Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Trajectory of ADL (Activities of Daily Living) for Six Weeks before Death in Patients with Terminal Cancer
Ryo SoedaMana MitsuhashiSuzune OkanoAiko YokosawaTeruo OkutsuTetsuya Tsuji
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2020 Volume 15 Issue 3 Pages 167-174

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Abstract

【目的】機能的自立度評価法(FIM)を使用し,死亡前6週のがん患者のADLの項目別の推移を検討すること.【方法】研究デザインは後方視的観察研究である.鶴巻温泉病院 緩和ケア病棟を死亡退院した18歳以上のがん患者55名を対象とし,FIMデータは診療録等から死亡直前(0週)から遡って6週間分を収集した.【結果】FIM合計点は死亡前6週55点から0週25点へ低下した.運動項目では食事・整容・排尿管理,認知項目では社会的交流・表出が死亡直前まで他の項目よりも自立度の高い項目であった.【考察】ADLへの支援は,死亡前2週までは,徐々に低下するベッド外での動作を安全かつ安楽に行えるように支援を行い,ベッド上での動作は死亡直前まで自立を続けられるように支援を行うことが望ましいと考える.

緒言

日常生活動作(activities of daily living: ADL)を最期まで自立して行うことは,多くの終末期がん患者が要望することであり,よりよい最期を過ごすうえで重要な要素である.一方,家族や医療・介護スタッフにとって,死に至るまでのADLの推移は支援方法をリアルタイムで検討するための重要な情報となる.終末期がん患者を対象としたADLに関する先行研究では,死亡前6カ月から緩やかに低下を始め1),死亡前3カ月から1カ月の間に急激な低下が起こり14),死亡前1週から3日には大部分の患者が全介助,もしくは動作が困難となる1,3,5)ことが報告されているが,ADLの下位項目(食事,更衣,移乗動作,トイレ動作など)について記述がないこと1,2,4,5),ADLの評価は代理者(家族)による回答を含んでいること4),評価間隔が月単位であり長いこと35)などの点で限界がある.従って,標準化された評価指標を使用して,終末期がん患者のADLの推移を項目別に経時的に評価した報告は皆無であるといえる.

本研究の目的は,国際的に広く用いられているADL評価指標である機能的自立度評価法(Functional Independence Measure: FIM)を使用し,死亡前6週間のがん患者のADLを経時的に評価し,死に至るまでのADL項目別の推移を検討することである.死に至るまでのADLの下位項目の経過が明らかになれば,ケアプランを構築する際に先行きを見通しながら,各々の動作について支援する時期や内容について具体的に検討できるようになることが期待される.

方法

研究デザインは後方視的観察研究である.対象は2015年4月1日から2017年6月30日までに医療法人社団三喜会鶴巻温泉病院緩和ケア病棟に入院し死亡退院した18歳以上のがん患者253名のうち,入院から90日以内に死亡退院し,かつ診療録からADL評価を含めデータが完全に収集可能であった55名とした.患者背景および医療情報として,入院時の診断名,年齢,性別,転移(骨・脳・肝臓・肺)の有無を収集した.

ADL評価としてはFIM6)を用いた.FIMは13項目の運動項目と5項目の認知項目の計18項目から成るADLの評価指標である.実際の生活でしているADLを採点する.採点は7点(完全自立)から1点(全介助)であり,合計点は126点から18点である.高値であるほど介助量が少なく,自立した生活を送っていることを示す.FIMの信頼性は検証されている7)

FIMのデータは,死亡直前の評価を0週とし,遡って死亡前6週までを収集した.なお,入院から2週間ごとの評価期間のため,死亡前1日から13日が0週,14日から27日が2週,28日から41日が4週,42日から55日が6週となる.また,移動に関しては,評価時点での主たる移動手段(歩行もしくは車椅子)により評価した.FIMの評価指標として,FIM合計点(運動・認知項目の合計点),運動項目合計点および認知項目合計点を用いた.

統計学的解析に関しては,各評価時期におけるFIM合計点,運動・認知項目合計点に関してFriedman検定を行い,統計学的な有意差を認めた場合にWilcoxonの差の検定にて各評価時期間の差を解析した.p値はBonferroni法にて補正した.FIMの各項目については,変化量(評価時期の間の差の平均),項目別の自立者(FIM 7点:完全自立・6点:修正自立)の割合(以下,項目別自立度)を経時的に算出した.

