Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Areas Considered Important by Patients Undergoing Anti-cancer Therapy and the Subjective QOL: The SEIQoL-DW of Outpatients under Palliative Care
Yoshihiko SakashitaAyako FujikawaShoko AkizukiMasami Fujisato
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2016 Volume 11 Issue 2 Pages 182-188

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Abstract

【緒言】SEIQoL-DWは半構造化面接により患者が大切に思う5つの領域に焦点をあてて主観的QOLを測定する方法である.本研究はSEIQoL-DW(以下面接)を用いて抗がん治療患者の大切な領域と主観的QOLについて調べるのを目的とした.【方法】緩和ケア外来において痛みがSTAS-Jで1以下などの適格基準を満たす患者を対象に連続的に面接を実施し,抗がん治療患者と緩和ケアのみの患者群に分け集計した.【結果】抗がん治療群35名,緩和ケア群33名に面接を実施した.抗がん治療群で頻出した大切な領域は,家族94%,がん治療69%,健康43%,友人43%,趣味活動40%であった.抗がん治療群の主観的QOL値は平均61.5で緩和ケア群74.4に比べ有意に低かった.【結論】「家族」はQOLに大きく寄与する大切な領域である.一方で「がん治療」を重要視することは主観的QOL低下に繋がる可能性がある.

緒言

緩和ケアは終末期に限らず早期から提供されるべきものである1).近年,早期からの専門的緩和ケアの介入が進行肺がん患者のQOLの向上や生命予後の延長に有効であることが報告2)された.そのため,緩和ケア外来の役割は重要と考えられるが,その担うべき役割の内容3)に関してはまだ十分議論はされていない.

本来,緩和ケアの目的は患者QOLを改善することであるため,患者のQOLを評価することは重要である.しかし緩和ケアの領域におけるQOLの評価法には様々なものがあり,目的によりその評価法を選択する必要がある4)

一般に臨床研究で多く用いられるQOL評価法は標準化された健康関連QOL尺度5,6)である.これらの評価法では質問の領域や内容などは一律に固定されているため,患者群の比較検討などに有効であるが,患者が何の領域を重要視しているかなど,個別の価値観は反映されない限界がある4,7)

一方,患者の価値観を反映できる個別化されたQOL評価法としてThe Schedule for the Evaluation of Individual Quality of Life (SEIQoL:シーコールと読む)8,9)があり,臨床の現場ではその簡易法であるSEIQoL-DW(SEIQoL-Direct Weighting)10,11)がよく用いられている.SEIQoL-

DWは半構造化面接により,患者が大切と思う領域に焦点をあてて主観的なQOLを評価する方法である.この方法では,患者が生活の中で最も大切と思う5つの領域と領域ごとの満足度,各領域の重要性の割合(重み)を知ることができ,さらに全般的QOLを数値として得ることができる.

ホスピスなどで緩和ケアを受ける患者を対象にSEIQoL-DWを行った報告12)はあるが,緩和ケア外来において抗がん治療中の患者を対象に横断的に行った報告はない.緩和ケア外来に通う抗がん治療中の患者と緩和ケアに専念した患者では,大切に思う領域や全般的主観的QOLは異なる可能性がある.

本研究の目的は緩和ケア外来へ通う患者に横断的にSEIQoL-DWを用いて,抗がん治療を受ける患者の大切に思う領域と主観的QOLについて調べ,緩和ケアに専念した患者と比較することである.

方法

2014年9月から2016年2月までに当院緩和ケア外来において,抗がん治療中の患者および緩和ケアに専念した進行がん患者に対して連続的にSEQoL-DWの半構造化面接(以下面接)を実施した.面接の対象は同外来初診から3回目以降の受診で適格基準を満たす患者とした.3回目以降の受診に限った理由は,面接では心の内面を語ってもらう必要があるため,面接者との関係性がない状況での実施は難しいからである.

患者適格基準は,Support Team Assessment Schedule 日本語版(STAS-J)13)にて痛み,痛み以外の身体症状,不安が1以下,明らかな認知機能障害を認めない患者とした.また,面接が精神的負担や倦怠感につながる可能性があると面接者が判断した患者は除外した.

面接はその患者の診療終了後に診察室で引き続き行い,全て一人の医師がSEIQoL-DW実施マニュアル日本語版(暫定版)14)に従い実施した.

