Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Short Communications
Current Status of Nurses in Support of Children with Parents with Cancer in Akita Prefecture
Yuko AkagawaSachiko MakabeTomoko ItoMaiko KonnoKyoko MiuraHideko ShirakawaHideaki Andoh
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2020 Volume 15 Issue 3 Pages 221-226

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Abstract

【目的】がんになった親をもつ子どもへの支援に対する看護師の現状を明らかにする.【方法】平成28年12月~平成29年2月,秋田県内のがん看護に関わる看護師を対象に支援の認識や経験,学習背景等を質問紙調査した.属性は記述統計,支援経験と属性の関連はχ2検定,Fisherの正確確率検定等を用い(p<0.05),自由記載は類似内容でカテゴリ分類をした.【結果】10施設141名(回収率:43.9%)のうち,支援が必要と思う者は135名(96%),支援経験者は28名(20%)であった.支援内容は[子どもへの直接的支援][親を介した支援][リソースへの連携調整による支援],支援上の困難は「子どもへの介入」が最多で,「子どもと会えない」も挙がった.【結論】子どもへの支援経験者は少数のため,具体的な支援方法を学び,他職種との情報共有をすることで支援の充実を図り,子どもに会えない場合には親を通した支援が必要である.

緒言

近年,子育て世代のがん患者が増加している.18歳未満の子どもをもつがん患者の全国推計は,年間56,143人,その子どもたちは87,017人である1).がんの親をもつ子どもは,家庭内におけるさまざまな変化による影響が大きく,心理・社会的な問題を引き起こすことがあり24),支援の必要性が報告されている.

小林ら5)によると,医療者の多くはがんになった親の子どもへの支援の必要性を感じているが,実際の介入はごく少数である.妹尾ら6)は,がん終末期の親をもつ子どもへのケアで困っていることがある看護師は半数以上を占めることを明らかにしたが,具体的な支援内容について十分な検証は行われていない.

秋田県のがん罹患率・死亡率は全国上位であり7),社会的にも晩婚化や高齢出産が進んでいることから8),今後がんになった親をもつ子どもへの支援ニーズは増加すると考えられる.本研究では,秋田県におけるがんの親をもつ子どもの支援に対する看護師の現状を明らかにし,支援の一助とする.

方法

用語の定義

がんの親をもつ子どもへの支援(以下,「支援」):

「がんの親をもつ18歳未満の子どもに対して,身体的・精神的・社会的な側面からの関わり」

研究デザイン

量的記述的研究デザイン

研究対象

秋田県のがん治療認定医が在籍する病院・医院・クリニックのがん診療・看護に関わる病棟,外来看護師.対象数は,各施設のがん看護に関わる看護師の約50%とした.対象は,病棟管理者,臨床経験1年未満の看護師は除く.

データ収集・質問紙の内容

対象の24施設の施設長と看護部責任者へ研究依頼文,同意書(対象看護師数の回答欄あり)を送り,調査への承諾および対象看護師数を記入した同意書を返送してもらった.承諾の得られた10施設には,対象者321名分(1施設あたり最小20~最大100部)の協力依頼文,質問紙および返信用封筒を郵送した.看護部責任者より,各病棟・外来単位で師長を通して対象者を無作為に選定し,質問紙を配布してもらった.対象者には,協力依頼文で回答を依頼し,回答をもって研究への同意とみなし,質問紙の9割以上回答されているものを分析の対象とした.

質問紙では性別,年齢,子どもの有無と年齢,看護師経験年数,所属部署,がんになった親やその子どもに関連した勉強会への参加経験等基本属性12項目,支援に関する13項目で構成した.支援に関する13項目の内容は,妹尾ら6)の「がん終末期の親をもつ子どもへのケアの実態およびその関連要因」を参考にした.内容は,支援の必要性について「そう思う」から「思わない」の4段階スケールとし,支援経験の具体的な内容は自由記載で問うた.その他に支援上の困難の有無と,具体的な困難を「子どもへの声のかけ方がわからない」,「子どもの情報収集・アセスメントをすること」等の13項目6,911)で複数選択式とした.

分析

対象の属性や支援の認識,困難を単純集計した.次に,支援の認識と経験の有無を目的変数,属性を説明変数としχ2検定またはFisherの正確確率検定,Wilcoxonの順位和検定にて検討し,p<0.05を有意差ありとした.統計解析ソフトはJMP®Ver.13(SAS institute)を用いた.子どもへの支援は,自由記載の意味内容を損なわないようにコード化し,類似したカテゴリに分類をしたうえで,抽象度の統一を確認した.分析を客観的に行うために,主研究者と緩和ケア医師1名,がん看護に関わる看護教員2名の計4名で検討をした.

調査期間

平成28年12月~平成29年2月

倫理的配慮

本研究は,秋田大学保健学研究審査委員会で承認を得て実施した(承認番号:1215).対象者には,研究参加は自由意思であること,データの守秘,研究協力後の同意撤回が可能であることを文書にて説明した.

結果

10施設321名中,141名の回答(回収率:43.9%)を得た.有効回答141名(有効回答率:100%).対象の性別はすべて女性,年齢(平均±標準偏差)は41.2±9.6歳,看護師経験年数は19.1±9.6年であった(表1).

