Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Case Report
A Case of G-CSF-producing Duodenal Cancer That Steroid Was Remarkably Effective to Alleviate Symptoms at the End of Life
Naoko MoriMasaharu MatsumuraKaoru AmemiyaAyumu Yamagami
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2018 Volume 13 Issue 1 Pages 83-87

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Abstract

【緒言】G-CSF(granulocyte colony-stimulating factor)産生腫瘍は,高サイトカイン状態により,発熱・倦怠感・体液貯留など終末期に様々な苦痛を引き起こす場合がある.【症例】80歳,女性.食思不振,尿量低下を主訴に受診.精査の結果,十二指腸癌と診断された.高齢で全身状態不良のため抗がん治療は行わない方針となったが,多量の腹水貯留による腹部膨満が強く,大きな苦痛となっていた.末梢血スメアにて正常好中球の著増を認め,G-CSF産生十二指腸癌が疑われたことから,サイトカイン抑制目的でデキサメサゾンの投与を開始した.その結果,腎機能障害が改善し,利尿もつき,腹水除去後の再貯留も認めず,好中球数も減少に転じ,短い期間ではあったが患者は小康状態を得た.【結論】G-CSF産生腫瘍における高サイトカイン状態に対して,ステロイドが苦痛緩和に有用である可能性がある.

緒言

G-CSF(granulocyte colony-stimulating factor)は,好中球の分化・増殖を促進する糖蛋白質である.G-CSF産生腫瘍は1974年にRobinson1)により初めて報告され,半数以上が肺癌であるが,胃癌,肝癌,膀胱癌,乳癌など様々な悪性腫瘍で報告されており,一般に急速に進行し予後不良であることが多い.進行期では,発熱・白血球高値・CRP高値を示し,この高サイトカイン状態が終末期の苦痛につながっている場合がある.

今回われわれは,デキサメサゾンが苦痛緩和に寄与したと思われるG-CSF産生十二指腸癌の症例を経験したので,報告する.

症例提示

【症 例】80歳,女性

【臨床診断】十二指腸癌,胸腹水貯留,食思不振,廃用症候群

【既往歴・家族歴】特記事項なし

【現病歴】2016年8月後半から食思不振,尿量低下あり,9月当院腎臓内科初診.胸腹水貯留・腎機能低下のほか,血液検査で白血球増多を認めたため,血液疾患を疑われ,他院の血液内科へ紹介された.10月下旬にCT検査で胃前庭部の腫瘤,胃周囲のリンパ節腫大あり,11月上旬に上部内視鏡検査を施行したところ,十二指腸球部に腫瘍を認めた.同部位の生検にて,核異型の著しい胞体豊かな大型の腫瘍細胞がシート状に増生しており,低分化型腺癌(十二指腸癌)と診断された.患者は80歳と高齢で,著明な体重減少(発症時から約10 kg減)があり,PSも3と不良のため,化学療法の適応外と判断され,当院の緩和ケア病棟へ11月下旬(day 0)に紹介入院となった.

【経 過】入院時現症:身長162 cm,体重46.0 kg,体温36.4℃,血圧84/59 mmHg,心拍数88回/分.易疲労感・倦怠感が強い.経口摂取は数口程度.尿道カテーテルが留置されており,ベッド上寝たきりでADLは全介助.大量腹水により腹部は大きく膨満し腹痛および全身浮腫も認めた.心窩部に手拳大の硬い腫瘤(原発巣)を触知した.

入院時単純X線写真:左胸水貯留,左肺水腫を認めた.

入院時血液検査所見:WBC 94,800/μl(好中球98.7%),CRP 11.36 mg/dlと著明な白血球増多,炎症反応高値を認めた.なお,入院8日前に前医で行った血液検査では,WBC 67,270/μl,CRP 14.34 mg/dlであり,約1週間で,WBCは約3万/μlも増加していた.末梢血スメアでは,正常に分化した成熟好中球が増加しており,異型細胞や幼若芽球は認めなかった.また,BUN 50.4 mg/dl, Cre 1.35 mg/dl, eGFR 29.4 ml/min と血管内脱水・腎機能障害を認めた(表1).

表1 入院時血液検査所見

入院後経過:腹部エコーにて大量腹水を認めた.利尿が乏しかったが,膀胱内には尿の貯留は見られず,尿閉は否定的であった.また両側とも水腎症の所見は認めなかった.腹満による苦痛が強かったため,局所麻酔にて腹腔穿刺し,腹水を計6 L除去した.これにより腹満は軽減されたが,癌性疼痛と考えられる腹痛は残存したため,アセトアミノフェンの点滴静注を開始し,疼痛コントロールは良好であった.

白血球数・末梢血スメア・炎症反応高値の結果から,G-CSF産生十二指腸癌の可能性が高いと考えられた.G-CSF産生腫瘍であれば,ステロイドを投与することで,胸腹水貯留や肺水腫,腎機能障害などが改善する可能性がある2)と考えられたため,デキサメサゾン2 mg/day(翌日から4 mg/dayに増量)の投与を開始した.なお,ステロイド投与開始前の検体を外注に出し,血清G-CSFを測定したところ,269 pg/ml(基準値:30 pg/ml未満)と異常高値であったことが後日判明し,G-CSF産生腫瘍の推定診断と矛盾しない結果であった.

入院後の臨床経過を図1に示す.ステロイドの投与を開始した翌日より,倦怠感・食思不振が軽減し,経口摂取量が増加した(数口→8割以上摂取).入院時はベッド上寝たきりであったが,坐位にて歯磨きなどのセルフケアを行うことが可能となった.入院2日目までは1日尿量が約300 mlと乏尿であったが,入院3日目以降は1,000~1,500 ml/dayと良好となった.腹水は入院時に6 L除去したが,その後,腹水貯留は見られなかった.経口摂取良好のため,day 6までで補液は中止した.その後,day 17までは経口摂取量が3~5割以上保たれていたが,day 18からは全身の衰弱により3割未満に低下した.

