Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
The Usefulness of the 9-item Patient Health Questionnaire (PHQ-9) to Screen Major Depression for Patients on a Palliative Care Unit: A Case That without No Regular Psychiatrist
Kenji TakagiNaoyoshi TakatsukaTsubasa SasakiKatsuko MoriNaomi OgawaShinji Ito
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2018 Volume 13 Issue 1 Pages 69-75

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Abstract

【目的】当院は精神科医が非常勤であり,患者の精神状態の評価は各医療者の主観的判断となっていた.そこで,抑うつをスクリーニングし専門医への連携に繋げる目的でPatient Health Questionnaire(PHQ)-9を導入したため,後方視的に検討した.【方法】2016年1月1日〜10月31日までに緩和ケア病棟に入院した全患者を対象とした.入院時にPHQ-9を行い,10点以上を抑うつありとした.精神科医の診断(P)と照合した.【結果】対象期間中に延べ83名が入院し,50名に施行し得た.PHQ(−)・P(-)32名,PHQ(+)・P(-)7名,PHQ(-)・P(+)2名,PHQ(+)・P(+)9名であった.P(+)11名であり,PHQ-9の抑うつに対する感度,特異度は81.8%,82.1%であった.【結論】緩和ケア病棟入院時においても,抑うつのスクリーニングとしてPHQ-9の有用性が示唆された.

緒言

緩和ケアについて,2002年にWHO(世界保健機関)は,「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して,痛みとその他の身体的問題,心理社会的問題,スピリチュアルな問題を早期に発見し,的確に評価し,治療を行うことによって,苦しみを予防し,緩和することで,Quality of Life(QOL)を改善するアプローチである」と定義している.つまり,緩和ケアでは「痛み」に代表される身体的苦痛だけでなく,社会的苦痛,精神的苦痛,スピリチュアルペインなど,相互に影響する全人的苦痛(トータルペイン)の視点から患者を捉え,すべてに対応する包括的なケアを行うことが重要である.

このうち,がん患者の心理・精神的症状は,身体症状に比べて把握しにくく,各医療者の主観的判断によるため,評価が難しいことから看過されやすい.なかでも大うつ病性障害は,QOLを低下させ,身体治療にも影響し,自殺企図につながることから,見落としてはいけない精神疾患である.しかし,がん患者の場合,患者自身も医療者も抑うつ状態に伴う身体症状をがんに付随する症状や治療に伴う有害事象として捉えてしまい,抑うつ状態が見落とされることが知られている1,2).また,喪失体験による心理的反応に伴って出現することが多いため,医療者側の知識不足による過小評価や,医療者が精神症状の評価をためらうことにより,抑うつ状態が見落とされ,誤った診断・対応をされがちである1)

緩和ケア病棟においても,全人的苦痛に対してのケアを行うためには,患者の心理・精神症状を客観的に把握し,専門医への連携に繋げることが重要である.そこで,精神科常勤医師のいない緩和ケア病棟において,患者の精神症状を客観視できるように,抑うつのスクリーニング目的にPatient Health Questionnaire(PHQ)-9を導入した.

PHQ-9は,Kroenkeらが報告した,大うつ病性障害のスクリーニングツールである3).米国で多忙なプライマリ・ケア医が,短時間で精神疾患を診断・評価するシステムとして,PRIME-MD(Primary Care Evaluation of Mental Disorders)が開発された4).そして,実施時間の短縮のためにPRIME-MDの自己記入式質問票版としてPHQが開発された.さらに,PHQ-9の中から大うつ病性障害に関わる 9つの質問項目のみを抽出して,大うつ病性障害のスクリーニング評価のためにPHQ-9が作成された.PHQ-9の日本語版として「こころとからだの質問票」が発刊されているが,緩和ケア病棟での使用報告はない.

今回,精神科常勤医師のいない緩和ケア病棟における,PHQ-9日本語版「こころとからだの質問票」の有用性について後方視的に検討した.

方法

対象

2016年1月1日〜10月31日までに緩和ケア病棟に入院した全患者を対象とした.

