Palliative Care Research
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Short Communications
Retrospective Study of Prognostic Prediction Based Only on Objective Indicators in End-of-life Patients: A Study Using Biological Prognostic Score Version-2
Maki MurakamiSusumu AraiYutaka Inaba
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2018 Volume 13 Issue 1 Pages 57-62

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Abstract

【目的】血液検査のみで構成されたがん患者用生物学的予後スコア(Biological Prognostic Score第2版)を終末期非がん患者の予後予測に応用することの適応と限界を検討した.【方法】後ろ向きに非がん入院患者のコリンエステラーゼ,血中尿素窒素,白血球数より予後スコアを算出し,カットオフ値で3群に分け,予測精度分析,生存解析,回帰分析を行った.【結果】がんと同じカットオフ値・予測生存期間における非がん患者204名の予後予測精度は,生存期間3週で正診率79%,9週で63%であった.特異度,陰性的中率は精度が高く,感度,陽性的中率は低かった.生存解析では3群間の識別は有意(p<0.05)であったが,回帰分析における回帰係数は有意ではなかった(p=0.43).【結論】非がんに対する本スコアを用いた予後予測では,予後良好の場合の予測精度は高く,慎重に用いれば臨床使用も可能であると示唆された.

緒言

予後予測は患者・家族の目標設定,治療選択の意思決定に関連し,予後を知ることは重要な役割を担い,医療者は予後予測に熟練する必要がある1,2).これは,がんも非がんも同様であるが,医療者は非がん疾患の予後予測に困難やストレスを感じている3,4)

非がん予後予測の疾患特異的モデルは認知症5,6),慢性閉塞性肺疾患7,8),脳卒中慢性期9,10),慢性心不全11,12)などの長期予測を中心に報告されている.非特異的モデルは,がん予後予測のために開発されたPalliative Performance Scale13)やPalliative Prognostic Score14,15)は非がんにも有用であると報告16,17)されたが,これらは移動能力・経口摂取など疾患特異的に障害となりうる項目や,医師の主観を評価項目に加えてある点で,一般化するのが難しい.

大道ら18)ががん患者の予後予測のために開発した生物学的予後スコア(Biological Prognostic Score第2版,以下BPS)は血液検査のみで求められ,Palliative Prognostic Index19)と同等の精度であったと報告されたが,第三者による検証と非がんへの適用はされていない.

本研究の主目的はBPSの非がんへの応用の適応と限界を明らかにすること,副目的はBPSを用いたがん予後予測の検証である.

方法

救世軍清瀬病院は緩和ケア病棟と療養病棟を有し,すべての患者(がん,非がん)が急性期病院等で原疾患への積極的治療を終了してから紹介され,入院後も原則として原疾患への積極的治療は行わず緩和・療養医療を提供することを入院基準としている.本研究は2015年4月~2017年10月に同院療養病棟へ入院した308名のうち,主治医が臨床的に必要と判断して採血し,この中にコリンエステラーゼ(ChE),血中尿素窒素(BUN),白血球数(WBC)を含む患者を対象とし,診療録の後ろ向き調査を行った.該当する採血を複数回行った場合は初回採血を解析対象とした.また,がん予後予測の検証として,2017年1~10月に緩和ケア病棟へ入院した131名のうち,同様に採血した患者を対象とした.予後予測をできる限り一般化させるために除外基準は設けず,当院の入院基準を対象基準とした.

年齢,性別,原疾患(主病名),併存疾患(副病名),入院期間,転帰を調べた.原疾患と併存疾患はがんと非がん群に分類し,がん有病者を「がん」,がんを有しないか,がん既往(治癒)と早期がん(相対的に生命を脅かす状態ではないと判断されたもの)は「非がん」とした.

診療録より得たChE(JSCC標準化対応法,U/L),BUN(ウレアーゼLED・UV法,mg/dl),WBC(自動化法,/μl)から,先行研究18)に従って以下の計算を行った.

  BPS = 42−0.04×ChE+0.22×BUN+0.0005×WBC

先行研究18)で設定されたカットオフ値は,予測生存期間3週間以下がBPS>48.0,9週間以下がBPS>41.5であり,これを用いてがんと非がんそれぞれの予測精度を算出した.すなわちカットオフ値より高い値を「予後が悪い=検査陽性」と予測し,実際の生存期間が予測期間以下の時(予測通りに死亡した時)を真陽性,予測期間以上の生存を偽陽性と判定する要領で,感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率,正診率,受信者動作特性(Receiver Operating Characteristic: ROC)解析によるROC曲線下面積(area under the curve: AUC)を求めた.非がんについては,BPS>48.0と予測生存期間30日以下,BPS>41.5と90日以下も設定して検討した.

がん,非がんを予後不良群(以下,不良群.BPS>48.0),予後中間群(以下,中間群.41.5<BPS≤48.0),予後良好群(以下,良好群.BPS≤41.5)の3群に分け,Kaplan-Meier法による生存曲線を作成し解析した.また,各々の死亡例を対象としてBPS値と生存期間の相関を単回帰分析で検討した.

数値表記は平均値±標準偏差とし,精度検定は%および95%信頼区間を表記した.生存解析はLogrank検定を用い,単回帰分析とともにp<0.05を統計学的有意差ありと判定した.解析ソフトはStatcel-3(オーエムエス出版,埼玉),XL STAT2016(Addinsoft,NY)を用いた.

