Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Review
Educational Intervention for Promoting Self-management of Patients with Cancer Pain: A Literature Review
Masako YamanakaKumi Suzuki
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 13 Issue 1 Pages 7-21

Details
Abstract

【目的】文献レビューによりがん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入に関する研究の動向と介入内容を明らかにした.【方法】文献検索はMedLine,CINAHL,医学中央雑誌を用いて2000年1月~2017年7月,キーワードはがん疼痛,セルフマネジメント,セルフケアとした.【結果】対象は和文献3と英文献27で,2010年以降が多かった.介入プログラムはメインセッションとフォローアップを組み合わせた構成で,個別介入が多用されていた.教育内容は薬理学的疼痛緩和法,痛みのセルフモニタリングや医師とのコミュニケーションのスキルであった.介入成果は疼痛緩和と知識の改善であった.【結論】日本ではがん疼痛のセルフマネジメントに関する介入研究が少ないことから,本結果で明らかになった介入方法や教育内容を参考に,がん疼痛がある患者へのセルフマネジメントを促進する教育的介入プログラムを開発することが課題である.

緒言

がん患者の多くが経験する症状のひとつに痛みがある.Yamagishiら1)は,通院中の進行がん患者の60%が痛みを有し,20%は中等度以上の強い痛みで,約半数が身体的苦痛や心のつらさを感じていると報告しており,がん疼痛緩和は未だ重要課題である.これまで,がん疼痛のある患者に対しては,医療者が行うペインマネジメントに患者が主体的に参加するという考え方が主流であった.一方,生活習慣病などの慢性疾患患者に対しては,動機づけを行い行動変容へと導く疾病管理(Disease Management)が行われており,その構成要素のひとつにセルフマネジメントがある2).セルフマネジメントは,クライアントが自分の病気療養に関するテーラーメイドの知識・技術を持ち,生活と折り合いをつけながら,固有の症状や徴候に自分自身でなんとかうまく対処すること3)とされている.がん看護領域においては,Oncology Nursing Society(ONS)が2014〜2018年に優先されるべき研究トピックのひとつにセルフマネジメントを加えており4),患者ががん疼痛とその影響をセルフマネジメントできるように支援することが必要と考えられる.さらに,がん患者においても平均在院日数が短縮し在宅で過ごす期間が増えている現在,がん疼痛患者のセルフマネジメントは不可欠であるといえる.

先行研究ではがん患者のセルフマネジメントの教育的介入を分析したシステマティックレビュー5)があり,次のような患者の行動に焦点を当てて教育介入することが必要と述べている.それは,①治療合併症の予防管理,②病気の医療的管理と治療計画へのアドヒアランス,③症状マネジメント行動(症状の認識,セルフモニタリング,日々の意思決定を含む),④実存的苦悩を含む身体的,心理的,社会的な影響の管理,⑤病気の再発への対処,⑥健康的なライフスタイル行動,⑦医療者やサポートネットワークとの協働とコミュニケーションである.このシステマティックレビューでは,42対象文献のうちアウトカムのひとつに痛みを加えていたのは11文献であったが,そのうち7文献は不安や抑うつ,化学療法による有害事象をターゲットにした教育的介入であり,がん疼痛に焦点を絞った介入の特徴は詳述されていない.今後,日本においてもがん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入が望まれるため,国内外で実施されているがん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入プログラムの構成内容や介入方法,介入期間,介入提供者,介入の成果について明らかにする必要がある.そこで本研究は,がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する看護介入プログラム開発の基礎資料とするため,がん疼痛のセルフマネジメントを促進する教育的介入に関する文献レビューを行い,がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入の内容の詳細について明らかにすることを目的とした.

研究方法

文献検索方法および対象文献の選定方法

英文献でがん疼痛に対しセルフマネジメントという用語が用いられたのは2000年に公表されたCoward ら6)の骨転移痛患者を対象にした質的研究であることから,検索年数は,2000年1月〜2017年7月とした.

