Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Practical Use of Feedback Report of Nationwide Bereavement Survey in Participated Institutions
Naoko IgarashiMaho AoyamaKazuki SatoTatsuya MoritaYoshiyuki KizawaSatoru TsunetoYasuo ShimaMitsunori Miyashita
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2017 Volume 12 Issue 1 Pages 131-139

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Abstract

【緒言】多施設遺族調査の参加施設での調査報告書の活用の実態を把握する.【方法】全国175施設を対象とした遺族調査であるJ-HOPE3研究によるケアの質の評価,遺族の悲嘆・うつについて全国平均との比較および各施設の対象者からの自由記載を各施設にフィードバックした.4カ月後,その活用状況について自記式質問紙の郵送調査を行った.【結果】有効回答率は74%(129施設)であった.フィードバックをスタッフが閲覧した施設は90%,カンファレンスを実施した施設は54%,病院全体に報告した施設は65%であった.約8割の施設が「自施設の強みや弱みを理解できてよかった」などフィードバックに対して肯定的な評価をしていた.48%の施設が何らかのケアの改善に取り組んでいた.【考察】調査結果の活用の実態が明らかになった.緩和ケアの質の向上のために遺族調査でのフィードバックの継続やカンファレンスの促進の必要がある.

緒言

ホスピス・緩和ケアにとって,ケアの質を保証し,患者や家族のQuality of Lifeを向上することは,重要な課題である.そのため,提供されるケアの質や,アウトカムの評価を継続的に行っていく必要がある.しかし,ホスピス・緩和ケア病棟では,全身状態の低下,意識障害,認知障害などのために,患者への調査は方法論的に限界がある場合が多く,近年,遺族からの報告(以下,遺族調査)によって,ホスピス・緩和ケアの質を評価する試みが世界的に標準的な評価手法として実施されている16).また,海外の取り組みとしては,米国で死亡小票を使用した遺族調査7,8)や英国では保健省が主体となり国家統計局のデータベースをもとに1年に1回全国遺族調査(Views of Informal Cares-Evaluation of Services: VOICES)を実施している9,10)

わが国における遺族調査の取り組みとしては,1999年全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会により,ホスピス・緩和ケアを受けた遺族の満足度を評価するはじめての試みが行われた11).2002年には厚生労働科学研究費補助金医療技術評価総合事業「緩和医療提供体制の拡充に関する研究班」により,ホスピス・緩和ケア病棟を利用した遺族に対する調査が実施された1214).これらの動きを受けてホスピス・緩和ケア病棟を対象とした多施設の遺族調査に基づくホスピス緩和ケアの質の評価に関する研究である「遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究(J-HOPE研究)」が2007年から実施され,2014年までに4年ごとに3回実施された15,16).J-HOPE研究は,ホスピス・緩和ケア病棟で提供されているケアの質の保証と向上を目的とし,各研究参加施設に自施設のケアの質の評価結果を全国平均と比較し,改善すべき点や優れている点などを明らかにした内容をフィードバックしてきた.J-HOPE研究の特徴の1つ目は,個人が特定できないように匿名化した自由記載の回答を調査結果とともに各施設にフィードバックする旨は遺族に伝えていることがあげられる.つまり,遺族は直接施設に自由記載の回答が送られることはなく,匿名化されるため,回答バイアスが少ない回答が得ることで,遺族の生の声を施設へ届けることができる.特徴の2つ目は,各施設に調査結果のフィードバックすることができることがあげられる.海外の遺族調査では死亡小票や国のデータベースといった個人単位でデータを収集しているため,施設へフィードバックすることが難しい.英国の遺族調査であるVOICESでは,web上に調査結果を載せてフィードバックを行っているが,各施設単位でのフィードバックは行っていない10).一方,J-HOPE研究は施設単位でデータを収集しているため,各施設にフィードバックすることが容易である.また,J-HOPE3研究では初めての試みとして,多くの施設でフィードバックを活用してもらうために,結果のフィードバック資料だけでなくフィードバック活用の手引きを同封した.これは,フィードバックの結果をどのように活用して自施設のケアの改善や情報共有していけばよいか具体例や案を提示したものである.

緩和ケアの質の保証と向上のために,計画を立て(Plan),計画を実行し(Do),評価を行い(Check),計画を見直す(Action)というPDCAサイクルを有効に機能させることが必要となる.わが国のホスピス・緩和ケアにおいて,J-HOPE研究はPDCAサイクルでの評価(Check)に該当する.しかし,評価(Check)を受けた後,どのように計画の見直しているのか(Action)はこれまで明らかになっていない.本研究の目的はフィードバックされた遺族調査の結果をどのように研究参加施設が活用しているのか,を明らかにして,J-HOPE3研究におけるフィードバックの各研究参加施設の活用状況の実態を明らかにすることである.