支援の必要性を感じる看護師は135名(96%),支援経験者は28名(20%)であった.支援上の困難はあり:79名(56%),なし:62名(44%)であった.支援経験者と,がんになった親やその子どもに関連した勉強会への参加経験(p=0.017)と支援上の困難をもつ看護師(p=0.001)には有意差があった.支援の必要性を感じる看護師は96%のため分析不可であった.

支援内容(n=28)は,自由記載から32のコード「 」を導き,9つのサブカテゴリ〈 〉,三つのカテゴリ[ ]に分類した(表2).[子どもへの直接的支援]には,「肺がんターミナルの患者の子どもの受け止め方や,家庭での情報収集を行い,親の現状理解ができるように関わった」という〈子どもの思いを受け止め,親の状況が理解できるように関わった〉,[親を介した支援]には「子どもに対する気持ちや対処をどう考えているかうかがい,本人の考えを尊重した」という〈親子の日常や心情についての理解に努めた〉や,「学校行事やイベントに参加できるよう調整した」という〈家族での思い出作りをともに考えた〉があった.[リソースへの連携調整による支援]には〈親子が必要としている専門家へつないだ〉等が挙げられた.

支援上の困難は,子どもへの介入がわからない,子どもへの声のかけ方がわからない,他,子どもに会えない,患者が子どもに会うことを希望しない,関わる時間がない,が挙げられた(表3).

表1 対象の属性とがんになった親をもつ子どもへの支援経験の関連
表2 子どもへの支援の内容
表3 がんになった親をもつ子どもへの支援の困難

考察

子どもにとって親のがんは日常生活を揺るがす出来事である.子どもは,親の病気や療養等によりストレス反応を引き起こす12)ため支援が必要である.本研究では,秋田県内の看護師に対して,がんになった親をもつ子どもたちへの支援に対する現状を調査した.

支援の必要性を感じる看護師は96%と多数だが,支援経験者は20%と少数であった.支援上の困難(表3)は,子どもへの介入や伝え方が最も多く,先行研究6)と同様であった.介入における困難を軽減するには,他職種との情報共有が効果的と考える.病棟や院内で共有する場を設けることで,現実的な支援のイメージにつながると予測する.また,今回子ども支援経験のある者は子ども支援に関する学習経験のある者であったことから,具体的な支援方法を学ぶ機会を設け,実践に結び付ける必要がある.また,看護師が子どもに会えない状況も支援経験が少ない理由の一つと考えられる.子どもに会えない状況においては,親や大人の家族を通した支援が必要となる.子どもへの支援内容(表2)の[親を介した支援]〈親子の日常や心情についての理解に努めた〉は,親子関係や家族のもつ力を知り,具体的な支援につなげるために重要である.その際は親の病状への配慮も必要で,大沢は親が終末期の場合に患者や配偶者には子どもも家族としての経験に参加してもらい,今できることを提案することも大切13)と述べている.

子どもへの支援は,[子どもへの直接的支援],[親を介した支援],[リソースへの連携調整による支援]の三つのカテゴリで構成された.親が療養中の子どもへの支援として,日常の中でいつでも相談できる環境14)が必要といわれている.本研究の[子どもへの直接的支援]の〈積極的に声を掛け,交わる機会を持った〉は,子どもとの信頼関係構築の土台になると考える.また,子どもは親が予後不良となった場合に,親にどのようなサポートができるのか知りたいと考えている15).今回,親の病期について調査しなかったが,〈子どもの思いを受け止め,親の状況が理解できるように関わった〉や〈子どもがケアに参加できるように促した〉は子どものニーズに寄り添う支援であったと思われる.子どもにとって親とのつながりは,がんの状況や段階にかかわらずかけがえのないものである.看護師は,患者ががんと診断された段階から,親子の架け橋になる役割も必要である.親子関係を保つことが自然と子どもの将来へのサポートになり,子ども自身の成長に寄与する.さらに〈子どもの将来を見越した関わりをした〉ような,子どもとともに考える関わり,すなわち子どもが求める「家族の一員」と感じられる支援14)が必要である.

本研究の限界は,秋田県の看護師のみを対象としたことであったが,他県においても同様の現状が予測される.子どもへの支援が必要であるとする看護師のニーズに応え,子どもの支援方法を学ぶ機会を設け,子どもへの直接的支援ができない場合でも親を介して支援することが意識的にできていくようにしたい.

結論

支援の必要性を感じる看護師は96%,支援経験者は20%であった.子どもへの支援は,[子どもへの直接的支援],[親を介した支援],[リソースへの連携調整による支援]であった.支援上の困難には子どもへの介入や伝え方の困難が最も多く,子どもに会えず関われないことも挙げられた.子どもへの支援の充実には,具体的な支援方法を学ぶ機会や,他職種と情報共有をすること,親を介した支援が必要となる.

謝辞

研究に協力くださった皆様に感謝申し上げます.本研究は,科学研究費若手研究B(17K17433)の助成を受けて実施しました.ここに記して感謝の意を表します.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

赤川は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;眞壁,伊藤,安藤は研究の構想およびデザイン,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容にかかわる批判的な推敲に貢献;今野,三浦,白川は研究データの解釈に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2020 by Japanese Society for Palliative Medicine
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