Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Experience of the Nursing Students Who Took Charge of End-of-life Cancer Patients in Clinical Practice of Gerontological Nursing
Yoshie ImaiChiemi OnishiTakae Bando
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2020 Volume 15 Issue 1 Pages 1-8

Details
Abstract

本研究は,終末期がん患者を受け持った看護学生の体験を明らかにすることを目的とした.高齢者看護学実習にて終末期がん患者を受け持った看護学生3年生15名に面接調査を実施した.終末期がん患者を受け持った学生の体験は【苦しんでいる患者がいるのに何もできず情けない】【終末期と怖気づかずに非力ながらも自分から関わっていく】【日常生活のなかで生死を目の当たりにする】【患者が生きている今日1日をしっかりと支えていく】【クリティカルな状態にある患者を看るにはまだまだ不十分さが残ると自覚する】【最期まで患者らしく人生を生き切れるようにする】のカテゴリーで構成された.学生の体験は,終末期にあるがん患者の状況から,自身のケアのあり方に対峙し,患者らしさを引き出す大切さを学ぶ体験となっていた.患者の持つその人らしさの視点を広げることは,対象の持つ特性を加味した終末期ケアを促すことになることが推察された.

緒言

高齢者は死が近づいていることを感じとることができる1)といわれている.また,人生最終段階にいる高齢者は,喪失を受け止め,耐える力を持ち2),人生の振り返りを通して,落ち着いて死を受容できる分別を備えている3).Eriksonらは,「老年期は最終段階で自我の統合という人格を完成させることが課題であり,これまでの自分の人生に意義と価値を見いだすことで,死の訪れも比較的苦悩が少なく受容できる」4)と述べている.これより,高齢者看護学実習で終末期がん患者に学生が携わることは,貴重な学習の経験になると思われる.

終末期と看護学生の学びに関する先行研究では,学生が終末期看護で必要だと感じた看護58)や学生自身が意識して行為化9)した内容が報告されており,学生が捉えた終末期の看護ケアが明らかにされている.また,学生の体験に焦点化した研究では,終末期実習前では不安とやりがいという両極性の思いを持っていることが報告されている10).実習時には,苦しさや不安,困惑,アイデンティティが脅かされ1114),衝撃が走る経験より患者と距離をおくようになる15)が,このネガティブな状況は,死について考える契機となり,看護職者としての自覚や満足,受容,信頼のような肯定的感情が生まれていることも報告されている8,1214,16).その学びの体験としては,患者・家族への理解や看護援助のあり方,看護観や死生観の深化,自己理解などが明らかにされている11,1719).これらのことから,実習で終末期患者を受け持った学生は否定的な部分だけでなく,肯定的な部分も体験しているという複雑な体験であることが推察できる.これは,学生の終末期に対する捉え方や態度の肯定的な変化を報告している研究20, 21)からも,うかがい知ることができる.

2025年には団塊の世代が75歳以上となり,3人に1人が65歳以上になる多死社会に突入していく22).がんの特性より長生きするほどがんに罹患しやすくなる状況から,高齢のがん患者が増加することは容易に予測できる状況あり,今後の緩和医療に与える影響は多大である.とくに,高齢者は長い人生経験で培ってきた生活背景を踏まえて支援していく必要性があり,The End-of-Life Nursing Education Consortiumにおいても高齢者の項目が追加された経緯がある.核家族が増えるなかで高齢者とのふれあいが減少している学生にとって,基礎教育のうちから終末期の特性を踏まえた視点を持つことは,対象者理解を拡げることにつながると考える.

高齢者看護学実習において,終末期患者の受け持ちを通して生じる苦悩や困惑,葛藤という複雑な状況下で,対象をどのように捉えたのか,学生の終末期がん患者との関わり中で生じた体験を明確にし,必要な実習指導のあり方を検討する.それは,今後の緩和医療の発展に寄与する看護職者の育成のうえで貢献すると考える.

