Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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Original Research
8-week Safety Profile of Tapentadol Extended Release Tablets Switched from Other Opioids for Well-controlled, Moderate to Severe, Chronic Malignant Tumor-related Pain: Constipation, Nausea, Vomiting and Somnolence
Keiichiro ImanakaTakashi YoshimuraYushin TominagaHiromi KogaKeiichiro Hirose
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2016 Volume 11 Issue 1 Pages 116-122

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Abstract

以前,中等度から高度のがん疼痛に対し,オピオイド鎮痛薬が定時投与されている被験者を対象に,タペンタドール徐放錠(ER)に切り替え8週間経口投与した時の有効性,安全性を検討,報告した.既報では,安全性についてすべての有害事象を集計の対象としたが,本報告では,オピオイドに特徴的な有害事象について本剤との因果関係が否定できない事象(副作用)を集計の対象とし,発現率及び発現時期を,参照薬であるモルヒネ徐放性製剤(SR)と比較検討した.タペンタドールER及びモルヒネSRは各50例であり,主な副作用は,便秘(8.0%,20.0%),悪心(8.0%,14.0%),嘔吐(2.0%,24.0%),傾眠(8.0%,18.0%)で,いずれもモルヒネSRよりタペンタドールERで頻度が低かった.タペンタドールERは安全性プロファイルが良好な経口オピオイド剤として,がん疼痛の新たな治療選択肢になると考えられた.

緒言

タペンタドールは,ドイツのグルネンタール社で創製された新規の中枢性鎮痛薬であり,薬理学的にµオピオイド受容体作動作用とノルアドレナリン再取り込み阻害作用の二つの作用を有している13).また,タペンタドールの主代謝物であるタペンタドールO-グルクロン酸抱合体は,鎮痛作用を示さないことが確認されている.

モルヒネをはじめとするオピオイドの投与に伴う主要な副作用は,便秘,悪心,嘔吐の胃腸障害および傾眠である4)

便秘はオピオイドを投与された患者に高頻度に発現し,耐性形成はほとんど起こらないため下剤を継続的に投与するなどの対策が必要となる4).悪心,嘔吐はオピオイドの投与初期や増量時に発現することが多い副作用である.オピオイドの投与を開始して数日以内に耐性を生じるが,患者にとっては最も不快な症状の一つであり,服薬アドヒアランスを損なうことにつながることも多い4).オピオイドによる傾眠は投与開始初期や増量時に出現することが多いが,速やかに耐性が生じ,数日以内に自然に軽減ないし消失することが多い.しかしながら,強度の傾眠がある場合は,オピオイドの減量を要することや,オピオイドの増量が困難となることがある4)

われわれは以前,中等度から高度のがん疼痛に対してオピオイド鎮痛薬が定時投与されている被験者にタペンタドール徐放錠(ER)を8週間投与した際の有効性と安全性を検討した第III相臨床試験の結果を報告した5).主要評価項目の疼痛コントロールが達成された被験者の割合は84.0%(95%信頼区間:70.89~92.83%),有害事象発現率は90.0%(45/50例)であり,モルヒネ徐放性製剤(SR),オキシコドン徐放錠(CR)およびフェンタニル経皮吸収型製剤からタペンタドールERに切り替えた後の有効性および安全性が確認された.本試験では,原疾患に悪性腫瘍を有する被験者を対象としていることから,原疾患に随伴する症状や原疾患に対する治療の副作用も有害事象として報告されている.そのため,本研究では,オピオイドに特徴的な副作用である便秘,悪心,嘔吐および傾眠について,医師が評価した薬剤との関連性を踏まえて検討するとともに,有害事象の発現時期についても検討した.また,本試験ではモルヒネ徐放性製剤(SR)を参照薬として使用しており,タペンタドールERの安全性プロファイルをモルヒネSRと比較検討した.

方法

2010年8月から2012年1月にかけて,全国27施設で実施した第III相臨床試験(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT01309386)のデータベースを用いて,中等度から高度のがん疼痛を有し,オピオイド鎮痛薬が定時投与されている日本人被験者100例に対する,タペンタドールER又はモルヒネSRへの切り替え投与の安全性を検討した.本試験は,ヘルシンキ宣言,医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令等各種規制を遵守して実施し,被験者には事前に同意書を取得した.本試験成績は,本剤の癌性疼痛適応について申請資料として,規制当局の審査・承認を受けたものである.なお,本試験の方法の詳細は既に報告しているが5),以下に概要を示す.

