Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
A Retrospective Observational Study to Explore Trajectories of Hematologic Data and Palliative Performance Scale Scores in the Last 12 Weeks among Patients with Terminal-stage Cancer
Takuya OdagiriHiroaki WatanabeYasuyuki Asai
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2018 Volume 13 Issue 4 Pages 329-334

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Abstract

【目的】終末期がん患者の血液データとPalliative Performance Scale(PPS)の推移を探索した.【方法】2016年1月〜12月に小牧市民病院緩和ケア科が介入後に死亡したすべての成人固形がん患者の,死亡前12週間以内で抗がん治療から2週間以上経過した血液データと,採血日のPPSを,後ろ向きに抽出し,各週の平均値の推移を探索した.【結果】204人,1157回の血液データを得た(平均年齢70.9歳,女性44.1%).アルブミンは死亡12週前,C反応蛋白は5週前より減少・増加し,白血球数とリンパ球数は5週前より増加・減少し,ビリルビンとクレアチニンは3週前より急増し,カリウムは1週間前より増加した.PPSは死亡4週前から減少した.【考察】栄養や炎症の指標,白血球数の悪化はPPSの悪化に先行し,臓器障害やPPSの低下をきたすと予後週単位と予想された.

緒言

終末期がん患者において,Palliative Performance Scale (PPS)1)が予後4週間の時点より急激に悪化することが知られている2).一方,生化学,血算検査のデータもがん終末期に異常を示すことが知られており3),終末期がん患者の予後を予測するスコアに採血データが用いられるものもある4,5).各種固形がんにおいて,治療前の血清アルブミン(Alb)低値6),乳酸脱水素酵素(LDH)高値7),C反応性蛋白(CRP)高値8)は,予後が悪いことと関連していることが示されている.また終末期がん患者においても,LDH高値9),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)高値と尿素窒素(BUN)高値10),LDH高値とAlb低値と血小板数(Plt)低値11),CRP高値12,13)は予後が悪い指標であることが示されている.これらは横断的な研究であったり,予後1,2週の比較9,12)など余命がごく短い時期の研究であるため,より長期で縦断的な血液データの推移の検討も必要である.また最後の6カ月の採血データの推移を前向きに調べ,Alb低下,好中球率増加,LDH増加を組み合わせた予後スコアを開発した研究がある14)が,上記以外の幅広い採血データの変化と予後や病状変化の関係も検討する必要がある.

本研究では,抗がん治療を終了してから死亡するまでの終末期がん患者における,各種血液データとPPSの推移について調べた.それによって,各種血液データの変化から予後や病状変化を推測する正確度が上がることが期待される.なお終末期とは,難治性で予後6カ月以内と定義される15)が,予後6カ月でも抗がん治療を行うことが多いため,最後の12週間を対象とした.

方法

後ろ向き観察研究である.

対象

適合基準:2016年1月~12月に,国指定の地域がん診療連携拠点病院である小牧市民病院において,緩和ケアチームが介入,または緩和ケア病棟に入院した後に亡くなったすべての成人(18歳以上)の終末期がん患者を対象とした.成人を対象としたのは,小児では血液データの正常範囲が異なるためである.

除外基準:血液腫瘍患者を除外した.血液腫瘍の患者は血算値の推移が他の疾患と異なること,死因として臓器障害や悪液質といった固形癌に多い経緯とは異なることが多いためである.

調査項目

対象患者の,最後の12週間における血液データと,採血時のPPSを後ろ向きにカルテより抽出した.がん治療の影響を除外するため,最後に行った抗がん治療(手術,化学療法,ホルモン療法,免疫療法,放射線療法)から2週間以上経過した血液データを対象とした.

血液データの項目では,各種先行研究3,614)にて検討されている項目を参考に,栄養・炎症の指標,肝臓の指標,腎臓の指標,血算を検討するために,以下の項目を抽出した:Alb,CRP,総ビリルビン(Bil),LDH,血清クレアチニン(Cr),血清カリウム(K),白血球数(WBC),リンパ球数,ヘモグロビン(Hb),Plt.

PPS:PPS自体はカルテに記載されていなかった.PPSは,起居,活動と症状,ADL,経口摂取,意識レベルから判定を行うが1),入院患者における看護師記載の経過記録の中から,必要な介助(寝返り,移乗,口腔清拭,食事介助,衣服の着脱の項目において,全介助,部分介助,見守り,介助なしで判定),食事摂取量,意識状態(Japan Coma Scale16)で記載)の項目を参照して,筆頭著者が後ろ向きに同定した1).なお外来患者に関してはPPS 60(ほとんど起居しており,時に介助を要す)以上と考えられ,本研究は終末期がん患者を対象としているため,PPS 60以上は一括して取り扱った.

統計

Alb,CRP,LDH,Bil,Cr,K,WBC,リンパ球数,Hb,Plt,PPSの平均と95%信頼区間を,各々死亡からの何週前かを横軸として折れ線グラフにて示した.同一患者で同じ週に複数回採血があった場合には,すべての採血,PPSをそれぞれ1回とカウントして,延べ数で割り平均値を求めた.12週間の推移や,とくに変曲点と思われる時期を折れ線グラフの目視にて探索した.次に,各血液データ項目ごとやPPSに対して,一元配置分散分析を行い各週の平均値を比較し,折れ線グラフより目視にて変曲点の候補を見つけ,Schefféの線型対比による多重比較を行った.

欠損値は計算に含めなかった.有意差はp<0.05を用いて判定した.SPSS 19.1とExcel 2013を用いて計算を行った.