面接は大きく次の3つのステップからなった.最初に「現在あなたの生活の中で大切な領域(事柄)は何ですか? 最も大切な領域を5つ挙げてください.」と質問し,患者に大切に思う生活領域について語ってもらい,5つの領域のキーワード(キュー)を抽出した.この際に面接者は患者の語るキューの定義や具体的な内容について記録用紙に記載した.次に「5つの各領域はどの程度よい状況ですか?」と質問し,患者に領域ごとの満足度をVisual analogue Scale(0-100)で示してもらった.最後に「5つの各領域は相互の関連の中でどの位重要ですか?全体の中での重要性の割合をこのスケールで示してください」と質問し,患者に各領域の重要性の割合(重み)を円グラフ様のスケール(図1)で示してもらった.このスケールは面積を自由に変えられる5色の部分からなり,円盤の縁の目盛から各部分の割合を簡単に計測出来るようになっている.面接者がスケールに5つのキューをマーカーで書き込み,患者が各部分を動かしてその面積で各領域の重み(0-100%)を示した.

図1 各領域の重要性の割合(重み)を計るスケール

大切な5つの領域のキューを書き込み,患者が各部分を自由に動かして面積で重みを表現する.

各領域の満足度(0-100)×各領域の重み(0-100%)の総和がSEIQoL-index(0-100)である.SEIQoL-indexは全般的主観的QOLを意味する値である.

面接であげられたキューは患者により表現が多様であるため,面接時の記録用紙に記載されたキューの定義や具体的な内容を参考にしながら,研究グループで同内容の領域を意味するキューをカテゴリーに分類した.

抗がん治療中の患者(以下抗がん治療群)と緩和ケアに専念した患者(以下緩和ケア群)に分け,それぞれの群における患者の大切な領域のカテゴリー頻度,各領域の満足度と重み,SEIQoL-indexについて集計した.なお,患者が同一のカテゴリーに分類されるキューを2つあげた際は,2つの重みの合計の値をその重みとした.

また,患者があげた5つの領域の中で最も大きな重みを付けた領域を患者が最重要視する領域と定義した.

本研究は院内の倫理審査委員会の承認を得た.また,患者には研究に関して説明し同意を得て行った.

結果

期間内に緩和ケア外来の受診した初診患者は421名,そのうち3回目以降の受診において適格基準を満たした患者は69名であった.全員の患者から同意が得られたが,面接開始後に1名でキューの抽出が困難であったため面接を中止した.他に面接中止の希望や疲労の訴えはなかった.抗がん治療群35名,緩和ケア群33名に面接を終了し,平均の面接時間は約16分であった.

患者背景を表1に示す.抗がん治療群では緩和ケア群と比較して年齢が低く,また抗がん治療群の7割以上の患者が2次治療以降の化学療法を受けていた.一方,緩和ケア群は6割以上で化学療法の治療歴があったが,2割は最初から治療適応がないあるいは治療を希望しないなどの理由で未治療の患者であった.

表1 患者背景

両群の面接であげられた大切な領域のキューは多様であった.研究者間で行った主なキューのカテゴリーの分類を表2に示す.抗がん治療群からはがんの治療を意味するキューが多くあげられたため「がん治療」というカテゴリーを作成した.趣味や余暇活動に関するキューは個人により多岐に及んだため「趣味活動」としてまとめた.

表2 主なキューのカテゴリー分類

抗がん治療群と緩和ケア群においてあげられた領域を頻度の多い順に10領域,また頻出5領域の平均満足度と平均の重みを表3に示す.両群において最も頻度の多い領域は「家族」であった.「家族」の満足度は両群において頻出5領域の中で最も高く,重みは緩和ケア群で最も高かった.抗がん治療群において「がん治療」の頻度が2番目に多く,その重みは37.5%であった.

表3 頻出した領域(頻度の多い10項目)

抗がん治療群において「がん治療」を最重要視する患者は13名(37%),「家族」を最重要視する患者が14名(40%)であった.緩和ケア群において,「家族」を最重要視する患者は22名(67%),「健康」を最重要視する患者は7名(21%)であった.

抗がん治療群のSEIQoL-indexは61.5±21.0,緩和ケア群74.4±14.9よりも有意に低かった(図2).さらに,がん治療群において「がん治療」を最重要視する患者は50.0±22.3それ以外の領域を最重要視する患者68.5±16.5に比べ有意にSEIQoL-index値が低かった.

図2 各群における SEIQoL-index=(各領域の満足度×重みの合計)の総和

A 抗がん治療群(n=35)

B 緩和ケア群(n=33)

C 抗がん治療群において「がん治療」を最重要視する患者(n=13)

D 抗がん治療群において「がん治療」以外を最重要視する患者(n=22)

考察

本研究はわれわれの知るかぎり,SEIQoL-DWの半構造化面接を用いて,抗がん治療を受ける患者の大切に思う領域と主観的QOLを調べた最初の研究である.