1 対象

対象は,(1)各種癌の診断が確定しており,中等度から高度のがん疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を定時投与している20歳以上の男女,(2)オピオイド鎮痛薬(モルヒネSR錠:120 mg/日以下,オキシコドンCR:15~80 mg/日,フェンタニル経皮吸収型製剤:デュロテップMTパッチは8.4 mg以下,フェントステープは4 mg以下,ワンデュロパッチは3.4 mg以下)をランダム化前に同一用量で使用,(3)ランダム化前3日間における24時間Numerical Rating Scale(NRS)スコア6)の平均値が4.0未満の被験者とした.ただし,ランダム化前3日以内に3回/日以上のレスキュー投与を受けた被験者は除外した.

2 試験デザイン

本試験はランダム化,非盲検,並行群間,任意増量,多施設共同試験であり,1~2週間のスクリーニング期と8週間の非盲検治療期の2期で構成した.

薬剤投与開始日の前日に,100例の日本人被験者をタペンタドールER群またはモルヒネSR群に1:1の割合でランダムに割り付けた.本試験では,試験の分析感度を評価するために,参照としてモルヒネSRを用いた.

3 試験薬

タペンタドールERは25 mg錠,50 mg錠または100 mg錠を用いた.参照のモルヒネSRは10 mg,30 mgまたは60 mg製剤を用いた.

試験期間中に突出痛が発現した場合は,必要に応じてモルヒネまたはオキシコドンの速放性経口製剤をレスキューとして使用した.

4 用法・用量

薬剤は1日2回経口投与した.投与間隔は約12時間毎(目安は午前8時と午後8時)で,少なくとも6時間以上は間隔をあけることとした.薬剤の投与時期は,食前/食後は問わないが,試験期間を通じて可能な限り統一した.

薬剤の初回投与量は,切り替え前のオピオイド鎮痛薬の投与量に基づき決定した(表1).初回投与量に対するタペンタドール,オキシコドン,モルヒネおよびフェンタニルの換算比は,タペンタドール:オキシコドン:モルヒネ:フェンタニル=10:2:3:0.03とした.

表1 治験薬の初回投与量の選択

同一用量の薬剤を2日以上連続して投与した後,医師が増量を必要と判断した場合は,薬剤の増量を可能とした.増量は,①24時間NRSスコアが4以上,または前日のスコアより悪化,②突出痛に対するレスキューが1日3回以上投与を目安に判断した.タペンタドールERの増量幅は,投与量が200 mg/日未満の場合は50 mg/日ずつ増量し,200 mg/日以上の場合は100 mg/日ずつ増量した.モルヒネSRは,投与量が60 mg/日未満の場合は10~20 mg/日ずつ増量し,60 mg/日以上の場合は20~30 mg/日ずつ増量した.投与量の上限は,タペンタドールERは500 mg/日,モルヒネSRは140 mg/日とした.

5 評価方法

ランダム化され薬剤の投与を1回以上受けたすべての被験者を安全性解析対象集団とした.報告された有害事象はMedical Dictionary for Regulatory Activities(MedDRA)ver. 14.1を用いてコーディングした.

薬剤との因果関係は,併用薬,併存疾患,時間的関連性等を考慮し,試験責任医師が「関連なし」,「多分なし」,「可能性小」,「可能性大」または「ほぼ確実」の5段階で評価した.また有害事象のうち,因果関係が「多分なし」,「可能性小」,「可能性大」または「ほぼ確実」と判断された有害事象を副作用と規定した.

