Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Safety Assessment of Peripherally Inserted Central Venous Catheter: A Retrospective Single-center Study to Compare Cancer and Non-cancer Patients
Nozomi MarutaToyoaki MarutaToshiyuki TakahashiTetsuya Wada
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2017 Volume 12 Issue 1 Pages 169-174

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Abstract

【目的】末梢挿入型中心静脈カテーテル(peripherally inserted central venous catheter: PICC)留置症例をがん患者と非がん患者で比較し,安全性の検討を行った.【方法】PICCを留置した患者で留置目的・留置期間・合併症の有無などを後ろ向きに比較した.【結果】がん患者は88例,非がん患者は69例であった(以下,がん患者vs.非がん患者).留置目的は高カロリー輸液投与が45 vs. 51例,末梢静脈路確保困難が40 vs. 12例であった(p=0.0022).留置期間は15(6-39) vs. 21(12-40)日であった(p<0.0001).PICC留置に伴う合併症を認めたのは8 vs. 9例で有意差はなかったが,カテーテル関連血流感染は非がん患者で多かった(0.9 vs. 2.0件/1000カテーテル日,p=0.041).【考察】PICCによる合併症発生率はどちらも低く,PICCの安全性が示された.

緒言

末期がん患者では化学療法での薬剤投与,経口摂取困難時の輸液,貧血に対する輸血など,さまざまな場面で静脈路を必要とする.しかし,高齢による血管の脆弱性,脱水,複数回の静脈穿刺による皮下血腫形成などのため末梢静脈路確保に難渋することが多い.このため複数回の穿刺が必要となることが多く患者の苦痛も大きい.このような場合,これまでは中心静脈カテーテルcentral venous catheter (CVC)を鎖骨下静脈や内頸静脈から留置してきたが,近年では末梢挿入型中心静脈カテーテルperipherally inserted central venous catheter (PICC)が広く用いられている.

CVC挿入手技は侵襲的で,挿入時の気胸・血胸や動脈穿刺などの重大な合併症を完全に防止することはできない.また,近年医療安全の観点からCVCの鎖骨下静脈穿刺を禁止する施設や限られた術者のみが施行可能とする施設もある.一方で,腕の静脈から挿入するPICCでは,これらの手技に伴う合併症はほぼないと考えてよい.

挿入後に生じうる合併症としては両者とも①カテーテル関連血流感染症(CRBSI: catheter-related bloodstream infection,②深部静脈血栓症(DVT: deep vein thrombosis),③血管障害,④カテーテル挿入に伴うものがあり,とくにCRBSI,DVTは重要で,死亡率や入院期間の延長に影響を与える.

血管内留置カテーテル由来感染の予防のためのCDCガイドライン2011には「PICCはCVCよりもCRBSI発生率が低い」と記されており1),種々の先行研究でも同様の報告が多い213).このため,当施設でも中心静脈路が必要な症例に積極的にPICCを使用している.しかし,がん患者では化学療法に伴う免疫力の低下や血栓傾向など,さまざまな要因でCRBSIを発生しやすい可能性がある14,15).本研究の目的は,PICC留置症例をがん患者と非がん患者で後ろ向きに比較検討し,PICCの安全性を評価することである.

方法

1 対象

2012年5月〜2015年9月までの期間に当施設でPICCを挿入した患者を対象に,がん患者と非がん患者に分け,挿入目的・抜去理由・留置期間・留置に伴う合併症の有無を後ろ向きに比較した.PICC挿入と管理は血管内留置カテーテル由来感染の予防のためのCDCガイドライン20111)に則して行った.2016年3月31日時点でPICCを継続使用している症例のPICC留置期間は,それまでの留置日数とした.当施設では全ての症例でCRBSIが疑われた時点でカテーテル抜去を実施した.また,発熱に対して何らかの感染を疑って抗生物質を使用し,それでも解熱しなかった場合カテーテルを抜去した.カテーテル抜去により解熱した症例やカテ先培養で陽性となった症例をCRBSIと判定した.

2 統計解析

結果は症例数(%)もしくは平均±標準偏差,中央値 (四分位範囲)で示した.統計解析にはJMP11とExcel for Mac 2011を使用して行い,t検定,カイ二乗検定,フィッシャーの直接検定を用いてp<0.05で有意差ありとした.

