Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Review
Integrative Review of Advance Care Planning Research in Japan
Mariko TanimotoYumi AkutaShigeko Izumi
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML
Supplementary material

2018 Volume 13 Issue 4 Pages 341-355

Details
Abstract

【目的】日本におけるアドバンスケアプランニング(ACP)に関する研究を統合的にレビューし,現状と課題を検討する.【方法】2011年1月~2017年11月の医学中央雑誌,CINAHL, MEDLINEを検索,日本のデータを用いた研究でSudoreら(2017)のACP定義に沿う論文を選定し,統合的レビューを行った.【結果】選定された39論文のうち,研究方法は基礎的記述研究が最も多く,終末期医療の希望や事前指示の調査が多かった.近年ではACPの実施方法に関する研究もみられたが,診療録調査では患者の価値やゴールを反映したものかが不明,介入研究では介入方法の詳細が不明確等の限界があった.【結論】日本におけるACP研究は萌芽期にある.研究の枠組みとなる日本に適したACPとは何かを医療者と社会が協働して明確に定義し,社会的実装を支援する検証可能な知識の蓄積に資する研究が求められる.

緒言

海外におけるアドバンスケアプランニング(ACP)に関する論文数は,1993年までは年間1桁台であったが,1994年からは2桁台となり,2017年では800件を超える論文数がみられている(EBSCO社CINAHL, MEDLINE同時検索).海外のACP論文増加の背景として,1990年代には患者の自己決定権に関する事前指示書(アドバンスディレクティブ:AD)の法令化とそれを評価する動きが主流を占めた.2000年代後半以降では,患者の価値を重視する医療への変革に伴い,患者が望むケアを提供し不毛で患者が望まない延命治療を避けることによる医療の質向上と医療費の削減を意図してACPの普及がさまざまな領域で取りあげられるようになったことが挙げられる1)

最近欧米で行われたデルファイ研究の結果によると,ACPは「自らの価値,人生のゴール,あるいは望む将来の医療ケアについて理解し共有することを支援するプロセスである」2,3)と定義されている.この最近の定義の特徴は,ACPをインフォームドコンセントあるいは事前指示書の記入のような一回限りの意思決定行為としてではなく,個人が有する価値・ゴールについて考え,将来自分で意思決定ができなくなったときに備えて自身が望む医療について事前に家族,医療従事者などと話し合い共有するというプロセスを強調している点にある.患者が意思決定能力を失ったときにどのような治療の選択肢があり,どのような意思決定が必要となるかは予測不能なことが多く,その適用基準も状況に応じて様々である4).そのことから,代理意思決定者,家族そして医療者が患者本人の価値・ゴールを知っていることにより,与えられた状況の中で患者の価値やゴールを反映した意思決定が可能になると考えられている.

患者の意思決定能力がある健康なあるいは病気の早期のうちに家族や医療者とACPに関する話し合いを奨励する取り組みは欧米で多く行われており,介入方法やその効果について研究が報告されている.地域全体を対象としてACPの奨励を早期から行い,成人住民のほとんどがADを有するようになったウィスコンシン州ラクロス郡Gundersen Health SystemのRespecting Choices®の取り組みは広く知られている5).またウェブサイト等を用いたACPに関する患者教育ツールの開発・評価6,7),医療者を対象に患者のゴールを明らかにする話し合いの技術を身に付けるためのトレーニングガイドの開発,実施と評価810),そしてACPが終末期ケアの質や患者・家族にどのような影響を及ぼしているのかを評価した研究11,12)などが報告されている.

日本においてもアドバンスケアプランニングという言葉は知られるようになってきている.しかし,角田が1983~2014年の和文献レビューを行ったところによると,ACPの文献数は2010年以降から飛躍的に増えてはいるが解説が多く,ACPは重要であるとの言及にとどまっていると指摘している13).厚生労働省は,2014年から終末期における医療の意思決定を支える支援を行う相談員の育成を開始し,2018年3月にはACPの考え方が盛り込まれた人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドラインを改訂,公表した14).人生の最終段階における医療・ケアに従事する医療・介護者がACPの支援を意図して関わることが期待されている.しかし,個人の自己決定権を重視してACPが発達した欧米諸国に対して,日本の医療制度や法的基盤は異なり,日本的自我や和を重んずる精神価値,世界に類を見ない急速な人口の高齢化など,ACPの導入において日本の文化・社会背景を顧慮する必要があると考えられる.日本で求められている,あるいは有益なACPとは何かを検討し,具体的な導入方法や成果の評価方法を明らかにしていくことが求められている.そこで,本論文では,日本で近年実施されたACPに関する研究を概観し,日本におけるACP研究の現状,および今後の課題を検討することとした.

