Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Short Communications
Validity and Usefulness of Applying Palliative Prognostic Score to Patients with Terminally Ill Hematological Malignancies
Norinaga UrahamaTerumichi FujikawaJun SonoKazumasa Yoshinaga
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2016 Volume 11 Issue 1 Pages 321-325

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Abstract

【緒言】終末期悪性腫瘍患者の予後予測において,最も頻用されているツールの1つにPalliative Prognostic Score (PaP) がある.PaPの対象疾患は,腎がんを除く悪性固形腫瘍で,血液悪性疾患は除外されている.【目的】終末期血液悪性疾患に対してPaPを用いて予後予測することが,妥当で有用であることを明らかにする.【方法】当院ホスピス病棟に入院した終末期血液悪性疾患患者18例に対して,PaPを用いて予後を予測し,予測精度を先行研究と比較する.【結果】21日生存予測の感度は91.7%,特異度は83.3%,陽性的中率は91.7%,陰性的中率は83.3%,正診率は88.9%,30日生存予測の感度は72.7%,特異度は85.7%,陽性的中率は88.9%,陰性的中率は66.7%,正診率は77.8%で,良好な予測精度であった.【結語】終末期血液悪性疾患患者に対してもPaPを適応できる可能性がある.

緒言

がん終末期医療における生命予後予測は,患者や家族の目標および優先順位の設定,医師の治療方針の決定,適切な時期でのホスピスプログラムや支援サービスの紹介などのために重要であり,終末期医療従事者が患者の状態を理解するための共通手段としても有用である1).したがって,医療者はできるだけ正確に予後を予測するように努めなければならないが,終末期がん患者に対する医師の予測は実際の予後より長くなる傾向がある2),主治医-患者関係が長くなるほど予後予測が外れやすくなる3),などの報告があり,完璧な予測は難しく,より正確に評価するために,現在までに様々な客観的な生命予後予測ツールが開発されてきている.

Palliative Prognostic Score(PaP)4,5)は最も頻用されている生命予後予測ツールの一つであり,もともと悪性固形腫瘍(腎がん,多発性骨髄腫,その他のリンパ系腫瘍を除外した悪性固形腫瘍)を対象にして作成されたもので,血液悪性疾患は除外されていたが,その後の検証試験では必ずしも血液悪性疾患を除外しているわけではなく,血液悪性疾患を含む悪性腫瘍患者を対象にした検証試験でも再現性が維持されている6).がんと同様に,高齢化に伴い血液悪性疾患患者数は増加してきており,緩和医療および終末期医療でも診療する機会が増えてきているが,その生命予後予測については,血液悪性疾患患者だけに対象を絞って検証されたものは今までになかった.今回私たちは,当院ホスピス病棟に入院した終末期血液悪性疾患患者に対して,PaPを用いて予後予測した結果を検証することにより,PaPは終末期血液悪性疾患にも適応できる可能性があると考えられたため報告する.

この研究の目的は,終末期血液悪性疾患に対してPaPを用いて予後予測することが妥当で有用であることを,先行研究と比較することにより明らかにすることである.

方法

1 対象患者と対象血液悪性疾患

当院ホスピス病棟は,手術療法,化学療法,放射線療法など,悪性腫瘍に対する治療が全て終了した終末期悪性腫瘍患者を入院適応としている.今回は,2013年3月1日から2015年10月31日までに,当院ホスピス病棟に入院した全ての患者のうち,PaPを計算した全ての終末期血液悪性疾患患者を対象とした.

2 調査方法

本研究は前向き観察研究である.入院前7日以内に施行された全血球計算(CBC)検査により白血球数およびリンパ球比率が判明していれば,その数値を用いて入院後3日以内にPaPを計算し,入院前7日以内に白血球数およびリンパ球比率が判明していなければ,入院後3日以内にCBC検査を施行し,その数値を用いてPaPを計算した.また,対象患者の臨床的な予後の予測は,全て1人の医師が行い,生存期間についてはカルテ情報から調査した.

3 解析方法

血液悪性疾患の中でも,末梢血液中に異形細胞が出現し,CBC検査に異常が生じることが多い白血病および多発性骨髄腫群と,リンパ節病変が中心となり,骨髄浸潤しなければ,通常はCBC検査に異常が生じない悪性リンパ腫群に分け,全血液悪性疾患および両群それぞれについて解析した.今回解析した悪性リンパ腫患者には,骨髄浸潤が指摘されていたり,末梢血中に異形細胞が出現していたりした患者はいなかった.

(1)PaPリスク群分類

PaPは,臨床的な予後の予測,Karnofsky Performance Scale,食思不振,呼吸困難,白血球数,リンパ球比率の6つの項目から得られる合計スコア(0.0-17.5)によって,A(0.0-5.5),B(5.6-11.0),C(11.1-17.5)の3つのリスク群に分けられ,それぞれの群の30日生存可能性は,A : >70%,B : 30-70%,C : <30% である.本稿でも,それぞれの血液悪性疾患症例の合計スコアを求め,3つのリスク群に分類した.

(2)統計学的解析方法

年齢については対応のない両側t検定を行い,性別とPaPリスク群についてはカイ2乗検定を行った.

