Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Exploring the Factors That Influence Pain Relief and Bone-marrow Suppression When Strontium Chloride Is Administrated
Kin-ichi OkuboKouichi TanabeNozomu MurakamiHiroyasu SekiKazuhiro NakajimaNobuyuki GotoFumiko Ohtsu
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2018 Volume 13 Issue 1 Pages 23-29

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Abstract

【目的】塩化ストロンチウム(89Sr)の疼痛緩和および骨髄抑制に関連する患者の背景因子の探索を目的とした.【方法】対象は有痛性骨転移のある89Sr投与患者とした.疼痛緩和では89Sr投与前後のNumeric Rating Scale(NRS)より無効/有効に群分けし,骨髄抑制では好中球(Neu),血小板(PLT),ヘモグロビン(Hb),各々の89Sr投与前後の差をアウトカムとし,単変量解析および相関分析を行った.【結果】37名が対象となり,疼痛緩和の関連因子として,89Sr投与量,89Sr投与前NRS,89Sr投与前Ca,骨転移の範囲等が示された.同じくNeu減少では,89Sr投与前Hb,89Sr投与前NRS,89Sr投与前Crで有意な中等度の相関を,PLT減少とは,89Sr投与前PLTで有意な中等度の相関を,Hb減少とは,89Sr投与前Hbで有意な中等度の相関を認めた.【結論】疼痛緩和および骨髄抑制の関連因子を明らかにした.

緒言

骨転移は種々の悪性腫瘍で認められる.とくに乳がん,前立腺がん,肺がんなどで多く観察され,激しい痛みに加え,病的骨折,脊髄圧迫による麻痺症状,高カルシウム血症,外科的手術などの骨関連事象(skeletal-related events: SRE)により患者のQOLを著しく低下させている1,2).骨転移による疼痛は,がん細胞の浸潤に伴う物理的刺激,腫瘍組織が産生する各種のサイトカインの刺激,局所のpH低下に伴う酸による刺激などによって引き起こされると考えられている3)

がん性疼痛の原因療法として放射線療法は第一選択の手段であり,外照射および塩化ストロンチウム(89Sr)による放射性同位元素(RI)内用療法がある.外照射は局所性の疼痛に使用され,89Srは多発性骨転移の疼痛緩和に使用される4)

疼痛を緩和する目的として用いられる89Srは骨ミネラル構成成分のカルシウム(Ca)と同族元素であり,骨芽細胞によるコラーゲン合成とミネラル化に依存して,骨転移病巣の造骨活性を有する部位に集積し,骨転移病巣で高エネルギーβ線を放出して局所的に照射する5).疼痛緩和の機序は,腫瘍細胞や破骨細胞への照射に基づく,腫瘍の縮小による神経圧迫解除や骨膜伸展緩和並びに,これらの細胞から放出されるサイトカイン産生の抑制や痛覚閾値の低下,感受性の改善などによるものであると考えられている6).現在,疼痛緩和に影響する患者の背景因子としてbisphosphonates (BP)製剤の併用の有無7,8),外照射の併用の有無9)が報告されているが,交絡因子の影響を考慮しておらず結論は明確ではない.

また,89Srの主な副作用には骨髄抑制があるが,血小板減少,白血球減少が主であり,20~30%の減少を示す.いずれの場合も投与後6~8週間で最低値となり,投与後10~12週には回復傾向がみられる10).現在,骨髄抑制に影響する患者の背景因子として,外照射併用の有無,89Sr投与前の骨髄予備能,骨転移巣数などが考えられているが11),疼痛緩和同様に結論は明確ではない.

そこで,本研究では89Srの疼痛緩和および骨髄抑制に関連する患者の背景因子を探索することを目的として検討を行った.

方法

89Srの疼痛緩和に影響する因子探索

1.対象患者

厚生連高岡病院にて平成24年6月〜平成28年12月の間に89Srを投与された有痛性骨転移のある患者を対象とした.

