2017 Volume 12 Issue 4 Pages 771-779
【目的】緩和ケア病棟に初めて従事する看護師が,緩和ケアの実践を通して捉える問題状況を面接調査により明らかにし今後の教育支援の示唆を得る.【方法】看護師4名を対象に半構造化面接を計3回実施し,Krippendorff Kの内容分析を参考に分析した.【結果】病棟開設後の問題状況は[緩和ケアにおける理解不足の自覚と対応に対する模索][緩和ケアにおける一般病棟の経験知の活用可能性と相違に対する不安]等,10カ月後では[命の期限と向き合う傾聴の重みと傾聴技術の限界の自覚][ケア方針の相違に対する困難さとジレンマ]等,1年半後では[患者の意思確認不足によるケアの判断の困難さ][患者・家族との関係形成の重要性の自覚]等であった.【結論】初めて緩和ケア病棟に従事する看護師の教育支援は,初期の傾聴技術の強化に加え,対人援助や生命倫理の知識の確認および事例検討を組み合わせ,段階的かつ継続的な実施が必要である.
がん対策基本法1)により,がん患者の療養生活における質の維持と向上を目的とし,緩和ケアの推進が求められ,わが国の緩和ケア病棟入院料届出受理施設は378施設,病床数は7695床と増加傾向にある2).
ホスピス・緩和ケア病棟(以下,緩和ケア病棟)では,多様化する業務の中で,全人的苦痛を抱えた終末期にある患者を看取る日常が繰り返される.緩和ケア病棟の看護師を対象とした研究では,ストレスやバーンアウト等の問題状況3)や,体験の意味づけやケア行動の再考4)に関する報告がある.とくに,緩和ケア病棟では,怒りへの対応や死のプロセスへの関与等を中心とした表出的な役割が求められ5),経験のある看護師であっても臨床現場で培われた経験や価値観の否定とともに無力感を経験する6).
さらに臨床現場では,緩和ケアを担う人材不足やケアの質のばらつきも指摘されてきた7).科学的根拠に基づいた高度な知識や技術を伴った質の高いケア提供の役割が求められる8)が,緩和ケア病棟数増加の現状に,がん看護専門看護師や多岐にわたるがん医療に専門性を発揮する認定看護師の確保が難しい.2010年の看護師教育の現状調査では,多忙な病棟業務と教育のバランスの中で各施設が緩和ケア病棟の教育の検討に苦労し,継続教育やステップアップの困難さ,看護師個々の感性を育む教育の重要性等の課題9)や,緩和ケアに関連した教育的支援の必要性10)が指摘された.
緩和ケアの普及の一方,各施設に緩和ケアの教育が委ねられる現状において,緩和ケア病棟に初めて従事する看護師の教育支援に関する研究は少ない.緩和ケア病棟では,生命の期限を抱えながら療養する患者とその家族に対峙し,未知の経験である死に向き合いながら患者・家族を支援しなければならない.緩和ケア病棟経験6カ月以内の看護師は,臨床経験で培われた価値観の否定や何もできない無力感を感じるほどの精神的負担を抱える6).教育支援体制を整備するには,緩和ケア病棟に初めて従事する看護師が実践を通して捉える問題状況を継続的に把握し教育支援の基礎資料を得ることが必要である.
本研究の目的は,緩和ケア病棟に初めて従事する看護師が,緩和ケアの実践を通して捉える問題状況を面接調査により明らかにし,今後の教育支援の示唆を得ることである.
操作的用語の定義として,本研究における緩和ケアの実践を通して捉える問題状況とは,緩和ケア病棟に初めて従事する看護師が病棟開設後の緩和ケアの実践を通して,問題や不安・心配として認識し捉える内容とした.
臨床経験5年以上かつ開設準備の研修会を受講し,初めて緩和ア病棟に従事し,研究協力の承諾が得られた看護師4名である.研修会は,ELNEC-J指導者資格を有する緩和ケア認定看護師がELNEC-Jコアカリキュラム看護師教育プログラムを参考に,緩和ケア医のスーパーバイズを受けオリジナル版を作成し実施された.内容は,緩和ケア総論・痛みのメカニズムとマネジメント・看護師のストレスマネジメント,心理過程,家族ケア・遺族ケア等で構成され,時間数は計13回40時間であった.
