Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Short Communications
Development and Linguistic Validation of the Japanese Version of the Good Death Scale
Maiko KodamaMiki KobayashiKanji KatayamaKouichi TanabeTatsuya Morita
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2017 Volume 12 Issue 4 Pages 311-316

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Abstract

医療者による緩和ケアの質評価尺度のうち,アウトカムの評価尺度としてGood Death Scale(以下,GDS)があり,その信頼性と妥当性が確認されている.本研究の目的は,言語的に妥当な翻訳版を作成する際に標準的に用いられる手順に従い,GDS日本語版(以下,GDS-J)を作成することである.順翻訳においてGDSの問3. Has the patient arranged everything according to his/her own will? の“will”の日本語訳と,その日本語訳「意思」の逆翻訳に意見の相違が見られた.研究チームで言語として原版と同等であると言語的妥当性を検討し,最終的には原版の開発者に承認を得てGDS-Jの確定とした.医療者による緩和ケアの質評価尺度であるGDS-Jを使用することで,自身の行う緩和ケアの質が評価可能となり,より質の高い緩和ケアの提供に役立つことが期待される.

緒言

提供されている緩和ケアの質評価は,構造・プロセスに加え,アウトカムに関しても行う必要がある.海外では,2000年頃から緩和ケアの重要なアウトカムの一つである「望ましい死(good death)の達成」に関して多くの研究が行われてきた13)

それを受けて,日本においても「日本人にとっての望ましい死」を明らかにする研究が実施され4,5),「望ましい死の達成度」を遺族の視点から評価するための評価尺度である「Good Death Inventory: GDI」が開発された6).その信頼性と妥当性が確認され,調査に広く使用されている.

一方,アンケートによる遺族調査の方法論的な難しさの一つとして倫理的な配慮と科学的な妥当性のバランスが挙げられる7).つまり,アンケートが送付されることによりつらい気持ちになったり不快に感じたりする遺族が少ないながらもいることを考えると,倫理的な配慮として回答を無理強いすることがないように配慮する必要がある.また,科学的な妥当性としてはアンケート調査の有効回答数が60〜70%程度と回収率の低さが挙げられる.

それらを補い得るものとして医療者による評価尺度が考えられるが,筆者が調べたかぎりで我が国ではそれに該当するものはなく,海外では国立台湾大学病院ホスピスで開発されたGood Death Scale(以下,GDS)がそれに該当する811)

本研究では,言語的に妥当な翻訳版を作成する際に標準的に用いられる手順に従い,GDS日本語版(以下,GDS-J)を作成することを目的とした.

方法

日本語版の作成

GDS-J作成にあたり,GDSの開発責任者であるCheng Shao-Yi医師に日本語版作成の許可を文書で受けた.翻訳作業には,原版の意味内容を的確に反映しているかを検討するために,言語的に妥当な翻訳版を作成する際に標準的に用いられる手順に従って行った1214)

一連の翻訳作業の流れを図1に示す.

図1 Good Death Scale日本語版の作成の手順

まず,緩和ケアに精通した日本語を母国語とする医師1名と日本語を母国語とする翻訳者1名(非医療者)が,それぞれ英語から日本語訳A, Bを作成し(順翻訳),前述の医師とは別の日本語が母国語である緩和ケアに精通した医師が,英語の原作と日本語訳A, Bに関して意味内容に差異がないか筆者らを含む研究メンバーと合議し,統一した日本語訳を作成した.その後英語が母国語である翻訳者2名(1名は医療者,1名は非医療者)が統一した日本語訳から英語訳A, Bを作成(逆翻訳).次に,2つの逆翻訳された英語訳A, Bと原作を比較し,翻訳者と研究メンバー(緩和ケアチーム医師2名,認定看護師2名,薬剤師2名,MSW 1名)によって,2つの英語訳間,英語訳と原作間で,意味的,概念的,経験的に,言語的に同等であると合意できるか話し合い,言語的妥当性を検討した.また,原文と2つの英語訳の意味内容が臨床的に一致しているかを前述のCheng Shao-Yi医師に書面で確認を取り,承認を得て,最終の日本語訳を作成した.

原版の選定

医療者による緩和ケアのアウトカム評価尺度として,台湾における緩和ケア病棟で信頼性と妥当性が確認されているGood Death Scale(GDS)を原版とした1518).原版を図2に示す.GDSは,Weismanの良い死の定義を基に台湾文化に合うよう修正を加えたもので,終末期がん患者の身体的,心理的,社会的,および精神的なドメインを5つの質問項目から評価する;1.死を迎えつつあることへの認知(0=全く知らなかった,3=完全に知っていた),2.自己の病気への受容(0=全く受け入れられなかった,3=完全に受け入れられた),3.患者の意思の尊重(0=患者の意思は反映されなかった,1=家族の意思のみにしたがった,2=患者の意思のみにしたがった,3=患者と家族の両方の意思にしたがった),4.死亡時期の適切性(0=準備できていなかった,1=家族だけが準備できていた,2=患者だけが準備できていた,3=患者と家族両方が十分に準備できていた),5.死亡前3日間の身体的快適さ(0=大変苦しかった,1=苦しかった,2=少し苦しかった,3=苦しくなかった).担当した医療者がそれぞれの質問に0〜3点で点数付けし,項目ごとと合計点数で数値が高いほど患者は良い死を迎えたと評価する.質問の回答に自信が持てない場合は,他のチームメンバーと協議を行う.

