Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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Short Communications
Determination of Adequate Analgesic Dose of Oxycodone Injection in Opioid-switching from Transdermal Fentanyl in Patients with Cancer-related Pain
Manabu TatokoroKeita WatanabeKumiko MatsushitaToru MiyazakiSatoshi Miyake
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2017 Volume 12 Issue 1 Pages 301-305

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Abstract

フェンタニル貼付剤(transdermal fentanyl: TF)からオキシコドン注射剤(oxycodone injection: OXJ)へのオピオイド・スイッチング(opioid-switching: OS)においては,実臨床上オキシコドン投与量の設定に苦慮しうる.本報告では,換算比に基づきTF投与量から換算したOXJの投与量と,実際に鎮痛が達成された時点でのOXJの投与量を後方視的に比較し,鎮痛達成に向けたOXJ投与量を検討した.TFからOXJへのOSを施行した31例中,NRS/VRS=0群(4例)の全例,NRS/VRS>0群(27例)の85%が鎮痛を達成した.達成日のOXJ投与量の中央値は,前者で換算投与量の28%,後者で103%であり後者のばらつきが大きかった.TFからOXJへのOS時,OXJ投与量の設定には鎮痛状態を考慮することが重要である.OS時に痛みがない場合は換算投与量の30%程度で,鎮痛不十分を理由にOSを行う場合でも換算投与量より少量で,鎮痛が達成されうることを念頭に置く必要がある.

緒言

経皮フェンタニル貼付剤(transdermal fentanyl: TF)は,便秘,嘔気,せん妄などの副作用が他のオピオイドに比べて少なく13),汎用されている.しかし,TFは用量調節性に乏しいため疼痛の増強時には適しておらず4,5),当科では迅速な用量調節が可能な6)オキシコドン注射剤(oxycodone injection: OXJ)の持続皮下注射へ切り替えている.しかし,TFからOXJへ切り替える際の明確な方法は確立されておらず7),換算比は定常状態におけるフェンタニルの1日推定平均吸収量:OXJ=1:30〜45とされているが8),その妥当性を検討した報告はない.また,医療用麻薬適正使用ガイダンス8)では,オピオイド・スイッチング(opioid-switching: OS)を行う場合,「痛みのない状況では開始投与量は換算用量よりも少ない用量(20〜30%減)を,痛みがある状況では換算用量よりも多い用量を考慮すること」とされているが,実臨床では投与量の設定に苦慮することも少なくない.

OSでは鎮痛が得られる投与量の迅速な滴定が求められ,不適切な設定を行うと疼痛の悪化だけではなく過量投与による致命的な有害事象が起こりうる9)

本報告では,換算比に基づきTF投与量から換算したOXJの投与量と,実際に鎮痛が達成された時点でのOXJの投与量を後方視的に比較することにより,実臨床における迅速な滴定のための鎮痛達成に向けた投与量を検討した.

方法

1 対象と観察期間

2012年6月〜2016年5月,TFからOXJ持続皮下注射へのOSは49例で施行された.OS後3日以内に死亡した12例,経時的な疼痛評価が不可能であった2例は除外した.OS前後で併用鎮痛薬に変更のあった症例はなく,内服困難症例ではOS前より鎮痛注射剤を継続していた.また,TFの投与量が100 μg/hrを超える4例では段階的にOXJへ切り替えていたが,TF全量をOXJに切り替える前に永眠したため除外し,31例を検討対象とした.なお,本報告ではOS後の観察期間を10日間または死亡までの期間とした.

2 評価項目

診療録からOSの施行理由,先行TFの種類と投与量,併用鎮痛薬,観察期間におけるOXJのベース投与量および1日投与量,有害事象,疼痛の程度を後方視的に調査した.OSの施行理由は診療録より判断し,疼痛評価尺度は看護記録から抽出した Numeric Rating Scale(NRS)またはVerbal Rating Scale(VRS)を用いた.鎮痛達成時のOXJ投与量はOS時の鎮痛状態に影響されるため,NRS/VRS=0とNRS/VRS>0の2群に分けて検討を行った.