本研究はヘルシンキ宣言,人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に沿って実施し,当院倫理委員会の承認を受けた.入院時に患者・家族から包括的同意を得ており,患者個人が特定されないよう配慮して調査を行った.

結果

対象患者はがん112名,非がん204名であった.患者背景を表1に示す.非がんのうち167名(81.9%)は複数の疾患を有しており,脳血管疾患,認知症,心血管疾患,呼吸器疾患が多数を占めた.がんのうち45名(40.2%)が非がんの併存を認め,認知症,脳血管・心血管・呼吸器疾患などであった.

表1 患者背景

BPSカットオフ値ごとの予測精度を表2に示す.がんにおいてBPS 48.0の3週以下生存予測はAUCが0.78,BPS 41.5の9週以下予測は特異度と陰性的中率が14~17%でAUCは0.62であった(先行研究18)で示された1週・6週以下予測を含む結果は付録表1参照).

非がんについては,BPS 41.5の9週以下予測で感度79%と陰性的中率80%に対して特異度53%と陽性的中率52%,90日以下生存予測では感度75%と陰性的中率71%へ低下した.BPS 48.0における3週以下予測は感度22%と陽性的中率36%,特異度91%と陰性的中率84%で正診率79%であった.BPS 48.0の30日以下生存予測においても精度の傾向は変わらなかった.非がんのAUCは0.67~0.68であった.

表2 生物学的予後スコアBPSの予測精度(がん患者・非がん患者)

がん生存解析では,不良群32名と中間群58名の間で有意差を認めたが(p<0.001),中間群と良好群22名の間に有意差は認めなかった(p=0.74,付録図1).非がんの生存解析では不良群24名と中間群97名,中間群と良好群83名の間でそれぞれ有意差を示した(p=0.049,p<0.001,図1).がんの生存期間中央値は不良群13日,中間群30日,良好群43日であった.非がんの生存期間中央値は不良群51日,中間群68日,良好群は2年間の追跡で生存率50%を超えていた.

図1 BPS値による予後振り分け後の非がん患者生存曲線

BPS値で予後不良群(BPS>48.0),予後中間群(41.5<BPS≤48.0),予後良好群(BPS≤41.5)の3群に分け,Kaplan-Meier法による生存曲線を作成.Logrank検定で隣り合う2群間の有意差を検定.

単回帰分析では以下の回帰直線が得られた(付録図2, 3).

  がん:生存期間予測値(日)=128.457−1.8783×BPS (p=0.0092)

  非がん:生存期間予測値(日)=119.405−1.0212×BPS (p=0.43)

考察

本研究は,血液検査値のみから算出できるスコア(BPS)を用いて,がんと同じ基準で非がんの予後予測を行う妥当性を後ろ向き調査で検討した.

非がんでは,生存解析において3群間の識別は有意であったが,AUCは0.7未満と予測精度は低かった.本結果は「カットオフ値BPS 41.5以下で予後良好とスクリーニングされると9週以上生存する(あるいは48.0以下ならば3週以上生存する)確率が高いと言える」ものの,「3週以内の死亡を確定診断するためにカットオフ値BPS 48.0は参考にならない」となる.生存解析曲線において中間群と不良群が近接していること,回帰分析においてBPSと生存期間に有意な相関がないことより,臨床的には「余命3週間以下を診断するのは難しい,9週以上と予測されれば概ね当たる,余命の具体的予測は難しい」と言い換えることができる.

なお,本研究の対象は比較的予後の良い患者集団であり,陰性的中率などは死亡率に依存することから,予後の悪い患者が多ければ予測精度は変わった可能性もある.しかし,療養病棟は急性期を過ぎて比較的病状が安定した患者を受け入れるという特性から,予後の悪い患者を集めての検討には限界もあると思われる.

今回のがん予後予測の検証において1~3週の精度は良好であったが,6~9週では精度が低く,対象症例の生存期間が短かったことは解析に影響した可能性もあるが,これについてはさらなる検証が望まれる.

本研究で検討したBPSは血液検査値という客観的な項目のみを用いている点,疾患特異性が低いと考えられる点で従来のモデル515)よりも優れており,週単位の生命予後不良の予測は不正確であるということに留意して扱えば緩和ケアにおける非がん予後予測指標となりうる可能性がある.Lynn20)により3つに分類された終末期軌道モデルは広く受け入れられており,がん患者のために開発されたBPSを,がんと非がんで生存期間や回帰直線に差があり精度も低いまま非がんにも当てはめることは困難との指摘もありうるが,非がんの8割,がんでも4割の患者が複数疾患を併存している中で得られた結果であることを考慮すると,疾患を選ばずに評価できるメリットは大きい.

本研究の限界は,(1)単施設での後ろ向き調査である,(2)がん・非がんともに緩和医療主体の患者のみを対象としている,(3)非がん群はChEの採血データ欠落等のために対象症例が入院患者の66%にとどまり集団の代表と言い切れない,などが考えられる.本研究では,患者は多くの疾患を有しているという実臨床を意識して敢えてがんと非がんを同列に予後の検討をしたが,一緒に扱うこと自体の限界も含めて,さらなる検証が必要であると思われる.

結論

非がん疾患に対するBPSを用いた予後予測について後ろ向き検討を行った.予後不良の予測精度が低いことを認識して用いれば,予後良好の予測には臨床使用も可能であると示唆された.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

村上は研究の構想およびデザイン,収集,分析,解釈,原稿の起草に貢献した.荒井,稲葉は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2018 by Japanese Society for Palliative Medicine
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