データ収集方法半構造化面接を計3回実施した.緩和ケア病棟開設後の状況を考慮し2~4カ月後に初回の面接を行い,以後1人につき6~8カ月毎に実施した.面接は「緩和ケア病棟の実践を通して自身が捉える問題や不安等」を主体に独自で作成したインタビューガイドを用い,個人情報の保護できる環境にて実施した.面接内容は,対象者の承諾を得てICレコーダーに録音し,承諾が得られない場合はメモをとり,面接終了後逐語的に記録した.また,3回の面接の中で研究者は,前回の面接内容や語られた内容の意味や解釈を対象者にフィードバックしながら確認した.なお,面接は研究代表者が実施した.研究代表者は,対象者と所属施設が異なり,看護業務に関わりをもたず質的研究を中心にがん看護に関連する研究および看護教育での活動を実施している.
分析方法逐語録をデータとして,Krippendorff Kの内容分析11)を参考に分析した.各面接の時期毎に緩和ケアの実践を通して自身が捉える問題や不安・心配に関連する語りの文章・段落を文脈上の意味を損なわない範囲で区切り解釈しコード化した.コード化した意味内容の共通性と相違性を比較しサブカテゴリ化,カテゴリ化した.なお,分析対象数が4名であることから数量的記述を行わずにカテゴリ化した.信頼性と妥当性の確保については,分析の全過程において,内容分析に精通した質的研究を専門とする共同研究者のスーパービジョンを受けながら,緩和ケア認定看護師を含めた共同研究者間でサブカテゴリ・カテゴリの分析段階毎にデータの再確認や検討を繰り返し分析した.
倫理的配慮本研究は,群馬県立県民健康科学大学倫理審査委員会および研究施設の倫理審査委員会の承認を得た.対象者は,病棟師長および緩和ケア認定看護師の協力を得て選定した.研究協力依頼については,対象者に研究の主旨,参加の任意性と中断の自由,不利益の回避,個人情報の保護と成果の公表等を文書にて説明し,署名にて同意を得た.
対象者は女性4名.初回面接時の臨床経験は5年以上1名,10年以上3名であった.平均経験年数は,9.3(SD=2.9)年であった.ICレコーダーの録音は11回,録音の承諾が得られなかった面接は1回,面接時間は30~69分であった.
初めて緩和ケア病棟に従事する看護師が捉える問題状況1.病棟開設後の問題状況(表2)
看護師の捉える問題状況は23コード,14サブカテゴリ,5カテゴリが抽出された.なお,カテゴリは[ ],サブカテゴリは〈 〉で表記した.
[技術不足の自覚に伴うコミュニケーションに対する苦慮]は,〈希望の探求を促すコミュニケーションの困難さの自覚〉〈技術不足に伴うコミュニケーションに対する躊躇い〉等から成る.看護師は,コミュニケーションの技術不足を自覚し,命の期限のある患者の言葉の重みに躊躇し苦慮した.
[緩和ケアにおける理解不足の自覚と対応に対する模索]は,〈緩和ケア実施に対する能力不足の自覚〉〈緩和ケア実施における看護師の役割範囲に対する模索〉等から成る.看護師は緩和ケアの実施経験がないことから患者との関わりやケアに対する理解不足を自覚し,対応方法を模索した.
[患者・家族のニーズに応じたケア提供に対する困難さの自覚]は,〈患者のニーズに応じた対応とその機会の選択に対する困難さの自覚〉〈家族への不十分な対応に対する自覚〉等から成る.看護師は,患者や家族のニーズに応じたケアができない困難さを認めた.
[緩和ケアにおける一般病棟の経験知の活用可能性と相違に対する不安]は,〈緩和ケアにおける一般病棟とのケアの相違に対する不安〉〈一般病棟での経験知では対応不可能な知識不足に対する心配〉から成る.看護師は,患者と深く関わる対応に培った臨床経験知の活用への不安を抱いた.