方法

研究対象者・期間・実習概要

2014年9月~2017年2月の高齢者看護学実習で終末期がん患者(肺がん,喉頭がん,下咽頭がん,上顎洞がん,膀胱がん,前立腺がん)を受け持った看護3年生20名中15名(75%)を対象とした.高齢者看護学実習は3年後期各論実習の一つとして位置付けた2単位2週間の実習であり,目的は疾病を持った治療過程にある高齢者に対する援助方法を学ぶこととし,急性期病院の呼吸器内科病棟、耳鼻咽喉科・泌尿器科病棟にて実施している.2年時に,高齢者看護学概論・高齢者援助論にて終末期看護の学習をしている.

用語の操作的定義

終末期がん患者との関わり中で生じた体験

がんに対する治療効果が期待できない状態で,医師により余命6カ月以内であることが予測された高齢がん患者を受け持った学生が,家族や医療職者も含めた実習期間中に実際に生じていた終末期がん患者の日常生活を支援する関わりのなかで,感じ,考え,想い,姿勢や態度,行為を含むものと定義した.

データ収集方法・分析方法

1人につき1回1時間以内で個室に準じた場所で,終末期がん患者を受け持つなかで学生が何を感じ,思い,考え,どうしたのか,そうしたのはなぜか等,研究者が作成したインタビューガイドに基づいた半構造的面接法を実施し,研究対象者の同意を得られたらICレコーダーで内容を録音した.分析方法は個別分析として①面接の逐語録を繰り返して読み,研究目的に関する内容を研究対象者の表現した言葉のまま抜き出し,前後の文脈を考慮して簡潔な文章で表現した.②①で同様の内容や類似した内容のものを整理してコード化した.③さらに類似するコードをまとめて,その意味内容を表す名前を付け,サブカテゴリー化した.次に全体分析として④個別分析より得られたすべてのサブカテゴリーを集めて,さらに意味内容が類似したものを集めてカテゴリー化した.分析過程において,質的研究の専門家からスーパーバイズを受け,要素の抽出およびカテゴリーの妥当性について検討を重ね,個別分析のサブカテゴリー内容を研究対象者に再度確認し,データの信頼性と妥当性を高めるように努めた.

倫理的配慮

実習終了後に研究対象者に対し,本研究の目的や主旨,自由意思であり,参加の有無は成績に一切関係せず不利益が生じることがないこと,署名後でも参加拒否ができること,結果公表時に個人が特定できないようプライバシーの保護を徹底することを口頭と文書で伝えた.同意書の回収はその場で行わず,同意が得られた場合は,実習記録提出日に別に設けた回収箱に同意書を提出するように依頼した.後日,同意が得られた研究対象者に対して都合のよい日時,時間帯を設定し,面接を行った.本研究は徳島大学病院臨床研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号:2832).

結果

終末期がん患者を受け持った看護学生の体験

表1に示すように,63コード,21サブカテゴリー,6つのカテゴリーに類型化された.カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを[ ],コードを〈 〉,研究対象者の語りを「 」で表す.

表1 高齢者看護学実習における終末期がん患者を受け持った看護学生の体験

1.【苦しんでいる患者がいるのに何もできず情けない】

〈患者の呼吸苦や出血に対して,自分は何ができるのだろう〉と[辛く苦しんでいる患者がいるのに自分は何もできない]体験をしていた.〈痛みで苦しんで自分のことで精一杯な状態だから,私に話をする余裕すらない〉患者の状況を考えると[ケアする私が患者の負担になっているんじゃないだろうか]という体験をしていた.また,〈しんどそうな患者が見れなくて逃げたくなる〉状況から,[ケアをしないといけないのに患者を見て気持ちがしんどくなる]と感じていた.

これらのことから,【苦しんでいる患者がいるのに何もできず情けない】は,目の前で苦しむ患者に寄り添う恐怖や辛さを体感し,ケアする立場にもかかわらず何もできない情けない自分のケア能力を突き付けられるような体験を示していた.