3 OSの方法の実際

当科では,OS後の疼痛のモニタリング,OXJによる局所および全身反応,不安感などの観察を重視し,原則としてTFを午前中に剥離しOXJを日勤帯に少量から開始し増量する方法でOSを施行した.鎮痛が得られている場合は日勤帯終了前から,鎮痛不良の場合は増量差分を考慮しTF剥離後速やかにOXJの投与を開始した.

4 鎮痛達成基準

連続した2日間にわたり,NRS,VRSの上昇がなく,定時投与量が一定10)であり,かつレスキュー薬の投与回数が1日2回以下7)またはOXJの1日投与量とベース投与量との差分がベース投与量の8%未満(2時間分)を「鎮痛達成」と定義した.TF投与量を治験における換算比(定常状態におけるTFの1日推定平均吸収量:OXJ= 1.0:41.7)7)に基づきOXJへ換算した量に,OS前日のオピオイドのレスキュー投与量をOXJへ換算した量を加えたものをOXJの換算投与量と定義し11),鎮痛達成時のOXJ投与量と比較した.

5 統計解析

結果は中央値(四分位範囲)で示し,群間比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた.統計解析はJMP9.0を使用し,解析の結果は危険率p<0.05を有意水準とした.

6 倫理的配慮

本報告は友愛記念病院・倫理審査委員会の承認を得た.情報の抽出にあたっては個人が特定されないように倫理的配慮を行った.

結果

症例の年齢中央値は75歳で,男性は39%,原発臓器は消化器系が45%を占めた.TFの剤型は1日型が81%で,投与量は38 μg/hr(13-50)であった.

OSの主理由は,31例(68%)が「鎮痛不十分」,10例(32%)が「レスキュー薬の内服困難」であり,後者のうち4例(13%)がOS時,NRS/VRS=0であった.OXJの投与期間は10日(6-21)で,静脈注射へ変更した1例以外は死亡まで継続した.表1にOS時の鎮痛状態別の治療結果を示す.OXJの投与は,NRS/VRS=0群ではTFの剥離から5時間後に換算投与量の29%から,NRS/VRS>0群では1時間後に42%から開始されていた.前者は後者よりも有意に早くOXJを開始していたが,開始投与量の換算投与量に対する比率では両群で有意差はなかった.前者の全例が翌日に鎮痛を達成したが,後者では観察期間中85%の鎮痛達成率であった.達成できなかった4例のうち,3例はOSから4日目に永眠し,1例はOXJの増量に伴い7日目に静脈注射へ変更した.NRS/VRS=0群はOXJ換算投与量の28%で鎮痛を達成し,103%であったNRS/VRS>0群に比べ,大幅に少ない量であった.OXJの鎮痛達成時の投与量の換算投与量に対する比率分布(図1)では,後者のばらつきが大きく,3例(11%)は換算投与量の2倍以上への増量が必要であったが,11例(41%)は換算投与量より少ない投与量で鎮痛を達成した.とくに,悪性腸腰筋症候群による神経障害性疼痛の増強を認めOSを施行した1症例については,換算投与量の48%量のOXJを開始した結果,強い眠気の出現により減量し,16%で鎮痛を達成した.

表1 鎮痛状態別のオピオイド・スイッチングの治療結果
図1 鎮痛達成時のオキシコドン投与量/先行フェンタニル貼付剤をオキシコドン注射剤へ換算した投与量の比率分布(%)

オキシコドン注射剤(OXJ)への換算投与量は,フェンタニル貼付剤(TF)投与量を国内治験における換算比(定常状態におけるTFの1日推定平均吸収量:OXJ=1.0:41.7)に基づきOXJへ換算した量に,切り替え前日のオピオイドのレスキュー投与量をOXJへ換算した量を加えたものと定義した.鎮痛を達成した27例において,NRS/VRS=0群(n=4)で,換算投与量の中央値28%(四分位範囲:21-47),NRS/VRS>0群(n=23)で103%(71-164)であった.

