Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Survey of the Period of Tapering of a Strong Opioid Analgesic for Oral Mucositis Resulting from Concomitant Chemoradiotherapy for Head and Neck Cancer after the End of Treatment
Takehiko TsunoJumpei TokumaruMasanori KojimaYousuke KitaniShinya Hashimoto
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2018 Volume 13 Issue 4 Pages 305-311

Details
Abstract

頭頸部同時化学放射線療法が引き起こす重篤な口腔咽頭粘膜炎に対する強オピオイド鎮痛薬は疼痛が改善したら速やかに終了すべきであるが,使用期間は患者個々で異なる.そこで,本研究では適正使用の観点から,頭頸部癌患者46例を対象に検討を行った.その結果,治療後の強オピオイド鎮痛薬の漸減期間中央値は30日であった.患者背景と強オピオイド鎮痛薬投与期間の関連を調べたところ,施行した化学療法によって有意差がみられ(TPF vs. S-1 vs. Cmab, 35.0 vs. 44.1 vs. 180.7, p≤0.001),セツキシマブ使用が強オピオイド鎮痛薬投与期間長期化の要因となることが示唆された.漸減の経過において身体依存やせん妄等の症状はみられなかった.患者背景把握や化学療法選択の段階から,強オピオイド鎮痛薬の使用が長期化する可能性について評価し,治療終了後の疼痛状況に応じて減量や中止を検討することが重要である.

緒言

局所進行頭頸部扁平上皮癌に対する根治治療として外科的手術,放射線療法があるが,同時化学放射線療法(concurrent chemoradiotherapy: CCRTまたはBioradiotherapy: BRT)の有用性が臨床試験の結果やメタ解析14)で示されており,標準治療の一つとなっている.また,近年セツキシマブ併用のBRTも有効性が示されており,治療の選択肢に加わった5)

頭頸部癌に対するCCRTまたはBRTにおける重篤な有害事象として口腔咽頭粘膜炎がある.発症機序として放射線療法や化学療法により生じた活性酸素によるDNA損傷,活性酸素により活性化された血管内皮細胞やマクロファージなどから放出される炎症性サイトカイン,局所免疫機能低下が原因となる細菌感染などが要因として知られている6).治療中には口腔咽頭粘膜炎が必発し,予防策については口腔ケアや局所療法,全身療法など,様々な方法が試みられているが確立したものは存在しない.その中で本邦において,確実な栄養・薬剤投与経路として胃瘻を増設し,モルヒネを主軸に管理していく疼痛管理法についての試験7)が行われ,治療完遂率99%と優れた成績が報告されている.Takaseらは強オピオイド鎮痛薬を積極的に早期から使用することで,食事摂取量を保ち,QOLが改善することを報告している8)

しかし,放射線照射終了後も口腔咽頭粘膜炎が持続し,疼痛管理のため強オピオイド鎮痛薬を退院後も使用し,口腔咽頭粘膜炎の回復をみながら外来にて漸減,中止する必要のある症例もみられる.強オピオイド鎮痛薬はがんそのものによる痛みではなく,がん治療による痛みに対して使用する際には,身体依存に陥る症例がいることが報告されている9).除痛を求めて過度に増量することや,炎症が治まってきているにもかかわらず多用すれば,身体依存を生じる可能性はさらに高くなる.それだけではなく,オピオイド誘発性の便秘や悪心,眠気のリスクも高まる.そのため,治療終了後の口腔咽頭粘膜炎に対する強オピオイド鎮痛薬は漫然と使用せず痛みに応じて可能な限り短期間で終了することが望まれる.

既報10)では頭頸部癌化学放射線療法後のオピオイド使用長期化の重要な予測因子としてアルコール依存症をあげているが,本研究にはStage IIの症例や放射線療法単独の症例も含まれており,治療強度や侵襲が必ずしも一定でない可能性がある.化学放射線療法は口腔咽頭粘膜炎の発症リスクが97%11)とほぼ必発である.そのため,Stage III以上の局所進行症例を抽出して調査を行うことが必要である.そして,本邦におけるCCRTまたはBRT終了後の強オピオイド鎮痛薬の詳細な漸減期間および長期化の要因を調査した報告は少ない.そこで本研究では,本邦におけるCCRTまたはBRT終了後の強オピオイド鎮痛薬使用の漸減期間とその長期化の要因を明らかにすることを目的とした.