2.アウトカム

89Sr投与前後のNumerical Rating Scale(NRS)の結果より,有効(確実な鎮痛効果を検出するため,NRSの変化量が3スケール以上改善した患者12)),無効(NRSの変化量が3スケール未満の患者)の2群に分け,アウトカムとした.89Sr投与後のNRSは,89Srの効果が十分に見込めるように,89Sr投与後2週間で評価した.また,疼痛が複数の個所に存在する場合は,最も疼痛の強い箇所のNRSを評価対象とした.NRSは,過去24時間の平均値を患者に想起してもらい,口頭にて聞き取ってカルテに記載した.

3.調査項目

先行研究,作用機序,並びに骨転移の病態生理を考慮し58,13,14),調査項目は,性別,年齢,体重,89Sr投与量,多臓器転移の有無(89Sr投与1カ月前後),予後の予測指標であるPalliative Prognostic Index(PPI),Performance Status(PS),原発巣,転移臓器,骨転移の類型(溶骨性/造骨性/混合性),抗がん剤投与の有無,骨転移巣数,外照射併用の有無,フレア現象の有無,89Sr投与前オピオイドの有無,BP製剤併用の有無,89Sr投与前非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の有無,89Sr投与前血球検査値(白血球,好中球,Hb,血小板,eGFR,Cr,BUN,Ca),骨転移の部位とその範囲(部位数)とした.多臓器転移並びに骨転移に関する評価は,骨シンチグラフィ,CT,およびMRIを併用して行った.なお,フレア現象とは,5〜15%の患者において,投与後3日以内(稀に3週間以内)に一時的疼痛の増悪が起こる現象のことである.

89Srの骨髄抑制に影響する因子探索

1.対象患者

前項の患者データ37名のうち,骨髄抑制に関連する因子が測定されていた患者35名とした.

2.アウトカム

骨髄抑制の評価を好中球減少,血小板減少,Hb減少それぞれでCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)version 4.0のグレード評価を行うとともに,89Sr投与前から89Sr投与後2〜3カ月後の差をアウトカムとした.好中球数,血小板数,Hb値の差は,それぞれ投与から2カ月以降に最低値となるため,89Sr投与後2〜3カ月後から89Sr投与前の差を89Sr投与前後の差とした.また,死亡などの理由で2カ月以降のデータがない場合は死亡直前の値を用いた.

3.調査項目

調査項目は,89Sr投与量,年齢,骨転移巣数,PPI,PS,原発巣,転移部位,骨転移の類型(溶骨性/造骨性/混合性),89Sr投与前血球検査値(白血球,好中球,Hb,血小板,eGFR,Cr,BUN,Ca), 89Sr投与前NRS, 89Sr投与前オピオイド投与量(モルヒネ換算量),抗がん剤投与の有無,外照射併用の有無とした.

統計学的解析

2群間の患者背景の比較には,カイ二乗検定,t検定,マンホイットニーのU検定を用いて検討した.患者の背景因子と骨髄抑制の影響因子との関係は,ピアソンの積率相関分析,スピアマンの順位相関分析を用いて検討した.相関の強さは,相関係数の絶対値をコーエンの基準(相関なし:0≤r<0.1,弱い相関:0.1≤r<0.3,中等度の相関:0.3≤r<0.5,強い相関:0.5≤r)に照らして判定した.解析の統計ソフトはIBM SPSS Statistics 23(IBM,東京)を用い,0.05を有意水準とした.

倫理的配慮

本研究は厚生連高岡病院倫理委員会(承認番号 #20161013002)の承認を得て実施した.

結果

89Srの疼痛緩和に影響する因子探索

対象となった患者は37名(男性:24名,女性:13名)であった.輸血やgranulocyte-colony stimulating factor(G-CSF)の投与を受けた患者はいなかった.患者背景を表1に示す.有意な関連がみられた患者の背景因子は,体重(p=0.020),89Sr投与量(p=0.011),89Sr投与前NRS(p=0.022),89Sr投与前eGFR(p=0.002),89Sr投与前Cr(p=0.002),89Sr投与前Ca(p=0.037)であった.また,89Sr投与前後でのNRSの差(平均±標準偏差)は,全体では2.3±2.5,有効群で4.3±1.5,無効群で0.4±1.5であり,無効群と比較して有効群の方が有意に大きかった(p<0.001).

