Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Awareness of Short-acting Opioid Formulation and Rapid-onset Opioid Formulation in Healthcare Professionals: A Questionnaire Survey
Eiji KoseTaesong AnAkihiko Kikkawa
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2019 Volume 14 Issue 2 Pages 53-60

Details
Abstract

【目的】短時間作用型オピオイド(short-acting opioid: SAO)と即放性オピオイド(rapid-onset opioid: ROO)に関する認識について検討した.【方法】自記式質問紙を用いて,がん突出痛の定義やROO製剤の使用方法,SAO製剤との相違に関する質問を医師・看護師・薬剤師に行った.【結果】回収率は72.7%であり,医師35名,看護師102名,病院薬剤師171名から有効回答を得た.SAO製剤とROO製剤の相違の認識の程度を0〜10の11段階で評価したところ,全体で平均3.8であった.また,ROO製剤の使用方法で「開始用量」,「開始用量は定時投与しているオピオイド鎮痛薬の1日量に依存しない」は,回答者間で認知度がばらついている傾向がみられた.【考察】本研究結果を基に,今後は各職種がROO製剤の使用方法に関する内容を再確認し,適正使用に努めていく必要があると考える.

緒言

がん突出痛の有病率は51〜89%にものぼり13),その定義は,「持続痛が適切に緩和されているにもかかわらず,自然に,または予測できる/できない誘因に関連して発生する一過性の痛みの増強」とされている4,5).したがって,医療者は,持続痛が適切に緩和されていない場合に発生する痛みの増強と持続痛の増悪6)とを見極めて評価する必要がある.

がん突出痛は,痛みの発生からピークに達するまでの時間は3分程度と短く,痛みの持続時間は15~30分であり,90%が1時間以内に終息するとされている6,7).従来,がん突出痛の治療に対して,短時間作用型オピオイド(short-acting opioid: SAO)製剤に分類されるモルヒネ塩酸塩内用液やオキシコドン塩酸塩水和物散が用いられてきたが,効果発現までの時間が約30分,最大効果発現時間が約1時間であり,数時間にわたり作用が持続することから,がん突出痛に対して使用した場合,鎮痛効果が得られないばかりか,悪心・嘔吐や傾眠などの副作用の発現も無視できない状況にある.これらのSAO製剤の問題点を解決すべく,即放性オピオイド(rapid-onset opioid: ROO)製剤に分類されるレスキュー薬として,フェンタニルクエン酸塩を含有する口腔粘膜吸収製剤が上市された.これらは,効果発現までの時間が10分以内と早く,がん突出痛のピーク時間に鎮痛効果を示す8)とされていることから,先述したがん突出痛の特徴によく一致しているため,がん突出痛治療に適していると考えられる.したがって,がん突出痛には,ROO製剤,持続痛の増悪には,SAO製剤の使用と適切な治療へとつなげる必要がある.しかし,投与間隔がROO製剤間で異なる点や1日の使用回数に制限が生じる点,開始用量は定期投与のオピオイド鎮痛薬量に依存せず,最低用量から開始しなければならない点など使用方法が煩雑である.また,先述したように,がん突出痛と持続痛の増悪を見極めて評価する必要があり,SAO製剤との使い分けが医療現場で十分に浸透していない可能性がある.そこで,本研究では,SAO製剤とROO製剤との相違に関する認識について検討を行うために医師・看護師・薬剤師を対象にアンケート調査を行った.

方法

解析対象施設とアンケート対象者

公益社団法人神奈川県病院薬剤師会に加盟する施設のうち,ROO製剤を採用しており,アンケート調査(付録図1参照)に診療部門・看護部門・薬剤部門の各部門から回答の承諾を得た13施設を解析対象施設とした.アンケート対象者は,解析対象施設に勤務する医師・看護師・薬剤師のうち,オピオイド鎮痛薬の処方頻度が高いとされる緩和ケアおよび外科病棟に従事する医師および看護師とし,薬剤師は薬の専門家であることから解析対象施設に勤務する者全員とした.アンケートは郵送にて実施し,無記名の選択方式とした.調査期間は,2017年12月1〜31日までの1カ月間とした.