結果

1 患者背景

患者背景を表1に示す.がん患者は88例,非がん患者は69例であった.性別,年齢に両群間で差はなかった.PICCは全症例でグローション®カテーテル(シングルルーメン,4Fr:株式会社メディコン,大阪)を使用していた.

表1 患者背景

2 PICC挿入目的と抜去理由

全症例でPICC挿入時の合併症はなかった.

PICC挿入目的と抜去理由を表2に示す.がん患者では高カロリー輸液(51%)と末梢静脈路確保困難(45%)が主な目的で,非がん患者では高カロリー輸液(74%)が主な目的であった(p=0.0022).また,がん患者では死亡(57%)が主な抜去理由で,非がん患者での抜去理由は軽快(37%)が最も多く,次いで死亡(25%)であった(p=0.0002).

表2 PICC挿入目的と抜去理由

3 PICC留置期間と留置中の合併症

PICC挿入前の入院期間とPICC留置期間を表3に示す.結果は中央値(四分位範囲)で示した.いずれも非がん患者の方で期間が長かった (p<0.0001).

表3 PICC挿入前の入院日数と留置期間

PICC留置中の合併症を表4に示す.非がん患者で有意にCRBSI発生が高かった(p=0.041).一方,刺入部発赤(p=0.563)と浮腫(p=0.125)の発生率は両群間で有意差はなかった.

表4 PICC留置中の合併症

考察

PICCとCVCの安全性を比較した研究は,これまでさまざまな分野で実施されてきた26).多くの研究で,PICCはCVCと比較し,挿入時の医原的機械的合併症が少なく,留置後もCRBSI発生率が低いことが報告されている2,3,79).このような報告を受けて,当施設でもPICCを積極的に使用している.しかし,CVCよりもCRBSIの発生率が低いとされるPICCでも,がん患者ではCRBSIの発生率が高くなったとする報告もある (Cheongら:25.7%・8/1000カテーテル日14),Worthら:16%・6.6/1000カテーテル日15)).本研究は末期がん患者と基礎疾患の異なる非がん患者においてPICCの安全性を比較した初めての研究である.

PICC抜去理由としてカテーテルトラブルあるいは刺入部発赤・CRBSI疑いは,がん患者で20%,非がん患者で22%とほぼ同様であった.過去の報告でも,同様の理由でのPICC抜去は20.1%(発熱を含めると31.1%),CVC抜去は11.7%(発熱を含めると28.8%)であり2),カテーテルトラブルや静脈炎,感染症疑いでカテーテルを抜去することは20〜30%の割合で生じると考えてよいだろう.

PICC留置中の合併症は,ほとんどCRBSIか刺入部発赤(静脈炎)であった.先行研究713)で示されたCRBSI発生率は0.4-6.4/1000カテーテル日である.また,がん患者におけるCRBSI発生率の最近の報告では,化学療法もしくは自家造血幹細胞移植を受けた患者で1.81/1000カテーテル日16),外来患者で0.05/1000カテーテル日17)で,前述のCheongらやWorthらの報告14,15)よりも低下している.これはCDCガイドラインの周知が関係しているのかもしれない.本研究でのCRBSI発生率は,がん患者で0.9/1000カテーテル日,非がん患者で2.0/1000カテーテル日,全症例で1.4/1000カテーテル日であり,最近の報告と同等かやや低い結果であった.CRBSIにおける細菌侵入経路として,①カテーテル挿入部位からカテーテル外側を介する経路,②汚染された輸液からカテーテル内腔を介する経路,③他部位の感染源から血流を介する経路が考えられる18).挿入者側の要因としては①,②を予防することが重要である.血管内留置カテーテル由来感染の予防のためのCDCガイドライン2011ではカテーテル使用の適応とカテーテルの挿入・維持管理の適正手順に熟知し,末梢・中心血管内留置カテーテルの挿入・維持管理に求められる能力を持ち訓練された者がカテーテル挿入することを推奨している1).当施設では2名の熟練した医師がマキシマルバリアプリコーションのもとPICCを挿入した.また,PICC導入当初は縫合固定を行っていたが,現在はガイドラインの推奨通り無縫合式固定器具を使用している.ドレッシングやルート使用時の消毒をガイドラインに則って行っていることも,この結果に貢献していると考えられた.Worthらは,血液悪性腫瘍患者でPICCとCVCの合併症について比較し,CRBSI発生率はPICCで6.6/1000カテーテル日,CVCで10.3/カテーテル日で差はなく,どちらも高い発生率であることを報告した15).また,ChopraらはICU患者におけるPICCでのCRBSI発生率は非ICU患者の2倍であると報告した19).PICCでのCRBSI発生率はCVCより低いとはいえ,免疫力の弱まっている患者では十分に感染予防を行うべきである.

