Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Good Death of Dying Elderly Patients with and without Comorbid Dementia from the Perspective of Bereaved Family Members
Kazuki SatoArisa KikuchiMitsunori MiyashitaHiroya Kinoshita
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2017 Volume 12 Issue 1 Pages 149-158

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Abstract

【目的】終末期高齢者の望ましい死の達成を認知症併存の有無で比較し関連要因を調べた.【方法】がん・心疾患・脳血管疾患・肺炎のため死亡した高齢者の遺族を対象にインターネット調査を行った.望ましい死の達成はGood Death Inventory (GDI)を用いた.【結果】認知症併存群163名,非併存群224名の有効回答を得た.GDI総合得点は併存群4.2±1.0,非併存群4.4±0.9 (Adj P=0.053)で,ドメイン別では,希望や楽しみ,家族と友人をよい関係,自分のことが自分でできる,で併存群が有意に低かった.併存群での多変量解析の結果,高齢,自宅死亡,家族の精神健康やソーシャルサポート良好でGDIは有意に高かった.【考察】認知症併存の有無で終末期高齢者のGDIにあまり違いはみられなかった.認知症併存の終末期高齢者には症状緩和や尊厳の尊重に加え家族の心理的ケアが重要となる.

緒言

65歳以上の認知症患者は2012年時点で約462万人おり,2025年には約700万人,高齢者の5人に1人に達すると推計されている1).認知症患者の増加に伴い,認知症をもって死亡する人は増えていくことが予想される.認知症の患者の容態に応じた適時・適切な医療・介護の提供が必要である2)

認知症は根本治療薬がなく進行性で,最後は意思疎通や嚥下困難を伴い死に至る疾患である.認知症終末期ではADL(日常生活自立度)低下や認知機能低下して過ごす期間ががんや心疾患などの他疾患と比較して長く3,4),身体症状の緩和や心理社会的な支援,日常生活の支援に加えて事前指示といった早期からの意思決定支援が重要となる57).認知症終末期のQOL評価では,英国での大規模遺族調査8)やオランダでのコホート調査9,10)の先行研究がある.いずれも症状や苦痛,ADL評価が中心であり,終末期のQOLを包括的に評価できていない.

以上より,本研究では,高齢死亡者の終末期のQOLを望ましい死の達成の側面から評価し,(1)認知症併存の有無でQOL評価を比較すること,(2)高齢死亡者のQOL評価の関連要因を認知症併存の有無別に明らかにすることを目的とした.

なお,直接死因としてアルツハイマー病または血管性および詳細不明の認知症と死亡診断書に記載される割合は1.4%に過ぎないため11),「認知症併存」とした.

方法

1 対象

調査時点で1年以内にがん・心不全・脳卒中・肺炎のため家族と死別した遺族約400名を死因の偏りが少ないように対象を抽出した.対象の抽出はインターネット調査会社の登録モニターから行った.本研究では有効回答より65歳未満の患者を対象から除外した.

2 調査手順

2013年11月~2014年8月に市場調査会社にモニター登録し調査参加に同意した遺族に対し,インターネットを利用した質問紙調査を行った.調査会社((株)プラメド)が対象者の抽出と調査を行い,完全匿名化して調査データを作成した.

本研究は「がん患者医療情報の高度活用による終末期医療・在宅医療の全国実態調査に関する研究」班の分担研究として助成を受け,東北大学大学院医学系研究科・医学部倫理委員会の承認(受付番号: 2013-1-411)を得て実施した.本研究は引き続いて計画していた大規模遺族調査のパイロット調査として実施した.パイロット調査の主目的は,遺族による終末期医療の質の評価指標の信頼性・妥当性を検証し,死亡小票を利用したがん患者遺族に対する終末期医療・在宅医療の実態調査に用いる調査票を開発することであった.本論文は終末期高齢者の望ましい死の達成という患者アウトカムと認知症併存に着目した副次的分析の結果であり,終末期高齢患者の介護体験という家族アウトカムと認知症併存に着目した副次的分析は別論文にまとめた12)

3 項目

認知症について,認知症と診断された,または認知症による中等度以上の生活の障害があった,のどちらかに当てはまった回答を操作的に認知症併存群と定義した.認知症による中等度以上の生活の障害の有無は「患者さまが認知症のために,介助なしで適切な洋服を選んで着ることができない,入浴させるためになだめすかして説得することが必要なこともある,といったことはありましたか」のように尋ねた.これはFunctional Assessment Stages(FAST)で中等度の認知機能低下に該当する9).認知症であっても診断されていない可能性を考慮し,家族介護者でも認知症を評価できるよう生活の障害も尋ねた.