アンケート用紙

アンケート用紙を付録図1に示した.アンケート内容は,ROO製剤の適正使用に関して有効性と安全性を評価した先行研究9)を参考に,緩和ケアに精通している薬剤師同士による合意の基で作成された.アンケートは,がん突出痛の概要,ROO製剤の適正使用に関する認知度,SAO製剤とROO製剤との相違を評価する内容とし,回答者自身を評価することを目的として行っているものではないこと,自由意志で参加し,途中でいつでもやめることができることを文書にて説明した.

調査項目

回答者属性に関する項目として職種,緩和ケアの経験,ROO製剤の使用あるいは指導・ケア経験の有無を調査した.また,がん突出痛の概要に関する調査項目として,「①がん突出痛の定義」,「②1日あたりのがん突出痛の発生頻度」,「③がん突出痛の種類(予測できる突出痛と自発的な突出痛)」,「④がん突出痛の持続時間」を調査した.ROO製剤の認知度に関する項目では,「用法・用量」項目として,「⑤開始用量」,「⑥開始用量は定時投与しているオピオイド鎮痛薬の1日量に依存しない」,「⑦用量調節の仕方」,「⑧1回用量の上限」,「⑨ROO製剤における投与回数の制限」を,「薬物動態」項目として,「⑩効果発現時間」,「⑪効果持続時間」を,「服薬指導」項目として,「⑫服用方法(イーフェン®バッカル錠),服用方法(アブストラル®舌下錠)」を,「副作用」項目として,「⑬傾眠」,「⑭悪心・嘔吐」,「⑮便秘」,「⑯口内炎や口腔内出血により副作用が発現しやすくなる」を,「薬価」項目として,「⑰およその薬価(値段)を知っている」を調査した.

測定尺度

アンケート用紙Q. 4のがん突出痛およびROO製剤に関する項目の測定尺度として,「全く知らない」,「あまり知らない」,「まあまあ知っている」,「十分知っている」の4水準を用いて評価した.なお,解析の便宜上,全く知らない(1点),あまり知らない(2点),まあまあ知っている(3点),十分知っている(4点)と1~4点にスコア変換したうえでリッカートスケールとして取り扱った.また,本研究では奇数ではなく4水準の偶数の尺度を用いたが,これは既報の調査方法10)を参考に中央を設定せず,どちらかの傾向を把握することが可能となるためである.Q. 5については,SAO製剤としてモルヒネ塩酸塩内用液(オプソ®内用液)およびオキシコドン塩酸塩水和物散(オキノーム®散)を取り上げ,ROO製剤との相違(がん突出痛と持続痛の増悪に対する使い分け,用法・用量,薬物動態,服用方法など)の認知度を0~10の11段階で評価した.

データ集計・解析

Q. 4のがん突出痛およびROO製剤の認知度を職種別に人数(割合)で表記した.各項目における各職種間の相違は,χ2検定を行い,Bonferroniの多重比較検定を行った.Q. 5のSAO製剤とROO製剤との相違に関する認知度は,平均値±標準偏差で表記した.両者の相違に関連する要因を明らかにするために,目的変数をQ. 5の両者の認識の程度,説明変数をROO製剤の「用法・用量」,「薬物動態」,「服薬指導」,「副作用」,「薬価」の分野(番号⑤~⑰)および「職種」として,ステップワイズ変数増減法による重回帰分析を行った.なお,各検定における有意水準はp<0.05とし,統計解析には,JMP Pro 13® (SAS Institute Inc.)を用いて行った.

倫理規定

本研究は,横須賀共済病院倫理委員会において承認を得て実施した.またヘルシンキ宣言の精神を遵守し,「臨床研究に関する倫理指針」の内容に十分留意して実施した.

結果

回答状況

アンケート用紙の回収率は72.2%(13/18施設)であり,医師35名,看護師102名,薬剤師171名から有効回答を得た.回答者の背景に関して,職業経験年数では,看護師は,5年未満:8名(7.8%),5年以上10年未満:27名(26.4%),10年以上:67名(65.8%)であった.薬剤師は,5年未満:45名(26.3%),5年以上10年未満:40名(23.4%),10年以上:86名(50.3%)であった.

緩和ケアへの現状

緩和ケアに対する経験では,現時点で従事していると回答した者は,医師:25名(71.4%),看護師:70名(68.6%),薬剤師:55名(32.2%)であった.従事していたと回答した者は,医師:0名(0%),看護師:6名(5.9%),薬剤師:22名(12.9%)であった.従事していないと回答した者は,医師:10名(28.6%),看護師:26名(25.5%),薬剤師:94名(54.9%)であった(表1).

