Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Posttraumatic Growth from Bereavement and Other Related Factors among the Family Members of Deceased Cancer Patients at a General Ward
Yumiko TakedomiYasuko TabuchiYuki KumagaiMaiko SakamotoRitsuko Makihara
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 13 Issue 2 Pages 139-145

Details
Abstract

【目的】一般病棟のがん患者遺族の心的外傷後成長(posttraumatic growth: PTG)の特徴と関連要因を明らかにする.【方法】同意を得た死別後1~4年の遺族42名に,郵送で無記名の自己記入式質問紙調査を行った.【結果】37名(有効回答率97%)に回答を得た.PTGI総得点項目平均値は2.63で,先行研究の一般病院や緩和ケア病棟のがん患者遺族と同程度であった.そして,PTGI総得点は情動焦点型コーピング,認識評価的サポート,情緒的サポートと正の相関を示した.また,自宅療養した遺族のPTGI総得点は,しなかった遺族より有意に高かった.【結論】遺族が悲嘆感情を上手く切り替えることができるか,ソーシャルサポートを受けられるか,またそのネットワークがあるかをアセスメントし,支援提供の場について情報提供をしていく必要がある.また,患者が自宅療養できる支援体制の整備も必要である.

緒言

治療の進歩により,がんの5年相対生存率は62.1%1)と上昇し,がんは慢性疾患と捉えられるようになった.その一方でがん患者と共に生きる家族は,患者のがん診断時から心身・社会的負担を抱える.そして,核家族や独居の増加,人間関係の希薄さなど,死別に対するサポート体制・機能の脆弱化が進んでいる今日では,家族の悲しみは患者の死別後も長期的に続きやすい.その悲しみは,生活の質の低下24)につながることが指摘されている.

これまでの遺族を対象とした研究では,抑うつや罪悪感などネガティブな面に焦点をあてたものがほとんどであったが,近年,ポジティブな側面に注目した研究57)が散見されるようになった.このポジティブな概念の一つに,心的外傷後成長(posttraumatic growth: PTG)がある.PTG8)は,他者とのつながりの中で成長を経験する「他者との関係」,自分の人生に新たな道筋を築く「新たな可能性」,困難に対処できることをより感じる「人間としての強さ」,1日1日を大切にするなどの「精神的変容および人生に対する感謝」の4領域から成る.人は避けがたい出来事に遭遇し,これまでの価値観や信念が大きく揺さぶられ,精神的苦痛を経験すると,その出来事を熟考・反芻し,苦痛を軽減するために様々なコーピングを行う.そして,ソーシャルサポートを受けながら,反芻している内容を自己分析・自己開示し,人生の目標や方向性を見直すことでPTGが生起される.この人間的成長の経験が,現実の出来事を受容し,間接的に心理的well-being(安寧・幸福)に影響を及ぼすとされる9)

先行研究において,PTGはストレス対処能力10)やソーシャルサポート11)と関連し,女性12)や年齢が若いこと13)がより高いPTGを示している.また,国内外の遺族を対象とした研究では,トラウマが重度な遺族はPTGが高い14)ことや,故人との関係性14,15)によるPTGの違いが示唆されている.日本の遺族を対象としたPTGに関する研究では,大学生8),がんで家族を亡くした青年期の遺族15,16)や一般病院で亡くなったがん患者の遺族17)を対象とした研究が散見される.日本では,多くの緩和ケア病棟で遺族ケアが行われている18)が,一般病棟では少ない19)と思われる.また,一般病棟での看取りケアの質はホスピス・緩和ケア病棟より低いことや20),在宅ケア施設や緩和ケア病棟と比較して一般病棟で看取りを経験した遺族は,精神状態が悪い21)ことが指摘されている.そのため,一般病棟のがん患者遺族はソーシャルサポートを受けにくく,ストレスコーピングが適切に行えないと,PTGが低くなる可能性が予測される.

そこで,本研究では,一般病棟でがん患者を看取った遺族を対象に,PTGの特徴,PTGと属性,ストレスコーピング,ソーシャルサポートとの関連を明らかにする.がん患者遺族のPTGの特徴と関連要因を検討することは,約8割の日本人が最期を迎える一般病棟において22),終末期の家族ケアを充実させるための基礎資料となり,支援を検討できると考える.