望ましい死の達成度の評価は,がん患者の遺族を対象に開発され,信頼性・妥当性が確認された評価尺度Good Death Inventory (GDI)を用いた13).今回は日本人が共通して重要だと考える項目「からだや心のつらさが和らげられている」「望んだ場所で過ごす」「希望や楽しみを持って過ごす」「医師や看護師を信頼できる」「家族や他人の負担にならない」「家族や友人とよい関係でいる」「自分のことは自分でできる」「落ち着いた環境で過ごす」「ひととして大切にされる」「人生を全うしたと感じられる」からなるコア10ドメイン30項目の質問を用いた.死亡前3カ月間について「1.全くそう思わない」~「7.とてもそう思う」の7件法で回答を得た.得点が高いほどより望ましい死の達成,高い終末期QOL評価であることを意味する.GDI総合得点は30項目の平均点である.「家族や他人の負担にならない」ドメインは逆転項目であるため,逆転後の得点を用いた.GDIはがん患者遺族を対象に開発された評価尺度であるため,本研究の分析に先立ち計量心理学的分析を行い十分な信頼性と妥当性を確認した14)

患者背景として,年齢,性別,死因,信仰する宗教,婚姻状況,子,医療費,日常生活に介助が必要だった期間,意識が低下していた期間,死亡場所を尋ねた.

家族介護者背景として,年齢,性別,続柄,介護関与度,付き添い頻度,副介護者,身体的健康状態,精神的健康状態,ソーシャルサポート(周囲の人は話を聞いてくれた,いたわりを示してくれた),信仰する宗教,お参りの頻度,就労状況,現在の抑うつを尋ねた.抑うつは大うつ病障害のスクリーニングツールであるThe Patient Health Questionnaire-2 (PHQ-2)を用いた15).PHQ-2は2項目からなり,合計点(範囲0〜6点)が3点以上の場合に「大うつ病性障害」とスクリーニングする.

終末期に関する意思決定として,話し合い,病状認識,終末期医療の希望を尋ねた.終末期に関する話し合いは,医師-患者間と家族-患者間の話し合いを尋ねた.病状認識は,患者と家族の病状認識の希望と実際,患者の予後認識を尋ねた.終末期医療の希望は,患者と家族の治療と死亡場所の希望を尋ねた.これらは米国での進行がん患者対象のコホート研究の項目と同様である16)

4 解析

測定した項目について認知症併存群と非併存群別に記述統計を算出し,t検定またはFisherの正確確率検定により群間差を検討した.GDIの群間比較では,効果量としてCohen’s d統計量を算出した.d統計量は,0.8以上を大きな差,0.5以上を中程度の差,0.2以上を小さな差と解釈できる17).また,患者の年齢,性別,死因,死亡場所で調整したP値も算出した.次に,GDI総合得点の関連要因の分析を認知症併存群と非併存群のそれぞれのサブグループごとに行った.単変量解析はt検定または分散分析により行った.多変量解析は,患者の年齢・性別・死因(強制投入)と単変量解析でp<0.10となった項目を用いて重回帰分析を行い,変数減少法により変数選択を行った.

統計解析ソフトはSAS 9.4日本語版(SAS Institute)を用い,有意水準は両側5%に設定した.

結果

回答者417名のうち,65歳未満の30名を除外した.認知症の診断ありが98名,FAST中等度以上が146名で,診断ありまたはFAST中等度以上に該当した163名が認知症併存群,どちらも該当しなかった224名が認知症非併存群となった.