方法

日本においてACPの概念は比較的新しく,ACPの導入を臨床試験として採用する取り組みはまだ少ないと考えられることから,臨床試験に限定したシステマティックレビューを行うには限りがあることが予測された.そこで研究方法を限定せずに現象や医療問題をより包括的に理解するためのWhittemore&Knaflによる統合的文献レビュー(Integrative Review)アプローチ15)を用いることとした.以下に示す文献の検索,選定基準,および選定された文献の分析は,上記統合的文献レビューの方法に従った.

検索方法

医学中央雑誌Web版と,EBSCO 社のCINAHL Plus with Full TextとMEDLINE with Full Textの同時検索システム(CINAHL/MEDLINE)を用いて検索を行った.検索期間は,本研究着手年(2016年)から最新の過去5年分2011年1月以降,2017年11月までとした.医学中央雑誌Web版ではキーワードを「アドバンスケアプランニング」OR「Advance care planning」で検索し,原著および,抄録ありで絞り込みを行った.CINAHL/MEDLINEではキーワード「Advance care planning」 AND「Japan」で検索し,抄録ありで絞り込みを行った.

選定基準と除外基準

医学中央雑誌とCINAHL/MEDLINEでの検索結果を合同した後に重複論文,タイトルまたは抄録にadvance care planning(ACP),リビングウィル,アドバンスディレクティブ(事前指示,事前意思等)を含まない論文,ならびに症例報告などの研究データを含まない論文を除外した.選定された論文の抄録ならびに本文を研究者(MT, SI)が精読し,日本におけるACPに関する研究論文を選定した.ACPの研究であるか否かはSudoreら(2017)3)によるACPの定義「アドバンスケアプランニングとは,個人の年齢や健康状態にかかわらず,すべての成人が自らの価値,人生のゴール,あるいは望む将来の医療ケアについて理解し共有することを支援するプロセスである.アドバンスケアプランニングの目的は,個人が重篤で意思決定・意思表示ができない状態となったときにでも,本人の価値やゴール,望みに沿った医療ケアを確実に受けることができるように支援することである」(著者訳;付録参照)に照らし合わせて判断し研究論文を選定した.具体的には,(A)終末期における治療選択(CPR, Tube Feedingを含む)に関する意向・希望に関する健常者・患者・家族を対象とした調査研究,(B)患者の終末期ケアに関する意向・希望を理解するための取り組み(医療者を対象とした調査,教育,ツール・ガイドの開発・運用を含む),(C)患者の意向を理解・共有することを支援する介入の実態に関する論文である.一方,(D)(患者)本人が将来受けたい医療に関する意向とは関係がない死亡者の属性調査,緩和ケア提供実態の調査,職種間の連携に関する実態調査,(E)スタッフや学生を対象とした死生観,終末期ケアについての教育などに関する論文は検討対象から除外した.ACPに関する研究であるか否かの判断に迷う論文については,再度Sudoreら(2017)によるACPの定義に照らし合せて,研究者全員で含めるか除外かの判断を行った.

分析方法

統合的文献レビューは抽出された文献を分析の目的に応じて大きく分類することから始まる.ACP研究の現状を検討するという目的から,研究の発展段階を示す記述研究,比較研究,そして介入研究という枠組みを用いて抽出文献を分類した.その後,各文献の特性(発行年,対象者,目的,方法および主な結果)を抽出して一覧表を作成し,カテゴリー内そして全カテゴリーを通して比較検討した.文献と一覧表を用いて,研究方法や結果に共通のあるいは特徴的なパターン・テーマの有無などに注目しながら分析を行った.

結果

論文の抽出結果(図1

データベースから106件の研究論文が抽出された.重複論文1件,日本国外のデータを扱っている論文8件,タイトルまたは抄録に アドバンスケアプランニング(ACP),リビングウィル(LW),アドバンスディレクティブ(事前指示もしくは事前意思:AD)を含まない論文(30件),博士論文(1件),症例報告と論説(5件)を除外し,61件となった.さらに,研究者(MT, SI)が抄録と本文を精読し,上記選定基準A〜Eを適用してACPに関する研究であるか否かを検討し22件を除外,最終的に39件を選定した.

