Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
A Retrospective Analysis of Early Death after Admission in Advanced Cancer Patients at the End-of-life in Single-institution
Tetsuo HoriShuji HiramotoAyako KikuchiAkira YoshiokaTomoko Tamaki
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2017 Volume 12 Issue 4 Pages 747-752

Details
Abstract

進行がん患者の終末期における入院後早期死亡患者の実態についてはあまり知られていない.2011年8月〜2016年8月に死亡した進行がん患者を対象とし後方視的に検討した.入院後3日以内に死亡した患者は83例あり全死亡510例の16.3%であった.入院後3日以内に死亡した患者(早期死亡群)と4日以上で死亡した患者(非早期死亡群)の終末期症状(せん妄,疼痛,呼吸困難感,悪心嘔吐,倦怠感)について比較したところ有意差は見られなかった.治療介入では平均輸液量・平均オピオイド使用量は早期死亡群が非早期死亡群より有意に多く,持続的鎮静は早期死亡群で非早期死亡群より有意に少なかった.入院後早期死亡リスク因子を解析したところ年齢,性別,臨床病期,組織型,状態悪化時の化学療法,合併症では有意差はなかった.がん種,転移個数,入院時意識レベル,入院時PSは早期死亡におけるリスク因子として関連が示唆された.

緒言

緩和専門施設入院によるがん終末期治療を行うと,患者の苦痛緩和ができるだけでなく,患者のQuality of Life(以下QOL)を維持できること,介護者の疲労や予期悲嘆の軽減ができることが報告されている1,2)死期が直前に迫ってから入院することはよく経験するがそのような入院では不十分な緩和ケア介入となっている可能性がある3).ホスピスなどの緩和専門施設においても入院後3日以内に死亡する症例が14.3%あったとする先行研究があるが4),そのような早期死亡例では症状コントロールや家族ケアを含み,不十分な緩和ケア介入となりスタッフの疲弊にもつながると推察される.専門施設への適切な入院の時期について考察した報告は少なく5),進行がん患者の終末期における入院後早期死亡患者の実態についての報告はあまり知られていない.本研究の目的として入院後早期死亡においては不十分な緩和ケア介入となることを仮定し,その実態を検証する.

方法

単一施設における後方視的研究である.2011年8月〜2016年8月で当院の腫瘍内科・緩和ケア内科において死亡した進行がん患者を対象とし,緩和ケア病棟開設前の一般病棟における看取りも含まれる.入院から3日以内に死亡した患者群を早期死亡群,4日以上経過し死亡した患者群を非早期死亡群と定義し,それらを比較することとした.主要評価項目は終末期症状と終末期治療介入について比較を行った.終末期症状は死亡日から遡って3日以内に認めた5つの症状(せん妄,疼痛,呼吸困難感,悪心嘔吐,倦怠感)をカルテベースで検索し有症率を解析した.評価スケールはNumerical Rating Scale(以下NRS),あるいはSupport Team Assessment Schedule日本語版(以下STAS-J)を使用した.NRSについては一般病棟あるいは緩和ケア病棟の看護師が評価しているもので1日の最悪値を採用し,STAS-Jは週に2回程度病棟カンファレンスで評価しておりNRSの欠損を補完した.死亡日から遡って3日以内の症状においてNRS 4以上あるいはSTAS-J 2以上を症状ありと判定した.意識レベル低下や治療による影響で症状がなくなれば症状なしとした.それぞれの症状の比較についてはChi-square testにて統計解析を行った.終末期治療は同様にカルテベースで検索し死亡日から遡って3日以内の平均輸液量(L/日),苦痛緩和のための持続的鎮静の有無,平均オピオイド使用量(経口モルヒネ換算mg/日)についてそれぞれ検証した.またそれぞれの項目について有意差検定(Welch’s t-test, Chi-square test)を行った.副次評価項目として入院後早期死亡におけるリスク因子解析を行った.年齢,性別,がん種,入院時の転移臓器個数,臨床病期,組織型,Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status(以下PS)低下時のがん薬物療法,入院時合併症個数,入院時意識レベル,入院時PSを予後リスク因子とした.PS低下時のがん薬物療法は最終投与時に①PS 2以上の患者に2種類以上の殺細胞性抗がん剤を投与した症例,または②PS 3以上の患者に1種類の殺細胞性抗がん剤あるいは分子標的薬を投与した症例と定義した.入院時意識レベルはJapan Coma Scale(以下JCS)を用いた.これらのリスク因子を用いて入院後3日以内死亡のオッズ比に関してロジスティック回帰モデルを用いて求めた.最初に単変量解析を行い,のちに全ての因子を用いて多変量解析を行った.全ての因子解析に用いた項目は単変量解析,多変量解析前に設定していた.全ての因子解析に用いた項目は単変量解析,多変量解析前に設定していた.統計ソフトはJMP Pro12を使用した.本研究内容については当院における倫理委員会による承認を受けた(登録番号:三菱京都17-4).