統計学的有意水準は5%未満とした.統計ソフトはSPSS Statistics version 25(日本IBM,東京)を使用した.

本研究は医療法人社団三喜会 鶴巻温泉病院の臨床研究倫理審査小委員会の承認(承認番号367)を得て実施された.

結果

対象者55名の内訳は,男性28名(50.9%),年齢:中央値(最大値/最小値) 77(38/99)歳であった.入院期間中央値(最大値/最小値)は59(42/90)日で,転入元は自宅23名(41.8%),病院26名(47.3%),施設6名(10.9%)であった.がんの原発巣は,胃がん4名,直腸がん6名,大腸がん3名,膵臓がん4名,胆嚢・胆管がん5名,肺がん7名,乳がん2名,子宮頸部がん2名,前立腺がん3名,腎臓・尿路がん2名,脳腫瘍4名,血液(リンパ)がん2名,その他11名であった.遠隔転移のあった患者は32名で,その部位は,骨転移12名,肝転移9名,肺転移8名,脳転移3名であった.

FIM合計点,運動・認知項目合計点の経時的変化について

FIM合計点(中央値)は,死亡前6週55点から0週25点へ低下,運動項目(中央値)は6週26点から0週13点へ低下,認知項目(中央値)は6週26点から0週12点へ低下した(表1).FIM合計点,運動・認知項目合計点ともに,死亡前6週と4週との比較を除いて,その他の評価時期間の比較において有意な差を認めた.

表1 機能的自立度評価法(FIM)合計点,運動・認知項目合計点の経過

FIM下位項目の項目別自立度について

運動項目の項目別自立度に関しては,死亡前6週時では,食事,排尿管理,整容が自立者の割合が高く,次いで更衣(上半身),トイレ動作,移乗(トイレ),移乗(ベッド・車椅子),更衣(下半身),移動,清拭(入浴),排便管理と続き,移乗(浴槽・シャワー),階段は自立者の割合が非常に低かった(図1).食事はすべての期間を通じて最も自立者の割合が高かった.移乗(浴槽・シャワー),階段はその後も他の項目と比較して低く経過した.4週から2週時には,排尿管理,更衣(上半身),更衣(下半身),排便管理,清拭がさらに低下し,順番が入れ替わった.一方で,整容,移乗(ベッド・車椅子),移動は横ばいに経過した.その後,すべての項目で自立者の割合は低下し,0週では食事,整容,排尿管理を除いたすべての項目で自立者は10%未満となった.項目別自立度の順番に関しては,食事,排尿管理,整容,移乗(ベッド・車椅子),排便管理,トイレ動作,移乗(トイレ),移動,更衣(上半身),更衣(下半身),清拭(入浴),移乗(浴槽・シャワー),階段であった.排尿管理・排便管理の項目は,他の項目よりも緩やかな低下であり順番が上がった.

認知項目の項目別自立度に関しては,死亡前6週時には表出,社会交流が最も自立者の割合が高く,次いで理解,問題解決,記憶であった(図2).その後は,運動項目と同様に経時的に低下し,0週ではすべての項目で自立者の割合が30%未満となったが,運動項目よりも自立者の割合が高い状態で推移した.項目別自立度の順番に関しては,2週時に問題解決が順番を下げ,その後,0週時には表出が順番を下げた.0週時には社会的交流,表出,理解,記憶と問題解決の順番となった.

図1 機能的自立度評価法(FIM)運動項目別自立度

トイレ動作は移乗(トイレ)と推移は重なっている.

図2 機能的自立度評価法(FIM)認知項目別自立度

FIM下位項目の変化量について

運動の下位項目では,食事がその他の項目と比較して変化量が大きく,全ての期間で−0.4点以上低下した(図3).食事以外の項目は,死亡前2週まで−0.4点未満の変化量であった.階段を除いた項目は死亡直前にかけて,変化量がさらに増加した.清拭(入浴),トイレ動作,移乗(トイレ)では−0.4点以上,更衣(下半身),更衣(上半身),食事,整容,移乗(ベッド・車椅子)は−0.5点以上の変化量となった.一方で,排尿管理・排便管理の4週以降の変化量はそれぞれ−0.25点から−0.31点,−0.25点から−0.27点であり,ほとんど変化しなかった.