図1 対象論文の選定フロー

ACP研究の特性:方法,研究対象者,研究場所等(表1

選定された論文で用いられているACPに関する研究方法は,質問紙・インタビューを用いた記述研究,介入研究,および診療録を用いた調査・比較と文献レビューに大別された.比較研究は少なく,個人を対象とした記述研究と診療録などの組織的なデータを対象とした記述研究とでは性質が異なると考えられたため,診療録を用いた(比較研究を含む)研究を個別のカテゴリーとして設定した.詳細は質問紙調査19件(48.7%),インタビュー調査5件(12.8%),質問紙調査とインタビュー調査の併用1件(2.5%),介入研究7件(17.9%),診療録調査5件(12.8%)であった.

研究対象者は,医師,看護師,多職種を含む医療者を対象としたものが11件(28.2%)と最も多かった.次いで住民,組合職員,ワークショップ参加者など一般市民を対象とした研究論文8件(20.5%),患者を対象とした研究論文7件(17.9%),高齢市民または高齢患者等,対象を高齢者に限定した研究が6件(15.4%)であった.家族を対象とした研究は1件(2.9%)で,高齢者の看取りを経験した家族の事前指示の考えを調査したものであった.医療機関・ケア施設を対象とした研究は5件(12.8%)であった.研究場所は,病院・医療施設が14件(35.8%)と最も多く,外来・診療所3件,救急外来1件が含まれた.次いで地域の市民講座,学習グループなどが9件(23.0%),医療職の研修会や学会組織などが9件(23.0%)であった.さらに在宅医療や訪問看護など在宅ケアでの研究が5件(12.8%),老人保健施設や特別養護老人ホームなどの高齢者施設が2件(5.1%)であった.

表1 日本におけるACPに関する研究論文の研究方法,研究対象,研究場所

研究方法別に見た主な研究内容と結果のパターン

1.質問紙・インタビュー調査を用いた記述的研究(表2

選定したACP研究の約半数が個人を対象とした調査研究で,事前意思表示に関する知識や関心の度合い,考え方,実施状況についての調査が主であった.調査対象者別に概観すると,一般市民を対象にした研究では,終末期医療,死亡場所,LWを含むACPに関する知識,関心,希望について調査したものが多かった.その中には特定の延命治療法(人工呼吸器,胃瘻など)についての知識と実施の希望や考えについて調査したものが含まれていた1622).終末期医療に対する関心は高いが,延命治療についての知識や事前意思表示について知らない,明確な意思をもつものが少ない等が指摘され18,2225),とくに高齢者では他者あるいは担当医に医療行為の選択をゆだねる頻度が高いことが示されていた26,27)

医療ケアを受けている患者を対象とした調査では,病状が進行したがん患者やリウマチ患者を含む多くの患者がACPに意義があると考えており28,29),高齢の患者や透析患者の多くは終末期ケアについて考えたことがあり家族とも話をしているが,事前指示として記録し医療者と話し合いをしているものは少ないことが示されていた23,30,31).がんと非がん患者とではACPについて考え始める時期,患者の事前指示に医療者が従うべきとの考え方に差異があることが示されていた32)

医療者に対する調査からは,事前指示を医療の質のために有益と考える医療者が多い33)一方,医師の年齢によって事前指示の考え方が異なること34),緩和ケア医や高齢者施設看護師長らに対する調査からはACPの重要性は認識しても事前指示書の実装は少ないこと35,36),終末期医療については患者本人とよりも患者の家族に対して話し合う傾向があること37)などが示されていた.特別養護老人ホームにおける認知症高齢者の事前意思を支えるケア内容と方法についての全国調査によると,事前意思聴取時期,話し合いを行う医療者の職種,ACPの方法・内容は地域によって異なることが示されていた38).認知症高齢者のACPについては高齢者の意思決定能力の低下が本人の希望を理解する障害となっていることが述べられていた31)

質問紙・インタビュー調査の多くが自施設あるいは特定地域・グループを対象に行っており,結果の一般化が可能な全国調査は少数であった.また質問紙・インタビュー調査25件のうち,発行年による研究内容の変化がみられた.検索期間の前半にあたる2011~2014年では終末期医療に関する希望あるいはLWについての一般的な理解や意識調査,事前指示の文書作成に関する調査が主流であった.一方,2015年以降は終末期ケアの希望の伝達方法30),ACPの必要性の認識度や話し合いの実施状況36,37,39),意向確認のタイミング40)に関する質問等,ACPの定義にある本人の価値・希望を理解・共有するためのプロセスとしての話し合いに焦点をおいた項目を含む論文が散見されるようになってきていた.

