2017 Volume 12 Issue 2 Pages 918-922
【目的】当院にて2014年4月に設立したがんサロンの実情と参加者のアウトカムを把握し至適な運営へ生かす.【方法】サロンは対象を一般とし院内で実施,プログラムはミニレクチャー・リラクセーション・語り合いで構成し,参加者にアンケート調査を実施した.【結果】2014年4月〜2015年3月に11回開催し,参加者総数のべ369名,平均参加者数34名(22〜50名),参加者は主に当院受診の患者・家族から成り,女性,60代,診断後3年未満の患者・家族,乳がんの患者・家族が多い傾向にあった.満足度はレクチャーやリラクセーションで高い傾向,参加後に不安が軽減する傾向が示唆された.【考察】定量的な評価手法の洗練,細やかなニーズのアセスメントと適切な支援を提供できる体制の発展が課題と考える.さらにこれを地域へ拡大し他の医療機関におけるがんサロンの普及支援・連携を行いinclusiveな社会の構築に貢献したい.
がん患者の抱える全人的な痛みに対し,がん対策推進基本計画では「全てのがん患者とその家族の苦痛の軽減・療養生活の質の維持向上」が全体目標の一つに掲げられている1).重点課題としては「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が設けられ,その整備に関する指針として「患者・家族の心情へ配慮とコミュニケーション」「適切な情報提供と意思決定支援」等が盛り込まれている2).またがん診療連携拠点病院には「患者・家族サポートグループや患者サロンの運営支援を行うなど,患者とその家族や遺族などがいつでも適切に緩和ケアに関する相談や支援を受けられる体制を強化」3)することが求められ,当院においてもがん情報コーナーによる情報提供に加え,さらなる患者・家族支援の充実を目的とし,「がん患者と家族のサロン虹」を設立し2014年4月より活動を開始した.このような取り組みは多くの機関で実施されているが,運用や内容は多彩であり,当院においても至適な支援を目指すことに配慮し企画した.がんサロンの有効性に関しては,理論的には同じ病の体験をしている他者からのサポート(ピア・サポート)を通じて自身の病のネガティブな影響を減少させると考えられているが,そのアウトカムの評価は不十分であるとの指摘がある4).そこでわれわれは,活動を開始したがんサロンの初年度の実情を把握し,参加者にとってのアウトカムの評価を行うことで,今後の運営へ活かしていくことを目的として本研究を実施した.
運営スタッフは医師1名・看護師2名・臨床心理士2名・医療ソーシャルワーカー3名で構成した.その他協力スタッフとして医師・看護師・管理栄養士・事務・看護ボランティアが各回平均6名参加した.当院のがんサロンは“がんと共存しながら希望ある明日へと向かう架け橋”となることを願い“虹”と命名し,設立の目的を「がん患者・家族の持つ悩み・苦痛に対して,知識・情報,経験者の事例・考え方を話し合う場を提供することで,より良い生活を送ってもらうよう支援する」こととした.対象はがん患者・家族をはじめ一般とし,開催は月1回2時間,院内での実施とした.プログラム構成は第1部を①医療に関する情報提供と正しい理解・適切な判断の促進を目的とし,病気や治療・ストレスマネジメントや医療者とのコミュニケーション・療養生活や医療費等をテーマとした多職種で行うミニレクチャー(40分)②心身のリラックスやストレスマネジメント促進のための臨床心理士によるリラクセーション(20分),第2部を③参加者の交流や情報交換を目的とした,医療スタッフをファシリテーターとする語り合い(50分)とした.参加者が柔軟に参加できるよう,開催時間中の入退室を自由とした.広報は,院外では新聞・市の広報誌,病院ホームページへの掲載,院内ではポスター掲示・広告配布を行った.
2 アンケート調査・解析調査項目は独自に作成し,回答者の背景・参加経路・参加回数・参加目的・参加者のアウトカムとしての満足度および心理状態(参加前後の不安の有無)・サロンへの期待・自由記述とした.アンケート用紙は参加受付時に配布し,退席時に回収した.倫理的配慮として本活動は,自治医科大学附属病院臨床研究等倫理審査委員会Aにおいて承認を得ている〔第臨A14-173号(本研究は実施報告)〕5).