終末期血液悪性疾患に対するPaPの予測精度を検証するために,全血液悪性疾患,白血病および多発性骨髄腫群,悪性リンパ腫群それぞれにおいて,PaPのカットオフ値ごとの感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率,正診率を求めた.先行研究7)に従い,21日生存予測のためのPaPのカットオフ値として9.0点を,30日生存予測のためのPaPのカットオフ値として5.5点を選定した.

なお,本稿では,個人が同定できないように,内容の記述に倫理的配慮を行った.

結果

1 患者背景

終末期血液悪性疾患患者18例を解析対象とした.18例の患者背景(年齢,性別,疾患,PaP合計スコア,PaPリスク群,生存期間)を表1に示す.

表1 患者背景

年齢(mean±SD)は78.0±5.1歳(69-87歳),性別は男性が9例(50.0%),女性が9例(50.0%),疾患は白血病が3例(16.7%),多発性骨髄腫が4例(22.2%),悪性リンパ腫が11例(61.1%),リスク群はA群が9例(50.0%),B群が6例(33.3%),C群が3例(16.7%)であった.

白血病および多発性骨髄腫群と悪性リンパ腫群に分けて解析したところ,年齢は前者が77.9±5.2歳,後者が78.1±5.3歳で有意差はなかった(p=0.93).性別は前者が男性4例(57.1%)/女性3例(42.9%),後者は男性5例(45.5%)/女性6例(54.5%)で有意差はなかった(p=0.63).リスク群は前者がA群3例(42.9%)/B群3例(42.9%)/C群1例(14.2%),後者がA群6例(54.5%)/B群3例(27.3%)/C群2例(18.2%)で有意差はなかった(p=0.79).

2 予測精度

全血液悪性疾患,白血病および多発性骨髄腫群,悪性リンパ腫群それぞれの21日生存予測と30日生存予測の正診率は,全て70%以上であった.21日生存予測の正診率は,全血液悪性疾患で88.9%,白血病および多発性骨髄腫群で71.4%,悪性リンパ腫群で100.0%であり,30日生存予測の正診率は,全血液悪性疾患で77.8%,白血病および多発性骨髄腫群で71.4%,悪性リンパ腫群で81.8%であった.全血液悪性疾患,白血病および多発性骨髄腫群,悪性リンパ腫群それぞれにおける,PaPのカットオフ値ごとの感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率,正診率を表2に示す.

表2 予測精度

考察

もともとのPaPにおいては血液悪性疾患は除外されているが,今回私たちは,終末期血液悪性疾患に対してもPaPを適応し,血液悪性疾患だけに対象を絞って予測精度を求めたが,先行研究6,7)と比較しても劣らない良好な正診率を維持しており,PaPを終末期血液悪性疾患に対して適応することは妥当であると考えられた.

しかし,白血病および多発性骨髄腫群と悪性リンパ腫群とを比較した時に,悪性リンパ腫群のほうが予測精度が良好であったことは,白血病および多発性骨髄腫群においては,CBC検査に異常が生じることが多く,そのためPaPの6つの項目のうち,白血球数,リンパ球比率において影響が生じた可能性もある.

予後予測については,MaltoniらのPaP4),MoritaらのPalliative Prognostic Index(PPI)8),AndersonらのPalliative Performance Scale(PPS)9),HyodoらのJapan Palliative Oncology Study Prognostic Index(JPOS-PI)10),ChuangらのCancer Prognostic Scale(CPS)11),GwilliamらのPrognosis in Palliative care Study(PiPS)12)など,様々なツールが開発されてきている.また,それらの有用性も確認されてきているものの,どのような疾患で,どの予後予測ツールを用いるべきかなどについては,今まで報告がなく,最近Babaらが,PaP,Delirium PaP13),PPI,PiPSについて,状況によりツールを使い分けることの必要性を明らかにしている7)

患者や家族の予後予測と実際の生存期間とが大きく異なった場合や,予後予測を伝えていない場合など,患者や家族の期待を裏切ることになることもあり,予後の認識のずれが,不信感や医師-患者家族関係の悪化の原因となることもある.主治医が認識する予後よりも,患者や家族が認識する予後のほうが有意に長いという報告14)は,患者や家族が予想する予後と実際の生存期間との間には大きな隔たりが生じる可能性を示唆しており,より正確に予後を予測するという観点からは,今までPaPを適応しなかった終末期血液悪性疾患患者に対してもPaPを適応し,予後を予測する時の一助とすることは有用であると考えられた.

しかし,本稿の研究は単施設における検討で,症例数が少なく,一般化の可能性が低い.また,ホスピス病棟に入院する血液悪性疾患患者は,化学療法の適応がなく,あるいは患者が化学療法を希望しておらず,また,輸血依存性ではない場合が多いなど,一般的な終末期血液悪性疾患患者集団を代表していない可能性がある.今後,多施設での症例数を増やしての妥当性と有用性の検証が求められる.

結論

本稿は,本来は除外されている終末期血液悪性疾患に対しても,PaPを適応することが妥当で有用である可能性を示した.

References
 
© 2016 by Japanese Society for Palliative Medicine
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