方法

対象と方法

調査対象者は,佐賀県にある地域がん診療連携拠点病院の一般病棟で死亡したがん患者の遺族199名で,死亡時の患者および遺族の年齢が20歳以上とした.死別後の悲嘆は,さまざまな心理的・身体的症状を含む情動的反応23)であり,死別から6カ月までがピークで,その後は軽減する24).しかし,悲嘆のプロセスに要する時間は関連する諸々の要因から,個人差が大きいという報告もある25).そのため遺族の心理的な負担を考慮し,死別後1年以上4年以内で研究の同意が得られた遺族42名を調査対象者とした.除外基準は遺族(キーパーソン,または身元引受人)が特定できないもの,認知機能障害や視覚障害等によって質問紙への回答が困難であるものとした.

調査は,2014年8月~2015年3月に郵送法による無記名の自己記入式質問紙調査を実施した.

調査内容

1.対象者の背景

遺族の年齢,性別,同居家族の有無,故人からみた続柄,死別後経過期間,故人のがん診断時と死亡時の年齢,性別とした.PTGは故人との関係性に関連する14,15)ことから故人の存在の大きさを尋ねた.また,死別をトラウマイベントと捉え,死別時の精神的な衝撃の程度を尋ねた.「故人の存在の大きさ」「死別時の精神的な衝撃の大きさ」は,0~10のNumerical Rating Scale(NRS)を用い,いずれも数字が大きいほど,故人の存在が大きかった,精神的な衝撃が大きかったことを表す.「故人の死を受容しているか」に関しては,「全く受け入れていない」から「十分受け入れている」の4件法で尋ねた.

2.終末期から看取り期の状況

終末期のケアの質が遺族の精神状態に影響する21)ことや,がん患者は最期の数カ月で急速に身体機能が低下し,最期だけを一般病棟で看取ることが多い.そのため,医師からの余命の説明の有無,余命説明後の自宅療養の有無,自宅療養中の社会資源を尋ねた.また,緩和ケアチーム介入の有無について,遺族は緩和ケアチームと病棟スタッフとの識別が困難と判断し,緩和ケアチームに所属した緩和ケア認定看護師より,サンプリング時に情報を得た.データの連結を不可能にするため,緩和ケアチームが介入した遺族は,返信用封筒の色で識別した.調査項目については,がん看護,緩和ケア看護領域の看護研究者2名と緩和ケア認定看護師1名に意見を求めた.

3.PTG(心的外傷後成長)

Takuら8)により,探索的因子分析,確証的因子分析の結果検証された「日本語版外傷後の成長尺度(Posttraumatic Growth Inventory-Japanese: PTGI-J)」を用いた.アメリカ人を対象とした研究26)では,下位尺度5領域が同定されているが,PTGI-Jでは,「精神的変容」と「人生に対する感謝」は,同一因子から成る.下位尺度[他者との関係]6項目(30点),[新たな可能性]4項目(20点),[人間としての強さ]4項目(20点),[精神的変容および人生に対する感謝]4項目(20点)の4下位尺度18項目(90点)から構成される.この尺度は,「全く経験しなかった」から「かなり強く経験した」までの6件法(0~5点)で尋ね,全項目の総得点および下位尺度ごとの得点を算出し,高得点ほど心理的に成長していることを表す.PTGI-Jでのクロンバックα係数は0.90である.

なお,本研究でのクロンバックα係数は,[他者との関係]0.78,[新たな可能性]0.83,[人間としての強さ]0.89,[精神的変容・人生に対する感謝]0.85,全項目で0.86であった.

4.ストレスコーピング

「コーピング尺度」27)を用いた.積極的コーピングである[問題焦点型コーピング]5項目(15点)と[情動焦点型コーピング]3項目(9点),消極的コーピングである[回避・逃避型コーピング]6項目(18点)の3下位尺度14項目で構成される.[問題焦点型コーピング]は情報収集や再検討などの問題解決に直接関与する行動,[情動焦点型コーピング]は情動反応に焦点をあて,気持ちを調節する行動,[回避・逃避型コーピング]は,不快な出来事から逃避する,否定的に解釈するなどの行動である.「全くしない」から「いつもする」の4件法(0~3点)で尋ね,各下位尺度の得点を算出し,高得点ほどストレスに対処していることを表す.各下位尺度のクロンバックα係数は0.66~0.75である.