表1 緩和ケアの現状とROO製剤の使用経験

ROO製剤の使用経験

緩和ケアに対する現状で「従事している」あるいは「従事していた」と回答した者を対象にROO製剤の使用の有無を調査したところ,「あり」と回答した者は,医師:25名(100%),看護師:71名(93.4%),薬剤師:70名(90.9%)であり,「なし」と回答した者は,医師:0名(0%),看護師:5名(6.6%),薬剤師:7名(9.1%)であった(表1).

医師・看護師・薬剤師のROO製剤に関する認知度

医師・看護師・薬剤師の各職種間におけるROO製剤の認知度を表2に示した.がん突出痛分野の「がん突出痛の定義」,「1日あたりのがん突出痛の発生頻度」および「がん突出痛の種類」の項目において職種間の認知度に有意な違いが認められた.同様に,用法・用量分野の「開始用量」,「開始用量は定時投与しているオピオイド鎮痛薬の1日量に依存しない」および「用量調節の仕方」,服薬指導分野の「服用方法(イーフェン®バッカル錠)」および「服用方法(アブストラル®舌下錠)」,副作用分野の「悪心・嘔吐」および「便秘」,薬価の分野の「およその薬価(値段)を知っている」についても,職種間の認知度に有意な違いが認められた.

表2 医師・看護師・薬剤師のROO製剤に関する認知度

医師・看護師・薬剤師のSAO製剤とROO製剤との相違に関する認知度

医師・看護師・薬剤師の各職種間におけるSAO製剤とROO製剤との相違に関する認知度を表3に示した.職種全体における両者の相違の認知度は,3.8±2.6であり,医師と看護師間,医師と薬剤師間,薬剤師と看護師間における認知度に有意な違いが認められた.

表3 医師・看護師・薬剤師のSAO製剤とROO製剤の相違に関する認知度

SAO製剤とROO製剤の相違に関する要因

SAO製剤とROO製剤の相違に関連する要因を重回帰分析を用いて検討した結果を表4に示した.SAO製剤とROO製剤の相違の要因には,「開始用量」,「開始用量は定時投与しているオピオイド鎮痛薬の1日量に依存しない」,「ROO製剤における投与回数の制限」,「効果持続時間」,「服用方法(アブストラル®舌下錠)」および「薬価」が各々独立して有意に関連していた.

表4 SAO製剤とROO製剤との相違に関する要因

考察

本研究で最も重要なことは,職種全体におけるSAO製剤とROO製剤との相違に関する認知度が0~10の11段階のうち平均3.8と低値を示したことである.また,医師,看護師,薬剤師の職種間における認知度に有意な違いが認められたことから,医療現場でROO製剤の適正使用に関する認知度が低いことが示唆された.次に重要なことは,両者の相違に「開始用量」,「開始用量は定時投与しているオピオイド鎮痛薬の1日量に依存しない」,「ROO製剤における投与回数の制限」,「効果持続時間」,「服用方法(アブストラル®舌下錠)」および「薬価」が関連していたことである.したがって,これらの6因子がSAO製剤とROO製剤の相違に関する認知度の低さの要因である可能性が示唆された.