方法

J-HOPE3研究は,わが国のホスピス・緩和ケアの質の評価を目的に2014年に日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団研究事業として実施された.自記式質問紙による郵送調査である.研究参加施設は日本ホスピス緩和ケア協会に加盟する一般病院20施設,ホスピス・緩和ケア病棟133施設,在宅ケア施設22施設であり,合計13,584名に調査票が送付され,10,157名(75%)から回収された.本研究は,J-HOPE3研究でのデータ集計後,各研究参加施設を対象に自記式質問紙による郵送調査を実施した.

1 調査手順

2015年7月にJ-HOPE3研究に参加した施設に対し,J-HOPE3研究の調査結果と自由記載の回答をフィードバックした.その際にフィードバック活用の手引きを同封した.その後,11月に各研究参加施設に対し,「フィードバックの活用に関する質問紙」をJ-HOPE3研究担当者宛に送付した.なお,研究担当者はJ-HOPE3研究実施時に自施設で選任しており,職種は限定してない.

2016年1月に返送がない施設に対し再度質問紙を送付した.

フィードバック資料には,以下の5つ項目の全体の平均・区分(一般病棟/緩和ケア病棟/在宅ケア施設)ごとの平均・各研究参加施設の結果の値を示した表とグラフ,各研究参加施設の自由回答を記載した.

(1)終末期のケアの構造・プロセスの評価

ケアに対する評価尺度(Care Evaluation Scale ver.2: CES2)の短縮版を用いて測定した12)

(2)ケアに対する全般的満足度

全般的に受けた医療について「非常に不満足~非常に満足」の6段階で評価した.

(3)望ましい死の達成度の評価

Good Death Inventory(GDI)短縮版を用いて測定した17,18)

(4)悲嘆の評価

悲嘆の評価にはBrief Grief Questionnaire (BGQ)を用いた19)

(5)抑うつの評価

抑うつの評価にはPatient Health Questionnaire 9 (PHQ-9)を用いた20)

調査結果の活用の手引きは,10ページで構成されており,内容は調査結果をスタッフへの閲覧や調査結果をもとにカンファレンスの実施の呼びかけ,活用にあたっての注意点(評価が低い時や否定的な意見があった時の注意点など)等を記載した(付録図1).

2 対象

J-HOPE3研究の参加に同意した施設で日本ホスピス緩和ケア協会に加盟する一般病院20施設,ホスピス・緩和ケア病棟133施設,在宅ケア施設22施設の計175施設を対象とした.

3 調査項目

(1)スタッフのフィードバック資料の閲覧について

スタッフにフィードバック資料を閲覧できるようにしたかどうかを調査した.閲覧できるようにしていた場合,どのような閲覧方法(資料を閲覧できるところに置いていた,コピーして配布した等)と閲覧した職種を尋ねた.

なお,閲覧したスタッフや職種ごとの閲覧人数については,調査票では問わなかった.

(2)カンファレンスについて

フィードバック資料をもとにしたカンファレンスの実施の有無を調査した.実施していた場合,カンファレンスの設定(定期的なカンファレンスかカンファレンスを新たに設定した)や所要時間(15分未満~1時間以上で4件法)やテーマ(自施設の強み・弱み,今後のケアの改善について等の4項目),参加した職種を尋ねた.

(3)ケアの改善について

フィードバックを受けてケアについて見直し,改善を行ったかどうかを尋ねた.

医師・看護師が身体症状の改善に努めること,患者・家族への説明を丁寧に行うこと,家族への配慮等の10項目を尋ねた.

(4)病院全体へのフィードバックの報告について

病院全体にフィードバックの報告の有無を尋ねた.実施していた場合,報告方法(運営会議,委員会,病院長,ホームページ等5項目)を尋ねた.

(5)フィードバックを受けた感想

フィードバックを受けた感想について「自施設の強みを理解できてよかった」,「自由回答で遺族の感謝の言葉が聞けて励みになった」,「改善が必要な点が明らかになり,改善するきっかけになった」など12項目で「全くそう思わない~非常にそう思う」の4件法で評価した.