評価方法

緩和ケア病棟入院時にPHQ-9日本語版「こころとからだの質問票」の使用目的について説明し,患者および家族の自由意思により,希望された方には患者自身に記入してもらい回収した.記入が難しい患者には,看護師が口頭で質問内容を読み上げ,結果を看護師が記入した.

PHQ-9を使用した(表1).質問項目は全9項目からなり,「この2週間,次のような問題にどのくらい頻繁に悩まされていますか?」の問いに対し,「全くない(0点)」「数日(1点)」「半分以上(2点)」「ほとんど毎日(3点)」で選択される.質問項目「1.物事に対してほとんど興味がない,または楽しめない」「2.気分が落ち込む,憂うつになる,または絶望的な気持ちになる」のいずれか1つでも2点以上であれば,全9項目を記入し,PHQ-9スコア(各項目の合計点)を算出した.質問項目1,2のいずれも1点以下であれば,そこで記入を終了した.

当院では,週1日の非常勤医師として精神科医師が勤務している.精神科医は,来棟時に緩和ケア病棟入院中すべての患者の面談を行った.PHQ-9の結果がわからない状態で,Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-5(DSM-5)にもとづき精神状態を評価し,カルテに記載した.

表1 PHQ-9日本語版「こころとからだの質問表」

アウトカム指標

アウトカム指標は,うつ病とした.

抑うつ状態の評価尺度として,PHQ-9日本語版「こころとからだの質問票」を使用した.これは,NICE(National Institute for Health and Care Excellence, 2009),米国精神医学会によって大うつ病性障害の評価尺度として推奨されているPHQ-9の日本語版である.村松らにより,プライマリ・ケア医療機関と総合病院に定期通院中の患者において,PHQ日本語版の精度が高いことが確認されている4).合計点により,1~4点は軽微,5~9点は軽度,10~14点は中等度,15~19点は中等度~重度,20~27点は重度として,抑うつ症状の評価ができる特性を有する.Kroenkeらは,10点以上が大うつ病性障害が存在する可能性の閾値としており3),Muramatsuらは日本語版においても同様であったと報告している5).本研究でもPHQ-9スコア10点をカットオフ値とし,10点以上を抑うつあり(以下,PHQ(+)),9点以下をなし(以下,PHQ(−))とした.PHQ-9日本語版の研究使用と取り扱いに関しては,翻訳権者と覚え書きを交わし,使用許可を得た.

精神科医は,うつ病なし(以下,P(−))とあり(P(+))を判定し,P(+)をうつ病の最終診断とした.

倫理的配慮

本研究は,「ヘルシンキ宣言」に沿って実施した.対象者には,自由意思を尊重し不利益を被ることなく拒否できること,対象者のプライバシーや個人情報を保護することについて,口頭で説明し同意を得た.PHQ-9の緩和ケア病棟での使用については,津島市民病院倫理委員会による承認を得た.また,本研究内容についても同倫理委員会による承認を受けた(登録番号:2017津島市民倫理第5号).

結果

2016年1月1日〜10月31日までに当院緩和ケア病棟に83名の患者が入院した.

PHQ-9のスコア化が可能であったのは,59名であった.83名中3名がPHQ-9の回答を希望されなかった.また,21名が患者の全身状態などによりPHQ-9に対する回答および看護師による聴取が困難であった.また,PHQ-9のスコア化ができた59名中9名は,精神科医の面談までに状態が悪化し,診察を受けられなかった.このため,PHQ-9のスコア化と精神科医の診断が可能であったのは,50名であった.この50名につき,PHQ-9判定と精神科医の診断を比較検討した(図1).

図1 フローダイヤグラム

平均年齢75.8±9.2歳,男女比25名:25名であった.PSは,0〜2が28名,3が18名,4が4名であった.平均罹病期間 平均33.2カ月(1〜255カ月),スクリーニング後の生存期間は平均45.1日(4〜225日)であった.精神科医がうつ病(P(+))と診断したのは,11名(22%)であった.PHQ(−)・P(−)32名,PHQ(+)・P(−)7名,PHQ(−)・P(+)2名,PHQ(+)・P(+)9名であり,感度81.8%,特異度82.1%であった(表2).PHQ-9スコアのカットオフ値が異なる場合を含めたROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を図2に示す.AUC(Area Under the Curve)は,0.87±0.06であった.