SAO製剤とROO製剤の相違に関連した6因子のうち,「開始用量」および「開始用量は定時投与しているオピオイド鎮痛薬の1日量に依存しない」の項目は,他の項目と比較して4水準の測定尺度内におけるばらつきが大きい傾向がみられた.回答者間のばらつきが大きい傾向がみられた要因としては,SAO製剤との使用方法の混同が原因であると考える.すなわち,SAO製剤を臨時追加投与(レスキュードーズ)として使用する場合,モルヒネ塩酸塩内用液およびオキシコドン塩酸塩水和物散などの開始用量は定時投与されているオピオイド鎮痛薬1日量の各々,1/6量および1/8〜1/4量が添付文書上では承認されている.しかし,ROO製剤の場合は異なる.米国で初めて承認されたROO製剤であるフェンタニルクエン酸塩口腔粘膜吸収剤の初期の研究では,薬剤の有効量と定時投与されているオピオイド鎮痛薬の1日投与量の間には相関がみられず11),フェンタニルクエン酸塩口腔粘膜吸収剤の至適投与量は持続痛緩和に使用されている定時オピオイド鎮痛薬の1日投与量からは予測することができなかった12,13).このことから,フェンタニルクエン酸塩口腔粘膜吸収剤においては,最初は少量から投与を始め,段階的に増量しながら,がん突出痛が十分に緩和されるまで用量調節することが推奨されている14).現在承認されているすべてのROO製剤についても,同様の投与法が承認されている.一方で,がん突出痛治療用量と定時オピオイド鎮痛薬用量間に統計的に有意な関係を示唆する報告もある15).しかし現時点では,定時オピオイド鎮痛薬投与量に比例するROO初回投与量を使用する方法を推奨する十分なデータはない.また,全職種通じて「薬価」に関する認知度が最も低かった.2018年8月現在,最小規格のモルヒネ塩酸塩内用液5 mgおよびオキシコドン塩酸塩水和物散2 mgの薬価は,各々,115.30円および57.60円である.一方,イーフェン®バッカル錠50 μgおよびアブストラル®舌下錠100 μgの薬価は,各々,495.80円および564.40円であり,ROO製剤の薬価は非常に高価である.したがって,患者の経済負担を考慮すべき薬剤の認知度を高めるように努めていく必要があると考える.

本研究結果からSAO製剤とROO製剤の相違には,用法・用量,薬物動態および服薬指導に関する分野が関連していたが,適応(痛みの種類)にも十分に認識しておく必要がある.すなわち,がん突出痛では,持続痛が適切に緩和されていない場合に発生する痛みの増強と持続痛の増悪とを分けて評価する必要がある.がん突出痛は,痛みの発生からピークに達するまでの時間は3分程度と短く,痛みの持続時間は15~30分程度とされている7)ため,SAO製剤の使用は薬物動態的観点から十分に痛みが緩和できる可能性は低く,逆に副作用発現を誘発してしまう恐れがある.本研究におけるがん突出痛の認知度は,医師を除く,看護師および薬剤師の50%以上は,がん突出痛の4項目のうち,ほとんどの項目において,「全く知らない」あるいは「あまり知らない」と回答していたことから,十分に認知されているとは言い難い状況であることが示唆された.とりわけ,医師および薬剤師と比較して看護師のがん突出痛に関する認知度が低い傾向がみられた.これら3職種のうち,看護師は24時間病棟に従事しているため,最も身近に患者の訴えを収集しやすいと考えられることから,看護師の患者が訴える痛みが,がん突出痛由来であるかを把握できるように痛みの種類の認知度を向上させることが必要であると考える.また,こうした情報を医師および薬剤師と連携し共有することで,ROO製剤の適正使用の向上につながり,引いては患者の痛みからの解放に寄与できるようになると考えられる.

本研究の限界として,第1に本アンケートは,無記名の自己評価によるものであるため,認知度が高いことと,正しい知識を持っていることが一致するかどうかは不明である.また,本アンケートは客観的な評価によるものではないため,自身を過大評価あるいは過小評価している可能性も考えられ,自己評価の信頼性の担保が危惧される.第2に本研究のアンケート対象者には緩和ケアに従事していない者も含まれているため,結果を外挿することが困難である可能性がある.

結論

本研究は,SAO製剤とROO製剤の認知度に関する相違を「医療者の自己評価による認知度」を基に評価したものである.職種全体では,0~10の11段階のうち4未満と低値を示し,各職種間の認知度に有意な違いが認められたことから,医療現場でROO製剤の適正使用に関する認知度が低いことが示唆された.また,両者の相違には,「開始用量」,「開始用量は定時投与しているオピオイド鎮痛薬の1日量に依存しない」,「ROO製剤における投与回数の制限」,「効果持続時間」,「服用方法(アブストラル®舌下錠)」および「薬価」が関連していた.本研究結果を基に今後は,各職種がROO製剤の使用方法に関する内容を今一度,再確認し,適正使用に努めていく必要があると考える.

謝辞

アンケート調査に御協力をいただきました医師・看護師・薬剤師の皆様方に深く御礼申し上げます.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

小瀬は研究の構想およびデザイン,分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献;安および吉川は研究データの収集,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認および研究の説明責任に同意した.

References
 
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