表1 患者背景および疼痛緩和に影響する因子探索

89Srの骨髄抑制に影響する因子探索

対象となった患者は,骨髄抑制に関連する因子が測定されていた患者35名であった(表2).

好中球減少に影響する因子探索の結果,89Sr投与前Hb,89Sr投与前NRS,89Sr投与前Crで有意な中等度の負の相関を認め,これらの因子が高いほど好中球の減少幅が大きくなることが示された.また,有意ではなかったものの,89Sr投与前eGFRでは中等度の負の相関が認められ,89Sr投与前eGFRが高いほど好中球の減少幅が大きくなる傾向が認められた.

血小板減少に影響する因子探索の結果,89Sr投与前血小板で有意な中等度の負の相関を認めた.また,有意ではなかったものの,89Sr投与前Hbでは中等度の負の相関が認められた.これより,89Sr投与前血小板が高いほど血小板の減少幅が大きくなることが示され,89Sr投与前Hbにおいても高いほど好中球の減少幅が大きくなる傾向が認められた.

Hb減少に影響する因子探索の結果,89Sr投与前Hbで有意な中等度の負の相関を認めた.また,有意ではなかったものの,89Sr投与前オピオイド投与量では中等度の負の相関が認められた.これより,89Sr投与前Hbが高いほど血小板の減少幅が大きくなることが示され,89Sr投与前オピオイド投与量においても高いほど好中球の減少幅が大きくなる傾向が認められた.

表2 骨髄抑制に影響する因子探索(n=35)

考察

89Srの疼痛緩和に影響する因子探索

疼痛緩和に影響する患者背景の因子を明らかにすることを目的として本研究を行った.結果,体重,89Sr投与量,89Sr投与前NRS,89Sr投与前eGFR,89Sr投与前Cr,89Sr投与前Ca,骨転移の範囲(部位数)が疼痛緩和に関連する患者の背景因子として示された.

結果より,腎機能は高いほど疼痛緩和効果が高まることが示された.しかし,有効群において体重が49.0±7.6 kgと低く,筋肉量が低いことが考えられる(表1).その結果,クレアチニン値が低くなり見かけ上腎機能が高くなるため関連性が認められた可能性が考えられる.体重では軽いほど疼痛緩和効果が高まることが示された.体重の軽い患者では骨密度が低いことが報告されているため15)89Srの骨への集積が増加し,照射量が増加することにより疼痛緩和効果が高まった可能性があると推察される.一方で,89Sr投与量が体重によって決まること,低体重は筋肉量が少ないことと関連しており,これによりCr低値(またはeGFR高値)を説明し得ることを考えると,89Sr投与量,体重,eGFR,Crの4因子は同一の因子を指している可能性もあると考えられる.

現在,疼痛緩和に影響する患者の背景因子としてBP製剤の併用の有無7,8),外照射の併用の有無9)が報告されているが,BP併用と疼痛緩和の関連は認められなかった.Stortoらは,骨転移に対する89Srとゾレドロン酸の単独投与と併用投与について,比較研究を行っている8).本報告では,BPの服用の有無のみを観察しており,他の因子の影響を考慮していなかったため,BP併用と疼痛緩和との有意な関連は認められなかった可能性がある.また,外照射併用の有無と疼痛緩和の関連も認められなかった.しかし,今回は対象患者が少ないため有意な関連が認められなかった可能性がある.

さらに,無効群は89Sr投与前NRSが有意に低いため,NRSによる疼痛緩和効果を検出しづらかった可能性や,骨転移の範囲(部位数)が有意に多く,肩関節部や骨盤・寛骨などへの骨転移が多い傾向であったことから,疼痛緩和効果が得られにくかった可能性も考えられる.患者背景が統制された,更なる研究が必要である.

89Srの骨髄抑制に影響する因子探索

骨髄抑制に影響する患者背景の因子を明らかにすることを目的として検討を行った.