結果

1 被験者背景

日本の27施設において120例がスクリーニングされ,このうち100例が1:1の割合で2つの投与群(タペンタドールER群50例,モルヒネSR群50例)にランダムに割り付けられた.タペンタドールER群では,安全性解析対象集団の50.0%が男性であり,平均年齢は66.4歳であった.11ポイントNRSによるベースラインの平均疼痛強度スコアは1.5であった(表2).タペンタドールER群の切り替え前のオピオイドは,モルヒネSRが26.0%,オキシコドンCRが44.0%,フェンタニル経皮吸収型製剤が30.0%であり,モルヒネSR群の切り替え前のオピオイドは,モルヒネSRが24.0%,オキシコドンCRが46.0%,フェンタニル経皮吸収型製剤が30.0%であった.併用薬として,制吐薬を使用していた被験者の割合はタペンタドールER群で82.0%,モルヒネSR群で70.0%であり,最も使用していた薬剤はグルココルチコイド(タペンタドールER群で54.0%,モルヒネSR群で40.0%),ついで5HT3アンタゴニスト(34.0%, 32.0%)であった.また,便秘薬を使用していた被験者の割合はタペンタドールER群で76.0%,モルヒネSR群で84.0%であり,最も使用されていた薬剤は酸化マグネシウム(両群とも68.0%),ついでセンノサイド(40.0%,36.0%)であった.

表2 タペンタドールER群およびモルヒネSR群の患者背景

2 投与期間および投与量

薬剤の投与を完了した被験者の割合は,タペンタドールER群56.0%(28/50例),モルヒネSR群58.0%(29/50例)であった.薬剤投与期8週間における投与期間の中央値(範囲)は,タペンタドールER群では54.5日(1~57日),モルヒネSR群では54.0日(5~57日)であった.平均投与量の中央値(範囲)はタペンタドールER群では130.1 mg/日(71~490 mg/日),モルヒネSR群では36.1 mg/日(20~121 mg/日)であった.

3 有害事象

有害事象の発現率は,タペンタドールER群90.0%(45/50例),モルヒネSR群94.0%(47/50例)であった.胃腸障害の発現率は,タペンタドールER群38.0%(19/50例),モルヒネSR群54.0%(27/50例),神経系障害の発現率はタペンタドールER群36.0%(18/50例),モルヒネSR群34.0%(17/50例)であった.タペンタドールER群またはモルヒネSR群のいずれかの群で10%以上の被験者に認められた有害事象は,疾患進行を除きオピオイドに特徴的な便秘,悪心,嘔吐および傾眠であった.タペンタドールER群およびモルヒネSR群におけるオピオイドに特徴的な有害事象の発現率は,便秘が12.0%および20.0%,悪心がいずれの群も14.0%,嘔吐が6.0%および26.0%,傾眠が16.0%および20.0%であり,悪心を除きタペンタドールER群の方がモルヒネSR群よりも低かった(表3).

表3 いずれかの群で10%以上の被験者に認められた有害事象および副作用

4 試験薬との因果関係

副作用発現率は,タペンタドールER群38.0%(19/50例),モルヒネSR群64.0%(32/50例)であった.胃腸障害の副作用発現率は,タペンタドールER群18.0%(9/50例),モルヒネSR群44.0%(22/50例),神経系障害の副作用発現率はタペンタドールER群18.0%(9/50例),モルヒネSR群26.0%(13/50例)であった(表3).タペンタドールER群およびモルヒネSR群のオピオイドに特徴的な副作用発現率は,便秘が8.0%および20.0%,悪心が8.0%および14.0%,嘔吐が2.0%および24.0%,傾眠が8.0%および18.0%であり,いずれの副作用もモルヒネSR群よりタペンタドールER群が低かった(表3).

5 初発までの期間

便秘,悪心,嘔吐および傾眠の各有害事象について,薬剤投与後の初回の発現をイベントとしたときのKaplan-Meier Plotを図1に示す.

図1 各有害事象の初発までの日数のKaplan-Meier Plot

便秘,悪心,嘔吐および傾眠のいずれにおいても,タペンタドールER群はモルヒネSR群よりも試験期間を通して発現率が低く,その差は嘔吐および傾眠で顕著であった.いずれの事象も初回の事象発現は,投与開始から14日までと試験期間の初期での発現が多かった.

考察

本試験の主要な有効性および安全性の結果は既に報告5)されている.本研究では他のオピオイド鎮痛薬からタペンタドールERに切り替えた際の安全性,特にオピオイドに特徴的な便秘,悪心,嘔吐および傾眠の発現状況について参照薬であるモルヒネSRと比較検討した.

本試験は種々の癌を原疾患に有するがん疼痛を対象とした臨床試験であることから,原疾患の経時的な増悪による状態の悪化,原疾患の随伴症状や原疾患に対する治療に伴う症状の発現が認められる状況下で実施された.そのため,本試験でのタペンタドールERの安全性を評価するにあたっては,上記の点を考慮し,安全性評価の解釈は慎重に行う必要がある.また,本試験は二重盲検を行っておらず,統計的な検証を目的とした比較試験ではないため,参照薬であるモルヒネSRとの統計学的な比較検証は行っていないため,結果はあくまでも数値としての比較である.