倫理的対応

本研究は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成26年文部科学省,平成29年2月一部改正厚生労働省告示第3号)に則り,自らの研究機関において保有している既存資料・情報を用いた研究であり,匿名加工した情報を用いた研究であるため,インフォームド・コンセントを取得しなかった.また本研究は,ヘルシンキ宣言を遵守した.本研究は小牧市民病院倫理委員会の承認を得た.

結果

204人の患者より,1157回(患者当たり平均5.67回の採血,最小1回,最大30回)の血液データとPPSを得た.患者の平均年齢は70.9歳,女性は44.1%で,原発は肺がん,肝胆膵がん,胃がん,大腸がんが多かった(表1).

以下に各データの推移と変曲点について述べる.解析を行ったすべての血液データ項目とPPSにおいて,一元配置分散分析において有意差を認めた.

Albは死亡12週前より徐々に減少し(図1),CRPは死亡5週前より徐々に増加した(付録図1).Schefféの線型対比による多重比較では,CRPは死亡5週前以後と6週前以前で有意差を認めた.

Bilは死亡3週前より急激に増加し(図2),LDHは死亡5週前より徐々に増加したが個人差が大きく一定の傾向ではなかった(付録図2).Schefféの線型対比による多重比較では,Bilは死亡前3週前以後と4週前以前で有意差を認めたが,LDHは死亡5週間前以後と6週前以前で有意差を認めなかった.

Crは死亡3週前より急激に増加し(図3),Kは死亡1週前より増加した(付録図2).Schefféの線型対比による多重比較では,Crは死亡3週前以後と4週前以前で有意差を認め,Kは死亡1週前と2週前以前で有意差を認めた.

WBCは死亡5週前より増加し,リンパ球数は5週前より減少し,ヘモグロビンは変化が少なく,血小板数は2週前より減少した(付録図3).Schefféの線型対比による多重比較では,WBCとリンパ球数は,死亡5週前以後と6週前以前で有意差を認めたが,血小板数は死亡2週前以後と3週前以前で有意差を認めなかった.

PPSは徐々に減少し,死亡4週前より減少速度が上がった(図4).Schefféの線型対比による多重比較では,PPSは死亡4週前以後と5週前以前で有意差を認めた.

表1 患者背景
図1 アルブミン(g/dL)の推移
図2 ビリルビン(mg/dL)の推移
図3 クレアチニン(mg/dL)の推移
図4 Palliative Performance Scaleの推移

考察

本研究では,終末期がん患者における広範囲な血液データやPPSの推移や変化のタイミングと予後の関係を探索した.

血液データの推移については,以下の傾向が明らかになった.Alb,CRPの栄養,炎症の指標は,PPSが低下する前の長めの月単位より,徐々に変化をしていた.先行研究では,Albは予後半年以前より徐々に低下することが示されており14),死亡前12週以前の状況から変化をしていた可能性がある.白血球とその分画の変化については,PPS変化にやや先んじて,予後1~2カ月の段階より変化を示した.肝臓,腎臓のデータについては,PPSと同様あるいはややその後より,予後週単位から明らかな悪化傾向を示した.悪化の速度も速く,この変化を認めたときは強く予後に関連していることが予想された.血小板やカリウム値は,短い週単位からの変化を示した.おそらく播種性血管内凝固症候群の傾向や顕著な腎不全を反映していると思われ,死の直接的な要因になっているものと思われた.LDHは,個人ごとのデータの差が大きく,一定の傾向を示さなかった.なお,これらのデータは,多重比較法にて各週ごとの有意差を認めなかったが,より大規模な研究にて検討を行う必要がある.

PPSは予後週単位になり急激に変化する傾向を認めた.PPSはカルテに示されておらず,看護師の経過記録から判断する方法に妥当性や信頼性が示されていない限界がある.しかしSeowらが行った大規模な先行研究2)と同様の結果を示し,全体の傾向としては妥当であったかもしれない.

がん終末期では採血機会が少ないことが予想され,本研究でも,最後の12週間の平均採血回数は5.6回だった.しかし12週間前から7週間前までは204人の患者で各週100回未満の採血機会しかなかったが,6週前から1週前までは100回以上の採血機会を認めており(図4),とくに予後が短くなってからは採血データの推移を分析して病状,予後を判断する意義が大きい可能性が示唆された.

本研究には以下の限界がある.単施設の研究であり,一般性に乏しいかもしれない.採血項目によってはサンプル数が少なく,より多くのサンプルを示すことで確かな傾向を示せるものと思われる.一方で,同一患者が同一週内に複数回採血を行ったり,一人の患者で採血を行っていない週もあったことより,頻回に採血を行った患者のデータが全体の傾向に強く反映されるバイアスが生じた可能性がある.本研究は後ろ向き観察研究であり,採血頻度や間隔を制御できなかった.

結論

血液データやPPSの推移は終末期がん患者の予後を推測することに有用と思われた.とくに重要な臓器障害やPPSの低下が生じると,予後は週単位が予想された.結果を検証するためには,より大規模な研究が必要である.

謝辞

統計について助言,協力をしていただいたガラシア病院ホスピス科前田一石先生に謝意を表する.また,本研究は研究助成金を受領していない.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

小田切は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈を行った; 渡邊は研究の構想およびデザインについて貢献をし,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に関与した; 浅井は研究の構想およびデザインについて貢献をし,重要な知的内容に関わる批判的な推敲に関与した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2018 by Japanese Society for Palliative Medicine
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