「話聞いてる間は,うなずく,うなずいたり,なんか辛いですよね,ということしかできんかったのが,自分の中でも,あ無力やなと思った.」(学生B)

2.【終末期と怖気づかずに非力ながらも自分から関わっていく】

学生は[こんな状況下でも相手にしてくれる患者に少しでも感謝を返したい]という思いを抱き,[学生の自分でもできることをやってみよう]と行動に移していた.また,〈苦しんでいる患者の姿が辛いからといって自己都合で逃げたらあかん〉と[終末期という状況にひるむことなく自分から患者に向き合っていく]ように行動した.そして,〈後から看護師や先生からいわれて,自分のしていることがケアであるとわかる〉ことで[終末期のケアなんてできないと思っていた自分でもケアができていた]体験となっていた.それは [できるかぎり患者のそばにいて自分からの関わりを絶やさない]という思いや,患者だけでなく[状態の悪化を目の当たりにしている家族も欠かさずケアに取り込む]ように自分から対峙する体験となっていた.

これらのことから,【終末期と怖気づかずに非力ながらも自分から関わっていく】は,終末期でどうしても行動することを躊躇してしまう自分に対してもがき苦しみながらも,踏みとどまって関わろうと自分から主体的に患者・家族に対峙していく体験を示していた.

「でもこのままにしとったら絶対だめだと思って,何とかしてあげたい,(中略)しなきゃいけないっていう思いがすごく…恐いって思いながらも,そっちの方が強かった」(学生G)

3.【日常生活の中で生死を目の当たりにする】

呼吸状態の変動や出血量の増加などより〈死んでしまうかもしれないと,死を意識してしまう〉ことから,常々[近いうちに患者は亡くなる方なのだ]と感じながらケアをしていた.〈自分の変化を感じ取り,死が近いことを意識して不安がある〉患者の様子から[死の不安は尽きることはない]のだと患者の状況を感じ取っていた.そのような患者・看護師のケア場面を通して[何よりも命を第一にしていく]医療者の姿を目の当たりにして,命を守ることの大切さを体験していた.

これらのことから,【日常生活の中で生死を目の当たりにする】は,学生は終末期がん患者の生死を感じる場面に遭遇することで,今までの自分が捉えていた表面的な死の感覚と全然違う,存在がなくなるという,現実味を帯びた死の実感を突き付けられるような体験を示していた.

「血を吐いて涙流しながらやってるのを見ると,あーやっぱ怖いっていうかこう死ぬっていうのかな,そういう気持ちで,…死というか…すごく実感持てた.あんなかわいい人なんだけどもう確実に病気は進んでるんやなって思って」(学生L)

4.【患者が生きている今日1日をしっかりと支えていく】

〈いつも苦しんでいるので,少しでも安楽になってもらいたい〉から,[普段の生活が苦痛にならないようにする]ために心がけていた.ケアを通して,〈残りの時間を考えて,1日1日を大切にする〉ことや日常の維持が果たす役割を知り,[亡くなるその時まで今の生活を続けられるようにする]ことが重要であることに気づき,毎日毎日が穏やかで[安寧に過ごせるようにしたい]と考えていた.

これらのことから,【患者が生きている今日1日をしっかりと支えていく】は,常々苦痛がある状況だからこそ,1日1日の普段の生活が,患者が生きるうえで非常に重要なものであると,日々の日常生活に視点をおいていく体験をしていた.

「〇〇さんは温泉が好きで,お風呂にも毎日入っていたと聞いたので,少しでも今までの生活を崩さないようにしたいなって思って,清潔に関しては,とくに私も気を使っていきました.1日1日のケアを行っていくにあたり,この情報は大きくて,清潔ケアに重きをおいていました.」(学生K)

5.【クリティカルな状態にある患者を看るにはまだまだ不十分さが残ると自覚する】

患者から表出されるサインはわずかであり〈実はしんどかったといわれて,患者の状態を見抜くことができなかった〉ことより,[限られた反応を捉えるための洞察力が自分にないことを痛感する]体験をしていた.それは [予測できなかった観察不足を看護師の動きから補う]ことで,急変の起こりうる状況だからこそ,反応を予測してケア展開をしなければならない体験と〈看護師のケアの手際よさから,自分の勉強不足を痛感する〉体験だった.また,[思うように患者の苦痛が取れない]状況から症状コントロールの難しさを感じていた.

これらのことから,【クリティカルな状態にある患者を看るにはまだまだ不十分さが残ると自覚する】は,終末期ゆえの身体状態の悪化や病気の進行に伴い,複雑な観察視点が求められる状況に,どんなに勉強をしていても不足が生じてしまい,自分にはもっと観察力や洞察力が必要であることを体験していた.

