Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Case Report
A Case Report on the Use of the Rapid-onset Opioid Fentanyl Resulting in Numbness and Pain in the Mouth and Taste Disturbance
Toshihiro ShidaMayumi YamakawaSachiko SuzukiTadashi Shiraishi
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2017 Volume 12 Issue 2 Pages 526-529

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Abstract

【緒言】フェンタニル速効性製剤はがん疼痛管理において,突出痛発現時に使用される.【症例】33歳女性,右乳がん術後,多発脊椎転移,仙骨病的骨折に対して緩和照射が開始された.疼痛治療にはオキシコドン徐放錠およびオキシコドン散を使用していたが,突出痛発現にオキシコドン散を服用しても鎮痛されないため,より効果発現の早いフェンタニルクエン酸塩舌下錠を使用した.その結果,鎮痛効果が認められたが,下唇の痺れおよび味覚障害が出現した.さらに,下顎に疼痛が生じたため食事が困難となり,フェンタニルクエン酸バッカル錠に切り替えた.しかし,溶解した薬剤が口腔内に拡散すると,同様の症状が出現した.【結語】製剤変更後も症状は再現されたため,フェンタニルクエン酸塩または両剤に共通する成分が原因と考えられる.

緒言

フェンタニル速効性(Rapid-onset Opioid: ROO)製剤は口腔粘膜より吸収される即効性の製剤で,突出痛に対するレスキューとして使用される.ROO製剤は従来の短時間作用型オピオイド製剤と比較して効果発現までの時間が早いことが特徴であり1,2),欧州緩和ケア協会(European Association for Palliative Care: EAPC)では,痛みの発現が速い疼痛発作に対してROO製剤を推奨している3).国内ではフェンタニルクエン酸塩舌下錠(以下,フェンタニル舌下錠)およびフェンタニルクエン酸塩バッカル錠(以下,フェンタニルバッカル錠)が発売とされている.当院でこれらを使用した患者で口腔内の痺れ,疼痛,味覚障害を生じた症例を経験したので報告する.

倫理的配慮:本症例を報告するにあたり,山形大学医学部附属病院倫理委員会の承認を受けた(第S-65号).

症例提示

【症 例】33歳,女性

【臨床診断】右乳がん術後,多発脊椎転移,仙骨病的骨折

【現病歴】2010年4月よりneoadjuvant Adriamycin and Cyclophosphamide療法を4コース施行

2011年4月より手術後にパクリタキセル療法(1コース28日間,1, 8, 15日目に投与)を4コース施行.

2011年10月,ホルモン療法開始.

2013年9月,腫瘍マーカー上昇し(NCC-ST: 379.6),カペシタビン錠を内服開始.ゾレドロン酸を併用.

2014年1月,精査MRIにて多発脊椎転移が認められた.

2014年3月,エリブリン投与開始.ゾレドロン酸はデノスマブに変更.

2015年2〜3月,左下肢痛が出現.精査の結果,仙骨部の病的骨折が認められ,転移および骨折部への緩和照射が開始となったが,痛みのため照射中の体位維持が困難であり,疼痛緩和内科に紹介となった.

【初回アセスメント】介入開始時は,疼痛緩和目的にプレガバリンカプセル150 mg分2,オキシコドン徐放錠60 mg分2/日および疼痛時オキシコドン散10 mg/回を使用していたが,主訴である耐え難い左下肢の電撃痛に対しては,オキシコドン散の効果は認められなかった.

疼痛治療の目標は,放射線照射中の体位の維持,仕事の継続,育児の継続とした.初回面談時のアセスメントでは,痛みの性状から,オキシコドン散服用後の効果発現より,痛みの増強のほうが早いため効果がないと判断した.そこで効果発現までの時間がより短いROO製剤の適応と考え1,2),フェンタニル舌下錠を提案した.

【経 過】表1に,フェンタニル舌下錠開始からの経過表を示す.フェンタニル舌下錠は1回100 μgから開始した.使用後,耐え難い下肢の電撃痛(Numerical Rating Scale 10)と比較し,NRS 8まで改善した.しかし,投与30分後,投与部位から下口唇にかけての知覚麻痺が出現した.フェンタニル舌下錠が完全に溶解するまで約20分必要であった.投与1日目は4回使用し,うち3回が30分後の追加投与が必要であった.追加投与により,NRS 5まで改善した.2日目も4回使用し,追加投与は1回であったが,「使用後も痛みが残る」との訴えがあったため,増量が必要と判断し,投与3日目に1回量を200 μgに増量した.4日目,突出痛は良好にコントロールできていたが,投与部位から下顎,およびおとがいにかけての知覚麻痺および味覚障害が出現し,徐々に悪化,食欲も低下した.口腔内のびらんやアフタ等の口腔粘膜の所見はなかった.投与6日目,下顎の知覚麻痺が疼痛に変化し,疼痛のため咀嚼が困難となった.本症状はフェンタニル舌下錠の使用後から発現したため,本薬剤が原因の可能性が高いと考えられた.下顎症状のためQuality of Lifeが著しく低下していると判断し,フェンタニル舌下錠の使用中止を提案した.しかし,患者には効果実感があり,使用継続を希望したため,7日目に投与部位が異なるバッカル錠に切り替えた.切り替え後,舌下錠投与直後に出現した投与部位からおとがいにかけての知覚麻痺や疼痛出現は認められなかったが,溶解した薬剤が口腔内に拡散すると,同様に下顎の疼痛が出現した.投与部位である上顎臼歯部の歯茎に異状は認められなかった.フェンタニルバッカル錠の使用は1日1回〜2回であり,追加投与はなかった.緩和照射の奏効に伴いフェンタニルバッカル錠の使用回数は減少し,オキシコドン製剤のみでの痛みのコントロールが可能となった.以後,口腔内の症状発現の訴えはなくなった.ROO製剤により口腔障害が認められたものの,照射中の体位維持が可能となった.同時に仕事および育児の継続も可能であった.

