Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Case Report
Bleeding by the Breast Cancer Skin Invasion, Utility of the Shiunko Ointment, Zinc Oxide Starch, and Metronidazole Therapy for the Order
Yayoi FurutaNaho KinoshitaHiroyuki SugimotoHiroshi Araki
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2018 Volume 13 Issue 4 Pages 367-371

Details
Abstract

乳がんの皮膚浸潤は出血や臭気を伴う滲出液のため,患者のQuality of Lifeを低下させる.局所処置療法としてMohsペーストや亜鉛華デンプン外用療法がある.Mohsペーストは正常組織の変性壊死による疼痛の有害作用があること,亜鉛華デンプン外用療法は止血・止臭効果が不十分という問題点がある.その問題点を改善した,紫雲膏・亜鉛華デンプン・メトロニダゾール(MNZ)療法の皮膚浸潤を伴う乳がん患者に対する,出血,臭気の緩和効果について報告する.症例は86歳女性.乳がんの皮膚浸潤に対して紫雲膏・亜鉛華デンプン・MNZ療法を行い,出血,感染兆候,臭気,滲出液,壊死組織が処置により客観的に改善し,ガーゼ交換の頻度は日に1回,処置は簡便であることが確認できた.紫雲膏・亜鉛華デンプン・MNZ療法は皮膚浸潤を伴う乳がん患者に対する,出血,臭気の緩和効果に有用で,従来の方法に加えて局所処置療法の一つになりうる可能性がある.

緒言

乳がんの皮膚浸潤は,出血や臭気を伴う多量の滲出液のため,患者のQuality of Life(QOL)を著しく低下させる.局所処置療法としてMohsペーストを使用するMohs原法とMohs変法,亜鉛華デンプン外用療法が報告されている14)

Mohs原法は,皮膚病変部位にMohsペーストを塗布し,Mohsペーストの主成分である塩化亜鉛の蛋白変性作用により表在性腫瘍や壊疸組織を固定することで,腫瘍組織の残存を確認しながら切除および組織検鏡を繰り返す方法で,腫瘍の切除が目的である1,2,46)

Mohs変法は,腫瘍の切除を目的とせず,出血や臭気を緩和する目的としてMohsペーストを用い,出血や滲出液による苦痛に対し症状緩和をはかるものである1,3,4).問題点として,Mohsペーストが市販されていないこと,院内製剤として独自で調剤が必要なこと,正常組織の変性壊死による疼痛の有害作用があること,処置に伴う有害作用があるため医師以外のスタッフが実施しがたいこと,したがって入院患者以外の治療が困難であることがある2)

亜鉛華デンプン外用療法は,亜鉛華デンプンを患部一面が白くなる程度に散布し,その上からガーゼを当て,テープ固定する方法である1).亜鉛華デンプンが蛋白質を変性させることにより組織や血管を縮め,収斂作用によって滲出液や臭気を軽減できる1,2,7).問題点として,止血・止臭効果が不十分なことがある1,2,5,6)

亜鉛華デンプン外用療法で不十分な止血・止臭効果を補うため,消炎鎮痛,止血,殺菌,肉芽形成促進,止痒,傷臭防止除去などの効果を有する紫雲膏を,また感染制御と臭気の緩和のため,メトロニダゾール(MNZ)を,亜鉛華デンプンに併用する処置法を考案した8).本症例報告は,この紫雲膏・亜鉛華デンプン・MNZ療法の,皮膚浸潤を伴う乳がん患者に対する,出血,臭気の緩和効果について示す.

症例提示

【症 例】86歳 女性

【現病歴】 2015年3月,左大腿骨顆上骨折にて入院した.入院中に右乳腺に腫瘍を指摘され,精査で乳がんと診断された.年齢・ADL等を勘案し手術,化学療法は行わず,経過観察,緩和ケアのみの治療方針となり退院となった.2015年8月,乳がんの増悪により,皮膚へ直接浸潤し体表に露出した.同部の滲出液に対し,ヨウ素軟膏(カデックス軟膏®0.9%)で処置した.2016年4月,腫瘍増大による滲出液増量に伴い,周囲の正常皮膚の浸軟・びらんを合併したため,ジメチルイソプロピルアズレン軟膏(アズノール軟膏®0.033%)を併用した.その後,腫瘍の増大に伴い,潰瘍形成を認め臭気を生じるようになった.6月,画像検査で,両側多発肺転移,腰椎転移(疑い)と診断された.

