2016 Volume 11 Issue 2 Pages 137-145
【目的】ホスピス・緩和ケア病棟での遺族ケアサービスの現状と課題を把握するとともに,2002年調査との比較によって,この10年間での変化を検討することが本研究の目的である.【方法】2011年12月末日時点での緩和ケア病棟入院料届出受理施設を対象とし,看護師長宛てに2002年調査と同じ質問紙を送付した.その結果,156施設から回答が得られた(回収率:68.7%).【結果】最も多く行われていた遺族ケアサービスは手紙送付で78%,次いで追悼会が73%であった.10年前に比べ実施施設の割合はやや減少した.今後の課題に関して,「組織としての体制の整備」との回答が最も多く,10年前と同じ71%であった.「教育の充実」や「遺族のニーズ調査」との回答には減少がみられた.【結語】ホスピス・緩和ケア病棟での遺族ケアサービスの実施状況が示されたとともに,解決に向かいつつある問題や手つかずの課題が示唆された.
緩和ケアの対象は患者だけでなく,その家族・遺族も含んでおり,WHOは緩和ケアの働きの一つとして,「家族が患者の病気や死別後の生活に適応できるように支える」ことを明示している.実際,多くのホスピス・緩和ケア病棟では,遺族ケアの多様な取り組みが以前から行われている1~4).しかしその内容に関して,わが国では標準化された方法があるわけではなく,各施設の裁量に委ねられてきたのも事実である.
筆者らは,2002年に当時の全てのホスピス・緩和ケア病棟97施設を対象に全国調査を実施し,87施設から回答を得て,遺族ケアの実態について報告した5,6).こうした全国規模の調査によって,ホスピス・緩和ケア病棟が直面している遺族ケアの種々の問題点や今後の課題を共有することが可能となり,各施設での改善だけではなく,施設の枠を超えた取り組みに向けての基礎資料を提供できるものと考えられる.
2002年調査以降,遺族ケアへの関心は一段と高まっており,一方で施設数は当時の倍以上に増加し,遺族ケアの実態も以前とは変化している可能性がある.そこで前回調査からちょうど10年が経つ2012年に,同じく全国のホスピス・緩和ケア病棟を対象として,遺族へのケアに関する実態調査を行った.このようなホスピス・緩和ケア病棟における遺族ケアの実態に関する経時的な全国規模の調査は,国内初であり,海外でも見あたらない.このような調査を継続していくことで,ホスピス・緩和ケア病棟における遺族ケアにおいて,解決に向かいつつある問題や手つかずの問題などを客観的に把握し,今後の展開に向けて有益な示唆を得られるものと期待される.
本論文の目的は,わが国のホスピス・緩和ケア病棟における遺族ケアの実施状況と今後の課題について,2012年調査時点での実態を把握するとともに,2002年の全国調査データとの比較によって,この10年間での遺族ケアの実施状況と課題の変化を明らかにすることである.
2012年調査の対象は,2011年12月末日における緩和ケア病棟承認届出受理施設(協議会A会員)227施設全てである.各施設の看護師長宛てに自記式の質問紙を郵送した.227施設中156施設から回答が得られ,回収率は68.7%であった.調査期間は2012年6月から11月である.2002年調査では,2001年12月末日当時の協議会A会員97施設全てを対象に調査を実施して,87施設から回答が得られ,回収率は89.7%であった.調査期間は2002年11月から12月であった.
2 調査内容調査項目は,基本的には2002年調査と同様であり,①遺族ケアサービスの実施状況,②遺族ケアの実際問題,③遺族ケアの今後の課題,④病棟の概要の4領域についてである.実施状況に関しては,まず「貴病棟では,何らかの遺族ケアを行っていますか?」と尋ね,「はい」「いいえ」で回答を求めた.次に「貴病棟では,どのような遺族ケアを行っていますか?」と尋ね,手紙送付・追悼会・サポートグループなど8種のサービスを提示し,「いつも行っている」「たまに行っている」「現在行っていないが今後行う予定」「今後も行う予定はない」の中から回答を求めた.加えて,手紙送付に関しては,①担当スタッフと送付対象,②実施時期について尋ねた.追悼会に関しては,①実施形態(会の呼び名,開催頻度,参加スタッフ,会の対象,案内方法,開催場所,参加費),②プログラムの内容,③参加状況(前年度の参加家族数,前年度の参加人数,前年度の招待家族数)について尋ねた.遺族ケアの今後の課題については,「今後,ホスピス・緩和ケア病棟での遺族ケアに必要なことは何だとお考えですか?」と尋ね,複数の選択肢を提示し,該当するものすべてを選択するように回答を求めた.
