Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
The Development of a Reflection Program for Practical Implementation of End-of-Life Care
Yukiko IiokaYukiko NakayamaNaomi WatanabeMari TashiroHideko EnomotoYuko TakayamaChiho HirotaMasako Akiyama
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2019 Volume 14 Issue 2 Pages 89-95

Details
Abstract

本研究の目的は,看護師を対象にEnd-of-Life Careの実践を支援するリフレクションプログラムを開発し,その効果と実現可能性を検討することである.ファシリテーター主導リフレクションプログラム(FRP)と,カードを用いたリフレクションプログラム(CRP)を開発した.緩和ケアに関する知識・態度・困難感尺度と自己教育力尺度の平均得点をプログラム前・直後・3カ月後で測定し,得点の変化をFRPとCRPで比較した.倫理審査委員会の承認を得て行った.FRPは9名,CRPは15名のデータを分析した.FRPはCRPと比較して緩和ケアに関する困難感が有意に低下し,知識が有意に上昇した.また,FRPの群内においても同様の結果が得られた.FRPもCRPもプログラム評価は高く実現可能性は高いと考えられた.今後は,アウトカム指標の検討,サンプル数を増加し,効果をより明確にする必要がある.

緒言

日本では高齢化率27.7%となり,多死社会にどのように対応したらよいかが重大な社会問題となっている.最期のときに身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛が最小限となり,その人が望む最期を過ごせるようにするのはどうしたらよいのかその悩みは尽きない.End-of-Life期にある人に最適なケアを提供することは重要であるが,そこには倫理的課題も含まれるため,医療者は自分のケアについて苦悩することが多い.End-of-Life期の患者は回復することは稀であり苦痛が重複されていく.その患者に寄り添う看護師は「何もできていない」と自分の看護もネガティブに捉えやすく,看護に対する不全感・困難感を抱きやすい.

End-of-Life Careの教育では,自ら実施してきたケアを振り返る機会をもつことや,辛かった経験から意味を見出せるように言語化できる環境をつくることが鍵になると報告されている1).自分の経験を語り,客観的な理解を深め,看護の意味を改めて自覚する,つまりこのリフレクションプロセスにより看護に対する不全感・困難感は緩和すると考えられる.リフレクションは,教育哲学者のDeweyが「リフレクションの中心は経験である.経験をリフレクティブ思考のプロセスを通して学習することによって,人の理解力,あるいは思考力は向上し,磨かれ成長する」と述べたように2),自分の考えや行動などを深くかえりみることで学びを得て,成長する過程である.つまり,経験(看護)を言語化して語り,そこに学びを導き出し,その学びを実践につなげることであり,その一連の探求的プロセスがリフレクションである.

リフレクションは,専門職として求められる実践力を育成させる教授法と考えられ,看護教育に導入されている.看護学ではGibbsのリフレクティブサイクルが紹介され,リフレクションを行う際の基盤として考えられている2,3).また,Deweyが経験からの学習をリフレクションと述べたように,Kolbの経験学習サイクルを基盤としたリフレクションも開発されている4).リフレクションの効果には,さまざまな状況に対応できる能力を備え,自分を成長させることや,何気ない看護にこそ深い意味があることを実感するなど,物事の見方に変化を与えることが報告されている3).しかし,End-of-Life Careにおけるリフレクションはカンファレンスや看護師研修に実践的に取り組まれ,研究的に効果を立証したものはほとんどなく,学生を対象としたプログラムが僅かにあるだけである5,6).そのため,臨床の看護職者を対象とし,End-of-Life Careの状況により即したリフレクションプログラムを開発し,その効果を研究的に立証することが重要である.

以上から,本研究ではGibbsのリフレクティブサイクルを基盤2)としたファシリテーション主導型リフレクションプログラム(FRP)と,Kolbの経験学習サイクルを基盤7)としたカードを用いたリフレクションプログラム(CRP)を開発し,End-of-Life Careに携わる臨床の看護職者のリフレクションにより効果的な方法を検討することとした.本研究の目的は,2種類のリフレクションプログラムを行い,その効果と実現可能性を検討することとした.

方法

研究デザイン

本研究は,ランダム化していない2群の比較試験を採用した.

対象者

がん看護の経験があり,ELNEC-J(The End-of-Life Nursing Education Consortium日本語版)コアカリキュラム看護師教育プログラム (以下,ELNEC-J)の受講者で,研究協力の同意が得られた看護師とした.

