Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Short Communications
Retrospective Analysis Based on Clinical Experience of Tapentadol in Cancer Pain Management
Tomoe FukunagaTatsuo KamikawaMasahiro SentaShinichi Ishikawa
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2016 Volume 11 Issue 1 Pages 306-310

Details
Abstract

【目的】タペンタドールの臨床使用経験から,鎮痛効果や適応などがん疼痛におけるオピオイドとしての臨床意義を検討する.【方法】当院でタペンタドールを使用した31例の患者を後ろ向き調査で行った.【結果】成功例は19例で,NRSは有意な低下を認め,開始量は73.7±25.6 mg,モルヒネ換算30 mg以下で,完了時は125±49.3 mgであった.導入前に消化器症状がみられた8例中6例で症状の改善がみられた.また成功例と不成功例の比較から,体性痛と神経障害性疼痛が混在した痛みではタイトレーションが難しいことが示唆された.【結論】当院での使用経験からタペンタドールは,非オピオイドもしくは低用量オピオイドからの導入において使用しやすい薬剤と考える.

緒言

がん患者は,病期にかかわらず様々な痛みを伴い,痛みによってQOLの低下をきたす.がん疼痛治療においては,WHO方式が浸透し,オピオイドを中心とした薬物療法が広く行われ,がん疼痛管理の質が向上してきている1)

近年,オピオイドについては本邦でも使用可能な薬剤が増えてきており2),中等度から高度のがん疼痛に対しては,モルヒネ,オキシコドン,フェンタニル,メサドンのほか,2014年8月より使用可能となったタペンタドールが発売された.

タペンタドールは,海外では中等度から高度の慢性疼痛の治療薬として汎用され,特徴として,オピオイドµ受容体作動作用とノルアドレナリン再取り込み阻害作用を有する中枢性鎮痛薬であり,従来の第3段階オピオイドと比較して,µ受容体への作用が少ないことから,副作用として眠気,消化器症状などの有害事象が少ないとされる.また代謝においてはグルクロン酸抱合され,代謝物の活性はなく,代謝物はほとんど(99%)腎排泄される.同様の作用を持つトラマドールと比較して,遺伝的多様性や代謝による影響を受けにくく,よりセロトニン再取り込み作用を減弱しノルアドレナリン再取り込作用を強化したこと,脳移行性も高いため鎮痛作用も強いとされている3,4)

今回,がん疼痛において,タペンタドールを使用した症例を通して,使用状況を検討することで,鎮痛効果や適応などがん疼痛におけるオピオイドとしての臨床意義を考察した.

方法

2014年10月より2015年8月まで当院でタペンタドールを使用した患者を後ろ向きに調査を行った.なお本研究を行うにあたり,姫路赤十字病院での倫理委員会の承認を得た.

非オピオイド,他のオピオイドを使用し,鎮痛が不十分であった緩和ケア外来受診患者31名においてタペンタドールを導入,もしくはスイッチングを行い至適用量到達に達した時点でタイトレーション完了とした.他のオピオイドからタペンタドールへの変更は,タペンタドールと経口モルヒネ換算比は10:3.3を目安とした.痛みの評価については,患者には痛み日誌や口頭での聞き取りを行った.評価基準は,タペンタドール投与前のNRSが4以上で,投与後の3日間の平均NRSスコアが2以上改善,副作用などの有害事象がみられず,内服が継続できた症例をタイトレーション成功とした.完了時期は評価基準を満たした時点とした.タイトレーション期間中,三環系抗うつ薬やセロトニン作用薬との併用や他の鎮痛薬の追加は行わないこととし,薬剤変更や放射線治療や神経ブロックなどの薬物療法以外の追加治療を行った症例はタイトレーション不成功とした.

検討項目として,症例を成功例と不成功例に分け,性別,年齢,PS (Performance Status以下PSとする),がん種,疼痛以外の変更理由を把握した.成功例に関連する背景因子として,痛みの病態やタペンタドール使用前の薬剤について,成功例と不成功例を比較検討することでタペンタドールの使用適応例の検討を行った.痛みの病態においては痛みの性状,神経学的所見,画像所見から内臓痛,体性痛,神経障害性疼痛,体性痛と神経障害性疼痛が混在しているもの(混合性疼痛)に分類した.成功例についてはタペンタドール開始時,タイトレーション完了時(観察終了時)のNRS,使用量,期間を調査した.また不成功例についても,開始時,観察終了時のNRS,投与前の薬物,使用量(モルヒネ換算量),中止理由,転帰(他の薬剤の変更,追加治療)を調査した.なお,統計学的解析について両群間(成功例,不成功例)の比較にはフィッシャー直接確率法(両側)を用いて,タイトレーション前後のNRSの変化にはWilcoxon符号付順位和検定を用いて検討を行った.

結果

患者背景をタイトレーション成功,不成功にそれぞれ分け記載した(表1).痛みの病態と使用前の薬剤の両群間比較したものを示す(表2).投与前の薬剤としては,非オピオイド,トラマドール,病態では内臓痛や体性痛で成功例が多い傾向であった.特に混合性疼痛については,不成功例が多く有意差が認められた.また,タペンタドールへの変更理由として,疼痛鎮痛不十分以外の変更理由として投与前オピオイド使用8例で消化器症状をきたしていたが,うち成功例6例において痛みの改善とともに症状の改善が認められた.