結果

対象となる患者は510症例あり,早期死亡群は83症例,非早期死亡群は427症例であった.がん種別には胃食道癌が114例(22.4%)と最も多く,以下胆膵癌98例(19.2%),肺癌84例(16.5%)と続いた.組織型では腺癌が223例(43.7%)と最も多かった(表1).早期死亡群において,死亡3日以内の5つの症状(せん妄,疼痛,呼吸困難感,悪心嘔吐,倦怠感)について非早期死亡群と比較したが,それぞれにおいて有意差は見られなかった(表2).平均輸液量は早期死亡群では0.34 L/日で非早期死亡群の0.20 L/日と比較して有意(P=0.0031)に多かった.持続的鎮静を行ったのは早期死亡群では4.82%であり非早期死亡群の28.64%と比較して有意(P<0.0001)に少なかった.平均オピオイド使用量は早期死亡群では23.54 mg/日で非早期死亡群の41.11 mg/日と比較して有意(P=0.0016)に少なかった(表3).

表1 患者背景
表2 終末期症状(有病率)の比較
表3 終末期治療の比較

入院後早期死亡におけるリスク因子解析でそれぞれの因子において単変量解析を行ったところ年齢,性別,臨床病期,組織型,PS低下時の化学療法,合併症において有意差はなかった.胆膵胃食道癌はそれ以外のがん種と比較し早期死亡に関連している傾向(P=0.086)があった.転移臓器個数(P=0.018),入院時意識レベル(P<0.0001),入院時全身状態PS(P<0.0001)は早期死亡における有意なリスク因子であった(表4).多変量解析では転移臓器個数(P=0.057)は早期死亡に関連している傾向にあった.入院時意識レベル(P<0.0001),入院時全身状態PS(P=0.0004)で早期死亡における有意なリスク因子であった(表5).

表4 入院後生存期間におけるリスク因子(単変量解析)
表5 入院後生存期間におけるリスク因子(多変量解析)

考察

本研究の重要な点として呼吸困難感などの終末期症状については概ね早期死亡群と非早期死亡群とで差がないことが挙げられる.終末期症状の程度は増加傾向となり症状の有病率が増える傾向にあるといわれている4).せん妄,疼痛,呼吸困難感,悪心嘔吐,倦怠感などこれら症状の有病率は大規模試験などの報告6)と比較すると本研究では低い,これは死亡直前期の有病率を検出しており意識レベル低下や持続的鎮静などにより見かけの有病率が低い可能性がある.

それに対して終末期治療介入に関しては輸液量,持続的鎮静施行率とオピオイド使用量において差を認めた.終末期の輸液量に関しては本邦の現状やガイドライン7)で推奨されている輸液量と比較すると本研究では少ない.本研究では終末期における輸液量は入院後早期死亡の方が有意差を持って多い.これは早期死亡群では入院時の全身状態が悪く,血圧が低いなどの所見があることで輸液量が多くなっている可能性があると考えられる.がん終末期患者に持続的鎮静を行う比率は,過去に行われた大規模試験8)と比較すると本研究は若干高いが,その中で非早期死亡群と比較すると早期死亡群で少ない.これは意識レベル低下などのために早期死亡群における持続的鎮静が少なくてすんでいる可能性が考えられる.平均オピオイド量は早期死亡群で少ないが,これも意識レベル低下などのために早期死亡群では少なくてすんでいる可能性が考えられる.総じて終末期治療介入は早期死亡では若干の差はあったが終末期症状では差がない.これらの結果を合わせて考慮すると必ずしも入院では不十分な緩和ケア介入となっているとはいえず,少なくとも患者の症状コントロールに関しては早期死亡群でも十分な介入ができている可能性がある.