End-of-Life Careの実践を支援するリフレクションプログラム

1.ファシリテーター主導型リフレクションプログラム(FRP)

Gibbsのリフレクティブサイクルを基盤として開発した.リフレクティブサイクルは,6つの段階で構成される.段階は画一的ではなく,前の段階に戻ることもあり,語られる体験を洞察するプロセスは時間で区切ることが難しい.リフレクティブサイクルの展開を促進するため,その役割は主にファシリテーターが担う.ファシリテーターは,非指示的態度で臨み,思考が進むような声掛けを行う.共同研究者は各自リフレクションに関する書籍2,3)を熟読し,「リフレクティブサイクル」に関する学習会を開催して参加し,ファシリテーターの役割を担った.

参加者は4名のグループに分かれ,各グループにファシリテーターを1~2名配置した.リフレクティブサイクルを基に討議が進むようにステージ1~6で構成したワークシートを用いた.ファシリテーターは,ステージのプロセスに従って討議が進むように「そのときの気持ちは?」「それにはどんな意味があると思うか」など問いかけを積極的に行った.リフレクションのテーマは,End-of-Life Careに関することを各自が設定した.リフレクションは対象者の語りにより時間のばらつきがあり,30~60分/人分程度で行い,経験を語れなかった参加者もいた.プログラムは3時間で設定した.

2.カードを用いたリフレクションプログラム(CRP)

Kolbの経験学習サイクルを基盤としたリフレクションカード® Regular8)を用いたリフレクションプログラムを構築した.4名のグループに分かれ,各グループにファシリテーターを1名配置した.リフレクションは,テーマ,問い,フィードバック,共有の4種類のカードを用いる.それぞれのカードには,設問が記されており,カードの問いが促進因子となり討議を促進するリフレクションである.リフレクションは4段階で構成され,異なるカードを用いる.カードには「なぜそう考えたり,判断するのだと思いますか」「どうなれば心から嬉しくなると思いますか」などの問いが記載されており,経験を語る主人公にカードを手渡しながら問いかける.グループメンバー同士で討議しあいリフレクションを行う.さらにワークシートを用いて,参加者は気づきやフィードバックを記載する.リフレクションテーマはFRPと同様とした.リフレクションは30分/人程度で行い,時間で区切りプログラムを進行した.参加者全員がリフレクションを行い,プログラムは3時間で設定した.共同研究者全員はリフレクションカード®ファシリテーション研修会に参加し,リフレクションカード®の活用方法やファシリテーションの技術を修得した.ファシリテーターは主にタイムマネジメントと,討議が逸脱した際の軌道修正の役割を担った.

データ収集内容

1.対象者の特性:年齢,経験年数,勤務場所,取得資格などの8項目からなり,研究者が作成した.FRPとCRPのプログラム前に収集した.

2.緩和ケアに関する知識・態度・困難感:緩和ケアに関する医療者の知識・態度・困難感の評価尺度を用いた9,10).知識尺度は5ドメイン20項目,態度尺度は6ドメイン18項目,困難感尺度は5ドメイン15項目からなる.FRPとCRPの前,プログラム直後,プログラムから3カ月後で収集した.

3.生涯学習態度:工藤が開発した自己教育力尺度を用いた11).自己教育力尺度の選択肢は二択であったが,本研究では介入前後の変化をとらえるため4段階(非常にそう思う,そう思う,そう思わない,非常にそう思わない)で測定した.「成長・発展への志向」「自己の対象化と統制」「学習の技能と基盤」「自信・プライド・安定性」の4側面40項目からなる.FRPとCRPの前,プログラム直後,プログラムから3カ月後で収集した.

4.プログラム評価:研究者が作成し,プログラムのテーマ・目的のわかりやすさ,プログラム構成のわかりやすさ,グループの雰囲気,ワークシートの使いやすさ,プログラムの楽しさ,プログラムの有意義さ,プログラム全体の満足度を10段階(NRS)で測定する.両プログラムの直後に収集した.

データ収集方法

東京都区西部緩和ケア推進事業看護部会主催によるELNEC-J終了後に,プログラムの紹介と研究概要の説明を行い,参加希望を募った.ELNEC-J受講者はEnd-of-Life Careへの関心が高いため,ELNEC-J受講者に公募した.参加希望があった対象候補者に支援プログラムの詳細な案内と研究概要の説明書を郵送した.プログラム開催時に再度研究内容の具体的説明を行い,同意を得た.データは質問紙としてまとめ,プログラム前,プログラム直後,プログラム3カ月後に配布して収集した.回収は,研究者宛の郵送法とした.FRPのデータ収集期間は2015年11月〜2016年4月であり,CRPは2016年6月〜10月だった.FRPとCRPは,ELNEC-J受講して半年後に開催した.