方法

調査対象,観察期間,除外基準

2012年4月1日~2016年3月31日までに当院耳鼻咽喉科に入院した局所進行頭頸部扁平上皮癌患者(Stage III, IV)のうち,CCRTまたはBRTに伴う口腔咽頭粘膜炎による疼痛に対して強オピオイド鎮痛薬が処方された症例を対象とした.そのうち,原病によるがん性疼痛に対して強オピオイド鎮痛薬が処方された症例,CCRTまたはBRT施行目的の入院中に死亡退院となった症例,CCRTまたはBRTを開始する前から経鼻胃管,胃瘻等を用いた経腸栄養を実施していた症例は除外した.

調査方法,調査項目

患者背景および治療経過は診療録より後方視的に調査した.

患者背景として年齢,性別,Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status(PS),原発部位,病期,施行した化学療法の内容,放射線総線量,アルコール依存症の既往歴,喫煙歴を調査した.治療経過として治療完遂率,口腔咽頭粘膜炎の重症度,強オピオイド鎮痛薬の1日最大投与量ならびに開始時放射線総量,鎮痛目的に処方された含嗽剤の使用,CCRTまたはBRT終了時点のBody Mass Index(BMI),臨床検査値を調査した.臨床検査値は栄養指標の代用として血清アルブミン値,ヘモグロビン値を調査した.これらの項目を抽出した理由は,先行研究10)で調査されている項目であること,栄養状態の改善が粘膜組織修復に有用である11)ため調査項目に加えた.強オピオイド鎮痛薬の漸減期間は先行研究10)に準じ放射線照射終了後からの期間とした(図1).強オピオイド鎮痛薬の代表的な有害事象である悪心や便秘に対する薬物療法を把握するため制吐剤,下剤使用の有無も併せて調査した.なお,強オピオイド鎮痛薬の経口モルヒネ換算量はがん疼痛の薬物療法に関するガイドライン12)に基づき,経口モルヒネ30 mgに対し経口オキシコドン20 mg,フェンタニル0.3 mgとした.治療終了後の医師の診療行為によって身体依存,せん妄の発症があるか調査した.

口腔咽頭粘膜炎重症度の評価はCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE) ver. 4.0を用いて行った.疼痛の訴えもしくは食事摂取量の減少をGrade 1,鎮痛剤の使用開始をGrade 2,経鼻胃管,胃瘻からの経腸栄養開始はGrade 3に該当すると評価した.

図1 強オピオイド鎮痛薬漸減のイメージ

統計解析

患者背景と治療終了後からの強オピオイド鎮痛薬における漸減期間の関連について比較した.

性別,PS,原発部位,病期,アルコール依存症の既往,喫煙歴による比較はStudent’s t-testを行った.施行した化学療法の比較は一元配置分散分析を行った.

分析結果はいずれも危険率5%未満(p<0.05)の場合を統計学的に有意差ありと判定した.

倫理的事項

本研究は,横浜市立大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号D1508012).

結果

解析対象患者および患者背景

当院にて調査期間中,治療中に強オピオイド鎮痛薬を使用した症例は76例であった.そのうち除外基準に該当する症例を除いたところ,解析対象患者は46例となった.患者背景を表1に示す.解析対象患者46例のうち,男性42例,女性4例,年齢中央値は65歳(範囲28〜83歳),PSは0が43例,1が3例であった.原発部位は中咽頭が23例,その他の部位は23例であった.病期はIII期が13例,IV期が33例であった.施行した化学療法の内容はドセタキセル,フルオロウラシル,シスプラチンによる併用化学療法(TPF)が29例,S-1が14例,セツキシマブが3例であった.放射線照射総線量中央値は67.4 Gy(範囲61.2〜70.2 Gy)であった.照射方法は当院では強度変調放射線治療(IMRT)は行っておらず,全症例三次元原体照射(3D-CRT)を施行していた.