「人に対して,気を遣うことがあるって思って.確かに,検温のとき,言葉数が前日と比較し,少なかったようにも感じたため,あとから,実はしんどかったといわれて,患者の本当の気持ちを見抜けなかったことが,ショックで.状態捉えるのが難しくて.」(学生L)

6.【最期まで患者らしく人生を生き切れるようにする】

〈患者は元の身体に戻って帰ることができると良くなることを信じている〉状況に対して,[いま頑張ろうとしている患者を最後まで支えていきたい]と思い関わっていた.また,どんな状況でもどんな場面においても〈最期まで尊厳を保てるようにケアする〉ことは重要であり,患者の意思が介在するように,[最期の最期まですべてのケアは患者第一で動いていく]ように支援していた.終末期だからこそ,高齢者の最終段階の人生統合というライフタスクをクリアできるように〈今までの人生を振り返り,統合するための準備をする〉ことで,[歩んできた経験を踏まえて人生を完結できるように整える]ように関わっていた.

これらのことから,【最期まで患者らしく人生を生ききれるようにする】は,終末期の最終段階にある終末期がん患者が自分の人生を受容していくために,最後までその人らしく生き切ることを支えることが大切であることを体験していた.

「自己の歴史を振り返るような発言や間近に迫っている死を受け入れてて,(中略)看護師さんのアドバイスとか意見も聞いて理解されていて,自分のなかで消化し自分の人生をまとめていくような感じでした.」(学生J)

考察

終末期がん患者を受け持った看護学生の体験についての意味

学生は終末期がん患者の受け持ち当初は【日常生活の中で生死を目の当たりにする】体験より,死ということに向き合わざるを得ない状況から恐怖を感じ,【苦しんでいる患者がいるのに何もできず情けない】体験との間で苦しむ体験をしていた.また常時【クリティカルな状態にある患者を看るにはまだまだ不十分さが残ると自覚する】体験をしており,その場における自分の技術や力のなさを実感し,苦しみながらも,自分がどうあればよいのかをもがきながら,ケアや姿勢を問い直す体験をしていた.Colaizzi23)は,看護学生は死にゆく患者のケアを通して,恐怖,悲しみ,フラストレーション,不安などのありとあらゆる感情を経験するが,ケアをするにつれて患者の生と死を熟考していくことを報告している.本研究でも,患者の死や患者に臨む姿勢を熟考することで次第に,苦痛のない状況を提供したい,少しでもなんとかしたいと終末期がん患者のことを思い,【終末期と怖気づかずに非力ながらも自分から関わっていく】ことや【患者が生きている今日1日をしっかりと支えていく】体験につながっていったと思われる.

また,自己との対峙の体験は学生にとっては苦しいだけでなく,自己の内省という機会となり,成長していくための成長痛にもなっていた.先行研究でも,終末期患者を受け持つ学生は戸惑いと葛藤のなかで,自己内省を経験し,自己成長へと結びつくこと19,2426)が報告されている.この自分と対峙する体験は,自らの進度で考えるというよりは,突き付けられるような状況から生じている体験でもあり,自己成長として拡げていくためには,教員のタイムリーな介入27)の必要性が示唆された.

【患者が生きている今日1日をしっかりと支えていく】【最期まで患者らしく人生を生き切れるようにする】二つの体験には,患者の持つその人らしさを引き出すケアリングの姿勢28)が根底あり,それは患者の状況を洞察しケアに結び付けていく体験であった.この洞察は,最終的には対象が持つ特性につながる【最期まで患者らしく人生を生き切れるようにする】体験へと広がると考えられた.