表1 患者背景(タイトレーション成功/不成功)
表2 タイトレーション成功/不成功の2群間比較検討

使用前後のNRSについて,成功例では開始時7 (5.5-8, 6.9±1.6)(中央値,四分位範囲,平均値±SD),完了時3 (2-4, 2.9±1.7)で,NRS変化は有意な改善を認めた(p=0.000).不成功例のNRSでは,開始時6.5 (3.75-9.25, 6.5±2.9),観察終了時8 (5.5-9, 7.2±2.4)でNRSには有意差を認めなかった(p=0.321).

また成功例の使用量において,開始量は73.7±25.6 mg,50-100 mgであり,モルヒネに換算すると30 mg以下であった.完了時は125±49.3 mg,50-200 mg使用されていた.またタイトレーションに要した日数は13.8±8.6日であった.

不成功例においては中止理由,投与量,開始時の使用状況,病態,転帰を示す(表3).投与前量をモルヒネ換算で,60 mg以上の症例が2例存在し,いずれも混合性疼痛であった.中止理由としては,疼痛増強が6例,副作用が5例,自己判断による中止が1例であった.観察終了後は,いずれの症例においてもオピオイドスイッチングや,投与経路の変更を行った.疼痛増強した6例のうち3例でインターベンショナル治療を追加し疼痛コントロールを行った.

表3 不成功例の開始時の状況と中止理由,転帰

考察

本研究は,臨床でのタペンタドールの使用状況を踏まえ,がん疼痛における本薬剤の位置づけを検討したものである.

タペンタドールはµ受容体作用に対する結合親和性がモルヒネなどの他のオピオイドと比較して1/100-1/10程度であるが,ノルアドレナリン取り込み作用が強くその相乗効果を有し鎮痛に作用し4),がん疼痛患者においても鎮痛への有用性が示されている5).さらにµオピオイド受容体への作用が少ないことから他の強オピオイドの鎮痛効果とは異なる機序を示す.このことから神経障害性疼痛への有用性も報告されており6),今回の成功例でもタペンタドールを使用し痛みの軽減が得られた症例があった.

成功例,不成功例での両群間の比較から,混合性疼痛で有意差が認められた.疼痛増強をきたした不成功例は,強い体性痛を有した混合性疼痛で観察終了後は,薬剤の変更や他のインターベンショナル治療を併用した.がん疼痛において,混合性のみならず神経障害性疼痛で,薬物抵抗性であることが多いが,インターベンショナル治療と並行し行うことで,良好な疼痛コントロールを得られた症例報告7)もあり,疼痛治療においては,薬剤導入後も痛みを再評価し適切な治療を選択することが必要である.

成功例でのタペンタドール至適調整量は50-200 mgの低用量であったことから,非オピオイドや低用量オピオイドからの変更において使用調整しやすい薬剤であることが示唆された.

他のオピオイドからタペンタドールへの変更例のうちモルヒネ換算で60 mg以上の症例が2例存在した.1例は400 mgに増量した時点で,発汗,振戦などのセロトニン症候群をきたしオピオイドスイッチングを行った症例であった.タペンタドールのセロトニン症候群については,有害事象報告9)や海外製造販売後安全性情報での報告があるがこれらは,多剤併用されていることが多いため,明確な関連性が示されておらずセロトニン作動薬との相互作用での注意喚起にとどまっている.ただ今回の症例は,セロトニン作動薬との併用がなかったこと,薬剤変更にて症状が改善したことからセロトニン症候群をきたしたと考えた.他の1例は,薬剤変更した時点で,痛みの増強がみられ,オピオイドスイッチングや投与経路変更を要した.2例とも不成功例であったが,モルヒネ換算で60 mg以上の症例への変更を検討した研究において,タペンタドール350-450 mgにおいて安全に変更を行えるという報告もあり8),症例ごとに病態や副作用を把握し,薬効特性や薬剤抵抗性の痛みの存在をふまえ慎重に検討すべきである.

タイトレーション期間においては,平均日数13.8±8.6日,期間は3日から31日とばらつきがみられた.結果から,開始量から至適維持量の期間は1-2週間程度と考えられるが,調整期間14日を超えた症例が7例あった.これらは,持続痛が変化し安定した症状を得るのに期間を要した症例や持続痛の軽減がみられても突出痛のためレスキューを多く必要とし期間を要した症例であった.薬剤の薬効が他のオピオイドとも異なることも考慮し,タイトレーション期間においてはレスキューなど痛みへの十分な対応が必要になると考える.

副作用においては,日韓共同第III相試験でタペンタドールはオキシコドンとの比較において,消化器症状(便秘,悪心嘔吐),傾眠での発現が低く,特に便秘については有意差がみられるとの報告があった9).今回の研究において,成功例のうち,他のオピオイド使用で消化器症状を有した6例で症状の改善が認められたことから,消化器症状がみられる症例や他のオピオイド投与による消化器症状がみられる症例には選択肢として考慮できると考える.

結語

今回,タペンタドールの使用経験にもとづき適応の検討を行った.タペンタドールは,がん疼痛治療における強オピオイドでの選択肢の一つであり,非オピオイドやモルヒネ換算量で30 mg以下の低用量からが導入しやすい薬剤であるが,中等量以上の使用例での効果や,長期投与,安全性も踏まえさらに検討を行う必要があると考える.

References
 
© 2016 by Japanese Society for Palliative Medicine
feedback
Top