認知の下位項目では,社会的交流が2週時までは変化量が横ばいであったが,死亡直前には他の項目と同様に低下量が大きくなる経過をたどった(図4).最後にはすべての項目が−0.5以上の低下量となった.

図3 機能的自立度評価法(FIM)運動項目別変化量
図4 機能的自立度評価法(FIM)認知項目別変化量

考察

本研究は,国際的に広く用いられているADL評価法であるFIM6)を使用し,死亡前6週間のがん患者のADLを評価し,項目別の推移を検討した.その結果,FIM合計点,運動・認知項目合計点ともに,死亡前4週から死亡前0週まで2週毎に有意に低下をすることが明らかとなった.また,FIM下位項目に関しては,下位項目の種類や評価時期によって変化量や項目別自立度が異なることを示された.

これまで,終末期がん患者のADLの推移に関する報告はあったが15),信頼性・妥当性に優れ,疾患を問わず国際的に広く使用されている標準的なADL評価尺度であるFIMを使用した報告は本研究が初となる.さらに,死亡前まで2週間ごとに評価を行うことで,ADL合計点とともにADL下位項目別の詳細な経時的変化が本研究により初めて明らかとなった.

FIM合計点,運動項目・認知項目合計点の経時的変化について

終末期がん患者のADLの推移に関して,Seowら1)は活動と症状,移動,ADL,経口摂取,意識レベルを評価する尺度であるPalliative Performance Scale(PPS)を用いて評価を行い,PPSは死亡前24週には平均68.4%(自立もしくは時に介助)であったが,死亡前4週には54.7%に低下し,さらに死亡前1週には41.3%(ほとんど介助)まで低下したことを報告した.McCarthyら5)はADLの7項目を評価するKatz Indexを用いて死亡前24週間のADLを評価し,死亡前4週まではADLの障害はほとんどなかったが,死亡前の3日間において,7項目のうち中央値で直腸がん患者は4項目,肺がん患者は6項目のADL障害を有したことを報告した.これらの報告より,がん患者は死亡前4週まではADLが比較的維持されているが,その後に低下し,死亡前1週には多くのADLにおいて全介助となることが想定される.しかし,Seowら1),Spoozakら2)が用いたPPSで行われるADL評価は「時に介助」,「しばしば介助」など頻度を基準に採点するが,その基準は明確ではない.McCarthyらが用いたKatz Index5),またLunneyら4)が行った7項目のADL評価は介助の有無や動作の可否で評価するため,段階的な変化を報告することはできていなかったと考える.また,工藤ら8)は死亡前がん患者がトイレまで歩行することができたかを調査しているが,自立度や介助量を評価していなかった.さらに,これらの先行研究ではADLの認知機能を評価した報告はなかった.

本研究では,FIM合計点,運動および認知項目合計点ともに,死亡前6週と4週の間では有意な差を認めなかったが,その後は死亡前0週まで有意に低下したことから,ADLの推移に関しては上述の先行研究15)を支持する結果となった.死亡前4週の時点からADLが低下した原因としては,症状の増悪が影響したと考える.がん患者は死亡前4週には呼吸困難,眠気,疲労感,食欲減退などの症状が増悪することで1),身体機能の低下が生じ,ADLに影響を与えたのではないかと推察される.さらに,死亡前1週から数日には症状のさらなる増悪1,9,10)と意識障害が生じ10),受け答えの困難さや,言語刺激への反応性の低下を認め,コミュニケーションは困難となる11).また,耐え難い苦痛を生じるような症状に対しては鎮静が行われ,身体機能のさらなる低下とともに,コミュニケーション能力は低下する12).これらの認知機能や意識レベルの低下により,安全に動作を遂行が困難となりADLの自立度を低下させたと考える.