表1 患者背景

治療経過

解析対象患者の治療経過を表2に示す.46例のうち,治療完遂した症例は39例(84.8%)であった.Grade3の口腔咽頭粘膜炎を発症した症例は26例(56.5%)であった.強オピオイド鎮痛薬の1日最大投与量中央値は30 mgであり、開始時の放射線総量は54.0 Gyであった.鎮痛目的に処方された含嗽剤としてインドメタシン含嗽剤は37例(80.4%),リドカイン含嗽剤は5例(10.9%)の症例で使用されていた.治療終了時のBMI中央値は20.8 kg/m2,血清アルブミン値は3.5 g/dl, ヘモグロビン値は10.4 g/dlであった.治療終了時のオピオイド副作用対策として緩下剤は87.0%, 制吐剤は50.0%の症例で使用されていた.

医師の診察行為による診療録記載を確認したところ,精神症状や使用中止による退薬症状などの身体依存を示した症例はみられなかった.

表2 治療経過(n=46)

強オピオイド鎮痛薬治療期間,漸減の経過

治療終了後からの強オピオイド鎮痛薬の漸減期間中央値は30日(範囲4〜274日)であった.46例中10例(21.7%)は治療終了後,投与期間中央値の2倍である8週間を超えて強オピオイド鎮痛薬を使用していた.治療終了後から8週間後までの1日あたりの投与量(経口モルヒネ換算)を図2に示す.治療終了後8週間時点の1日投与量中央値(経口モルヒネ換算)は15 mg(範囲3.75〜120 mg)であった.

図2 強オピオイド鎮痛薬漸減の経過

強オピオイド鎮痛薬の漸減期間の長期化に関するリスク因子の探索

患者背景と強オピオイド鎮痛薬の漸減期間の関連について検討を行った結果を表3に示す.施行した化学療法の内容がセツキシマブの場合,強オピオイド鎮痛薬投与期間平均値が180.7日と長期化しており,他の化学療法と比較して有意な差がみられた(TPF vs. S-1 vs. Cmab, 35.0 vs. 44.1 vs. 180.7, p≤0.001).

表3 患者背景と強オピオイド鎮痛薬投与期間の関連

考察

本研究にて日本人におけるCCRTまたはBRT終了後の強オピオイド鎮痛薬漸減期間の詳細なデータを示すことができた.

本研究では,強オピオイド鎮痛薬長期使用によるせん妄等の意識障害や身体依存傾向を示す症例はみられなかったが,長期にオピオイドが処方されている症例には漫然と使用しないよう慎重に処方を行う必要がある.

重篤副作用疾患別対応マニュアル─抗がん剤による口内炎には口内炎診断にあたり参考になる検査の一つとしてアルブミンなどの栄養指標をあげている13).既報ではGrade 3以上の放射線誘発口腔粘膜炎が栄養失調の程度を悪化させる報告14)や,低BMIが重篤な口腔咽頭粘膜炎の危険因子となる報告15)もある.低栄養は免疫能低下にて二次的感染による口内炎の発症あるいは増悪の可能性を高め,口内炎の治癒への影響をもたらすと考えられている.本研究では,治療終了後の栄養指標となる血清アルブミン値,ヘモグロビン値はいずれも基準値を下回っており,栄養状態が悪い症例は疼痛改善に至るまで長期間を要する可能性が考えられる.そのため,早期からの栄養管理を行う必要がある.

本検討にてセツキシマブ療法において強オピオイド鎮痛薬使用が長期化することが示唆された.セツキシマブは世界初の上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor)を標的とするIgG1サブクラスのヒト/マウスキメラ型モノクローナル抗体であり,局所進行頭頸部癌に対する放射線療法との併用効果が示され,2012年12月に保険承認された.承認の根拠となった報告によると,セツキシマブを用いた放射線同時併用療法は放射線単独照射と比較して粘膜炎の発現頻度に有意差はみられていない5).しかし,日本人を対象とした報告ではGrade 3以上の粘膜炎が73~86%と高率であり16,17),既報においてBRTは粘膜炎発生の危険因子であると示唆されている18).セツキシマブ使用症例は主にシスプラチン等の殺細胞性抗癌薬が何らかの理由で使用できない場合に適用されることが多い.患者背景として高齢者,既往歴,口腔衛生状態不良などが粘膜炎増悪因子と考えられる.セツキシマブ使用症例ではこのような背景が影響した可能性が考えられるが,本研究では症例数が少ないため,詳細な研究を行うにはさらなる症例数の確保が必要となる.