5.ソーシャルサポート

「Duke Social Support Index-Japanese: DSSI-J」28)を用いた.主に家族や友人のサポートを測定しており,[情緒的サポート]6項目(30点),[手段的サポート]6項目(30点),[認識評価的サポート]3項目(15点)の3下位尺度15項目で構成される.「全くない」から「非常に(いつも)ある」までの5件法(1~5点)で尋ね,各下位尺度で合計得点を算出し,得点が高いほどサポートが高いことを表す.各下位尺度のクロンバックα係数は0.76~0.87である.

分析方法

続柄別の「故人の存在の大きさ」や「死別時の精神的衝撃」の比較は,Mann-Whitney’s U testを用いた.また,PTGと対象者の背景との関連を検討するために,死を十分受け入れている・受け入れているを「受容している」,あまり受け入れていない・全く受け入れていないを「受容していない」の2群に分けた.それに加え,遺族の性別,続柄,同居家族の有無,患者への余命説明の有無,余命説明後の自宅療養の有無,緩和ケアチームの介入の有無について,PTGI総得点の2群間比較はMann-Whitney’s U testを用いた.また,PTGI総得点と対象者の背景,ストレスコーピング,ソーシャルサポートとの関連は,Spearmanの順位相関係数を用いて分析した.統計ソフトSPSS 23 for Windowsを使用し,すべての検定における有意水準は5%未満とした.

倫理的配慮

調査対象者には,郵送により,本研究の主旨,協力は自由意思でその是非により不利益はないこと,収集したデータは研究目的以外には使用しないこと,個人情報保護について書面で説明した.また,調査依頼文書と同時に調査票を郵送することが遺族の心理的負担となる可能性を考慮し,事前に調査への同意を書面で得た.次に同意が得られた遺族にのみ,再度倫理的配慮に関する事項を記した調査依頼文書と無記名の自記式調査票を郵送し,返送は任意とした.唐津赤十字病院倫理委員会の承認後に実施した(承認番号3-4).

結果

対象者の背景(表1

調査依頼対象者は199名で,同意書を42名より得た(回収率21%).そのうち調査票の回答を得た対象者38名から,欠損値が多い1名を除いた37名(有効回答率97%)を分析対象者とした.「故人の存在の大きさ」の平均値は,配偶者が9.8で,子の8.0より有意に高く(p=0.009),「死別時の精神的衝撃」の平均値も配偶者が9.1で,子の7.7より有意に高かった(p=0.046).

表1 対象者背景(N=37)

がん患者遺族のPTGIの特徴

1.がん患者遺族のPTGI下位尺度・総得点の項目平均値(表2

PTGI総得点の項目平均値は,2.63であった.下位尺度の項目平均値では,「新たな可能性」や「人間としての強さ」が高かった.

表2 PTGI下位尺度・総得点の項目平均値(N=37)

2.がん患者遺族の属性別PTGI総得点の比較(表3

続柄では,配偶者のPTGI総得点は53.1で,子の43.4より有意に高く(p=0.019),余命説明後の自宅療養の有無では,「自宅療養あり」のPTGI総得点は51.0で,「自宅療養なし」の42.9より有意に高かった(p=0.049).また「患者が余命説明を受けていた」遺族のPTGI総得点は51.9で,「受けていない」42.0より有意に高かった(p=0.041).

表3 がん患者遺族の属性別PTGI総得点の比較(N=37)

3.がん患者遺族のPTGIと背景,ストレスコーピング,ソーシャルサポートとの関連(表4

PTGI総得点は,情動焦点型コーピング(r=0.437, p=0.007),認識評価的サポート(r=0.395, p=0.007),情緒的サポート(r=0.333, p=0.044)と正の相関を示した.

表4 PTGI総得点と背景,ストレスコーピング,ソーシャルサポートとの相関(N=37)

考察

一般病棟におけるがん患者遺族のPTGの特徴

本研究のPTGI総得点項目平均値は2.63で,先行研究の一般病院がん患者遺族17)のPTGI総得点項目平均値2.59や筆者らが行った緩和ケア病棟遺族29)のPTGI総得点項目平均値2.55と同程度であった.ただし,本研究の調査に回答した遺族は,研究対象者の21%と少なく,故人の死を回答者の約9割が受け入れており,PTGが低い遺族が回答しなかった可能性も考えられる.そのため,療養場所でPTGに違いがないかは,今後さらなる検証を行っていく必要がある.