本研究の因子解析においてPS低下時に積極的抗がん治療を行うと急変が多く早期死亡が多くなると推察したがとくにリスクとはならなかった.単変量解析ではがん種が早期死亡のリスクとなる傾向(P=0.086)が認められたが,がん種の違いにより終末期の予後が違うという報告がある9).多変量解析では転移臓器個数,入院時意識レベル,入院時PSがリスク因子として挙げられた.転移臓器個数に関しては抗がん治療開始時の転移臓器個数が予後リスクとなる報告はあるが,本研究では入院時に判明している転移臓器個数でありこれを報告しているものは少ない.PSや意識レベルに関しては入院後早期死亡における強力な予後因子であることがわかった.終末期医療を提供するうえで,どこで最期を過ごすか等を十分検討するために予後を正確に予測することが必要となる.がん終末期における代表的な予後予測モデル1013)はあるが,これらは週単位から月単位の予後予測には向いていても短期的な予後予測においてはいくつかの欠点が指摘されている.本研究ではPSや意識レベル,また転移臓器個数やがん種も早期死亡のリスク因子としての可能性があり,短期予後予測にも使用できる可能性があると考えられる.

本研究の限界は第1に単一施設でのカルテベース検索による後方視的研究であることである.終末期治療についてはカルテに全て残っているため信頼性は高いが,終末期症状に関しては検出できていない症例もあると考えられ信頼性は低いかもしれない.第2に主要評価項目に関しては患者,その家族・介護者の精神的苦痛に関しては対象としていないことが挙げられる.死が差し迫っている患者,またその家族・介護者に対する精神・心理的介入は緩和専門施設においては必要で,通院などでは時間の制約もあり困難である.患者やその家族・介護者の精神・心理的苦痛に早期死亡群ではこれらの介入が不十分になることが予想されるが今回は検討に入れることができなかった.第3に早期死亡リスクの解析では社会的背景も因子として考慮すべきであるが本研究では入れられていない.早期死亡のリスク因子として先行研究では血液腫瘍などの生物学的因子のほかに婚姻状態や収入など社会的背景などもあると報告されている4).本研究では社会的背景については欠損値が多くなるため因子として入れることができなかった.第4にがん終末期における療養の場所としては入院と比較して在宅療養のQOLが高いことが報告14)されている.在宅療養には社会リソースの問題も絡んでくるため,適切な入院時期はいつかという問題を解決するためには生物学的リスク因子のみならず社会的な因子も考慮すべきで,個々の症例に応じて最も適した療養場所,看取りの方法,そして入院のタイミングを探る議論が必要であることは言うまでもない.これらの入院前に訪問看護や訪問診療などの在宅ケアを含む情報については本研究では追跡することが困難であった.これらの後方視的研究の限界を解決するためには終末期において身体的な症状の評価のみならず,精神的な評価を含めた項目,そして社会的背景などの項目も可能な限り含めた前向き研究が望ましいと考えられる.現在国内の緩和専門施設において,進行中の大規模前向きコホート試験では今回検討できなかった精神的評価や社会的評価における項目も多く含まれている.これらの種々の限界を解決できる可能性があり,その結果に期待がかかる.

結語

終末期がん患者における入院後早期死亡の実態について調査し報告した.早期死亡群と非早期死亡群で終末期の治療介入に差を認めたが,終末期症状の有症率に差は認められなかった.

References
 
© 2017 by Japanese Society for Palliative Medicine
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