3 倫理面への配慮質問紙調査では,研究概要,研究協力の自由意志と拒否権,施設情報の保護などを明記した趣意書を質問紙とともに送付した.そして,回答用紙への回答および返送をもって研究協力への同意を得たと見なした.また個別の施設を特定できる情報は調査事務局(研究代表者の研究室)にて厳重に管理し,発送作業やデータ入力も全て事務局内にて行い,研究が終了次第,破棄することとした.今回の調査で得られたデータは統計的に処理し,個別の施設の情報は一切公表せず,研究目的以外への流用はしないものとした.
2012年調査において回答を得られた156施設の認可病床数は6〜50床,平均19.8床(Standard Deviation; SD=6.5)であり,2011年度の年間死亡患者数は41〜362名,平均142.4名(SD=56.2)であった.2011年度の平均在院日数は10.5〜101日,平均37.8日(SD=14.0)であった.調査時の認可からの経過期間は,1年2カ月~22年1カ月で,平均9年3カ月(SD=60.2)であった.なお156施設のうち前回調査以降に開設された93施設の平均経過期間は6年0カ月(SD=31.7)であった.10年前の前回調査では,認可病床数は平均19.1床(SD=5.7)であり,ほぼ同じであった.年間死亡者数は10年前の平均105.9人(SD=45.5)から36.5名増加し,それに関連して在院日数は前回調査の平均45.5日(SD=13.0)に比べ,7.7日短くなっていた.前回調査での認可からの経過期間は11カ月〜12年7カ月,平均4年10カ月(SD=36.3)であった.
2 遺族ケアサービスの実施状況2012年調査において,回答のあった156施設のうち,147施設(94%)は何らかの遺族ケアを行っており,前回調査の95%とほぼ同一の結果であった.遺族ケアサービスとして最も多く行われていたのは「手紙送付」で,122施設(78%)が「いつも行っている」もしくは「たまに行っている」と回答した(表1).次いで「追悼会」であり,113施設(73%)が定期的もしくは不定期に行っていると回答した.各種サービスについて実施施設群と非実施施設群の2群に分けて前回調査と比較すると,全体的に見ると実施施設の割合は減少傾向であり,とくに「手紙送付」「電話相談」「葬儀参列」「家庭訪問」では有意差が認められ,10%以上も減っていた.有意差は示されなかったが,「知識や情報の提供」においてのみ増加が認められ,前回調査から10%増えていた.
2012年調査において,各種遺族ケアサービスの実施状況と平均在院日数との有意な関係性は認められなかった.一方で,年間死亡者数については,「追悼会」および「知識や情報の提供」の実施施設群において死亡者数が多く(それぞれt=2.34, P<0.05, t=2.27, P<0.05),「葬儀参列」の実施施設群において有意に少ないことが示された(t=−2.40, P<0.05).
3 手紙送付の実施概要手紙送付の実施概要は表2の通りである.2012年調査の結果としては,担当スタッフについては「看護師」との回答が118施設(97%)であった.送付対象は「1家族に1通,主たる介護者のみ」が最も多く,114施設(93%)であった.118施設(97%)が一定の時期にカード送付を行っており,そのうち94施設(77%)が1回のみの送付で,24施設(20%)が複数回の送付であった.1回のみ送付の場合の実施時期は,89施設のうち73施設(82%)が死別後3カ月以内であった.複数回送付の場合の送付回数は,年2回が20施設と最も多く,そのうち16施設では2回目の送付は死別から12カ月後の時点であった.前回調査と比較すると,担当スタッフと送付対象には大きな変化はみられなかったが,送付時期については,時期を決めて1回のみ送付する施設が増加していた.
4 追悼会の実施概要追悼会の実施概要を表3に示す.2012年調査の結果としては,会の呼び名は「遺族会」が49施設(43%)と最も多く,「その他」には,偲ぶ会(7施設),思い出を語る会(3施設)などが見られた.開催頻度は,77施設(68%)が1年に1回であった.参加スタッフについては,ほぼ全ての施設で医師と看護師は参加し,「その他」には,病院職員(9施設),栄養士(8施設),音楽療法士(6施設),薬剤師(6施設)などが含まれていた.追悼会の対象に関して,43施設(38%)が死別から6カ月以上経過した遺族を対象とし,25施設(22%)が12カ月以上経過した遺族を対象としていた.案内方法としては,ほぼ全ての施設が案内状を送付していた.開催場所に関して,病棟内を除く院内が82施設(73%)と最も多く,「院外」には公共施設,葬祭会館(各6施設)などが含まれていた.参加費について,94施設(83%)では徴収していなかった.徴収していた18施設に金額を尋ねたところ,500円(13施設)が最も多く,1000円,3000円が各2施設であった.自由記述式で回答された追悼会のプログラム内容については,113施設のうち,茶話会・グループトークが107施設と最も多く,次いで歌・演奏が78施設であった.宗教家の話,スライド上映,献花,記念撮影,写真展示も複数の施設で行われていた.前回調査と比較すると,追悼会の実施概要にとくに大きな変化は認められなかった.