[最期を迎える患者の対応に対する困難さの自覚]は,〈経験不足による最期を迎える患者への対応に対する理解不足の自覚〉〈最期を迎える患者に対する対応方法に対する困難さの自覚〉から成る.看護師は,命の期限のある患者への関わり方や患者の思いの表出に対し困難さを認めた.
2.病棟開設10カ月後の問題状況(表3)
看護師の捉える問題状況は25コード,18サブカテゴリ,7カテゴリが抽出された.
[命の期限と向き合う傾聴の重みと傾聴技術の限界の自覚]は,〈命の期限を意味する会話の重みに対する苦悩〉〈命の期限を主体とする会話における傾聴技術の限界に対する不安〉等から成る.看護師は命の期限のある患者と向き合い傾聴する中で,会話内容の重みに傾聴技術の限界の自覚を認めた.
[患者の状況把握と対応能力不足に対する自覚]は,〈命の期限に対する葛藤に気づくことができない能力不足の自覚〉〈精神的苦痛に対する理解不足の自覚〉等から成る.看護師は,患者の命の期限に対する心理的葛藤や心身の状況を早期に把握し対応できない能力不足を自覚した.
[緩和ケアの対応に対する理解不足の自覚]は,〈回復の見通しが立たない患者への対応に対する理解不足の自覚〉〈緩和ケアにおける患者への対応に対する理解不足の自覚〉から成る.看護師は,治癒見込みがなく最期の場所を選択した患者の対応への理解不足を自覚した.
[ケア方針の相違に対する困難さとジレンマ]は,〈家族の意向による患者の最期の意向が反映されないケア方針に対する困難さとジレンマの自覚〉〈医師と看護師のケア方針に対するジレンマの自覚〉から成る.看護師は,患者の意向が反映されないケア方針や,医師と看護師の考え方の相違によるジレンマを自覚した.
[家族心理に応じた対応能力不足の自覚]は,〈家族心理やニーズの把握困難による対応方法に対する理解不足の自覚〉〈家族心理の把握困難による対応に対する困難さの自覚〉から成る.看護師は,患者に寄り添う家族の心理を早期に把握し,ニーズに対応できない能力不足を自覚した.
[自己評価によるケアの不確かさと困惑]は,〈ケアの自己評価における不確かさと未達成感の自覚〉〈自己評価により患者のニーズに対応したケアを見出すことができない困惑〉から成る.看護師は,ケアを振り返り自己評価する中で未達成感を自覚し,患者のニーズに応じたケアを思案する中で見出すことができずに困惑した.
[ケアに対する重責の自覚]は,〈看護師個々の判断に委ねられるケアに対する重責の自覚〉から成る.看護師は,個々の判断に委ねられる緩和ケアの重責を自覚した.
3.病棟開設1年半後の問題状況(表4)
看護師の捉える問題状況は18コード,10サブカテゴリ,5カテゴリが抽出された.
[患者の意思確認不足によるケアの判断の困難さ]は,〈状態が悪化した患者の希望に対する本意の判断の困難さによる困惑〉〈患者の意思確認ができないことに対するジレンマと後悔〉等から成る.看護師は,状態が悪化した患者に十分な意思確認ができない状況におけるセデーションの是非や患者の本意と家族の希望との狭間でニーズに即したケアの判断に困難さを認めた.
[患者心理の表出における傾聴技術不足と困難さ]は,〈患者心理の表出を促す傾聴技術不足の自覚〉〈命の期限のある患者心理における表出内容に対する理解不足の自覚〉から成る.看護師は,命の期限のある患者の思いやスピリチュアルペインの表出を促す傾聴技術不足を自覚した.
[患者・家族との関係形成の重要性の自覚]は,〈患者との信頼関係形成に対する重要性の自覚〉〈関係形成が不十分な患者・家族の思いやニーズに対する理解不足の自覚〉から成る.看護師は,患者や家族の思いやニーズの理解不足を自覚し,患者・家族との信頼関係形成の重要性を認めた.
[家族の緩和ケアに対する理解不足による対応の困難さ]は,〈家族の緩和ケアに対する理解不足による対応の困難さ〉から成る.看護師は,家族の病状理解に加え,緩和ケアに対する理解不足による対応の困難さを認めた.
