などと自己の経験を述べることが多く,延命治療は希望しないという明らかな意思をもっていたことが語られた.[家族のためになるから]と述べた患者のうち2名は「家族に負担をかけたくない」ことを理由としてあげた.また1名からは「先々のことはある程度家族にもわかってほしい」という気持ちが述べられた.
2 話し合いをする望ましい時期具体的な時期として,2名が【治療中から】相談するのが望ましいと述べた(表3).理由としては,[医師と治療目標を一致させるため],[先の見通しをもつため],があげられた.1名は,早い時期から自ら希望を医師に伝えることが,その後の治療方針にも反映され,かつ自分自身の心の準備にも役立つという意見を述べた.【ホスピスに入院した時】が良いタイミングであったと述べた1名は,「ここ(ホスピス)に入ったときに,先生からまだそんなに状態としては,ここでは悪くない状態.そのときにお話を伺っただけ.そんときに普通に話しするのがいいのかなと,そう思いましたね」と話し,主治医や環境が変わる時のような面談の場が良いタイミングであると述べた.1名は自らの経験から【転移が分かった時】に考えた,と述べた.この患者は,治療中からのACPに関しては「一番初めのときは,そんな全くもう考えなかったし,ましてや延命とかね,死とかね,そこらへんは全く考えなくて」と語り,病状の進行をきっかけに現実的に考えるようになったと述べた.2名は自らの経験で【医療者から話があった時】が良い時期であったと述べた.この2名は,望ましい時期を自分で判断することは難しいため,医療者が必要と判断した時に医療者から話を切り出してもらうのが良いと述べた.1名は時期は分からないが【早い方が良い】,1名は【症状が出てきた時】が良いと述べた.
3 話し合いを始める望ましい医療者話し合いを始める望ましい医療者は【主治医】と答えたものが7名と最も多かった(表4).また,主治医が望ましい理由として,[毎日話をするから][信頼しているから][病状を一番分かっているから]があげられた.1名は[話しやすいから]という理由で【看護師】と答えた.一方ある患者からは「だれに声をかけてもらったとしても,きっとその人がそういう気持ちになっていないと,なかなか受け入れられないと思うんで.だれから声をかけてもらうっていうよりも,その人間性がだれとできあがるのかなっていうとこなんだと思う」と述べ,職種よりも相手との関係性が重要であることが語られた.
4 話し合いにおける望ましい家族の役割話し合いにおける望ましい家族の役割について,3名は【家族と一緒に話して欲しい】と答え,4名は【自分に話して欲しい】と答え,意見が分かれた(表5).また1名は「家族と一緒に本人へも話して欲しいが,本人へ伝える内容には配慮がほしい(本人への侵襲が大きい話は家族だけでも良い)」,と述べた.それぞれ理由についても尋ねたが,自身の家族背景や家庭の状況が語られる場面が多く,明確な理由は得られなかった.
5 文書化の意義文書化の意義について,【意義がある】と答えた患者は4名,【意義はない】と答えた患者は3名で意見が分かれた.【どちらでもよい】【分からない】が1名ずつであった.意義がある理由としては[意思を明確に伝えられるから][記録に残しておくことが必要だから][確実に自分の意思が尊重される安心感があるから]があげられた.ある患者は「こうしてほしいって言ってても,やっぱり残された人たちが『いやいややっぱりこうしてほしいんだ』っていえば,そっちに流されるんじゃないかなっていう不安は,やっぱりいつまでもつきまとって.でも文章で残しとけば確実にそうさせてもらえるんじゃないかっていう安心感があるんで」と語り,意思を表示するだけでなく文書化しておくことの意義を述べた.一方,意義がないとした理由には,[体力的に難しいから][(書かなくても)自分が意思を示しておけば良いから]があげられた.
6 医療者に求める望ましい話し合い方ACPにおいて医療者に求める望ましい話し合い方として,4名は【正直に隠さず話し合いたい】という希望を述べた.この他「家族を交えて,できれば,もう一人ぐらい友人を入れて」「少しずつでなく,いろんな話を聞きたい」という意見があった.
本研究は予備的な研究であるが,我が国におけるACPに関する進行がん患者の希望についての示唆を得ることができる.