5 追悼会への参加状況追悼会への参加状況を表4に示す.2012年調査の結果としては,参加家族数の平均は25.3家族であり,参加人数の平均は39.7名であった.参加率は,10%以上20%未満が44施設(46%)と最も多く,次いで20%以上30%未満が31施設(32%)であり,平均参加率は19.5%であった.参加率と,年間死亡患者数(r=−0.002),平均在院日数(r=−0.094)との有意な相関関係は認められなかった.前回調査と比較すると,参加家族数や参加人数はとくに変化はみられなかったが,平均参加率には有意差が認められ,10%以上の減少であった.
6 遺族ケアの今後の課題遺族ケアの今後の課題についての回答は表5の通りである.2012年調査の結果としては,「組織として遺族ケアを行う体制の整備」との回答が111施設(71%)と最も多く,次いで「ケアの必要性の高い遺族の評価(リスク評価)」が90施設(58%),「遺族ケアについての教育の充実」が86施設(55%),「精神科医や臨床心理士など専門家との連携」が81施設(52%)であった.前回調査と比較すると,全体的に減少傾向にあり,とくに「遺族ケアについての教育の充実」(χ2=3.8, P<0.06),「遺族のニーズを把握するための調査」(χ2=3.6, P<0.08),「専門スタッフの任用」(χ2=4.5, P<0.05)においては有意傾向もしくは有意な差が認められ,10%以上の減少がみられた.
今回の2012年調査においても,2002年調査と同様,回答を得られた施設の9割以上で何らかの遺族ケアサービスが提供されており,遺族へのケアがホスピス・緩和ケアの理念としてだけでなく,実際の取り組みとしても定着していることが示唆された.ただ全体的に見ると,2002年調査に比べ,各種遺族ケアサービスの実施施設の割合はやや減少していることも示された.この結果の背景の一つとして,年間死亡者数の増大が推察される.このことは今回の分析結果においても部分的に支持されており,2012年調査において,「葬儀参列」を実施していない施設のほうが,年間死亡者数が有意に多いことが示された.一方で,「追悼会」や「知識や情報の提供」に関しては,実施している施設のほうが年間死亡者数は多く,多数の遺族をケアの対象とする施設において導入される傾向にあるといえる.多忙な職務の中,病棟スタッフが遺族ケアサービスに割くことのできる労力や時間などは限られ,必然的に提供できるサービスの数や種類にも限界があり,取捨せざるをえない状況にあるのかもしれない.
「手紙送付」と「追悼会」は,いずれの調査においても7割以上の施設において実施されており,ホスピス・緩和ケア病棟での代表的な遺族ケアサービスといえる.手紙送付に関しては,両調査ともに実施施設の97%で看護師が担当スタッフとなっており,看護師の職務の一環と位置づけられていることが伺える.送付対象は,1家族につき1通で主たる介護者のみであることは,両調査ともに各施設間で比較的共通しているといえる.送付時期と回数について,2002年調査に比べ,時期を決めて1回のみ送付する施設が増加していた.死別後の悲嘆は長期に及ぶ可能性があり,必要に応じた継続的なケアが期待されることから,時機をみた複数回の送付は遺族にとっては望ましい方法であるかもしれない.しかしながら,主たる担当者である看護師の負担を考えると,とくに年間死亡者数の多い施設では複数回の送付は難しいのが実情であると思われる.手紙を送付する時期について,2012年調査では,1回のみ送付の89施設のうち73施設が,死別後1カ月から3カ月の間に実施していた.複数回送付の場合では,死別後3カ月以内の時点と12カ月後という組み合わせが多かった.どのタイミングでの送付が最も効果的であるのかについて明確な指針は得られておらず,送付時期は各施設の判断に委ねられている.本研究では手紙やカードの内容までは把握していないが,個々の遺族にプライマリーナースによる直筆の手紙を封書で送る施設もあれば,定型の文面の手紙やカードを送る施設もあると思われる.対象となる遺族の数にもよるが,直筆の手紙となれば,送付までに相応の時間を要するであろう.遺族ケアサービスとしての手紙送付の有効性について,坂口ら7)の調査報告では,ホスピス・緩和ケア病棟での手紙送付を経験した遺族221名のうち,91%が助けになったと回答していた.この調査は特定の1施設で行われたものではなく,100施設からランダムに抽出された遺族を対象としており,手紙送付という遺族ケアサービス自体の意義が示されたものである.したがって,各施設によって送付の回数や時期,内容は異なるものの,どのような方法であるにせよ一定の効果を有していると考えられる.そのことを前提としたうえで,担当スタッフの負担を勘案しつつ,よりよい効果を得るための改善を模索していくことが今後求められる.