[家族心理の表出を促す傾聴技術不足と困難さ]は,〈家族心理の表出を促す傾聴技術不足と困難さ〉から成る.看護師は,患者の最期を看取る家族に寄り添い思いの表出を促す傾聴の技術不足と困難さを認めた.
病棟開設後1年半における各時期の問題状況の特徴と課題の変化の視点から考察する.
1.各時期の問題状況
病棟開設後の看護師が捉える問題状況の特徴は,緩和ケアの経験不足による患者との関わりや対応に模索し,コミュケーションやニーズに対応した具体的ケアへの困難さであった.また,一般病棟でのケアと緩和ケアの相違や,患者の意向を重視し患者個々に深く関わるケアにおいて,これまで培ってきた実践経験の活用可能性に対する不安を認めた.
病棟開設10カ月後の問題状況の特徴は,病棟開設後半年以上を経過し,命の期限を抱える患者と向き合う中で発せられる言葉や会話の意味と重みに傾聴技術の限界を自覚するとともに,患者の心理的葛藤や心身の状況に対する早期対応への理解不足,ケア方針の相違に対するジレンマを認めた.さらに,ケアを振り返ることにより患者のニーズに対応したケアを自己評価し,より良いケアを模索し見出すことが不可能な状況であった.
病棟開設1年半後の問題状況の特徴は,病状が悪化した患者に十分な意思確認ができない状況でのセデーションの是非やニーズに即したケアの判断に困難さを認めた.さらに,患者・家族の心理の表出を促す傾聴技術不足に加え,患者・家族との関係形成の重要性を自覚し,表出される内容の理解不足を認めた.
2.問題状況から捉えた課題の変化について
各時期の問題状況は,緩和ケア病棟で患者と日々向き合い実践経験を経て解決されていくというよりはむしろ,これまでの経験知が活かせない状況に苦悩しながら経験を重ねる中で問題状況が課題として具体化される傾向が示唆された.
第1に,病棟開設1年半を通して共通する課題は傾聴技術の限界であった.緩和ケアに携わる看護師は,終末期のがん患者の抱える身体的・心理的・社会的苦痛に加えスピリチュアルペインについて一定の見解をもつ12).看護師は,命の期限を抱える患者と向き合いどのように声をかけ関わればよいのか躊躇い技術不足を自覚しながら1年半の実践経験を経て,患者から発せられる言葉や会話の意味や重みに傾聴技術の限界を自覚するものと考える.スピリチュアルケアにおける傾聴とは,心を傾け集中して聴くことだけでは不十分であり,援助者は何を聴くのか,どのように聴くのか,なぜ聴くのかを理解する必要がある13).看護師は,実践での傾聴がスピリチュアルケアとなるものか自問自答することで,傾聴技術の限界を自覚したものと推察する.
第2に,病棟開設後の間もない時期では,一般病棟で培った経験知の活用の相違が認められた.一般病棟では,優先的に迅速かつ正確な処置が求められていた一方,緩和ケア病棟では,患者や家族との関係性,怒りへの対応,死へのプロセスへの関与など表出的役割が求められ5),研修で得た緩和ケアの知識およびこれまでの臨床経験や価値観では対応できない困難な状況において実践を経て自覚したと考える.
第3に,病棟開設後10カ月を経て,ケア方針の相違によるジレンマやセデーションの是非,患者の本意と家族の希望との狭間におけるケア判断の困難さといった倫理的問題への課題を認めた.緩和ケアの場における鎮静の問題として,鎮静の判断の不明確さ14)や鎮静の開始時期のジレンマ15)が指摘されている.限られた時間の中で鎮静の意思確認を行う時,鎮静に対する患者と家族の意見の違いや,家族間の意見の違い,医療者と患者・家族の意見が異なり,不統一なために看護師の問題につながる16).病棟開設後10カ月から1年半の実践を経て看護師の判断に委ねられる重責の自覚とともに倫理的問題にまで関心を向けるに至ったと推察する.