文献検索結果は図1に示すとおりである.本レビューはがん疼痛患者のセルフマネジメントに焦点を当てているが,セルフマネジメント(自己管理)とセルフケアが明確に区別して使用されていないことや,セルフマネジメントががん領域において比較的新しい概念であることから,検索キーワードにセルフケアも含めた.和文献は,医学中央雑誌を用いて,「がん疼痛/がん性疼痛」「自己管理」「セルフケア」をキーワードとし,原著論文に限定した結果37文献が検索された.そのうち,疼痛を扱っていない2文献,事例研究13文献,論文の体裁をなしていない3文献を除外した19文献を精読し,がん疼痛患者の自己管理を促進する教育的介入に関する3文献を分析対象とした.

国外文献は英文献に限定し,MedLine,CINAHLの検索システムで「“cancer pain” and “self-management”」,「“cancer pain” and “self-care”」の検索式を用いた.検索した254文献のうち重複文献を除き,非がん患者を対象にした44文献,小児に限定した7文献,疼痛が対象でない1文献,事例研究3文献,論文の体裁をなしていない3文献と,1次文献を対象とするためレビュー文献23文献を除外した.次に,タイトルまたは要約に“cancer pain” “self-management” “self-care” “self-reported” “self-administration”の記述がある43文献の本文を精読し,がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入に関する25文献に絞った.そのうち3文献は質的研究であるが,介入研究に参加した患者を対象としており介入研究を当事者の視点で評価できる文献と判断して対象に含めた.その後,Googleなどの検索システムでサーチした2文献を加え,27文献を分析対象とした.

図1 文献検索結果

分析方法

選定した文献を整理するために,基本的情報として著者名,発行年,タイトル,研究場所(国)と,研究目的,研究デザイン,対象,研究方法,結果の概要を記入するためのマトリックスシートを作成し,対象文献中の該当する記述をデータとして記入した.がん疼痛のセルフマネジメントに関する研究の動向は,発行年,研究デザイン,国のデータを分析した.また,研究方法および結果のデータから対象者と介入方法,介入内容,介入提供者,評価指標,介入の成果を抽出し分析した.

なお,対象文献の選定と分析は研究者2名で検討しながら行った.

結果

がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入に関する研究の動向

分析対象となった国内外30文献を表1に示す.国の内訳は,アメリカ12文献,ドイツ6文献,日本3文献,オランダ2文献,ノルウェー2文献,韓国2文献,オーストラリア1文献,イタリア1文献,カナダ1文献であった.

発行年を5年毎に見ると,2000~2004年は8文献,2005~2009年は3文献,2010~2015年は15文献,2015年以降は4文献であり,2010年以降に文献数は増加していた.

研究デザインは,無作為化比較対照試験(Randomized Controlled Trial: RCT)13文献,比較対照試験を用いた予備調査(pilot study)1文献,スタディプロトコール(study protocol)5文献,相関関係的デザイン1文献,準実験的デザイン3文献,記述的デザイン4文献,質的研究3文献,であった.スタディプロトコールでは予備調査の研究計画内容を公表しており,リクルート率や脱落率,介入プログラムの完遂率等が検討されていた.

表1 対象文献

がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入に関する研究

がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入のプログラムの名称および対象者,痛みに関する適格基準,介入提供者,プログラムの構成,介入の内容,使用教材,介入期間,プログラムの完遂率,介入成果は表2のとおりであった.以下,文中の(No.数字)は表1の文献番号を示す.

表2 がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入の構成内容と介入成果

1.教育的介入プログラムの種類

構造化されたがん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入プログラムには,オレムのセルフケア理論を理論的枠組みとする「PRO-SELF© Plus Pain Control Program(PRO-SELF©)」(No.16-19)とそのノルウェー版(No.22, 23),ドイツ版(No.8-11)と,同じくオレムのセルフケア理論を背景としたModel for Symptom Management(MSM)をもとに開発された「An Integrated Approach to Symptom Management(IASM)」(No.28, 29)があった.また,看護師主導のカウンセリングプログラムである「SCION-PAIN program」(No. 6, 7),社会認知理論と認知行動療法に基づくTailored Education and Coaching (TEC)を用いて患者のエンパワメントを目指す「Ca-HELP study」(No.12-15),健康行動を導くプリシードモデルに基づく「Pain Management Intervention (PMI)」(No.2),患者側の障壁を取り除く介入(No.27),iPadアプリケーションを用いた「A technology based multicomponent self-management support intervention」(No.3, 4),在宅緩和ケアプログラムの「Palliative Homecare Program」(No.1)があった.その他,セルフレポートボードをベッドサイドに掲示する介入(No.24, 25),アセスメント用紙を渡す介入(No,5),ビデオと小冊子を渡す介入(No.26),レスキュー薬1回分の自己管理(No.30)があった.