表1 経過表

また,デノスマブを併用していたため,下顎の症状がデノスマブによる顎骨壊死である可能性も考えられたため,緩和照射後の評価MRIに下顎も含めた撮影を依頼した.その結果,下顎骨に脊椎の転移部位と同様のびまん性の信号変化が認められた(図1).下顎の信号は転移によるものであり,顎骨壊死は否定された.

図1 下顎部のMRI画像

下顎骨への転移を疑う所見(矢印).

考察

本症例では,フェンタニル舌下錠開始後,口腔内の知覚麻痺,疼痛が出現した.フェンタニルバッカル錠に変更後は症状は軽減したが,QOLに大きく影響した有害事象であった.

フェンタニル舌下錠または併用薬の副作用で口腔内症状に関連するものとして,口内炎および口渇が添付文書に記載されているが,本症例では口腔内のびらんやアフタ等は認められていない.また,患者本人から口腔内の乾燥の訴えもなく,報告済みの副作用である可能性は低いことが考えられた.フェンタニル舌下錠は,投与後1時間以内に最高血中濃度に到達し,用量依存的に血中濃度は上昇する.症状は投与直後より発現し,使用継続とともに症状が悪化したことから,フェンタニル製剤の影響は否定できない.フェンタニルバッカル錠に関連する副作用としては,味覚異常が添付文書に記載されている.バッカル錠に変更後も,薬剤が溶解し,口腔内に拡散することで同様の症状が出現している.本症例でも味覚異常が生じているが,バッカル錠に変更前より発現している.その他の併用薬はすべてフェンタニル舌下錠与薬前より使用しており,併用薬の影響は考えにくいため,中止はしなかった.

また,本症例では,デノスマブを使用しており,下顎の症状が顎骨壊死によるものであることが疑われた.MRIの結果,顎骨壊死の可能性は否定されたものの,下顎骨に脊椎転移部位と同様の信号が認められ,下顎骨への転移を疑う所見であった. フェンタニル舌下錠は,キャリア粒子にフェンタニルクエン酸塩原末,崩壊剤,粘膜付着剤を混合した製剤であり,舌下投与により,崩壊した薬剤が粘膜に付着し,キャリア粒子が溶けてフェンタニルが吸収されることから,粘膜に対する物理刺激等の直接的な刺激がある.下顎骨への転移が下顎骨組織または三叉神経の刺激を助長した可能性も考えられる.投与部位の異なるバッカル錠に変更したことで下顎への直接的な物理刺激は避けられたが,唾液で薬剤が口腔内へ拡散するとこれらの症状が出現した.下口唇の痺れや味覚障害,下顎の疼痛は舌下錠使用時と比較して軽減した.バッカル錠の炭酸ガス発泡やpH 調整作用による化学的な刺激で舌下錠投与時と同様の症状が発現した可能性もある.また,主成分であるフェンタニルクエン酸塩または両剤に共通する成分(D-マンニトール,ステアリン酸マグネシウム; 添付文書より)が原因の可能性も否定できない.しかし,ROO製剤において,本症例と同様の報告はなく,詳細は不明である.

舌下錠からバッカル錠に剤形変更することで,舌下錠投与直後に出現した投与部位から下顎,おとがいにかけての知覚麻痺や疼痛は回避できたが,ROO製剤使用後の口腔障害発現はQOLに影響した.一方で,急速に出現する電撃痛に対して有効であり,疼痛治療の目標であった照射中の体位の維持,仕事および育児の継続は達成できたため,患者の満足度は高かった.オキシコドン散の効果発現時間が約30分であるのに対し,ROO製剤は10〜15分であり1,2),急速な痛みの出現に対応できたためと考えられる.両製剤ともに水なしで投与可能であることから,放射線治療中の突出痛に対しても使用でき,照射を完遂できた.ROO製剤の使用を継続したことで,口腔障害を改善することができなかったが,患者の症状,または,製剤の特徴を活かした処方をすることで,緩和照射効果発現までの期間,疼痛をコントロールすることができた.

References
 
© 2017 by Japanese Society for Palliative Medicine
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