【最期まで患者らしく人生を生き切れるようにする】の体験には[歩んできた経験を踏まえて人生を完結できるように整える]というサブカテゴリーが含まれており,その人らしくあるために対象の発達課題の特徴を取り入れたものであった.とくに,終末期がん患者は,自分の人生を反芻する材料にして,自己の死という人生統合をしており,学生と共に人生の回顧を行っていた.このことは,高齢のがん患者は,今まで生きてきた人生より得た成熟の要素を糧にして,自らの生きざまを反芻することで,がんの脅威に対処し,統合に向けて気持ちを高めていく契機になるという指摘29)からも推測できる.今回の結果では,高齢者看護学実習における対象の特徴より,終末期がもたらす衝撃の方が強く,自分のケアの内省に終始してしまう状況があることが明確にされた.この枠を広げて対象者理解の視点に結び付けるためにも,患者の死や患者に臨む姿勢を熟考することや,その人らしさを引き出すケアリングの姿勢から派生する観察や日常支援の視点がカギになるといえる.さらに,この関わりは,何もできないという状況から日常生活の支援の視点へ変換させるものでもあり,高齢者の特徴を加味した介入にもつながるだけでなく,学生の苦悩の打破にもなる介入視点であると考えられた.

高齢者看護学実習にて終末期がん患者を受け持った学生への教育的介入

【苦しんでいる患者がいるのに何もできず情けない】と【日常生活の中で生死を目の当たりにする】のカテゴリーより,学生が講義等で捉えていた死は表面的なものであり,実習で急に死を目の当たりにする状況が発生し,それゆえに自分のケア姿勢の甘さが露呈したことが考えられた.現在,病院で死を迎える現状が多く,さらに核家族化現象などにより,若い世代が人の死に関わる経験は減少していることなどから,日常生活の中で,死を身近に感じることは少ない30).講義や演習での学びのなかで終末期患者の理解を学習しても,死に直面し,苦悩する患者を前にしたとき,学生は,はじめて死が現実のものとして感じられるため,さまざまな“つまずき体験”にぶつかることも多い11)との報告もある.実習開始前は授業が死を考えるきっかけであり,実習に行く前の授業や基礎実習が学生にとって大きな影響を与えている12).終末期ケアの実態をよりリアルに体感し,感情を揺さぶるような講義の必要性が示されている.また,これは自己成長を促す起爆剤になるが,急激な死との対峙は学生の苦悩を引き起こすもの24)でもある.学生自身のなかでこの体験が苦痛体験だけではなく学びとして広げることができるように,教員の意図的介入が必要である.先行研究19,26)では,カンファレンス等で言語化することで自己の内面との対話につながり自己成長と発展することが示されており,意図的に表出を促す時間を取る教育的介入が必要であるといえる.

高齢者看護学実習において終末期がん患者の特性を理解するには,受け持つ当初から,意図的に人生最後のステージにある対象でもあることを意識付けていく指導が必要である.高齢者は自分の人生を全体的な視野から俯瞰できる存在であり,治療一場面を捉えているのではなく,自分の生き方を踏まえて治療をしている31)という報告がある.入院している現在,一点だけに目を向けるのではなく,人生の歩みとして俯瞰的に捉らえる視点が特性理解につながると考える.単に昔話の傾聴ではなく,長年の人生を踏まえて現状をどのように位置付け,全うしようとしているのか,語りから透けて見える人生統合のありようを捉えることができるような教育的支援が求められる.

本研究の限界や今後の研究の課題

限定された学生人数や疾患等の違いから一般化には限界がある.引き続き,対象者数を増やすことで一般化を目指す必要がある.また,高齢者看護学実習のおける対象者の特徴が反映されにくかった要因として,対象患者の選定や高齢者ならではの特性の有無,インタビューガイドの精練,教員の教育的な関わりの状況などが考えられる.認知やFrailty, 意思決定状況など高齢者の特徴的な視点を加味して研究内容を再考する必要がある.また,本研究による示唆を講義や実習の指導場面に取り入れ,終末期がん患者の特性を生かした看護展開ができるように教育的支援する必要性がある.

結論

終末期がん患者を受け持った学生の体験は,自分のケアの内省に終始してしまう状況にあり,自分自身のケアのあり方に対峙し,患者の持つその人らしさを引き出していく大切さを学ぶ体験をしていた.また,患者の持つその人らしさの視点を拡げることは,高齢者の特性を加味した終末期ケアを促すことになると推察できた.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

今井はデータの収集・分析,原稿の起草;雄西・板東は原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は研究の構想およびデザイン,研究データの解釈,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認および研究の説明責任に同意した.

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