図1 入院後の臨床経過

DEX:デキサメサゾン,WBC:末梢血白血球数,CRP:C-reactive protein,Cre:クレアチニン

末梢血白血球数は,day 3の血液検査では147,200/μl(好中球98.5%)とまだ増加傾向であったが,day 10には92,200/μl(好中球96.9%)となり,day 22には70,800/μl(好中球97.4%)と減少に転じた.白血球数と連動して,血清クレアチニン値・eGFRも改善した.Day 20からは癌性疼痛が強くなってきたため,オキシコドン静注製剤を併用し,day 27に穏やかに永眠された.

考察

G-CSF産生腫瘍の診断には,①成熟好中球を主体とした高度の顆粒球増多,②血清中のCSF活性の上昇,③腫瘍切除による①および②の所見の消失,④腫瘍抽出液中または腫瘍組織培養上清中のCSF活性の証明,⑤腫瘍組織のヌードマウス移植による顆粒球増多とその腫瘍の移植腫瘍切除による顆粒球数の正常化,⑥腫瘍細胞株の樹立とその培養上清中のCSFの証明などが必要とされてきた3).本症例は,①②は満たしており,緩和ケア病棟入院後であったため,③④⑤⑥は証明できていないが,病勢と白血球数が連動していること,腫瘍以外にG-CSF高値となる原因が見当たらないことから,臨床的にG-CSF産生十二指腸癌と診断した.

デキサメサゾン開始後は,倦怠感・食思不振の改善,活気の上昇など,G-CSFを産生しない悪性腫瘍の患者で見られるステロイドの効果に加えて,血清クレアチニン値の正常化,良好な利尿,腹水の再貯留防止などが見られ,G-CSFにより上昇していたと考えられるサイトカインが抑制されたことによるものと考えられた.利尿や血清クレアチニン値の改善は,補液により脱水が改善された場合にも起こり得るが,本症例は,入院時のAlb値が1.4 g/dlと,悪液質により著明な低アルブミン血症を合併しており,全身の浮腫も強く,非常に血管外に水分が漏れやすい状況であり,1日500~1000 ml程度の水分負荷で,しかも負荷した以上の量の利尿が得られたことは,水分負荷以外の要素,すなわち高サイトカイン状態の改善が関連していると推測された.

入院時の炎症反応高値については,感染症の合併でも見られ得るが,口腔・直腸粘膜,胸腹部に活動性の感染症を示唆する臨床所見はなく,腹水除去の際に行った腹部エコーでも,肝臓・腎臓などの深部臓器および腹腔・後腹膜に膿瘍等は見られなかったため,本症例の高炎症状態には主としてG-CSF増加による高サイトカイン血症が寄与しているものと考えられた.

なお,ステロイド投与開始後,CRPは速やかに低下しているが,白血球数は一過性に増加し,その後低下している.この理由は,末梢血プールから組織プールへの好中球の移行を抑制するという,ステロイドが本来有する作用により,投与初期は,G-CSF抑制作用による好中球減少効果よりも,末梢血プールにおける好中球増加作用の方が大きく,その結果,白血球数は一時的に増加し,その後低下するという経過を辿ったものと思われた.

これまでの報告で,デキサメサゾンはIL-6産生抑制効果があると考えられており,IL-6はG-CSFのプロモーターであるため2),理論的には,デキサメサゾン投与でG-CSF産生そのものを抑制できる可能性がある.しかし,G-CSF産生腫瘍に対する過去の報告48)では,外科的に腫瘍を摘出するか,化学療法もしくは放射線治療によって抗腫瘍効果が得られない限り,ステロイドのみで白血球増多やそれに伴う発熱等の臨床症状が改善されたという報告はない.

ステロイドの投与量は,化学療法との併用ではあるが,ベタメタゾン1 mg/dayでは臨床的に効果はなく4),デキサメサゾン4 mg/dayやプレドニゾロン20 mg/dayで有効であった8)との報告があるため,本症例ではデキサメサゾン4 mg/dayを投与した.ただ,入院当日は全身状態が不良であったことと,ステロイドの投与開始時間が午後になってしまったため2 mg/dayの投与とし,投与後,大きな全身状態の変化がないことを確認して,翌朝から4 mg/dayに増量した.なお,本症例のPPI(Palliative Prognostic Index)の合計スコアは7.5点で,予後は3週間未満と予測されたため,ステロイドの長期投与に伴うデメリットよりも苦痛緩和によるメリットが上回るならば,デキサメサゾンは同量で継続する方針とした.

本症例のように,化学療法抵抗性となって緩和ケアに専念する時期であっても,デキサメサゾンの投与でG-CSFの産生が抑制され,その結果,高サイトカイン状態が改善されることで,腎機能の改善や,腹水の再貯留防止など,高サイトカイン血症に起因すると考えられる症状が軽減し,苦痛緩和に役立つ可能性がある.

結語

高度の白血球増多,CRP値上昇を伴う悪性腫瘍の患者では,G-CSF産生腫瘍の可能性を考える必要がある.腎機能障害,腹水貯留など高サイトカイン血症によると考えられる症状のコントロールには,ステロイドが有効である可能性がある.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

森は研究データの収集,分析,原稿の起草に貢献;松村・雨宮・山上は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.

References
 
© 2018 by Japanese Society for Palliative Medicine
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