2.対象者

教育的介入の対象者は,入院患者8文献,外来患者21文献,在宅患者1文献であった.対象患者の痛みに関する適格基準では,がん疼痛の種類は神経障害性疼痛を除外したものが1文献(No.10)であり,その他の文献ではがん疼痛の種類を限定していなかった.文献No.11では対象を肺癌・乳癌・前立腺癌の骨転移に限定して調査を開始したが,低いリクルート率のために神経障害性疼痛を除くすべての痛みに変更していた.痛みの強さは,0-10 Numeric Rating Scale(0-10 NRS)≥4は6文献(No.3, 4, 13-15, 27),0-10 NRS≥3は6文献(No.6-11),0-10 NRS≥2.5は8文献(No,16-23),0-10 NRS≥2は2文献(No.1, 26),100 mm Visual Analogue Scale(100 mm VAS)≥30 mmは1文献(No.12)であった.痛みの持続期間は,3日間以上が2文献(No.6, 7),2週間以上が3文献(No.2-4)で,規定されていない文献が多かった.また,多くの文献が対象者の年齢を18歳以上としていた.

3.介入提供者

教育的介入の提供者は多くが看護師で,その他はCa-HELPのみ医学および心理学専攻の大学生(No.12)とHealth Educator(HE)(No.13-15)であった.

4.プログラムの構成と介入方法

教育的介入プログラムの構成は,入院中に痛みや鎮痛に関する知識・スキルを提供するメインセッションと退院後に訪問または電話訪問するフォローアップの組み合わせ(No.6, 7, 9-11),訪問でのメインセッションと訪問・電話・メールでのフォローアップの組み合わせ(No.3, 4, 16-19, 22, 23),訪問でのメインセッションと電話でのフォローアップの組み合わせ(No.2),入院中の介入のみでフォローアップしないもの(No.5, 24, 25, 28-30),外来でのメインセッションのみでフォローアップしないもの(No.1, 12-15, 26, 27,)があった.

介入方法は,対面式個別介入(No.1, 3, 4, 6, 7, 9-19, 22-25, 27-29),コンサルテーション(No.3, 4),カウンセリング(No.6, 7),看護コーチング(No.9-11, 16-19, 22, 23),ブレーンストーミング(No.14, 15),ロールプレイング(No.14, 15)があった.以上より,教育的介入プログラムの構成はメインセッションとフォローアップの組み合わせが多く,介入方法は対面式個別介入が多かった.

5.教育内容

教育的介入のメインセッションの前に,患者の知識・態度・好みのアセスメント(No,13-15)や患者側の疼痛緩和における阻害要因のアセスメント(No.2)が行われていた.

教育的介入のメインセッションの内容は,ペインマネジメントに関する一般的な知識(No.24-26),痛みの原因(No.1, 3, 4, 9-11, 16-19, 22, 23),薬理学的な疼痛緩和方法(No.1, 3, 4, 6, 7, 9-12, 16-19, 22, 23),鎮痛薬の管理方法(No.6, 7, 9-11, 16-19, 22, 23),鎮痛薬の効果的な使用方法(No.3, 4),鎮痛薬の副作用(No.9-11, 16-19, 22, 23),非薬理学的な疼痛緩和方法(No.6, 7),痛みを伝達することの重要性(No.6, 7),痛みや鎮痛薬に対する誤解を解く(No.6, 7, 12-15),痛み・その他の症状・鎮痛薬の使用・生活への影響についてセルフモニタリングする意義とツールの使用方法(No.1, 3-5, 9-11,16-19, 22-25),痛み増強時の対応方法(No.3, 4),痛みのコントロールが不十分な場合の医師とのコミュニケーション技法(No.1, 6, 7, 9-19, 22, 23)であった.