最も重要な本研究の結果は,進行がん患者のACPに関する様々な意向が明らかとなり,患者によっては希望しないことが示されたことである.同様の結果は,過去の研究においても指摘されている15,16).イギリスで行われたACPに関するフォーカスグループでは,これまで十分考えてこなかったことを考えさせる,良い機会だと思う人もいるが,歓迎しない人もいることが述べられている15).オーストラリアで行われたインタビュー調査でも,「ACPは侵襲的な話題である」と述べた患者が存在し,患者がその話題に触れるまで医療者からは触れるべきではないという意見があった16).本研究でも,「悪くなった時のことは考えたくない」という理由でインタビューを辞退した患者が1名,また「希望をもっていたいため,悪いことは考えたくない」という理由でACPの意義はないとした患者が1名存在した.ACPに関する話題を取り上げる場合には,患者の意向を確認することが必要であり,話し合いを始めた後も話題の継続が患者にとって侵襲になっていないかを適宜判断することが必要であることが示唆される.
次に重要な結果は,ACPを希望する場合の患者からみた望ましい話し合い方,すなわち話し合いの時期や相手,話し合いにおける家族の役割が示唆されたことである.話し合いを行う時期は,治療中から,転移・再発が分かった時,ホスピスに入院した時,医療者が必要と判断したとき,のいずれかが望ましいことが示唆された.先行研究では再発や病状進行が判明した時,化学療法中止の時が良いという意見が多く,積極的治療中はむしろ避けた方が良いとされていた点で意見の違いがみられたが,個人の意向によっては治療中から話をしておきたい場合もあることがうかがえる15).ホスピスに入院したタイミングが良い機会であったという意見があったが,これは過去の研究と一致するものであった22).がんで入院した患者に対して行われたACPに関するインタビュー調査では,対象となった患者の87%が入院をしたときにACPに関して医師と話し合いを持っておくことを支持しており,入院という一つのプロセスのなかで話し合いを持つことも,良い機会であることが示されている22).また,本研究では具体的な時期は分からないとした患者も多く,医療者が必要と判断した時に話をしてほしいという意見があった.これはオーストラリアでのインタビュー調査から得られた,患者・家族が知る必要があると医療者が判断した時や,患者・家族の準備ができたと医療者が判断した時,に医療者から話を始めることが望ましいという結果とも一致していた16).この研究からは,個人によって話し合いを希望する時期は異なるため,治療中,再発・転移が判明した時,ホスピス利用時に,ACPに関する患者の意向を尋ねる機会を持つことが望ましいと考えられる.話し合いを始める時期については,さらに詳細の多数例研究が必要である.
望ましい話し合いの相手としては,ほとんどの患者が主治医と答えた.先行研究においても,患者の状態を良く把握している医師,専門看護師が望ましいという意見が多く,同様の結果であった15,16).本研究で,話し合いの相手として主治医が望ましいとされた理由については,医師への信頼感や,体の状態を最も把握していることがあげられた.また職種とは関係なく相手との関係性が重要であるという意見もあり,これらの意見も先行研究と一致する結果であった15,16).
話し合いにおける家族の役割については,家族や友人の同席を希望する意見と,自分だけで良いとする意見があり,個人によって考え方が異なっていた.先行研究においても同様の結果が示されている16).また,話の内容によっては本人へは伝えず家族と相談してほしいという意見もあり,患者本人と家族では希望する話し合いの内容が異なる場合もある.過去の研究においても,家族は患者と比べてより具体的な症状や,予測される詳細な経過を知ることを希望していることが明らかにされている15).
以上をまとめると,治療中,再発・転移が判明した時,ホスピス利用時などの機会に患者のACPに関する意向を主治医から尋ねる機会を持ち,患者が希望した時に話し合いを始めることが必要である.また同席を希望する家族の有無について確認するとともに,本人,家族がどの程度情報を知りたいかを把握することが必要である.
本研究の限界として,対象患者がホスピス入院中の患者であることがあげられる.ホスピスに入院したこと自体が,主治医とACPに関する議論を行われた結果であるとも考えられ,選択バイアスとなっている可能性がある.したがって,本研究で得られた結果が,がん治療中の患者や通院中の患者の意向とは必ずしも一致しない可能性がある.また,ホスピス入院中の患者の中でも,担当医により研究への参加が精神的侵襲となると判断された患者(病状の受容が困難,否認がある,悲嘆が強い)は調査対象から除外されている.これらの患者はACPに否定的な意見を持つ可能性がある.
今後は,本研究の予備的な知見をもとに,がん治療中の患者や通院中の患者などに対象を拡大したインタビュー調査を行うことや,さらに多くの進行がん患者を対象とした質問紙調査を行うことが必要である.
進行がん患者のACPに関する意向が示唆された.患者にACPの希望があるかを早い時期から確認し,希望する場合には話し合いの時期,本人,家族がどの程度知りたいかを主治医が適切に判断することが必要である.この予備的研究の結果をもとに,今後はさらに対象を拡大した量的調査が必要である.
本論文の要旨は第20回日本緩和医療学会学術大会(2015年6月,横浜市)で発表した.