2016年7月11日,腫瘍からの出血,臭気の抑制を目的に,紫雲膏・亜鉛華デンプン・MNZの併用療法を開始した.腫瘍は壊死組織が多く,腫瘍辺縁部は易出血性であった(図1).腫瘍は,処置と関係なく強い疼痛があった.処置開始後,6週間では壊死組織が減少し,3カ月後では腫瘍全体が収斂し,出血,臭気も抑制された(図2).また,疼痛も軽減した.

紫雲膏・亜鉛華デンプン・MNZの併用療法は,亜鉛華デンプンを腫瘍全体に散布した後に,MNZを含有した紫雲膏を陥没部に充填し,MNZ紫雲膏を塗布したガーゼで腫瘍を被覆した

その結果,亜鉛華デンプンの粉がMNZ紫雲膏で被覆される(図3).MNZを含有した紫雲膏はMNZ 250 mg(フラジール内服錠® 250 mg)を粉砕し,紫雲膏20 gに加え均等に練合して作製した.

骨折にて当院に入院した時点で患者はすでに介護施設に入所していたため,2016年6月30日の退院後は介護施設にもどり,2週間に一度外来に通院した.処置手順書に従って施設職員が医師の指示で1日1回毎日処置を行った(付録図1).

紫雲膏・亜鉛華デンプン・MNZ療法の治療効果を,介護施設の処置担当者3名および主治医1名の合計4名に対して,アンケート調査を行い(付録図2)比較した.

出血,感染兆候,臭気,滲出液,壊死組織が処置により客観的に改善し,ガーゼ交換の頻度は日に1回程度,処置は簡便であることが確認できた.

図1 処置開始時臨床像

壊死組織が多く腫瘍辺縁部も易出血性

図2 処置開始3か月後臨床像

腫瘍全体が収斂

図3 亜鉛華デンプン,紫雲膏の薬剤準備と処置方法

考察

本症例では,乳がんの皮膚浸潤に対して,まずヨウ素軟膏を使用したが,十分な治療効果を得ることができなかった.そこで,出血,感染兆候,臭気,滲出液,壊死組織のコントロールを目的に,紫雲膏・亜鉛華デンプン・MNZの併用療法を行った.

紫雲膏は腫瘍の自壊部や発赤部の痛み,乳がんに対する放射線治療後における照射部の痒み,種々のがん治療関連の皮膚障害に有効であったと報告されている811).紫雲膏の保険適応は,火傷,痔核による疼痛,肛門裂傷で,基剤と紫根,当帰の薬効が相和した軟膏でドレッシング効果があるため褥瘡にも使用されている12,13)

紫雲膏は直接患部に厚めに塗布,もしくはガーゼに厚めにのばし患部を被覆した方がより有効であると報告されているため9,14),本症例では創部の大きさと陥没度合いから,充填および被覆に十分な量として1日量を20 gとし,ガーゼで処置した.ガーゼで腫瘍全体を保護することで,紫雲膏により,患者の着衣やシーツが淡紫色に染まることはなかった.

アンケート調査結果は判定基準に差が生じないように,紫雲膏・亜鉛華デンプン・MNZ療法を開始した2016年7月11日から,体調不良のため再入院する2016年10月23日までの期間において,外来受診をした6回の主治医による効果判定のみをグラフ化した(付録図3).

本症例では嫌気性菌に有効なMNZと,創傷の臭気の防止と除去作用,抗菌作用,鎮痛作用をもつ紫雲膏が,感染と臭気を抑制し,疼痛を緩和したと考えられる8,9,12,1519)

また本症例の処置を通じて,介護施設の処置担当者によるアンケート結果より周囲正常組織への亜鉛華デンプンの付着が,洗浄,除去しにくいことがあるとの指摘があった.デンプンの加水分解速度は,温度が高いほど,また時間が長いほど促進される性質があり,亜鉛華デンプンの付着がひどく,周囲正常組織と創部からの除去が困難なときは,蒸しタオルを創部に当て,数分おいてデンプンをふやかす手順を加えることにより解決できるかもしれない.

結論

紫雲膏・亜鉛華デンプン・MNZ療法は,皮膚浸潤を伴う乳がん患者に対する,出血,臭気の緩和効果に有用であると思われた.また,患者にとっては処置による有害作用が軽減され,介助者にとっては簡便な方法であり,Mohs変法,亜鉛華デンプンの外用療法に加えて乳がん皮膚浸潤の局所処置療法の一つになりうる可能性があると思われた.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

古田は研究の構想,データ収集・分析・解釈,原稿の起草・知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;木下および杉本は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;荒木は研究データの収集・分析・解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

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