また,本研究では,FIMにより介助量の変化を捉えた.FIM運動項目合計点(中央値)は死亡前6週で26点であり,すでに中等度以上の介助が必要であった.本研究は入院中の患者を対象にしたため,安全を優先した介護や自宅の環境との違いが自立度を低下させ,先行研究との差異を生じさせた可能性があるが,先行研究と異なり,徐々に介助量が増加することを明らかにした.FIM認知項目(中央値)は死亡前6週で26点であり,修正自立から監視レベルであった.死亡直前には12点へ低下した.先行研究では,死亡1週間前から数日前に認知機能や意識レベルの低下が生じる1012)と報告されているが,標準化された指標は用いていない.本研究は標準化されたADL評価法であるFIMを用いて,認知項目の介助量の推移を明らかにした初の報告となった.認知機能は,死亡直前の低下や症状の悪化に対する鎮静により,意識レベルが低下することにより低下したと考える.

ADLの下位項目の項目別自立度と変化量について

終末期がん患者のADL下位項目の自立度と経時的変化については,一部の項目に関して先行研究での報告がある.Chenら3)は65歳以上のがん患者の死亡前12カ月のADLの7項目(ベッド上の移動・移乗・整容・食事・移動・トイレ・清拭)を3カ月ごとに評価し,ADLは死亡前3カ月までに重度介助,死亡直前の3カ月間はおおむね全介助となるが,食事や移乗は介助量が少なく経過し,死亡前3カ月まで見守りから最小の介助であったことを報告した.またTenoら13)はベッド・椅子の移乗について死亡前5カ月では22.2%,死亡直前には63%が困難であったと報告した.Huiら10)はコミュニケーションが可能ながん患者は死亡前7日に75%,1日前には46%であったと報告した.これらの先行研究では,一部の項目のみの報告であり,他の項目との比較は十分ではなかった.また,Neoら14)はがん患者のADLに関する論文を対象にメタ分析をした結果,入院患者では食事動作が最も容易な動作であることを示したが,対象者の病期や治療の有無,原発巣はさまざまであり,終末期がん患者のADLの下位項目の自立度については明らかでない.

本研究では,ADL下位項目により自立度と推移が異なることを示した.運動項目の自立者の割合は死亡前6週および4週の時点では,食事,排尿管理,整容の3項目が他の項目よりも高く,次に,移乗(ベッド・車椅子),排便管理,トイレ動作,移乗(トイレ),移動,更衣(上半身),更衣(下半身),清拭(入浴)の8項目がほぼ同じくらいの自立度で中盤を形成し,移乗(浴槽・シャワー),階段の2項目の自立度が大きく低下していた.自立度の高い3項目に関しては座位,立位動作に介助が必要となっても,自立を保てる項目であったことが理由と考える.また排尿管理よりも排便管理の方が低かった.排便管理は座薬を月2回以上使用すると5点以下となる.オピオイドの副作用や臥床時間の延長による便秘により,座薬を必要として排便管理は排尿管理よりも得点が低くなったと考える.一方,大きく低下していた2項目に関しては,本研究の対象者は入院患者であり,病院内では階段や清拭(入浴)は自立度よりも安全度を優先されたことが理由と考える.自立度は4週から2週時に,排尿管理,更衣(上半身),更衣(下半身),排便管理,清拭が低下したが,整容,移乗(ベッド・車椅子),移動は横ばいであり,順番が入れ替わった.0週ではほとんどの項目が低下方向への変化量が増加していたが,排尿管理・排便管理の項目は変わらない傾向にあり順位が上がった.尿便意は認知機能が保たれていた本研究の対象者では,難易度が変化しなかったと考える.

ADL運動項目別の難易度については,脳卒中1518)や大腿骨頸部骨折の患者15),認知症を有する患者16),高齢者18)において報告がある.Tsujiら17)は脳卒中者のFIMの難易度をRasch分析により解析した.その結果,食事は難易度が最も低く,次いで排便・排尿管理,整容,移乗(ベッド),移乗(トイレ),更衣(上半身),更衣(下半身),移動,移乗(浴槽・シャワー),清拭(入浴),階段であったと報告した.岩井らは15)脳卒中患者と大腿骨頸部骨折患者を対象にTsujiら17)と同様の手法で,大腿骨頸部骨折患者では更衣(上半身)の難易度が低いと報告した.さらに,岩井ら16)は脳卒中と大腿骨頸部骨折患者で認知症の重症化により,整容や排尿管理の難易度が高くなると報告し,認知機能の低下で身だしなみへの関心の低下や,排泄の自己管理や後始末が困難となることを明らかにした.Gerrardら19)は施設入所中の高齢者をKatz Indexで評価した結果,最も難易度が低いのは食事であり,次いで排泄管理,移乗,トイレ,更衣,入浴であったと報告した.