「追悼会」に関しては,2002年調査と同様,2012年調査でも「家族会」や「遺族会」という呼び名を使用している施設が多く,これらが一般的な呼称として定着していることが示唆される.実施概要についても,両調査とも同様の結果が得られており,半年もしくは1年に1回定期的に,病棟内あるいは院内にて開催され,遺族には案内状を送付し,医師と看護師を中心に多職種が参加して,遺族からは参加費は徴収しない点は,多くの実施施設に共通しているといえる.プログラム内容については,ほとんどの施設において茶話会やグループトークが行われており,追悼会が遺族同士の交流や病院スタッフと遺族の交流の場として位置づけられていることが示唆される.他にも多様なプログラムが示されており,各施設が創意工夫しながら行っている実態が伺える.手紙送付と同様,追悼会の実施方法についても,定式化された指針が示されているわけではない.今回の結果から追悼会の有用性を論じることはできないが,先述の坂口ら7)の調査報告では,追悼会を経験した遺族のうち,92%が助けになったと回答していた.また,Mutaら8)の質的研究でも,病院スタッフとの再会や他の遺族との交流など,追悼会に対する参加遺族の肯定的な評価が報告されている.したがって,遺族同士や遺族と病院スタッフの交流を中心とした追悼会の現行プログラムには,遺族ケアサービスとして一定の有効性があると考えられる.追悼会への参加状況については,参加率が20%未満の施設が半数以上で,2002年調査に比べ倍増しており,平均参加率も10%以上も減少していた.このような全体としての参加率の低下には,この10年間での各施設における年間死亡患者数の増加および平均在院日数の減少が関係している可能性が考えられる.一方で,今回の調査では各施設の参加率と年間死亡患者数,平均在院日数との関係は認められておらず,参加率には,開催頻度や会の対象,地域性など様々な要因が複合的に関係していると思われる.追悼会への参加の有無の背景についてはさらなる検討が必要である.
今後の課題について,2012年調査と同様に9事項を設定して尋ねたところ,「体制の整備」「リスク評価」「教育の充実」「専門家との連携」は前回調査に引き続き,半数以上の施設によって挙げられており,比較的共有された課題であるといえる.各課題への回答割合は,前回調査と比べると全体的には減少傾向にあり,とくに「教育の充実」「ニーズ把握の調査」「専門スタッフの任用」において10%以上の減少がみられた.「教育の充実」に関しては,緩和ケア教育の一環として,学会や各種団体等を通じて遺族ケアを学ぶ機会は着実に増えており,この10年で進展しつつあるテーマであると考えられる.「ニーズ把握の調査」についても,緩和ケア領域において死別悲嘆に関連した調査研究は近年広く行われつつあり,今回の結果に反映されたものと思われる.「専門スタッフの任用」に関しては,課題が必ずしも達成されつつあるというわけではなく,実現可能性が乏しく,現実的な課題としては認識されにくくなったのかもしれない.他方,「体制の整備」「専門家との連携」「リスク評価」については,前回調査と同程度の回答割合であった.「体制の整備」や「専門家との連携」は各施設で対処すべき課題であり,個々の施設の状況によっては対応が困難である可能性もある.「リスク評価」に関しては,まだ実践的な取り組みは進んでいないが,より効果的な遺族ケアの提供に向けて,今後の展開が期待される.今回の調査結果を共有し,教育・研修や調査・研究などに対しては,わが国の緩和ケア分野全体として引き続き取り組んでいくべきであると同時に,各施設が抱える課題については施設ごとでの積極的な対応が求められる.
本研究では,2012年と2002年の調査を通じて,わが国のホスピス・緩和ケア病棟における遺族ケアサービスの実施状況と今後の課題を俯瞰的に把握することができた.ただし,本研究の限界として,両調査において調査対象施設数や回収率が異なるため,遺族ケアの取り組みに関する厳密な意味での継時的な変化を示しているわけではなく,両調査の比較分析結果の解釈については慎重である必要がある.
今回の調査では,各施設での遺族ケアの取り組みを俯瞰的に把握することで,ホスピス・緩和ケア病棟における遺族ケアの実像を明らかにするとともに,多くの施設が抱える課題を共有することができた.また2002年調査との比較によって,遺族ケアを取り巻く動向に関して,進展しつつある課題や未着手のままの課題が浮き彫りとなり,今後の展開に向けて有益な示唆も得られた.今後,本調査で得られた結果をもとに,各施設での改善だけではなく,施設の枠を超えた課題も含め,この先の10年に向けて各施設が連携し,日本におけるホスピス・緩和ケア病棟における遺族ケアの将来のあり方を考えていく必要がある.
本研究は,公益財団法人日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の助成を受けて行われた.