表2 質問紙・インタビュー調査(発表年順)

2.介入研究(表3

介入研究7件はすべて2014年以降に発表されており,市民・患者を対象としたACPについての教育的介入の前後におけるACPに関する理解度・AD作成の頻度の変化を検討したもの4143)と,医療者を対象とした教育的介入44,45)あるいは開発したACP支援ツール46,47)の成果を評価するものであった.市民・患者を対象とした教育・支援介入の結果としてADを有する人数の増加が挙げられているが,教育・支援内容およびADの詳細が記載されていないなど,同じ介入効果の再検証・普及が困難であり,研究方法や結果に限りがあった.医療者を対象とした教育あるいはツールを用いた介入では,知識の増加,終末期ケアに関する態度の変化,あるいはACPの支援に関わる困難感の軽減などの効果が得られているが,対象者数が少ないため,結果の一般化可能性が限られていた.

表3 介入研究(発表年順)

3.記録調査および文献レビュー(表4

診療録調査5件は,ほとんどが死亡患者の診療録を後ろ向きにレビューし,ACPの記録の有無とその内容について調査したものであった.何をACPの記録とみなすのかは各研究によって異なっており,具体的には,Do Not Resuscitate(DNR)の記録をACPとしている研究が主流であった4851).これらの研究においては,DNRの記録を患者が望む終末期ケアを表明したACPとして取り扱っているが,DNRの記録が患者の価値やゴールについて話し合ったうえでそれらを反映したものであるかどうかは不明確であった4851).また家族による代理の意思決定もACPに含める研究もあった.また,Tokitoら51)によるステージIV肺がん患者を対象とした研究では,病期や予後に関する情報提供の時期がDNR決定から死亡までの日数と相関することを示しているが,この研究においても家族によるDNRへの同意をACPとしており,それがどれほど患者本人の価値・ゴール・希望を反映しているのかは明らかではなかった.ほかに,地域医療連携センターにおけるALS患者の意思決定における合同カンファレンスの記録を対象とした調査があり,どのように患者,家族から治療への意向を確認しチームとして方針を立てていくかが提示されていた52)

文献レビューでは,認知症を想定したADの活用に関するもの53)と高齢者の事前指示書の普及に関するもの54)があった.これらのレビューによると国内において事前指示(AD)の概念について明確に示したものはなく,日本人の価値観を反映した事前指示書の作成とその普及が必要であると述べられていた.

表4 診療録調査・文献レビュー(発表年順)

考察

この度,2011〜2017年の間に発表された日本で行われたACPに関する研究論文を検索し,日本におけるACP研究の現状と今後の課題を明らかにすることを目的にレビューを行った.ACP研究としては,ACP・事前意思表示一般に関する知識や関心度に関する調査が最も多く,終末期ケアの意思決定の実態を後方的に調査したものが次に多かった.2015年ごろを境に,ACPを実施するための教育介入の研究や,話し合いの有無,ACP導入の適正な時期に関する調査など具体的なACPの導入・実施につながる研究が散見されるようになってきていた.しかし多くの研究が自施設あるいは特定グループを対象とする便宜的サンプリングを用いており,調査方法や介入方法に関する具体的かつ詳細な説明が多くの場合欠けていることなどから,これらの研究結果の一般化可能性・再現性には限りがあった.

またACPとして患者本人の終末期に望むケアについて心肺蘇生や人工栄養など特定の処置を希望するかしないかを記述する研究はみられたが,意思決定の基準となる患者の価値・人生のゴールなどについての調査または話し合いを奨励する効果的な介入方法を明らかにした研究はみられなかった.予測していなかった終末期治療の選択を迫られたときであっても,患者の価値観や人生のゴールを理解していればその状況下で患者が望むと思われる治療を家族がある程度の確信をもって推測することは可能であることから,欧米でのACPは患者の価値・ゴールを理解・共有するための話し合いを重視するようになってきている9).諸外国に比べ文化的価値観が比較的均一化していると思われる日本人の場合,患者本人の価値やゴールについて話し合っていなくても家族の推測と本人の望むケアの一致度は比較的高く,家族の判断を患者の代理意思とすることに齟齬がない,あるいは代理意思決定を家族が負担に思っていない可能性も考えられる.しかし日本においても文化の多様化,世代間の価値の違いが指摘される中,患者が望む終末期ケアを提供するためというACPの本来の目的を考慮すると,日本の文脈の中では患者の価値・ゴール・希望についてだれがどのような形で知っているべきなのかを検討し,またそれを尊重した終末期ケアの意思決定をするための仕組みづくりに貢献するような研究が必要である.