ADLのなかでも食事や排泄管理の難易度が低い傾向にある15,1719)という結果は,本研究も同様であった.しかし,本研究の対象者は,脳卒中15,17)や大腿骨頸部骨折患者15)よりも排便管理の難易度が高く,移動の難易度が低い傾向にあった.がん患者では,脳卒中や大腿骨頸部骨折患者と異なり,がんの病巣により機能障害を生じるとは限らない.下肢に機能障害を抱える脳卒中や大腿骨頸部骨折患者と比べて,がん患者移動の難易度は低くなったが,終末期の呼吸困難や疼痛などの症状の悪化1)に対して,オピオイドの副作用として便秘が発生するため20),排便管理の難易度は高くなったと推察する.一方で,死亡直前に排尿・排便管理の変化量は変わらない傾向にあった.排泄管理は認知機能障害により難易度が高くなると報告されているため16),認知項目は運動項目よりも自立者の割合が高く経過した本研究の対象者では,座位や立位を必要とする動作の自立度は低下したが,認知機能とともに尿便意が保たれたために,死亡直前においても排泄管理の難易度は変化しなかったと考える.

認知項目では運動項目に比べて,すべての時期で自立度が全体的に高い傾向にあった.認知項目5項目ともに死亡前2週まで徐々に低下していくが,相対的にみると自立者の割合は理解・表出・社会交流では高く,問題解決・記憶では低い傾向にあった.理解と表出はテレビや新聞の話題などの複雑・抽象的な内容を理解・表出できれば自立となり6),社会的交流は迷惑行為がなく適切な振る舞いにより自立となるため難易度が低い.一方,問題解決は薬の自己管理や対人トラブルなどの複雑な問題を解決しなければ自立にならず,記憶は日課や他人からの依頼の実行が行えなければ自立とならないこと6),終末期のせん妄21)が出現すると,問題解決と記憶は大きな影響を受けるため難易度が高かったと考えられる.その後,死亡前2週の時点で問題解決と記憶が同様の割合となり,0週時に表出と社会交流の順番が入れ替わり,社会的交流,表出,理解,記憶と問題解決の順番となった.0週ではすべての項目で自立者の割合が30%未満となった.死亡前1週から数日には意識障害や10),鎮静による意識レベルの低下12)から,理解・表出が困難となる11,12).理解・表出には介助者の多くの配慮が必要となることが考えられ,社会的交流よりも自立者の割合が低くなったと考える.

以上の考察から,ADLを支援する時期と内容は,死亡前2週までは,徐々に低下するベッド外での動作を安全かつ安楽に行えるように支援を行い,ベッド上での動作は死亡直前まで自立を続けられるように支援を行うことが望ましい.また,認知機能の一部は維持されているため,精神的苦痛にも配慮が必要である.

本研究の限界

本研究はいくつかの限界がある.一つ目に,本研究の対象者はリハビリテーションを受けた患者が含まれ,ADLの維持や改善の可能性がある.リハビリテーションがADLに影響があることはすでに報告されており22,23),介入の頻度や量を評価する必要がある.二つ目に,移動項目は入院中の移動形態を問わず,自立度を評価していた.移動形態によっては自立度が異なった可能性があり,移動形態ごとに評価をする必要がある.三つ目に,研究対象者が入院患者であったことである.病院では階段や移乗(浴槽・シャワー)は自立しにくい.自宅で過ごす患者と項目別自立度が異なった可能性がある.最後に,年齢やがんの部位,転移の有無などはADLに影響を与える可能性があり,今後は対象者の特性がADLに影響を与えるかを研究する必要がある.

結論

緩和ケア病棟において,死亡前6週間のADLを調査した結果,死亡前4週から有意な低下があり,ADLの下位項目ごとに推移は異なった.ADLごとに支援のタイミングや支援する量を検討しなくてはならない.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

添田は研究の構想およびデザイン,研究データの分析・解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;三橋および岡野,横澤,奥津は研究データの収集・解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;辻は研究の構想およびデザイン,研究データ解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

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