患者背景を表1左に示す.有効回答全体(n=380)で,患者の年齢は前期高齢者16%,後期高齢者35%,超高齢者50%,性別は男性52%,死因はがん26%,心疾患25%,脳血管疾患17%,肺炎32%,死亡場所は自宅15%,病院76%,介護施設・老人ホーム10%であった.認知症併存の有無で,年齢,死因,介護必要期間,意識低下期間に有意差がみられた.

家族介護者背景を表2左に示す.有効回答全体で,家族介護者の年齢は高齢者14%,性別は男性47%,続柄は配偶者4%,実子68%,婿・嫁13%,主介護者57%であった.認知症併存の有無で,続柄,介護関与度,精神的健康状態に有意差がみられた.

表1 患者背景と望ましい死の遺族評価との関連
表2 家族介護者背景と望ましい死の遺族評価との関連

終末期に関する意思決定を表3左に示す.有効回答全体で,終末期に関する話し合いは医師と48%,家族と33%の患者が行っていた.病状認識は,患者の40%,家族の80%が先々の見通しを知りたいと考えていた一方,完治不能と認識していた患者は23%,家族57%であった.終末期医療の希望は,症状緩和より延命治療を希望した患者は8%,家族は11%,自宅死を希望した患者は52%,家族は40%であった.認知症併存の有無で,家族-患者間の終末期に関する話し合い,患者・家族の病状認識の希望,患者の病状認識,患者の予後認識,患者の終末期の治療の希望に有意差がみられた.

表3 終末期に関する意思決定と望ましい死の遺族評価との関連

望ましい死の達成の遺族評価を表4に示す.GDI総合得点は認知症併存群の方が有意に低かった(認知症併存群4.18±0.97,非併存群4.44±0.91, d=0.28, p=0.006).ドメイン別では,望んだ場所で過ごす(d=0.22),希望や楽しみをもって過ごす(d=0.26),医師や看護師を信頼できる(d=0.22),家族と友人をよい関係でいる(d=0.28),自分のことが自分でできる(d=0.40),ひととして大切にされる(d=0.28)で認知症併存群の遺族評価が有意に低かった.

表4 望ましい死の遺族評価の比較

認知症サブグループでのGDI総合得点と患者背景(表1右)・家族介護者背景(表2右)・終末期に関する意思決定(表3右)との関連の単変量解析の結果,患者の性別,医療費,死亡場所,家族介護者の身体的・精神的健康状態,周りの人のいたわりや思いやり,遺族のお参りの頻度,医師-患者間の終末期に関する話し合い,患者の終末期の治療の希望が有意に関連した.多変量解析の結果(表5),患者が高齢,死亡場所が自宅,家族介護者の精神的健康状態がよい,周りの人が心配ごとや困りごとがあるときに話を聞いてくれることがGDI総合得点の独立した関連要因であった(決定係数0.28).

表5 望ましい死の遺族評価の関連要因(多変量解析)

認知症非併存サブグループでのGDI総合得点と患者背景(表1右)・家族介護者背景(表2右)・終末期に関する意思決定(表3右)との関連の単変量解析の結果,患者の医療費,介護期間,死亡場所,家族介護者の年齢,性別,身体的・精神的健康状態,信仰,医師-患者間・家族-患者間の終末期に関する話し合い,患者・家族の終末期の治療の希望,家族の死亡場所の希望が有意に関連した.多変量解析の結果(表5),日常生活に介助が必要な期間が短い,死亡場所が自宅,家族介護者に信仰する宗教がある,医師-患者間で終末期に関する話し合いがある,家族が終末期に症状緩和治療を希望することがGDI総合得点の独立した関連要因であった(決定係数0.36).