分析方法

統計ソフトはIBM SPSS Statistics, version 25 (日本IBM, 東京)を用い,有意水準は5%とした.記述統計量を算出した.介入前・直後・3カ月後の比較は,多重比較検定のDunnett法を用いた.群間の比較には,Mann-WhitneyのU検定を用いた.

倫理的配慮

研究協力に関して書面と口頭で説明し,同意書への署名をもって同意とみなした.質問紙は無記名とし,識別番号にて質問紙の紐付けを行った.対応表の作成はない.同意撤回書には,識別番号を記載する欄を設けた.質問紙の回答はID番号を付して入力データとし,鍵をかけた棚に保管した.分析はウイルス対策をしたパソコンで処理した.研究者所属の研究倫理審査委員会の承認(承認番号3521)を得たのちに研究を実施した.

結果

対象者の特性

対象者のリクルートプロセスを付録図1に示した.FRPデータ分析は9名,CRPデータ分析は15名となった.対象者の特性は表1に示した.対象者の年齢,臨床経験平均年数,がん看護経験平均年数でFRPとCRPで有意差はなかった.

表1 対象者の特性

FRPの効果(図1

知識得点はプログラム前から3カ月後にかけて徐々に増加し,有意な増加が示された(P=0.003).困難感得点もプログラム前から3カ月後にかけて徐々に低下し,有意な低下が示された(P=0.002).その他,態度尺度,自己教育力尺度は統計的に有意な変化が得られなかった.

図1 FRPの効果(n=9)

CRPの効果(図2

いずれの尺度においても統計的に有意な変化は得られなかった.しかし,プログラム直後の質問紙の自由記載内容では,「よい雰囲気で有意義な時間だった」「初めてだったが頭のなかが整理できた」「楽しく学べた」「いろんなことを見直し,意識の変化に大いに役立った」など多数の意見が寄せられた.

図2 CRPの効果(n=15)

FRPとCRPの群間比較(表2

FRPとCRPのプログラム前の各尺度得点に有意な差はなかった.

プログラム前からプログラム3カ月後の尺度得点の変化量を算出し,FRPとCRPで比較した.知識尺度(U=30.50,P=0.026)と困難感尺度(U=31.00,P=0.029)で有意な差があり,FRPはCRPよりも有意に知識を得て,困難感が緩和したことが示された.

表2 FRPとCRPの群間比較

プログラム評価(表3

FRPもCRPの両プログラムでいずれの項目も比較的評価が高かった.「プログラムテーマ・目的のわかりやすさ」はCRPの方が高いが,それ以外はいずれもFRPとCRPは同程度の評価だった.

表3 プログラム評価

考察

FRPでは困難感尺度の有意な改善が示された.FRPは,1人の体験についてグループメンバーが傾聴し,リフレクションの技術を備えたファシリテーターがリフレクションプロセスを歩めるよう慎重にコミュニケーションをとるプログラムである.ファシリテーターやグループメンバーの傾聴や体験の理解を深める討議から,体験についての深い洞察を促す効果が生じ,個人の課題の解決の糸口が見出せ,困難感が緩和されたと予測される.

また,End-of-Life Careで悩む看護師は,不全感や自尊心の低下を感じる傾向がある12).リフレクションには,辛い体験から大切な学びの体験として捉え直しをしたり,新たな気づきを得る効果が示されている13).本研究のリフレクションも,辛い体験であっても異なる見解からの捉え直しや,新たな見解からの気づきなどが得られ,不全感や自尊心の低下の緩和がなされ,さらに困難感が緩和した可能性がある.結果からも,FRPは緩和ケアに関する困難感を緩和する効果が高いといえる.

このような効果を得るためには,ファシリテーターには高度なコミュニケーション技術が必要であり,リフレクションに関する知識・技術を修得しておく必要がある.いい換えれば,ファシリテーターの能力や態度がリフレクションの効果に大きく影響し,ファシリテーターによりリフレクションの効果に差が生じやすい.FRPのファシリテーターは,がん看護専門看護師などの高度なコミュニケーションスキルを身につけていたため,深い洞察が展開されたことより効果が立証されたと考える。

一方,リフレクション教育に携わる指導者は,思いが伝わらない困難感や自分の看護実践を変化させることの難しさなどを抱いていると示されている14).FRPを担当したファシリテーターからは,参加者の体験に向き合うための心理的負担が大きく,「何と問いかけたらよいのか」「相手を傷つけてしまっていないか」などの不安が強くなるという意見があった.したがって,FRPは緩和ケアに関する困難感を緩和する効果は高いが,ファシリテーターの能力に依存しやすいことやファシリテーターの心理的負担への対応策を講じる必要がある.