教育的介入のフォローアップの内容は,痛みの状態と鎮痛薬使用状況の評価(No. 3, 4, 16-19, 22, 23),鎮痛効果が不十分な場合の専門家へのコンサルト(No, 3, 4, 16-19),メインセッションで習得した痛みのセルフマネジメント方法を維持するためのカウンセリング(No.6, 7),看護コーチング(No.9-11, 16-19, 22, 23)であった.看護コーチングでは,疼痛緩和法の実際的な助言,副作用の予防方法,患者自身がペインマネジメントプランを立案し評価することの促進,鎮痛薬の処方内容の変更を医師に要望するコミュニケーションの強化であった.

6.介入期間と介入回数

介入期間は,1日~10週間と様々であった.介入回数については,メインセッションは1回(No.1, 5, 9-19, 22-27),2回(No.2),3回(No.3, 4, 6, 7,),フォローアップは1回(No.6, 7, 26, 27),3~4回(No.3, 4),5回(No.16-19, 22, 23),6回(No.9-11)で行われていた.

7.使用教材

教育的介入の使用教材は,教育冊子(No.1-4, 6, 7, 9-19, 22, 23, 26, 27),痛み日記(No.1, 5, 6, 9-11, 13-15),セルフレポートボード(No.24, 25), iPadアプリケーション(No.3, 4),ビデオ(No.1, 26)が用いられていた.教育冊子は,国立がん研究所などの機関が作成している既存の小冊子(No.2, 13-15)または独自に作成した小冊子(No.6, 7)が使用されていた.痛み日記の項目は,疼痛強度,鎮痛薬の副作用,レスキュー薬の使用時間,日常生活動作,生活の状況,睡眠,人間関係,痛みが及ぼす影響であった.iPadの患者用アプリケーションは,疼痛強度と副作用,活動や睡眠の状況,鎮痛薬の使用量,治療への満足度を入力するとその結果がグラフで表示され,テキスト・メッセージ機能を用いて看護師と情報共有ができるようになっていた.一方,看護師用アプリケーションは,患者が入力した情報を分析し,対応の緊急性が表示されるようになっていた.

8.アウトカムと測定用具

教育的介入の研究で用いられているアウトカムと測定用具は表3のとおりであった.項目は,痛み,痛み以外の症状,心身の状態,QOL,対処行動,自己効力感であった.測定用具のうち,多用されていたものは,疼痛強度を測定する0-10 NRS(No.1, 5, 9, 10, 12-16, 18, 24-26),簡易痛み質問票のBrief Pain Inventory(BPI)(No.2, 3, 7, 11, 18, 26),痛みによる障害を測定するMedical Outcomes Study(MOS)(No.12-15),疼痛緩和における患者側の阻害要因を測定するBarriers Questionnaire(BQ II)(No.2, 6, 7, 11, 13-15, 26, 27),鎮痛薬使用の妥当性を評価するPain Management Index(PMI)(No.1, 11, 24-26),身体疾患患者の抑うつと不安のスクリーニングツールであるHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)(No.3, 9, 10, 13-15, 26),QOL質問票のEuropean Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire(ERTC-QLQ-C30)(No.3, 7, 29)とShort-Form Health Survey(SF-12,SF-36)(No.11, 13-15, 18)であった.

表3 がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入のアウトカムと測定用具

9.教育的介入プログラムの完遂率

教育的介入プログラムの完遂率は,The German PRO-SELF©で69.2%(No.9),The SCION-PAINで79.7%(No.7),Ca-HELPで87.0%(No.12),PMIで95.9%(No.2)であった.完遂しない対象者側の要因には肺癌,化学療法中,身体機能の低下がある(No.9)と報告されていた.

10.教育的介入の成果

がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入の成果として,痛みや薬物療法などの知識が改善したのはPRO-SELF©,SCION-PAIN,PMI,Palliative Homecare Program,患者側の障壁を取り除く介入(No.27)であり,患者側の阻害要因が改善したのはSCION-PAIN,PMI,患者側の障壁を取り除く介入(No.27)であった.疼痛緩和効果が認められたのはPRO-SELF©,SCION-PAIN,Palliative Homecare Program,Ca-HELP,IASMであり,その他オピオイドの使用量が増加したのはPRO-SELF©,鎮痛薬が適正に変更されていたのはCa-HELP,痛みによる障害が改善したのはPRO-SELF©とCa-HELP,QOLが改善したのは患者側の障壁を取り除く介入(No.27)であった.