最後に,ACP研究論文の検索と統合的レビューを行うプロセスの中でパターンとして見られたことは,ACPという言葉が多様に使われているという点である.文献選定の過程で,ACP, 事前指示,LW等の言葉をタイトルまたは抄録に含む論文61件が抽出されたが,そのうち本研究で用いた「個人の価値,人生のゴール,あるいは将来の医療ケアについて理解し共有するプロセス」というACPの定義に関連しない論文として22件を削除した.これらは終末期ケアの質,生命維持治療の開始・中止についての倫理的判断,在宅医療あるいはホスピスに関する理解・希望などに関する研究であったが,患者本人の価値・ゴール・望む医療について共有し,それに沿った治療の提供を支援するプロセスには関与しない研究であった.また,レビューした39件の文献の中でも,ACPの定義を明確にしている論文は少なく,本人のゴールや希望の理解とは関係なくDNR(心肺停止時に蘇生を行わない)の指示をACPの記録としている研究や,患者の家族による同意を本人のACPとしている研究などがみられた.さらには将来の終末期ケアの意思決定に向けた患者本人による事前のケア計画(Advance Care Planning)ではなく,実際の看取りの場面での主に家族による意思決定(Decision-in-the-moment55))について述べているものもあり,ACP概念の定義に混乱がある現状が伺われた.われわれは日本におけるACP研究の現状を把握するという本レビューの目的に鑑みて,DNRの指示は患者あるいは家族と医療者の話し合いのもと本人が望んだケアであり,家族は本人のゴール・希望を知ったうえで患者の代理として同意しているという仮定に基づいてACPを捉えているのが日本のACPの現状であると判断し,これらの研究を本レビューに含めることとした.またACPを事前計画ではなくDNRなどの終末期ケアの意思決定そのものと混同する傾向は諸外国でもみられる56,57)ことから,これらの論文もレビューに含めた.しかし,患者とのACPの話し合いがなされなかった場合,患者が望む終末期ケアと家族あるいは代理意思決定者が推測した患者が望む終末期ケアとの間に齟齬がある5860),あるいは家族が患者の望むケアについて十分理解しておらず患者不参加で終末期ケアの意思決定をした後に後悔が残ったり61),患者の死後にPTSDや鬱・不安を体験する遺族が多い11,62)ことも報告されていることから,家族による意思決定をさして患者本人の希望を反映した治療とすることは既存のACPの定義とは異なると考えられる.今後,日本において真に患者の価値やゴールを理解しそれに沿った終末期ケアの提供を実現していくためには,日本の文脈の中でACPをどのように定義し,どのようなプロセスおよびそれを支援するシステムがACPに含まれるのかを検討する必要がある.そのうえで,日本におけるACPのニーズを把握する記述研究,そのニーズに応えるための介入方法の開発と介入効果の検証研究,さらにはそれを広く実践に導入するために必要な実装研究を系統的に積み重ねていくことが重要であると考える.

研究の限界

本研究は,医学中央雑誌とCINAHL, MEDLINEを用いて2011〜2017年に限った検索結果に基づいており,日本におけるACPに関連する研究すべてを網羅しているとはいえない.また北米のACP研究者を中心とするグループによって作成された定義を用いてACP研究を選定した際に,日本特有のACP事象を検討した研究を漏らしている可能性も考えられることを本研究の限界として言及する.

結論

日本におけるACP研究の現状として,知識や関心を問う質問紙・インタビュー調査などの記述研究が主流を占めたが,近年ACPの実施に示唆を与えうる介入研究が散見されるようになってきている.一方でACPの概念の定義が明確にされておらず,本人のゴール・希望を理解するための話し合いなしの意思決定もACPとするなど,研究者間でACPの概念に混乱がみられることも明らかになった.今後の課題として,医療者が決め家族が同意する終末期ケアではなく,患者の価値やゴールに沿った患者が望む終末期ケアを提供するための準備として何が必要なのか,アドバンスケアプランニング(事前ケア計画)とは何を指すのかを医療者と社会が協働して明らかにし,日本の文化・社会・医療事情に適したACPの開発・導入を支援する研究が必要である.

2018年3月に厚労省は人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドラインを改訂し,ACPの考え方が盛り込まれた.今後,ますますACPに対する関心が日本においても高まることは確実である.日本においてどのようなACP介入が有効かつ有益なのか,その介入が有効・有益であるといえる指標は何か,そのためのアプローチはどのようなものかを確立していくためのエビデンスを蓄積していくことが求められている.

謝辞

本研究はJSPS科研費 HO16K15972の助成を受けたものです.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

谷本は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析および解釈,原稿の起草および原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;芥田は研究データの収集・分析および解釈,原稿の起草に貢献;和泉は研究の構想およびデザイン,研究データの分析・解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2018 by Japanese Society for Palliative Medicine
feedback
Top