4 調査期間

2015年7月~2016年1月

5 解析

それぞれの調査項目の分布を算出し,施設区分(一般病棟/緩和ケア病棟/在宅ケア施設)でFisherの直接確率検定を行った.フィードバックを受けた感想を「全くそう思わない=1点」~「非常にそう思う=4点」に得点換算して,(5)フィードバックを受けた感想とフィードバック資料の閲覧状況,カンファレンスの実施状況,病院全体への報告状況の関連をWilcoxonの順位和検定で検討した.(3)ケアの改善とフィードバック資料の閲覧状況,カンファレンスの実施状況,病院全体への報告状況の関連をカイ二乗検定で検討した.統計パッケージJMP Pro11を用いて検定は全て両側検定で行い,有意水準はp<0.05とした.

6 倫理的配慮

本研究は,東北大学大学院医学系研究科の倫理委員会の承認のもと実施した.また,質問紙の返送をもって調査への参加の同意とみなした.

結果

有効回答数は129施設(有効回答率74%)であった.このうち,一般病院15施設(12%),ホスピス・緩和ケア病棟(以下,PCU)97施設(75%),在宅ケア施設16施設(12%),不明1施設(1%)であった.

回答者内訳は,医師63人(49%),看護師54人(42%),MSW3人(2%),事務職4人(3%),不明5人(4%)であった.

各調査項目の結果を表1に示す.スタッフにフィードバック資料が閲覧できるようにしていた施設は116施設(90%)であった.一般病棟よりもPCU,在宅ケア施設が有意に閲覧できるようにしていた施設が多かった.ナースステーションなどに資料を置いていた施設が79施設(68%)で最も実施されていた閲覧方法であった.

表1 各項目の分布

フィードバック資料をもとにカンファレンスを実施した施設は69施設(53%)であった.カンファレンスにて話し合ったテーマとしては「今後のケアの改善について」が59施設(86%),「自由回答について」が62施設(90%)であった.また,在宅ケア施設がほかの施設よりも有意にカンファレンス時間が長かった.

全体の62施設(48%)が少なくとも1つのケアの改善に取り組んでいた.また,改善に取り組んだことで最も多かったのは「家族への配慮をより行うこと」が46施設(36%)であり,次いで「医療者の連携を良くすること」が42施設(33%)と2~3割程度の施設が実際にフィードバックを受けてケアの改善に取り組んでいた.また,一般病棟よりもPCU,在宅ケア施設でよりケアの改善に取り組んでいる割合が高かった.

病院全体にフィードバック資料について報告した施設は84施設(65%)であった.看護部長に報告した施設は57施設(68%)で最も実施された報告方法であった.

フィードバックを受けた感想は,「自施設の弱みを理解できてよかった」と回答した施設が116施設(90%),「自由回答で遺族の感謝の言葉が聞けて励みになった」と回答した施設が112施設(87%)など7つの項目で8割の施設が「非常にそう思う~そう思う」と回答した.「自施設の強みを理解できてよかった」,「病棟の運営について話し合うきっかけになった」,「認証制度のための資料として役立った」の3つの項目では一般病棟よりPCU,在宅ケア施設の方が有意に高かった.

フィードバック資料をスタッフが閲覧できるようにしていたかどうか,カンファレンス実施の有無,病院全体に報告の有無とフィードバックを受けた感想との関係を調べるためにWilcoxonの順位和検定を行った結果を表2に示す.閲覧できるようにしていた施設のほうが「自由回答で遺族に感謝の言葉が聞けて励みになった」(p=0.02),「自由回答で否定的な意見を聞けたのが良かった」(p=0.05)と回答する割合が有意に高かった.病院全体に報告をしていた施設のほうが「自施設の強みを理解できてよかった」(p=0.04),「良い結果だったので励みになった」(p=0.004),「病院全体に緩和ケアを理解してもらうきっかけとなった」(p=0.02),「自由回答で遺族の感謝の言葉が聞けて励みになった」(p=0.004),「自由回答で否定的な意見を聞けたのが良かった」(p=0.01),「認証制度のため資料として役立った」(p=0.008)と回答する割合が有意に高かった.

表2 フィードバック資料の活用状況とフィードバックを受けた感想・ケアの改善への取り組みとの関連

フィードバック資料をスタッフが閲覧できるようにしていたかどうか,カンファレンス実施の有無,病院全体に報告の有無とケアの改善の取り組みの関係を調べるためにカイ二乗検定を行った結果を表2に示す.統計的に有意な結果はすべての項目でカンファレンスを実施した施設が有意にケアの改善に取り組んでいた.