Ca-HELPでは医師とのコミュニケーションの改善や自己効力感の高まりが認められ,IASMではセルフケア能力の向上や適切なレスキュー薬の使用が報告されていた.また,レスキュー薬1回分の自己管理(No.30)では夜間(1~5時)のレスキュー薬使用回数が増加したことや,看護師管理では昼間より夜間のレスキュー薬使用頻度が少ないことが報告されていた.

セルフモニタリングツールを有用と回答した患者の割合は,痛み日記(PRO-SELF©)で74.0%,ビデオと小冊子(No.26)で90.0%,セルフレポートボードで79.2%であり,iPadアプリケーションや痛み日記は役立ったが教育用の小冊子は読み返さなかった(No.4)と報告されていた.また,痛み日記を記載しない理由は,身体的・心理的苦痛,記入忘れ,理解不足,動機づけ不足,痛みがない等(No.5)であった.

がん疼痛患者のセルフマネジメントに関する質的研究

質的研究3文献(No.8, 20, 21)は,すべてPRO-SELF©の研究に参加した患者と家族を対象にしていた.患者と家族が行う痛みの薬物療法管理を明らかにした研究(No.20, 21)では,鎮痛薬の管理における[処方箋の入手][鎮痛薬の入手]と,自宅での個々の生活様式における[理解][整理][保管][計画][記憶][服用]が抽出され,その具体的内容として患者・家族の語りが次のように記述されていた.鎮痛薬の管理では,「医師とのコミュニケーションが難しいのでメモを渡すようにしている」「上級看護師が鎮痛薬の処方もできることを知らず病院まで行った」「院外薬局まで遠くてつらい」「薬局で薬の在庫がなく入手できなかった経験から郵送サービスを受けるようにした」「医療費が負担で公的扶助を受けたが,認可されるまで鎮痛薬を入手できず痛みが増強した」等が報告されていた.自宅での生活では「処方された鎮痛薬の使用方法がわからない」「鎮痛薬は痛いときだけ使用している」「服用を忘れて痛みが増強した」「徐放性製剤を半分に割って飲んだ」「大量に服用して救急搬送された」「鎮痛薬の多用を心配した家族が薬を隠した」等の不適切な管理の一方で,生活に合わせた服用時間の調整や安全な保管方法の工夫,家族が服用時間を管理するといった対処を行っていることが報告されていた.

患者が行っている疼痛管理と研究参加に伴う困難と効果を明らかにした研究(No.8)では,「患者は医療者のペインマネジメントに関する知識や思いやりの態度に信頼を寄せている」「患者と介入看護師との信頼関係が最も重要である」「患者の機能状態が良好であれば研究参加の負担は受容できる」「研究参加によりセルフマネジメントに関する知識と持続痛が改善した」「疼痛緩和や満足感をもたらした要因として介入がセルフマネジメントに焦点化されていた」「専門家と問題を議論するための十分な時間があった」等が報告されていた.

考察

がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入に関する研究の動向

がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入に関する文献を分析した結果,対象文献は国外文献が多く,文献数は2010年以降に増加していた.がん疼痛のセルフマネジメントは定義がまだ共通理解されていない概念であると考えられたため,本研究ではセルフケアを検索キーワードに加えた.多くの研究が実施されているPRO SELF©(No.16-19)はそのノルウェー版(No.22, 23)も含め,オレムのセルフケア理論を理論的前提として開発されている.その後,ドイツ版(No.9-11)ではセルフマネジメントの概念が用いられているが,セルフケアからセルフマネジメントに使用概念を変更した理由は記載されていなかった.このことから,がん疼痛においてセルフマネジメントは比較的新しい概念と推察される.今後は,がん疼痛患者におけるセルフマネジメントの概念特性を明らかにすることが必要と考える.