表2 PHQ-9と精神科医診断が可能であった50名
図2 PHQ-9 scoreのROC曲線

PHQ-9 score 10点以上とした場合,AUC 0.87,95% CI 0.73-0.94であった.PHQ-9 scoreを7点,8点,9点以上とした方が,感度,特異度ともに高くなる可能性がある.

PHQ(+)・P(−)の7名について表3に示す.Case 1,2,7は,医療者にとっても患者の背景が理解しやすく,対応は協議しやすかった.しかし,Case 3は,入院時には泣いていたが,6日後の精神科医診察時には,眠剤にて眠気が強く,抑うつ気分が目立たない症例であった.また,Case 4はせん妄,Case 5は強い倦怠感に伴う意欲低下,Case 6は適応障害と,患者の精神状態について医療者側の判断が難しく,精神科医のフォローが必要であった.以上より,PHQ(+)・P(−)の7名のうち4名(57.1%)は,医療者にとって判断に迷い,精神科医のフォローが必要な患者が含まれていた.

PHQ(−)・P(+)2名のうち,1例は直腸癌術後,局所再発による仙骨浸潤により,下半身疼痛,下半身麻痺を認めた症例であった.入院時(PHQ-9施行時)は,当院へ転院できたことを喜んでいてくれており,疼痛も軽減していた.しかし,精神科医診察時は,疼痛が憎悪し,それに伴ううつ病と診断した.また,もう1例は多発肝細胞がん,多発骨転移の症例であり,87歳と高齢で,既往に胃癌,心筋梗塞,慢性閉塞性肺疾患があった.入棟後,徐々に全身状態が悪化し,7日目に精神科医が診察したが,その2日後に死亡した.

表3 PHQで抑うつ状態(PHQ(+)),精神科医がうつ傾向なし(P(-))と診断した 7名

考察

全人的苦痛の概念は,現代の緩和ケア概念の基礎をなすCecily Saundersが提唱し,死に直面した人々のケアでは全人的ケアが必要だと説いている6).そのうち不安や抑うつ等の精神的苦痛については,「がん対策推進基本計画」においても,身体的苦痛と同様にがんと診断された時からケアを推進すべきことが明記された7).このことからも,緩和ケアにおいて,患者の心理,精神的症状の把握は重要である.

Derogatisらは,がん患者は,全病期において47%が精神医学的診断基準を満たし,そのうち適応障害が68%,うつ病が13%であったと報告している8).また,Minagawaらの報告では,緩和ケア病棟に入院した終末期がん患者93名(平均年齢67±12歳,がん罹病期間20.2±34.5カ月)では,53.7%に精神医学的診断が認められ,せん妄(28%),適応障害(7.5%),うつ病(3.2%)の順であった9).Minagawaらの報告と比較して本研究の83例は,平均年齢が75.8±9.2歳とより高く,がん罹病期間も33.2±29.7カ月とより長くなっているにもかかわらず,83名中11名(13.2%)がうつ病であり,その割合が高かった.これは,緩和ケア病棟入院までの期間での緩和ケア介入が不十分であったと考えられ,早期からの緩和ケア体制の構築についての検討が必要である.

PHQ-9は,Kroenkeらが精神疾患を診断,評価するためのPHQから大うつ病性障害に関わる9つの質問項目を選択し,作成した.プライマリケアの患者の大うつ病性障害の評価で,感度88%,特異度88%とともに高く,診断的妥当性および有用性が高いと報告されている3).PHQ-9日本語版についても,村松らが感度84%,特異度95%と妥当性,有用性を示している4).本研究でも,うつ病の診断に対して,感度81.8%,特異度82.1%と高い妥当性を示した.