2014年4月~2015年3月に11回開催し,参加者総数のべ369名(第1部365名,第2部241名),平均参加者数34名(22~50名),アンケート回答者は337名であった(回収率91%).回答者の背景を表1に示す.傾向として,女性,60代,当院のがん患者・家族,診断後3年未満の患者・家族,乳がんの患者・家族が多く認められた.複数回答であるが,他院通院中の患者・家族も含まれていた.複数回答で,参加経路は「院内広告」53%,「院外広告」21%,「医療者からの紹介」20%,参加目的は「体のことに関する知識・情報収集」74%,「心のことに関する知識・情報収集」53%,「同じ病気の方々との交流」43%と続いた.参加後の満足度を図1に示す.語り合いで満足以上が40%にとどまり,無回答が半数以上であった.参加前後の不安の変化を図2に示す.参加前に不安を有した33%のうち,参加後72%に不安の軽減が示された.今後の期待として「体のことを学んだり聴いたりしたい」53%,「心のことを学んだり聴いたりしたい」43%,「同じ病気の方との交流を持ちたい」42%との回答が複数回答で得られた.また個別対応の希望があり23件に行った.初年度の最終回における参加回数は,初参加が13%,リピーターが87%であった.
まず実情からみると,当院のがんサロンの初年度においては,参加者数が一定数保たれていた.がんサロンの運営においては参加者の確保が課題となり得る4)とされているなか予想以上の数であり,リピーターも多かった.企画・運営側の取り組みとして,まず広報活動の重要性4,6)の認識に立ち,地域の協力を得て院外の広範囲にわたってこれを実施できたため,他院受診者の参加にもつながった可能性がある.また,「がん患者を含む国民が,がんを知り,がんと向き合い,がんに負けることのない社会を目指す」というがん対策推進基本計画1)に則り,対象を一般と設定した.さらに,多彩な内容を設けることが参加の理由となる4)ことが示されており,魅力あるプログラムを目指してレクチャー・リラクセーション・語り合いと複数の内容で2部構成とした.こうしたことが様々な背景の参加者の集まりにつながったのかもしれない.参加者の要因として,このような場の潜在的なニーズの存在を反映したものとも考えられる.患者は診断後3年未満が多く,「がんと診断された時からの緩和ケア」の場の一つとして認識され始めたのかもしれない.プログラム内容として,レクチャーは,参加者のがんに関する情報への理解・関心・知ることへの葛藤等が不明という難点が存在する時点からの開始であったが,専門的・先進的な内容をわかりやすく提示することに留意した結果,満足度の高い傾向につながったと考える.リラクセーションはレクチャー後に実施し,心身のリラックスを図り語り合いにつなぐ構成とした.満足度は高く,不安の緩和や向き合いを促すアイスブレイクとしても機能したことが考えられる.語り合いは,本研究は整合性の観点からアンケート回答者全員の満足度の報告となるが,無回答が散見されたことを考慮し,年度後半には語り合いへの参加者のみの回答が反映されるよう,回収を第1部終了時,第2部終了時に分けて実施することとした.また参加者の意向調査を行い,疾患や治療時期によって分ける等の参加者の希望をグルーピングに採用した.こうして共通点のある参加者との共感や不安の緩和と,一方で相違点のある参加者の別の角度からの体験や考え方感じ方を知ることを通じた気づきを支持していくことで,語り合いが機能的に展開することを期待している.
続いて参加者のアウトカムについては,今回は満足度と参加前後の心理状態(不安の有無)を評価項目とした.集団を対象とする運営においては,要望も多様である.この点については幅広いレクチャー内容,語り合いでのグル―ピングの工夫や個々の意向がなるべく表出・尊重できる進行,個別対応を適宜行い適切な専門的支援への橋渡しを行い,参加者が罹患体験を機に建設的な変化へ向かえるべく継続参加を促すことも対策の一つと考えられる.
当院のがんサロンの運営は,PDCAサイクルの手法を用いて,医療者主導型で計画(plan)し,サロンを開始(do)し,参加者の主体性を含めて活動を評価(check)し,課題を明確化し改善を図る(act)ことを進めてきている.今後もこの手法に基づきがんサロンの運営の発展を目指していく.これに関連し,先行文献ではがんサロンの意義として,情報収集や交流のほか,安心感や気持ちの整理,主体性の回復等の心理状態の変化が示されている4,6).本研究においても参加者の満足度・不安の変化・そして「いろいろな人がいると考えさせられた.私は,私であると思える時間をありがとうございました」等の自由記述からこうした側面が示唆されており,さらなる分析を要する.また統計力7)の課題を考慮し,定量的な指標を設定したさらなる評価研究を進めていきたい.
今後はがんサロンの運営と参加者にとってのアウトカムの評価を定量的に行える手法を確立し,細やかなニーズへのアセスメントと適切な支援を提供できるチーム体制の発展を進めていくことが課題である.さらにこれを地域へ拡大し,他の医療機関におけるがんサロンの普及支援や連携を行い,inclusiveな社会の構築に貢献していきたい.