Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Clinical Practice Report
A Content Analysis of Death Conferences for Patients Who Died in a Palliative Care Unit of Cancer Specialist Hospital
Jun KakoYasufumi OosonoMasamitsu KobayashiAsuko Sekimoto
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2018 Volume 13 Issue 1 Pages 115-120

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Abstract

【目的】デスカンファレンスで話し合われた内容を明らかにする.【方法】2012年5月〜2014年11月までの期間に,国立がん研究センター東病院の緩和ケア病棟で行われたデスカンファレンス60件について,診療録およびデスカンファレンス実施時の記録用紙を後ろ向きに調査し,内容分析を行った.【結果】期間中に行われたデスカンファレンスから,170単位のデータを抽出した.最終的に5つのカテゴリーに分類し,[ケア対象としての家族を支える][患者の思いを汲み取り大切にする][症状を緩和し苦痛を取り除く][医療者間における連携の大切さを実感する][患者との関わりに苦慮する]とした.【結論】デスカンファレンスは,さまざまな視点と方向から支援を振り返る有用な機会であることが示唆された.

緒言

終末期がん患者への支援を提供する場面では,患者の死や死の過程に対する支援や,患者・家族の苦悩を見続けることで,何もできなかったという無力感や,提供した支援方法で本当によかったのだろうかという倫理的な葛藤やストレスを経験することが多い.そのような中で,よりよい患者・家族支援を実現したいという思いから,終末期に提供された支援を振り返る,デスカンファレンスを実施している施設がある.

デスカンファレンスは「死亡事例の終末期ケアに関する検討会」と定義1)されており,開催する意義については「ケアを評価してこれからのケアにいかすことができる」「患者・家族への理解が深まる」「医師と看護師の考え方のずれが明らかになって互いの理解が深まる」と言われている2)

実際のデスカンファレンスで話し合われている内容については,症例報告単位では散見されるが3,4),話し合いの内容を集積した報告はない.デスカンファレンスで話し合われている内容を集積することで,終末期がん患者とその家族への支援について,看護師が大切にしている支援の視点や,悩みながら行っていた支援の傾向が明らかとなり,今後の終末期がん患者とその家族支援に対する有用な情報が得られると考える.そこで,本研究では,デスカンファレンスで話し合われた内容を集積して分析することで,デスカンファレンスで話し合われている視点とその傾向を明らかにすることを目的とする.

方法

対象

2012年5月〜2014年11月までの期間に,国立がん研究センター東病院の緩和ケア病棟(以下,当院のPCU)で行われた,デスカンファレンス60件を対象とした.

デスカンファレンスの開催について

デスカンファレンスは,定例カンファレンスの時間(13時30分〜14時)を利用して,緩和ケア病棟で開催する.参加者数はおよそ7人程度で,看護師,医師,薬剤師などである5,6).進行と書記は看護師が担当し,書記はデスカンファレンスで話し合われた内容を記録シート(以下,デスカンファレンスシート)に記載する.デスカンファレンスシートは,開催日時,開催時間,参加者,患者背景,キーパーソン,入院後の経過を記載する欄および,デスカンファレンスで話し合われた内容を記載するスペース(A4用紙1/4程度の余白)を設けている.デスカンファレンスに当日参加できなかったスタッフも内容を共有できるよう,デスカンファレンスシートは病棟の看護ステーション内に掲示している.

調査手順

入院診療録およびデスカンファレンスシートを後ろ向きに調査し,内容分析を行った.本研究は,国立がん研究センター研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号2013−285).本研究の目的,対象,方法,個人情報の取り扱い方法,問い合わせ先などを明記した文書を国立がん研究センター東病院のホームページに掲載し,対象者に対する情報提供とデータの研究への利用を拒否する場合の対応を行った.

分析方法

まず,デスカンファレンスを実施した患者の背景情報について調べ,記述統計量を算出した.

次に,デスカンファレンスシートの内容について,クリッペンドルフの内容分析7)を参考にして,記述内容をテキストデータ化し内容分析を行った.対象となった記述内容は,1つの意味内容を1単位のコード(本文中では,「 」で記載)として抽出した.1件のデスカンファレンスシートの中で,異なる意味内容が含まれる場合は複数のコードとして抽出した.抽出されたコードは,意味内容と類似性を基にユニットをまとめサブカテゴリーを作成した.さらに,サブカテゴリー(本文中では,〈 〉で記載)は類似するデスカンファレンスでの話し合いの意味内容で分類し,カテゴリー(本文中では,[ ]で記載)を作成した.分析は2名の研究者が独立して行い,緩和ケア領域における研究経験を豊富に有する緩和ケア専門家と,質的研究の経験があり,緩和ケア領域における臨床経験を豊富に有する緩和ケア専門家のスーパービジョンを受けた.