PTGと属性との関連

続柄別のPTGI総得点は,配偶者が子より高かった.配偶者の死は人生で最もストレスフルな出来事である30)といわれている.今回の調査では44%が死別後独居であり,配偶者は子に比べ,孤独感や経済的問題,家族役割の変化,自分自身の生の有限性31)など不安やストレスが大きく,その苦しみや悲しみを乗りこえ,PTGを自覚したのではないかと考える.また,成人し親から独立した子が親と死別することは自然なことであり,配偶者との死別に比べると家族役割や経済面などのストレス要因が少なく,親との関わりや愛着が弱くなる32)ことも考えられる.さらに,配偶者は子より故人の存在の大きさや死別時の精神的衝撃が有意に高値であった.これは,トラウマが重度な遺族はPTGが高いという先行研究14)を支持する結果であったと考える.

次に遺族のPTGI総得点は,医師から患者へ余命の説明が行われたほうが高かった.また,余命の説明を受けた後,自宅療養をした患者の遺族のPTGI総得点は,自宅療養をしなかった患者の遺族のPTGI総得点より有意に高かった.そして,自宅療養者のうち約8割が外来通院を続けていた.橋爪ら33)は,外来化学療法中のがん患者を対象とした調査で,自宅での療養生活で家族とのつながりを深め,それまでの生活を維持しながら自分のペースで生活できることは,患者にとって肯定的な側面であると述べている.また,終末期のがん患者のQOLに対する遺族の評価が,遺族の死別後の適応過程に影響を及ぼす34)という報告もある.自宅療養ができた患者は,家族と共に満足いく生活を最期にできた可能性が高く,そのような肯定的な思い出を通して遺族は死別後に気持ちを切り替えられたのではないかと考える.一方で,余命の説明を受けた後に自宅療養をしていない患者は,家族とのつながりを深めることよりも,最期まで病院でがんに対する積極的治療を行うことに焦点をあてていた可能性があり,その結果,遺族のPTGは低かったのではないかと考える.ただし,本研究は横断調査であり,因果関係は明らかではないため,今後さらなる検証が必要である.

がん患者遺族のPTGとストレスコーピング,ソーシャルサポートとの関連

本研究のがん患者遺族のPTGI総得点は,家族を失った悲嘆感情を調節する情動焦点型コーピングがとれるほど,PTGI総得点は高かった.情動焦点型コーピングは,家族を失ったという状況は変わらないが,死別というストレスへの評価を肯定的に変化させ,その結果遺族は,悲嘆を通しての成長が起こるといわれている35).また,情緒的サポート,認識評価的サポートを受けた遺族ほど,PTGI総得点は高かった.情緒的サポートや認識評価的サポートは,遺族の話や悩みを聴き,いつでも傍らにいるという安心感を与え,相談を受けるなどの支援である.そのため医療者は,患者が入院中から家族のコーピングスタイルや,ソーシャルサポートが受けられる環境にあるのかをアセスメントし,ケアが必要な遺族には,がん相談支援センターや地域のがんサロンなど,情緒的サポートが受けられる場の情報を提供していくことも重要である.

本研究の限界と今後の課題

本研究の限界は,1施設の限られた患者の遺族であり,結果の一般化には限界がある.今後,調査対象者を増やし,さらに検証していく.また,多死社会を前に自宅で亡くなる患者も微増している.そのため,緩和ケア病棟や在宅緩和ケア療養など療養場所の違いによるPTGについて,より詳細に検討していく必要がある.

結論

一般病棟のがん患者遺族のPTGI総得点平均値は2.63で,一般病院や緩和ケア病棟のがん患者遺族のPTGI総得点平均値と同程度であった.配偶者と死別した遺族は親と死別した遺族と比較して,PTGI総得点が有意に高かった.また余命の説明後,患者が自宅療養した遺族はしなかった遺族よりもPTGI総得点が有意に高かった.PTGの関連要因は,情動焦点型コーピング,認識評価的サポート,情緒的サポートであった.つまり,遺族が死別後,悲嘆感情を上手く切り替えられるか,ソーシャルサポートが受けられる環境にあるかを入院中からアセスメントし,ニーズがある家族には,遺族へサポート提供の場について情報提供をしていく必要がある.また残される家族のためにも,がん患者が自宅で療養できる支援体制を整備していく必要性が示唆された.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

武富および田渕は研究の構想,デザイン,データ収集・分析・解釈,原稿の起草および批判的推敲に貢献した.熊谷および坂本は研究のデータの解釈,原稿の批判的推敲に貢献した.牧原はデータの収集,分析および原稿の批判的推敲に貢献した.また,すべての著者は投稿論文並びに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2018 by Japanese Society for Palliative Medicine
feedback
Top