研究デザインはRCTが最も多かったが,半数以上は準実験研究や予備調査,スタディプロトコールなどであり,がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する介入研究の今後の発展性が伺えた.しかし,国内文献は準実験的デザインや記述的デザインのみであり,それらの文献では対象者数が20名前後と少なく,介入の詳細が記述されていなかった.今後は,日本の実状に適応できるがん疼痛患者への教育的介入プログラムを開発し,介入研究を実施することが課題である.

がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入の対象者と介入提供者について

対象者の年齢は18歳以上で,がん種は限定されていない教育的介入プログラムが多かった.がん疼痛については疼痛強度を設定している研究が多いものの,痛みの種類や持続期間はほとんど設定されていなかった.このことから,がん疼痛全般を対象に介入研究を実施することで,教育的介入プログラムの適応範囲を広くする意図が伺えた.また,対象は外来患者が多かった.日本でも外来通院するがん患者は増加しており,榊原ら7)は,通院患者は入院患者より痛みが有意に強く,除痛率は有意に低いと報告している.外来患者を対象にしているのは,国内外を問わず外来がん患者にとってがん疼痛が重要課題であり,今後増加する外来がん患者への対応の必要性に加え,医療者の直接介入の機会が減る通院中にこそ,痛みに対し患者自身がセルフマネジメントを行うことが望まれるからだと考える.

介入の提供者は看護師が多かった.看護師は薬理学的知識と患者を生活者として見る視点をもち合せ,身体的,心理的,社会的な痛みへの対応が可能な職種として教育的介入の提供者にふさわしいと考えられ,前述のように外来がん患者が増加する現状からは外来ナースの役割が重要となる.しかし,がん患者への外来看護上の問題として身体管理技術の提供や相談機能といった患者個々への対応の不足がある8)と報告されている.今後は,がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入の介入提供者として外来看護師が対応できるような外来看護システムの整備が望まれる.

がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入の内容と成果の検討

本結果で明らかになったがん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入の内容と成果を検討する.

教育的介入のプログラムの構成はメインセッションと電話や訪問を用いたフォローアップの組み合わせが多く,対面式個別介入が多用されていた.この構成による介入成果として,疼痛緩和に関する知識の改善や疼痛管理における患者側の阻害要因の減少,痛みと痛みによる影響の改善,QOLの改善が認められていた.また,質的研究(No.8)の結果からは医療者との信頼関係や議論できたことが満足できる疼痛緩和につながったと報告されている.がん疼痛には持続痛と突出痛があり,予期せぬタイミングで出現,増強し,がんの進行や鎮痛薬の使用状況,生活動作によって痛みは多様に変化する.さらに,痛みは心理的,社会的,霊的な側面とも影響し合い複雑な様相を呈する.メインセッションとフォローアップを組み合わせるこの構成は,このような特徴をもつがん疼痛に適していると考えられる.また,対面式個別介入が多いのは,教育的介入プログラムが患者の個別性に応じた介入を重視していることを示している.痛みは,実際に何らかの組織損傷が起こったとき,あるいはそのような損傷の際に表現されるような不快な感覚体験および情動体験と定義される9)個人的な体験である.さらに,がん疼痛の薬物療法において鎮痛薬の投与量設定やレスキュー薬の使用方法,副作用対策は個別的に設定されている.対面式個別介入が多用されていたのは,痛みの個人的な体験やがん疼痛の薬物療法に対応するためであると考える.一方,教育用の小冊子やビデオ,痛みの自己評価表といったツールを渡されるだけの介入もあったが,それらの介入では痛みの軽減に結び付くような成果は得られていなかった.したがって,がん疼痛患者への教育的介入は,対面式個別介入を時間的経過の中で継続させることが必要と考える.しかし,教育的介入プログラムによってメインセッションの時期は入院中と外来,在宅と異なり,介入期間も様々で,フォローアップの方法も電話や訪問,クリニック受診時と異なっていた.今後の教育的介入プログラム開発は,日本の医療提供体制や医療保険制度を考慮した方法を検討する必要がある.