そして,FRPは知識提供を含めたものではないため,結果で示された知識得点の上昇はリフレクションによる間接的効果と考えられる.対象者がリフレクションによる課題解決により学習の視点が明確になり,緩和ケアに関する学習をしたことなども考えられる.

本研究においてCRPの効果は示せなかった.しかし,CRPの自由記載欄はFRPに比べると非常に多くのポジティブな意見がある.CRPでは,フィードバックの時間を設け,フィードバックのカードには,「主人公の目の前にはどのようなチャンスがあると感じましたか?」などのテーマがあり,自然とポジティブフィードバックが得られやすく,改めて自分の看護の意味を実感することにつながりやすい.何気ないと思っていた看護に,新たな意味が付与されることで,自分の看護への自信が高まることもある.既存研究においても,リフレクションによる看護職者の内面的変化には,看護実践への自信や仕事のやりがいやケアの糧があることが示されている12,13).しかし,本研究のアウトカム指標には,このようなポジティブ変化に関する指標が十分ではなかった.自己教育力尺度を活用したが,FRPはファシリテーターの主導により討議が進むため,自ら学ぶ姿勢には影響しなかったと考えられ,CRPは看護に新たな意味が見出されたり,見解の広がりが得られたかもしれないが,学ぶ姿勢までには至りにくかったことが考えられる.リフレクションによるポジティブな変化としては,自己効力感やエンパワメントなどの認識的な変化が予測され,このような尺度を活用すべきであったと考える.したがって,CRPの効果が示せなかったことにはアウトカム指標の選択の課題があると考えられ,CRPの効果が弱いと結論付けることは早計であり,今後はアウトカム指標を見直し,CRPの効果を再度検討する必要がある.

CRPは介入時間が比較的短く,参加者同士の相互作用により成り立つプログラムであり,臨床や研修などでの再現性があり,プログラムとしての利便性がある.また,ファシリテーターの能力による影響が比較的少なく,参加者間の信頼関係構築やコミュニケーション能力向上も期待できる.永井は,リフレクションを促す人と対象者は同じ立場にあり,互いに批判的・省察的に学習し続ける存在と述べている15).CRPは,この同じ立場での批判的・省察的な学びあいが行いやすいプログラムである.また,CRPでは,討議を促進する「問い」がカードに記載されているため,討議が触発しやすくなり,さらにはファシリテーターの心理的負担は比較的軽くなる.FRPのファシリテーターが抱いていた心理的負担感は殆どなく,対等な立場で楽しく討議に参加できていた.ファシリテーターの能力による効果の差や,討議の推進に関する心理的負担感は,ファシリテーターにとっては重大である.リフレクションを継続するうえで,ファシリテーターの存在は非常に重要であり,楽しく話しやすい雰囲気づくりが重要である.これらの実現には,CRPの方が効果的と考える.したがって,状況や目的により両プログラムを選択することが望ましいと考える.例えば,人の死に関することや倫理的な課題がテーマで,看護観や死生観に関する討議が予測される場合はFRPで慎重にリフレクションする方がよいだろう.また,新人看護師の混乱やジレンマをテーマとするような場合は,短時間で導入しやすいCRPがよいかもしれない.

本研究だけでリフレクションプログラムの効果を明確に示したとは言いがたいが,プログラム評価は高く,実現可能性は保障されたのではないかと考える.本研究は試行的にプログラムの効果を検討したため一般化には限界がある.さらに,対照群を設置しておらずランダム化していない研究デザインであること,対象者数が限られているという限界もある.そして,アウトカム指標の適切性に関する課題が残っている.リフレクションの特性を踏まえ,より適切なアウトカム指標を検討することや,対象者数設定など,研究デザインを再検討して,さらなる研究を重ね効果を明確に示す必要がある.

結論

本研究では,End-of-Life Careの実践のためのリフレクションプログラムを2種類(FRPとCRP)開発した.FRPはCRPに比べて緩和ケアに関する困難感と知識が改善することが示された.両プログラムの実行可能性は立証されたと考える.両プログラムはそれぞれ特徴があり,状況や目的に応じて選択することが望ましいと考えられる.

謝辞

本研究にご参加くださいました対象者の皆様,お忙しい中ご協力くださり誠にありがとうございました.本研究は平成27年度安田記念財団癌看護研究助成Aの助成により実施しました.

利益相反

著者の申請すべき利益相反はなし

著者貢献

飯岡は研究の構想,データ収集,分析,解釈,原稿の起草,重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献;中山,渡邉,田代,榎本,髙山,廣田,秋山は研究データ収集,分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2019 by Japanese Society for Palliative Medicine
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