結果

患者背景を表1に示す.対象者の過半数は男性で,がん原発部位は肝胆膵,頭頸部,胃の順に多かった.

60件のデスカンファレンスシートから意味内容を1単位ずつ抽出すると,170単位のデータとなった.これらのデータについて類似性を基にして帰納的に分類した結果,23のサブカテゴリーに分類され,最終的に5つのカテゴリーに分類された.5つのカテゴリーの名称は,[ケア対象としての家族を支える][患者の思いを汲み取り大切にする][症状を緩和し苦痛を取り除く][医療者間における連携の大切さを実感する][患者との関わりに苦慮する]とした.カテゴリーは表にまとめ,含まれるサブカテゴリーについては,代表的な回答としてデータを入れた(表2).最も多くのコードを含むカテゴリーは[ケア対象としての家族を支える(n=51, 30%)]であり,[患者の思いを汲みとり大切にする(n=42, 24.7%)][症状を緩和し苦痛を取り除く(n=34, 20%)]と続いた.最も少ないコードを含むカテゴリーは[患者との関わりに苦慮する(n=21, 12.4%)]であった.

表1 対象者背景(N=60)
表2 デスカンファレンスシートの内容分析(N=170)

考察

本研究では,当院のPCUで開催されたデスカンファレンスが,どのような視点で話し合われているかを明らかにした.

詳細に見ると,[ケア対象としての家族を支える]は最も多くのコード数を含むカテゴリーであり,ケア対象として家族を捉えることの重要性が語られていた.家族への支援は,患者支援に比べると時間的制約があり,臨床では支援に難渋することが多い.時間的制約がある中で家族が医療者から必要な支援を受けるためには,医療者が家族のニーズを素早く捉える必要がある.本研究結果で示された,家族の意向に沿った支援を考えること,家族の負担感や疲労感に注目すること,家族背景を理解し支援にあたることなどは,家族のニーズを捉えるための重要な視点である.

2番目に多くのコード数を含むカテゴリーは[患者の思いを汲み取り大切にする]であり,患者の意向を尊重することの重要性が語られていた.とくに,〈患者の希望を支える〉というサブカテゴリーは,患者が辛い体験をしている中でも,患者の思いを達成できるような支援が語られていた.また,このサブカテゴリーは,すべてのサブカテゴリーの中で最も多くのコード数を含むことから,医療者が大切にしている支援の視点であると推察される.

次に多くのコード数を含むカテゴリーは[症状を緩和し苦痛を取り除く]であり,症状緩和の困難さが語られていた.進行がん患者はさまざまな症状を体験し8),それらの症状は看取りの時期が近づくにつれ,頻度も強度も増すことが報告されている9).このことからも,終末期がん患者の症状緩和は困難である可能性が高いことを想定し,事前に患者がどのような支援を受けたいと考えているかを尋ね,患者・家族と医療者間で共有することが重要である.

[医療者間における連携の大切さを実践する]では,終末期の患者・家族を支援する医療者が,情報の共有を通して,同じ方向を向いて各職種の役割を発揮しようと努めることの重要性が語られていた.患者・家族の支援については,各職種は各々の役割行動をとっており,また,相手の職種がとる行動様式を期待(役割期待)している10).この役割行動と役割期待の齟齬から,目指す支援の方向性にずれが生じると,患者と家族が必要とする支援を受けられない可能性がある.本研究結果で語られている,医療者間における情報共有は,医療者間の連携を強化するために,重要な視点である.

最も少ないコード数を含むカテゴリーは[患者との関わりに苦慮する]であり,支援に対する不全感について語られていた.精神的疲労の蓄積は,医師1113)・看護師14)ともにバーンアウトに繋がる可能性があり,そのサポートの重要性が指摘されている15).そのため,支援に苦慮するケースではとくに,日々のカンファレンスにて,医療者間で肯定的な評価を行えるような環境や,話しやすい雰囲気つくりをすることが大切だと考える.

本研究の強みは,1年半の期間に連続して開催されたデスカンファレンスの内容を分析したことである.一方で,単施設での報告であるため,一般化するには限界がある.

結論

デスカンファレンスにより話し合われている内容は,5つに大別することができた.これにより,デスカンファレンスを行うことで,終末期がん患者とその家族にとって大切なケアのあり方を,さまざまな視点と方向から振り返る有用な機会になることが示唆された.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

角甲は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.大園,小林は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.關本は,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.また,すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2018 by Japanese Society for Palliative Medicine
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