タペンタドールER群およびモルヒネSR群のオピオイドに特徴的な副作用発現率は,便秘が8.0%および20.0%,悪心が8.0%および14.0%,嘔吐が2.0%および24.0%,傾眠が8.0%および18.0%であった.本試験では,有害事象に対する支持療法は,試験責任医師の判断で実施されており,制吐薬の併用割合はタペンタドールER群で高く(82.0% vs. 76.0%),一方,便秘薬の併用割合はモルヒネSR群で高かった(76.0% vs. 84.0%)が,いずれの副作用もモルヒネSR群よりもタペンタドールER群で頻度が低かった.

以上中等度から高度のがん疼痛を有する被験者にタペンタドールERを1日2回,8週間経口投与した時の安全性および忍容性は良好であった.

本試験で認められたタペンタドールERの有害事象は,がん疼痛を対象としたランダム化二重盲検試験7,8),非がん疼痛を対象としたランダム化二重盲検試験9,10)で得られたタペンタドールERと類似しており,これらの試験ではオキシコドンCRと比較して,ほぼ一貫してタペンタドールERでは便秘,悪心,嘔吐および傾眠の発現が少ないことが示されている(表4).日本人および韓国人の中等度から高度のがん疼痛を有する被験者におけるオキシコドンCRを対照としたランダム化二重盲検試験でのタペンタドールER群(n=168)およびオキシコドンCR群(n=172)のオピオイドに特徴的な有害事象の発現率は,便秘が30.4%および37.2%,悪心が28.6%および35.5%,嘔吐が25.0%および23.8%,傾眠が17.3%および20.9%であり7),日本人部分集団でも同様の結果であった8).また,海外での変形性膝関節症による中等度から高度の疼痛を有する被験者を対象としたランダム化二重盲検試験でのタペンタドールER群(n=344)およびオキシコドンCR群(n=342)の有害事象の発現率は,便秘が18.9%および36.8%,悪心が21.5%および36.5%,嘔吐が5.2%および17.8%,傾眠が10.8%および19.6%であった9).さらに,海外での腰痛症による中等度から高度の疼痛を有する被験者を対象としたランダム化二重盲検試験でのタペンタドールER群(n=318)およびオキシコドンCR群(n=328)の有害事象発現率は,便秘が13.8%および26.8%,悪心が20.1%および34.5%,嘔吐が9.1%および19.2%,傾眠が13.2%および16.2%であった10).本試験でのこのオピオイドに特徴的な4つの有害事象の発現率は,3つのランダム化比較二重盲検試験での発現率と比べると若干低いが,本試験では,他のオピオイド鎮痛薬を定時投与している被験者からタペンタドールERまたはモルヒネSRへ切り替えを行っているため,オピオイドの耐性の影響が示唆される.

表4 がん疼痛および非がん疼痛を対象としたランダム化二重盲検試験における便秘,悪心,嘔吐および傾眠の発現率

本邦で使用できる強オピオイドは,実質的にモルヒネ,オキシコドンおよびフェンタニルの3成分であり,比較的副作用が少ないとされるフェンタニルには徐放性経口剤がない.WHO方式がん疼痛治療法では,経口剤が第一選択とされているが11),本邦で入手可能な経口投与可能な強オピオイドは本試験実施時モルヒネとオキシコドンの2成分のみであった.このような状況において,便秘,悪心,嘔吐および傾眠の発現が少なく,安全性プロファイルに優れるタペンタドールERが,新たなオピオイドの選択肢に加わったことは,臨床的に意義が大きいと考えられる.

結語

中等度から高度のがん疼痛を対象としたタペンタドールERの8週間長期投与試験で認められた有害事象のうち,オピオイドに特徴的な副作用である便秘,悪心,嘔吐および傾眠を検討した.その結果,タペンタドールERはモルヒネSRと比較して便秘,悪心,嘔吐および傾眠の副作用が少ないことが示唆された.タペンタドールERは安全性プロファイルが良好なオピオイドの経口剤として,がん疼痛における新たな治療選択肢になると考えられた.

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