図2 Good Death Scale原版

GDS開発時,信頼性と妥当性の検証として,患者の死後,緩和ケアチーム(医師2名,看護師2名,心理士1名,チャプレン2名,社会福祉士1名からなる専門家集団)がGDSを記入し,0〜15点で点数化して良い死の程度を評価した.より点数が高いほど,より良い死であった.緩和ケアチーム個々のメンバーの意見が検討され,最終点数はチームミーティングで決定された.意見の相違がある場合は,主にプライマリーケアナースの意見に拠った.内的一貫性を評価するためにCronbachのα係数を5項目全体で算出したところ0.71であった.また,緩和ケアチームによる内容的妥当性の検討が行われ,4件法(1=全く関係ない~4=とても関係ある)にて測定された内容的妥当性指数19)は0.93であった.次に,10名のボランティア(遺族)が質問項目の表面的妥当性と記入しやすさを検証するため,質問項目に回答した.

GDSを選択した理由としては,台湾が日本と文化背景が大変類似していると言われていること17),評価手順が簡便であること,またこの評価尺度を用いることにより,医療者による終末期がん患者のQOL評価が可能となり,ケアの質を高めることにつながると考えたことが挙げられる.

結果

図2に英語の原版,図3に最終の日本語訳を示す.

図3 Good Death Scale日本語版(GDS-J)

日本語訳A, Bの大きな相違は問3. Has the patient arranged everything according to his/her own will? の“will”の和訳だった.日本語訳Aでは「意志」,日本語訳Bでは「意思」と訳された.「意志」は「何かをしようとする(積極的な)気持ち」,「意思」は「考え,気持ち」である.質問の流れから,この質問は患者の積極的な気持ちより患者の考え,気持ちとした方が自然であると考え,統合した日本語では「意思」を採用した.

また逆翻訳において,「意思」が“wish”と訳されたが,別の候補訳として“intention”が挙げられた.原作の“will”,逆翻訳の“intention”共に「〜するつもり,意図」と翻訳できるため,最終の日本語訳は「意思」のままとした.最終の日本語訳に関して,自然な日本語表現であることを研究チームで確認した.

その後原著者に確認し,どちらの英訳も原作と比較して臨床的に意味内容が同一であることを確認し,日本語訳最終版とした.

考察

医療者による緩和ケアの質評価として有用な,進行がん患者において信頼性・妥当性が確認されているGDSについて翻訳を行った.今回の翻訳過程では,言語的に妥当な翻訳版を作成する際に標準的に用いられる手順を使用し,GDS-Jを作成した.作成過程において,問3.Has the patient arranged everything according to his/her own will? の順翻訳が翻訳者によって解釈に差異が見られ,この問いが翻訳時に困難となると考えられた.最終的な日本語訳は「患者は自分の意思にしたがってすべてを準備しましたか?」とし,多職種でも検討した結果,自然な日本語表現であるとの結論に達した.

文化差による内容的妥当性の検証の際,GDSの問1に患者の死の自覚や,問4に死亡した時期の適切性が含まれており,日本における良い死の定義と乖離している可能性が挙げられた.Miyashitaらの調査によると,「残された時間を知り,準備をすること」,「他人に感謝し,心の準備ができること」は50%以上の日本人が重要視していることとして報告されている5).ほとんどの日本人とは言えないため,日本人に適用すると内容的妥当性はやや低くなる可能性はあるが,50%以上の日本人には当てはまる可能性が高いこと,今回は言語的妥当性の検証を優先したことを考慮し,そのまま採用した.

GDS-Jは5つの質問項目からなるシンプルな指標であり,実施する医療者にとっても負担少なく緩和ケアの質評価が行えると考える.また,この指標を用いることで自身の行う緩和ケアの質が評価可能となり,より質の高い緩和ケアの提供に役立つことが期待される.

本研究の限界として,計量心理学的な分析がなされていないこと,内容的妥当性が原版と比べてやや低い可能性が挙げられることから,GDS-Jを用いるにはこれらの限界に注意すべきと考えられる.

結語

今回,医療者による緩和ケアの質評価尺度について,日本語版の作成と言語的妥当性の検討を行った.今後は臨床における信頼性と妥当性の検証が必要である.

謝辞

本研究は,平成28年度科研費(若手研究(B) No.16 K19308)の補助を受けて行った.

利益相反

森田達也:講演料(塩野義製薬株式会社)

その他:該当なし

References
 
© 2017 by Japanese Society for Palliative Medicine
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