教育の内容として,メインセッションでは薬理学的な疼痛緩和方法や鎮痛薬の管理方法,痛みや鎮痛薬に対する誤解を解くための知識を教育しているプログラムが多かった.Reidら10)は,がん疼痛患者が痛みへの恐怖と医療用麻薬に対する抵抗を強く感じており,医療用麻薬を説明がないまま処方されることへの不信感をもっていると報告している.教育内容が,薬理学的知識や鎮痛薬の正しい知識を重視しているのは,これらの誤解が患者の不適切な服薬行動につながり,疼痛コントロールの阻害要因になるからであり,患者に教育すべき必須の知識であると言える.また,痛みのセルフモニタリング法や痛みが緩和しない場合の医師とのコミュニケーション技法といったスキルを身につける内容も多く,セルフマネジメントに特徴的なスキルであると考える.フォローアップでは,患者自らが疼痛緩和目標に向かってペインマネジメントプランを立案し,実施結果を評価するためのサポートや,医師に鎮痛薬の変更を要望するための看護コーチングが行われていた.これらは,患者が医療者にペインマネジメントを任せるのではなく,患者自らがより主体的に疼痛緩和を実行するという考え方に基づいていると考える.以上より,患者が痛みの変化に応じて知識とスキルを効果的に活用するためには,教育内容に「疼痛緩和法や医療用麻薬に対する正しい知識の提供」「痛みのセルフモニタリング法」「痛み関連の評価法」「医療者とのコミュニケーション技法」を含める必要がある.

しかし,介入の評価に多用されていたアウトカムは,痛みの強さや鎮痛薬の使用,疼痛緩和に関する知識,心身の状態,QOL,自己効力感であり,これらは医療者が実施するペインマネジメントにおいてもアウトカムになり得ると考えられる項目であった.Vallerandら11)は,看護師の役割は,患者が痛みをセルフマネジメントできるように,患者の最もつらいときに教育やサポートを行い,患者をエンパワーすることであると述べており,今回分析対象となったCa-HELPも疼痛緩和とがん患者のエンパワメントを目指した介入であった.本結果からは,どのような成果が得られればがん疼痛のセルフマネジメントを促進していると評価できるのかについて明らかにできなかったが,今後は,エンパワメントを含めがん疼痛のセルフマネジメントを評価するアウトカムの検討が必要である.

最後に,本レビューはがん疼痛のセルフマネジメントを促進する看護介入プログラム開発の基礎資料にすることを目的とし,対象文献の記述から介入内容の詳細を整理し記述したものであり,データの質的統合やメタアナリシスには至っていない.また,対象研究は国外が多く日本に特徴的な教育的介入は見いだせなかった.さらに,がん疼痛のセルフマネジメントであるがゆえ患者に焦点を当てており,患者の家族に対する介入研究は対象にしていない.しかし,廣岡ら12)は文献レビューにより,がん患者と家族には痛みの認識に相違があり,家族に対する痛みのマネジメント教育が必要であると述べている.今後の看護介入プログラム開発においては,患者だけでなく家族への教育的介入も検討する必要がある.

結論

がん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入に関する国内外の文献をレビューした結果,以下のことが明らかとなった.

1.対象文献は国外が多く2010年以降に増加しており,予備調査やスタディプロトコールが多いことからも,がん疼痛のセルフマネジメントは比較的新しい概念であると考えられる.

2.教育的介入プログラムはメインセッションとフォローアップを組み合わせる構成が多く,個別性を重視した対面式個別介入が多用されていた.介入内容はがん疼痛管理に必要な知識とスキルの提供,患者自身が痛みをモニタリングし評価できるよう助言すること,医師と積極的なコミュニケーションを行えるようコーチングすることであった.

3.教育的介入の成果として,疼痛緩和に関する知識の改善や疼痛管理における患者側の阻害要因の減少,痛みと痛みによる影響の改善,QOLの改善が認められていた.

4.国内においては介入研究が少なく,日本の実情に合わせたがん疼痛患者のセルフマネジメントを促進する教育的介入プログラムを開発することが課題である.

謝辞

本研究はJSPS科研費の基盤研究(C)JP16K12084の一部である.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

山中政子および鈴木久美は研究の着想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草と原稿作成,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲までのプロセス全体に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2018 by Japanese Society for Palliative Medicine
feedback
Top