CCRTまたはBRTは根治が期待できる治療であり,腫瘍縮小,消失により長期生存する症例は少なくない.がん患者にみられる痛みは,がんによる痛み,がん治療による痛み,がん・がん治療と直接関連のない痛みに分類される12).放射線照射後疼痛症候群はがん治療による痛みに区分され,非がん疼痛として取り扱う必要がある.非がん性慢性〔疼〕痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン19)では長期処方,とくに高用量投与が及ぼす影響として性腺機能不全,免疫系の障害,腸機能障害,痛覚過敏,睡眠障害などの生体への弊害について述べられている.そのため,CCRTまたはBRTによる口腔咽頭粘膜炎に対する強オピオイド鎮痛薬使用は長期化,高用量化しないように注意する必要がある.

がん疼痛治療の諸問題として近年,ケミカルコーピングという概念が提唱されている.これは「がん疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を処方されている患者に生じる可能性があり,がんによる器質的な痛みに対してではなく,精神的な苦痛にオピオイドを使用すること」と定義されている.ケミカルコーピングの危険因子として,アルコール依存症,薬物乱用,および喫煙歴のある若年男性といわれている20).本研究ではアルコール依存症の既往歴,喫煙歴による強オピオイド鎮痛薬長期化の傾向はみられなかった.しかし飲酒,喫煙は頭頸部癌全体の約80%に関与するといわれているため,長期間処方されている症例はケミカルコーピングの可能性がないか,注意深くモニタリングを続ける必要がある.

強オピオイド鎮痛薬の有害事象として悪心・嘔吐や便秘などの消化器症状が発現することが知られている.悪心・嘔吐は通常1~2週間程度で治まるが,便秘は耐性がなく,緩下剤を用いて対応する必要がある.本研究では強オピオイド鎮痛薬と併せて8割以上の症例に緩下剤,半数の症例に制吐剤が使用されていた.消化器症状の遷延を防ぐためにも強オピオイド鎮痛薬は可能な限り早期終了することが望ましいと考える.

本研究の考慮すべき事項として,単施設での調査であり症例数が少なく,検出力が不足して他のリスク因子を見逃している可能性は否定できない.後方視的調査のため,ケミカルコーピングの把握が難しいこと,入院治療中は看護師によりNumerical Rating Scaleを用いた疼痛評価を実施しているが,外来での疼痛評価体制が統一されていないため,退院後の疼痛状況が把握できないこと,強オピオイド鎮痛薬使用の妥当性を多職種で評価できていないため,患者の希望により投与期間が延長してしまう可能性があげられる.

本研究により,CCRTまたはBRT終了後,約30日間は強オピオイド鎮痛薬を継続使用しており,治療終了後もオピオイドについて長期にわたり経過観察することの重要性が示唆された.そして,強オピオイド鎮痛薬の漸減期間が長期化する要因として,施行した化学療法の内容が強くかかわっていることが明らかとなった.強オピオイド鎮痛薬は口腔咽頭粘膜炎に対し高い鎮痛効果を示す反面,消化器症状等の有害事象も引き起こす可能性がある.そのため,口腔咽頭粘膜炎の治癒遅延が予測される症例には早期から積極的な介入を行い,鎮痛薬の評価を経時的に行うことが重要と考える.

結論

今回,われわれはCCRTまたはBRT終了後の口腔咽頭粘膜炎に対する強オピオイド鎮痛薬の漸減期間を明らかにした.そしてセツキシマブ使用症例において強オピオイド鎮痛薬の使用が長期化することが示唆された.本研究により,少数例の検討ではあるが,口腔咽頭粘膜炎の重症化を防ぐ一助となる情報を提供することができる.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

津野および徳丸は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献;小島は研究の構想およびデザイン,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容にかかわる批判的な推敲に貢献;木谷および橋本は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容にかかわる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2018 by Japanese Society for Palliative Medicine
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