Wakefieldらのがん患者のうつ病の評価方法についてのメタアナリシスによれば,PHQ-9については,がん患者での信頼性と有効性が低い,2週間の反復期間は老人集団に有用でない,いくつかの質問が積極的な治療を受けている人にとってそれほど適切でないなどの理由で,それほど良好ではないと評価されている10).しかし,考察において,メタアナリシスの限界としてPHQ-9は最近の研究では有望なスクリーニングであり,非常に鋭敏である可能性があると述べている.本研究では,緩和ケア病棟におけるスクリーニングツールとしての有用性は高いと思われた.

がん患者のうつ病に対するPHQ-9の妥当性を評価した報告では, Thekkumpurathらが4264人のがん患者にPHQ-9を施行し,8点以上を大うつ病性障害と判定した場合に感度93%,特異度81%であったと報告している11).またHartungらは,2141人のがん患者に施行し,7点以上をカットオフ値とした場合に感度83%,特異度61%であり,スクリーニングとして最適であったと報告している12).PHQ-9日本語版の報告がないため比較は難しいが,本研究でもROC曲線からは,緩和ケア病棟入院時においてはPHQ-9スコアが7点,8点,9点のいずれか以上を抑うつ状態と判定した方が感度,特異度がさらに高くなる可能性が示唆されている.症例が少ないため,今後も症例を蓄積し再検討が必要であるが,がん患者に使用する場合の適切なカットオフ値は10点とは異なる可能性が考えられた.

Pirlらは,転移性非小細胞肺癌と診断された151例に対し,標準治療のみの群と早期緩和ケアを併せて行った群を比較して,緩和ケアを併せて行った群の方が,抑うつ症状を有する患者が少なく,QOLも良好であり,生存期間も長かったと報告している13).Sharpeらは,がん患者に対し看護師,プライマリ・ケア医,精神科医の協同によるmulticomponent collaborative careを行うことにより,抑うつだけでなく,不安,痛み,倦怠感,機能,健康,QOLも改善したと報告している14).野末らも,ケア・パッケージを用いた精神看護専門看護師による介入により,がん患者の抑うつ状態の改善度が高まったと報告している7).早期から適切な緩和ケアを実践することは,患者のQOL,生存期間の改善にもつながる可能性がある.そのためにも,患者の心理・精神症状を客観的に把握することは重要である.

村松は,PHQ-9をスクリーニングツールとして使用する場合においても,内包する問題点を念頭におき,併存する精神疾患や鑑別すべき精神疾患が疑われる場合には,専門医に円滑に紹介・相談し,さらに包括的臨床的視点からの評価・診断を行い,適切な治療方針をたてる必要があると述べている4).つまり,PHQ-9はあくまでスクリーニングツールであることを理解し,大切なことは,精神的症状が疑われる患者を適切に専門医に繋げることである.精神科医が非常勤で限られた時間の中で診察を行うことを考えると,このようなツールを用いて診察の必要な患者を客観的に抽出し,連携をとることが肝要である.当科においては,PHQ-9で抑うつ傾向を示し,早期に介入が必要と思われる患者がいた場合には,電話などで非常勤精神科医師と相談し,薬剤導入などにつき助言をいただくような体制を構築することが,患者のよりよいQOLの改善につながるのではないかと考える.

本研究の限界は,PHQ-9の評価時期と,精神科医の診断時期にずれがあることである.PHQ-9は入院時に行うが,精神科医は来院時に診断するため,その間隔は数日から2週間程度の幅がある.そのため,その間に緩和ケアにより精神症状が改善する患者もいれば,全身状態の悪化により精神症状が悪化する患者もいたと思われる.精神科医が非常勤であるため解決は難しいが,この限界を考慮したうえで,精神科医に早期に相談する必要のある患者を抽出するシステムを構築していきたいと考える.

結論

精神科常勤医師のいない緩和ケア病棟入院時においても,抑うつのスクリーニングとしてPHQ-9日本語版「こころとからだの質問票」の有用性が示唆された.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

髙木は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献;高塚および佐々木は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;森,小川および伊藤は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2018 by Japanese Society for Palliative Medicine
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