OSによる有害事象として,便秘(16%),嘔気(9.7%),せん妄(6.5%),強い眠気(6.5%)が出現したが,OXJの中止や再度のOSには至らなかった.強い眠気を生じた症例に対しては,ベース投与量の減量を行い,全例で眠気は消失した.

考察

本報告では,TFからOXJへ切り替える際,NRS/VRS=0群の全例が翌日にOXJ換算投与量の28%で鎮痛を達成した.一方,NRS/VRS>0群の85%が鎮痛を達成し,その際のOXJ投与量の中央値は換算投与量とほぼ同等であったが,ばらつきが大きかった(図1).また,今回,TF剥離後,比較的早期に少量からOXJを開始し増量する方法でOSを実施したが,全症例の87%で鎮痛を達成し,OXJの中止や再度のOSは認めなかった.

OSを行う際,投与量の設定には,切り替え理由,鎮痛状態,先行オピオイドの種類・投与量を考慮に入れるべきとされる12).とくに,TFからのOSについて,谷村ら13)は79%の症例で換算投与量より少ない投与量で鎮痛が得られたと報告した.また,宮原ら10)はTFからOXJへのOSを検証し,OSの理由が「内服困難」であった3例全例が,換算投与量未満で鎮痛を達成したと報告した.本報告でも全症例の48%は換算投与量より少ない投与量で鎮痛を達成した.換算投与量よりも少量で鎮痛が得られる要因として,フェンタニルとオキシコドンの間の不完全交差耐性14)や神経障害性疼痛に対する効果の違い15)などが報告されている.とくにオキシコドンの神経障害性疼痛に対する有効性が示されており16,17),TFの増量に抵抗性の神経障害性疼痛に対し,換算投与量の30%未満で鎮痛が得られた症例が複数報告されている15,18,19).志茂ら19)は神経障害性疼痛を伴う骨転移痛の2例に対してTFからOXJへ切り替えた結果,換算投与量の約25%で鎮痛が得られたと報告した.本結果に示した悪性腸腰筋症候群症例でも僅か16%で鎮痛が得られ,神経障害性疼痛に対する効果の違いもその要因となった可能性が示唆された.

以上の結果から,実臨床におけるTFからOXJのOSでは,鎮痛達成に向けた投与量の設定について,痛みがない場合は換算投与量の30%程度で,鎮痛不十分を理由にOSを行う場合でも換算投与量未満で,鎮痛が達成されうることが示された.

本報告の限界を述べる.第一に,本報告は診療録の後方視的調査であり,一定のOSプロトコールに基づく鎮痛達成に向けた投与量の検討ではなく,OXJの開始時投与量や開始のタイミングなどには主治医のバイアスが加わっていた.鎮痛状態によりOXJの換算投与量に対する開始投与量の比率に有意差はなかったが,TF剥離からOXJ開始までの時間は,増量差分を考慮したことを反映し,NRS/VRS>0群で短かった.今後,症例の厳密な適格基準と,TF剥離からOXJ開始までの時間やOXJの開始投与量など,一定のプロトコールを設けた前向き観察研究で検証する必要がある.第二に,NRS・VRSは看護記録から抽出したが,疼痛評価者を統一できなかったため,NRS/VRS=0とNRS/VRS>0の群分けとした.NRS/VRS=0の症例は臨床上鎮痛良好とされる症例の一部と考えられ,今後,実臨床に即した鎮痛状態の群分けに基づく検討が必要である.第三に,鎮痛達成の定義は臨床試験に準じたが,本報告では診療録上,突出痛への対処と予防投与との区別はできず,1日2回以下というレスキュー投与回数の条件は,臨床的に鎮痛が得られている場合でも鎮痛達成条件を満たせなかった症例も認め,実臨床に即した鎮痛達成条件の設定が必要である.

結論

TFからOXJへ切り替える際,OXJ投与量の設定には鎮痛状態を考慮することが重要であり,痛みがない場合は換算投与量の30%程度で,疼痛緩和に難渋しOSを行う場合でも換算投与量より少量で,鎮痛が達成されうることを念頭に置く必要がある.

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