その他のCRBSI発生リスク要因としては,①カテーテル挿入前入院期間,②カテーテル留置期間,③挿入部位,④高カロリー輸液などが挙げられる13,17).当施設では療養病棟に長期入院している脳梗塞後・脳出血後患者の病状悪化に伴いPICCを挿入する症例が多く,その結果,本研究でも挿入前入院期間とカテーテル留置期間が有意に長かった非がん患者でCRBSI発生率も有意に高い結果となったと考えられる.

最近の興味深い報告として,ChopraらがPICCはCVCと比較して静脈炎やDVT発生リスクを上昇させる可能性があると報告した6).本研究では,幸いに,静脈炎を疑わせる発赤の発生(全症例で3.1%)とDVTを疑わせる浮腫の発生(全症例で0.6%)は極めて少なかったが,無症候性のDVTは生じていたかもしれない.ESPENの中心静脈栄養ガイドラインにおいて,静脈血栓症予防のために,超音波ガイド下穿刺(Grade C),点滴療法の必要性に合致した最も小さい径のカテーテルの選択(Grade B),カテーテル先端が上大静脈下1/3・atrio-caval junction・右心房の上部にあること(Grade B),血栓症ハイリスク患者に対する低分子ヘパリン皮下注射(Grade C)などを推奨している20).当施設では,カルテに記載がある症例において,超音波ガイド下穿刺が67%(全119症例),カテーテル先端が上大静脈にあるのが80%(全152症例)であった.また,全症例でシングルルーメンのカテーテルを使用していた.こういった背景が血栓症発生率を低くしたと考えられる.上肢のDVTは肺塞栓症を起こす可能性は低いが,がん患者では血栓症発生率が高くなることが報告されており,血栓が感染の温床ともなるので十分注意すべきである6)

本研究の限界:カテーテル感染症診断ツリー2)ではカテーテル抜去による解熱の他に,CRBSIが疑われた後もカテーテルを継続使用し抗生物質投与で解熱した場合もCRBSIとしている.一方で,末期がん患者は腫瘍熱やさまざまな感染症で発熱をきたしやすく,その鑑別に難渋することが多い.このため,当施設ではCRBSIが疑われた症例は全てカテーテル抜去・入れ替えを実施しているため,CRBSIを疑って抗生物質を投与することはなかった.実際,本研究においてもPICC留置中に38℃を超える発熱が,がん患者で37症例(42%),非がん患者で33症例(48%),すなわち全症例の44%で発生しており,それに対してがん患者で22症例(25%),非がん患者で29症例(42%),全症例の32%で抗生物質が使用された.このため,経験的に原因不明のまま抗生物質を投与して軽快しPICC使用を継続した症例の中にCRBSIが含まれていた可能性がある.また,当施設は消化器外科・内科,脳外科,緩和ケア内科を標榜しており,非がん患者の基礎疾患も消化器疾患や脳外科疾患が中心となっている.このため,呼吸器疾患など他の基礎疾患の症例も含めた場合,結果が異なる可能性がある.

結論

末期がん患者はさまざまな場面で中心静脈路が必要となる一方で全身の免疫力が低下しているため,カテーテルの長期留置による感染症発生のリスクが高まり,生命予後やQOLに大きな影響を与えることが懸念される.PICCを使用することでCRBSIだけでなく他の合併症の発生率もがん患者と非がん患者の両者で同程度に低く,末期がん患者におけるPICCの安全性が示された.

付記

本論文の要旨は,第21回日本緩和医療学会学術大会(2016年,京都)で発表した.

References
 
© 2017 by Japanese Society for Palliative Medicine
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