好中球減少に影響する患者背景の因子として,89Sr投与前Hb,89Sr投与前NRS,89Sr投与前Crが有意な因子として示された.投与前Hb低値は,抗がん剤による重度の好中球減少症の関連因子であると報告されているが16),本研究においてはこの報告と逆の結果が得られた.これは,抗がん剤と89Srという投与薬剤のnadirの時期や作用時間の違いが一因である可能性がある.しかしながら,本研究では重度の好中球減少症例が少なく,重篤な血球減少も総じて少なかったことから一貫した解釈を得ることは難しいと考えられる.さらに,89Sr投与前NRSが高いほど好中球が減少することが示された.骨転移巣数が多いほど痛みが強く,89Srの骨への集積が増加するという報告11)から,痛みが好中球減少の関連因子である可能性が考えられる.また,有意ではないものの,89Sr投与前eGRFとも中等度の負の相関を認めた.これは前述の89Sr投与前Crとは逆の相反する結果であり,何らかの交絡因子が関与している可能性があると推察される.多変量解析などで,交絡を調整したのちに結論付ける必要があると考えられる.

血小板減少に影響する患者背景の因子として,89Sr投与前血小板が有意な因子として示され,89Sr投与前Hbでは中等度の負の相関が認められた.89Sr投与前Hbに関して,変化の方向は好中球減少と同じであり同様の理由が考えられる.また,89Sr投与に伴う骨髄抑制により好中球が減少する時期と血小板の減少する時期がずれているために,血小板減少では有意とならなかった可能性がある.

Hb減少に影響する患者背景の因子として,89Sr投与前Hbが有意な因子として示され,89Sr投与前オピオイド投与量では中等度の相関が認められたが有意な因子とはならなかった.これは,アウトカムを89Sr投与前後の差としていることに起因している可能性や,オピオイドが投与されている症例が多かったため,本来の疼痛の強さが反映されなかった可能性も考えられる.

研究の限界

本研究は後ろ向きの解析,症例数が少なく一般化して考えるには注意が必要,データの粒度が不十分,投与開始から血液データの測定までの日数が患者ごとで異なる,死亡した患者に関しては死亡直前のデータを使用しているという点が挙げられる.また,骨転移に伴う疼痛は,骨転移の部位,荷重や体動によっても性状や強さが変化するが,本研究だけでは,これらの複雑な影響を考慮することができなかった.今後の調査では筋肉量,骨密度,骨転移巣数などを含め,これらを考慮したうえでコントロールを設定した前向き試験で,結果を確認する必要があると考えられる.

結論

疼痛緩和および骨髄抑制に関連する患者背景因子を明らかにすることができた.今回の解析から得られた疼痛緩和に関連する背景因子として,体重,89Sr投与量,89Sr投与前NRS,89Sr投与前eGFR,89Sr投与前Cr,89Sr投与前Ca,骨転移の範囲(部位数)が示された.骨髄抑制に関連する背景因子について,好中球減少に影響する因子探索の結果,89Sr投与前Hb,89Sr投与前NRS,89Sr投与前Crで有意な中等度の相関を認めた.血小板減少とは,89Sr投与前血小板で有意な中等度の相関を認めた.Hb減少とは,89Sr投与前Hbで有意な中等度の相関を認めた.本研究は,臨床において89Sr投与の有効/無効を予測したり,効果のありそうな患者をスクリーニングするうえで重要な示唆を与える研究であるとともに,まだ知見の少ない89Srの有効性と安全性に関する因子探索研究を推進するうえで,マイルストーンとなる研究であると考えられる.今後,コントロールを設定した前向き試験で結果を確認する必要がある.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

大久保および田辺は研究の構想,デザイン,データ収集・分析・解釈,原稿の起草および批判的推敲に貢献した.村上は研究の構想,デザイン,データ収集・分析・解釈,原稿の批判的推敲に貢献した.関および中嶋はデータ収集・分析および原稿の批判的推敲に貢献した.後藤および大津はデータの解釈および原稿の批判的推敲に貢献した.また,すべての著者は投稿論文並びに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2018 by Japanese Society for Palliative Medicine
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