第4に,病棟開設後10カ月を経て,家族心理に応じたケアに対する課題が認められた.緩和ケアの基本理念では,ケアの対象は患者とその家族を含み家族ケアの重要性が指摘されている17).患者と家族を1つの対象とする実践を通しケアを重ねる中で,病状が悪化する患者に寄り添い精神的負担が増大する家族ケアの重要性に気づいた.また家族の思いや変化に応じたケアを実践するうえで家族心理を促す傾聴の必要性や患者・家族を含めた信頼関係形成の重要性へと問題意識の拡大へとつながったと考える.
教育支援への示唆について初めて緩和ケア病棟に従事する看護師への教育支援を効果的に行うためには,準備期の研修内容に加え,実践経過をふまえ段階的かつ継続的な教育支援の必要性が示唆された.
第1に,対人援助技術の強化である.本研究では命の期限のある患者と日々向き合う実践経験を経て,患者の思いに触れ対応困難な状況に傾聴技術の限界を認めた.対人援助は人間関係に基づき「他者の理解と共感」を前提とし,傾聴では患者の実存状況に共感し,その苦しみ・心配を受け止め,身体的・心理的・社会的・スピリチュアルの次元でニーズとして受け取る18).緩和ケア病棟では,近い将来死を避けることができない患者とその家族に向き合い,身体的・心理的・社会的・スピリチュアルを含む全人的苦痛の観点からケアを必要とする.看護師は,多角的にアセスメントし日常生活援助を通して患者とその家族を支える役割は大きく専門的知識や実践能力が求められる.全人的苦痛の観点から患者とその家族を理解するためにも,対人援助技術が必要である.
第2に,倫理的問題の解決に向けた基本的知識の獲得と判断能力の強化である.看護師が直面する現象を理解し適切に倫理的判断を行うためには,倫理上の基本原則や看護者の倫理綱領を行動指針とし,理論知や経験知を高めることが必要である19).
第3に,事例検討による実践経験の意味づけである.体験を意味づけ言語化することは,ケアに対する考えや看護観・ケア行動を再考し,再考された看護観・ケア行動はフィードバックされ,認知する体験に変化を及ぼす4).実践場面を想起しケアを振り返り問題を言語化することは,理論と実践の対話による臨床学習を基盤に実践を意味づけ5,6),実践力の強化をもたらすと考える.
教育支援において,緩和ケアの知識や技術が未熟な状況での事例検討は困難が予測され,ケアに対する無力感やモチベーション維持への影響も懸念される.緩和ケア病棟初期の時期には,とくに傾聴技術を強化し,ケアを振り返り自己評価の必要性を課題として見出すことが可能な6~10カ月を目処に対人援助の視点から事例検討の導入の必要性が示唆される.また,生命倫理の基本原則や倫理綱領の理解と確認に加え,事例検討による倫理的問題の検討を図る等,知識の確認と事例検討を組み合わせ段階的かつ継続的に実施することが必要であると考える.併せて,ケアの質の向上に向けて,看護師個々が主体的に院外研修会や関連学会等に参加し,視野を広め知識獲得への努力が必要である.
本研究の限界は,1施設の対象者4名の3時点における面接の結果であり,初めて緩和ケア病棟に従事する看護師の問題状況として豊富なデータから具体的現象を捉え,言語化し一般化するには限界がある.また,研修会の効果や評価までの検討には至っていない.今後は対象者を拡大するとともに,問題状況に応じた教育支援の実施と評価に向けて研究継続が必要である.
本研究では,初めて緩和ケア病棟に従事する看護師が実践を通して捉える問題状況を検討し,今後の教育支援の示唆を得た.緩和ケア病棟開設後では[技術不足の自覚に伴うコミュニケーションに対する苦慮][緩和ケアにおける理解不足の自覚と対応に対する模索]等であり,10カ月後では[命の期限と向き合う傾聴の重みと傾聴技術の限界の自覚][患者の状況把握と対応能力に対する自覚]等,1年半後では[患者の意思確認不足によるケアの判断の困難さ][患者・家族との関係形成の重要性の自覚]等の問題状況であった.教育支援として,緩和ケア病棟開設初期の傾聴技術の強化に加え,対人援助や生命倫理の理解と確認をふまえたうえで事例検討を組み合わせ,段階的かつ継続的に実施することが必要であることが示唆された.
なお,本研究は,JSPS科研費24593309の助成を受けたものである.
著者の申告すべき利益相反なし