考察

本研究の主たる知見の第1は,認知症併存の有無で終末期高齢者のGDIにあまり違いはみられなかったことである.単変量解析では統計的に有意で臨床的に小さな差がみられたが,交絡因子の調整後は統計的に有意ではなかった.ドメイン別では,希望や楽しみをもって過ごす,家族と友人をよい関係でいる,自分のことが自分でできるといった,他者との関係や自立,尊厳に関する評価で有意差がみられた.認知症併存のある場合はない場合と比較して,より早期から認知機能やADLの低下がみられる4).認知機能低下により意思疎通・意思決定が困難になったこと,認知機能やADL低下により生きがいとなる活動ができなくなること,希望や楽しみをもって過ごすことが困難になりやすかったことが考えられる.ただし,差の大きさは効果量から判断して臨床的に小さな差の程度であった.本調査では遺族の回答による「認知症の併存」を定義しており,軽度の認知機能低下も含まれている可能性がある.重度の認知機能低下が長期間あった死亡高齢者との比較ではより望ましい死の遺族評価の差が顕著となるであろう.

本研究の主たる知見の第2は,認知症併存の有無で望ましい死の達成の独立した関連要因をそれぞれ検討した結果,認知症併存の有無で独立した関連要因が異なったことである.認知症併存のある場合は,家族介護者の心理面に関する要因が重要であった.認知症併存のない場合は,終末期の意思決定に関する要因が重要であった.共通した関連要因であった死亡場所は,終末期QOLの重要な関連要因であることが先行研究でも示されている18,19)

認知症併存群では患者の年齢,家族介護者の精神的健康状態とソーシャルサポートが独立した関連要因であった.高齢で終末期QOLの評価が高いことは認知症併存に限らず一般的な傾向であり,高齢で症状が少ないことや若年では死を受け入れることや終末期の話し合いをすることが困難であることなどの影響が考えられる.また,家族介護者の心理的な要因との関連が大きかったことが特徴的であった.認知症併存群では自律や関係性,尊厳や楽しみに関するドメインでGDIが低かった.家族介護者の不安定な精神状態はこれらドメインに否定的な影響を与えたのかもしれない.認知症を併存する終末期高齢者に対して,患者の症状緩和や尊厳を尊重したケアだけでなく,家族介護者の心理面へのケアの重要性が示唆された.

認知症非併存群では,日常生活に介助が必要な期間,家族介護者の宗教,終末期に関する意思決定が独立した関連要因であった.ADL低下の期間が長いことは自律した療養生活を阻害し,終末期のQOL評価を低下させたのであろう.認知症併存群では長期間のADL低下が一般的であり,GDIの関連要因として相対的に重要でなかったのかもしれない.また,宗教の有無と終末期のQOL評価との関連は,わが国の緩和ケアに関する大規模遺族調査J-HOPE研究でもみられた知見である.米国のコホート研究は,終末期の積極治療を受けることでQOL評価が低下することを示した20).終末期の治療で延命治療より症状緩和治療を希望することで終末期の積極治療が少ないことにつながり,結果として望ましい死の達成の評価になりやすかったことが考えられる.

本研究の限界は,第1に,遺族の回答による認知症の操作的定義が医学的な認知症の診断と一致しない可能性である.認知症終末期の研究者と協議のうえ,非医療者の立場である遺族は認知機能の評価より日常生活の評価の方が相対的に回答しやすいと考えFASTを選択したが,妥当性の検証された質問項目ではない.実際に死亡高齢者の約40%が認知症併存群に分類され,認知症でない者が多く含まれていた.このことは認知症併存の有無での群間比較の検出力低下に影響を与えたと考えられる.第2に,調査方法がインターネット調査であり,対象がインターネットを利用する人に限定されたことによるサンプリングバイアスである.第3に,望ましい死が遺族による代理評価であり,遺族の主観の影響や思い出しバイアスがある.第4に,望ましい死の達成の評価尺度として用いたGDIはがん患者遺族を対象に開発されたため,認知症に特有の要素を評価できていない可能性がある.

結論

本研究はインターネットを使用した質問紙調査により高齢死亡者の望ましい死の達成を認知症併存の有無で比較し,関連要因を検証した.認知症併存の有無で終末期高齢者のGDIにあまり違いはみられなかったこと,認知症併存の有無で望ましい死の達成の独立した関連要因が異なったことを明らかにした.認知症併存のある高齢終末期患者に対しては,患者の症状緩和や尊厳を尊重したケアだけでなく,家族介護者の心理面へのケアが重要となる.

References
 
© 2017 by Japanese Society for Palliative Medicine
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