考察

本研究はわが国の遺族調査における各研究参加施設のフィードバックの活用状況の実態を調査した最初の研究である.また,J-HOPE研究は各研究参加施設へフィードバックができるという点で国内外でも稀にみる調査であるため,本研究は国際的にも意義のある研究である.本研究の主たる知見は1) フィードバック資料をスタッフが閲覧できるようにしていた施設は90%であり,カンファレンスの実施をしていた施設は54%だった,2)フィードバックの評価では80%以上の施設が「自施設の強みや弱みを理解できてよかった」,「遺族の感謝の言葉が励みになった」と回答した,3)ケアの改善の取り組みにつながった36%であり,カンファレンスを実施している施設が有意にケアの改善に取り組んでいたことである.

90%の施設はスタッフにフィードバック資料を閲覧できるようにしており,その中でも34%の施設がフィードバック資料を個々に印刷してスタッフに配布していた.多くの施設が何らかの方法で閲覧できるようにしている結果であったが,フィードバックをより活用するためにはカンファレンスの実施が必要である.カンファレンスを実施した施設は半数程度であったため,カンファレンスの実施を促すように活用の手引きでカンファレンスのテーマで具体例をあげるなどの働きかけが重要である.また,フィードバック資料の閲覧,カンファレンスを行った職種では,医師・看護師は9割が閲覧の実施やカンファレンスに参加していた.一方,薬剤師やMSWはそれぞれ40~50%の施設しか閲覧しておらず,カンファレンスにも35~39%の施設しか参加していない.ケアの向上において多職種で行うチーム医療は重要な点である21).医師・看護師だけでなく緩和ケアに関わる職種全体にフィードバックできるように手引きを改正する必要がある.

各研究参加施設のフィードバックの評価で80%以上の施設が肯定的な評価であった理由としては,J-HOPE研究は独立した研究事務局が実施しており,匿名でバイアスの少ない意見を各研究参加施設に届けることができるため,遺族の生の声を聴く機会が少ない施設のスタッフにとっては貴重な結果になったと考えられる.Shimoinabaらは看護師の悲嘆への対応の一つとしてチーム内や看護師同士での経験の共有をあげている22).フィードバックは経験の共有のきっかけになり,看護師の悲嘆へのよい影響を与え,看護師のバーンアウトを防止する可能性がある.Whitebirdらは緩和ケア病棟の看護師は現在の仕事に満足しているため,バーンアウトの有病率は低いことを明らかにしている23).フィードバックは仕事への満足感を提供するため,ケアの改善だけでなく看護師や医療者にとっても意味があるといえる.また,スタッフがフィードバック資料を閲覧していた施設や病院全体に報告していた施設の方が有意にフィードバックを肯定的に捉えた結果であった.以上の結果より,フィードバック資料の閲覧や病院全体への報告などで活用することによってフィードバック資料の内容の吟味ができ,自施設での緩和ケアの現状の理解や日々のケアの励みにつながったと考えられる.

何らかのケアの改善を取り組んだ施設は,48%であった.約半数の施設がケアの改善を取り組んでいるが,より多くの施設がケアの改善に取り組むことが望ましい.ケアの改善への取り組みはカンファレンスの実施と関連していると考えられる.カンファレンスを促すために手引きでカンファレンスの重要性を各研究参加施設へ伝えることが必要である.フィードバックによって症状緩和や意思決定支援などのケアが改善することを考慮すると,施設フィードバックが緩和ケアの向上につながることが期待できる.フィードバックとケアの改善については縦断的研究などでさらなる研究が必要である.

本研究の限界として次の3点をあげる.1つ目は,本調査を行ったために本来はフィードバックを活用しなかった施設も今回フィードバックの活用を行った可能性があるため,「活用した」と回答した施設が実際よりも多く見積もっている可能性がある.2つ目は,回答率が74%であり,比較的フィードバック資料を活用している施設が回答していた可能性がある.3つ目は,横断研究のため因果関係の検討はできないことである.

結論

本研究では,多施設遺族調査であるJ-HOPE3研究の各研究参加施設のフィードバック資料の活用状況の実態が明らかになった.本研究で明らかになったことは,1)フィードバック資料をスタッフが閲覧できるようにしていた施設は90%,カンファレンスの実施は54%,病院全体への報告は65%であった,2)フィードバックの評価は自施設の強みや弱みを理解できてよかった,遺族の感謝の言葉が励みになったとほとんどの施設が回答した,3)ケアの改善の取り組みを行った施設は48%であり,カンファレンスを実施している施設が有意にケアの改善に取り組んでいたことである.緩和ケアの質の向上において今後のJ-HOPE研究といった遺族調査で各研究参加施設へのフィードバックを継続や良いフィードバック方法や活用方法の検討をしていく必要がある.

References
 
© 2017 by Japanese Society for Palliative Medicine
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