この研究でまず重要な点は,「家族」が抗がん治療の有無を問わず大切な領域であることである.「家族」は両群の9割以上の患者であがり,共通してその満足度は高かった.これらの傾向はホスピスなどの終末期患者を対象としてSEIQoLを行った研究12)や縦断的に評価したわれわれの研究15)の結果とも一致している.よって「家族」はほとんどの進行がん患者にとって抗がん治療中から終末期に至るまで最も大切な領域の一つであり,主観的QOLに大きく寄与するものである.

次に重要な点は,抗がん治療群の約7割が「がん治療」を大切な領域の一つとしてあげたことである.「がん治療」は,がんの治療そのものを意味し,体調など体の状態を意味する「健康」とは別の概念であった.しかもその平均の重みは「家族」より高く,「がん治療」を生活の中で最重要視する患者は4割近くに及んだ.つまり,抗がん治療患者は緩和ケア群の患者と同様に「家族」「健康」「友人」「趣味活動」などを大切に思いながら同時に「がん治療」を生活の中で重要なものと位置づけている.抗がん治療患者にとって,「がん治療」そのものが主観的QOLに影響する重要な構成要素の一つである.

さらに興味深い点は,抗がん治療群の主観的QOLが緩和ケア群よりも低かったことである.その理由の一つとして抗がん治療群の年齢が緩和ケア群より低かったことが影響した可能性がある.アイルランドで健康高齢者(平均73.3歳)を健康若年成人(平均28.8歳)と比較した研究16,17)において,高齢者群のSEIQoL-indexは82.10と若年成人群77.45より有意に高いことが報告されている.しかしながら,本研究での2群の年齢差はその報告に比べ小さく,年齢による影響はあっても僅かと推測される.むしろ,本研究において「がん治療」を最重要視する患者の主観的QOLが低かったことを勘案すると「がん治療」に大きな重みを付けることが主観的QOLの低下に影響している可能性がある.その理由として「がん治療」そのものの満足度が低いことや,生活の中で「がん治療」を優先するために他の領域が犠牲となっている可能性などが推測された.

Prigersonらの2次治療以降の化学療法施行と全身状態,終末期のQOLとの関連を調べた研究18)において,全身状態がよい患者において化学療法施行は介護者評価による死亡前1週間のQOLを低下させることが報告されている.本研究の結果をあわせて考察すると,抗がん治療中の主観的QOLの低下は終末期のQOLの低下まで影響を及ぼしている可能性がある.また,Greerらは転移性肺癌患者における早期緩和ケア介入の影響を調べた研究19)において,最終化学療法のタイミングなどを最適化することが終末期ケアの鍵となると結論している.緩和ケア外来において「がん治療」以外の領域の重みや満足度を上げられるような支援,つまり「がん治療」の重みを縮小できるような支援が主観的QOLの向上につながるだけでなく,化学療法施行を最適化する意思決定支援にもつながる可能性がある.

本研究の強みは,半構造化面接により患者の心の内面にある大切な領域を引き出し,そこに焦点をあてて主観的QOLを捉えた点にある.しかし,いくつかの限界がある.まず,患者の背景は多様であり2群間の背景も異なることから,厳密な意味での比較はできないと考えられる.また,緩和ケア外来へ紹介された患者のうち身体症状や不安が落ち着いている患者のみを対象としたものであり,抗がん治療を受ける患者全般を反映したものではない.また,連続サンプルではあるが,心理的負担となると考えられる患者は除外されたことから,対象は面接しやすい患者のみが選択された可能性がある.さらに,面接者は抗がん治療群においては主科と併診する緩和医療科医師として関わり,緩和ケア群においては主治医として関わった.診療に関る医師が面接を行ったこと,2群において面接者の立場に違いがあったことは結果に影響した可能性がある.また面接は全て一人の医師が行ったが,その技量によりキューの抽出などに違いが出た可能性もある.

結論

抗がん治療を受ける患者が大切と思う領域は「家族」,「がん治療」,「健康」,「友人」,「趣味活動」などである.「家族」は抗がん治療中から終末期に至るまで主観的QOLに寄与する最も重要な領域である.一方,「がん治療」に大きな重みをつけることは主観的QOLの低下に関係する可能性が示唆された.緩和ケア外来において「がん治療」以外の領域の重みや満足度を上げられるような支援が主観的QOL改善のために有効な可能性がある.

(本研究の一部は第20回日本緩和医療学会学術大会において発表した.またデータの一部は先の報告15)と重複するものである.)

謝辞

SEIQoL-DWに関してご指導をいただいた国立病院機構新潟病院の中島孝先生に深く感謝致します.

References
 
© 2016 by Japanese Society for Palliative Medicine
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