Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Clinical Practice Report
The Support in Opioid Introduction Period for Outpatients with Cancer by Palliative Care Staffs
Yoshihiro YamamotoHiroaki WatanabeAyako KondoYuko DeguchiShigeki HiranoAina SakuraiShoko KumonRumiko MurajiMegumi MotiyamaYoshimi OkumuraYasuyuki AsaiTakuya Odagiri
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2020 Volume 15 Issue 4 Pages 303-308

Details
Abstract

【緒言】小牧市民病院では2018年3月より外来がん患者を対象としたオピオイド導入支援を開始した.本活動前後の変化を比較検討したため,報告する.【方法】対象は2017年1月〜2019年3月に小牧市民病院で苦痛緩和に対して強オピオイドを導入したがん患者で,本活動前後のオピオイド導入時のレスキュー薬,制吐剤,下剤の処方割合,副作用の発現率について比較した.【結果】対象は122名(活動前/後:54/68).本活動の前後でオピオイド導入時のレスキュー薬の処方率は90.7から98.5%に,制吐剤の処方率は63.0から70.6%,緩下剤の処方率は61.1から70.6%と上昇した.STAS-J2以上の副作用は本活動の前後で22.2,13.2%であった.【考察】当院での本活動の実施により患者に合わせた薬物治療の提供,患者の相談機会の増加に寄与することができた.

緒言

近年では外来での抗がん剤治療実施患者数は増加しており1),外来でがん疼痛を抱えながら抗がん剤の治療を受ける患者も増えている.外来では関わる医療従事者の数も時間も少なく,さらには患者が疼痛を訴える機会も少なくなる.榊原らの報告2)では,外来患者は入院患者より痛みが有意に強く,除痛率は有意に低いとされており,外来がん患者への緩和ケアの充実が望まれている.

一部の臨床試験ではオピオイド導入の3.5〜13.9%が副作用によりオピオイドの投与継続が困難となることが報告されている3,4).オピオイドの副作用は患者のQuality of Life(QOL)やActivities of Daily Living(ADL)の低下を引き起こし,服薬コンプライアンス低下につながることもある5)ため,オピオイドの導入時の副作用マネジメントは重要な課題である.

今まで当院では外来でオピオイドを導入する際に緩和ケアチームスタッフが関わることはなく,診療科医師のみで症状評価ならびに医療用麻薬に関する説明を実施していた.薬剤師は院内で医療用麻薬が処方された場合にのみ説明するにとどまり,関わりは希薄であった.そのため2018年3月よりオピオイド導入を行う外来がん患者を対象として緩和ケアチームスタッフ(看護師・薬剤師)によるオピオイド導入支援(本活動)を開始した.本活動内容は既報6,7)の活動を参考に,専門スタッフによる薬物療法・ケアの適正化を目的として,オピオイドの説明・患者の症状評価ならびにテレフォンフォローアップを実施した.本研究は当院の本活動の実態,さらには本活動実施前後比較による変化を明らかにする目的で行った.

方法

当院の本活動の取り組み

当院での活動はオピオイド導入を実施するがん患者を対象として緩和ケアチームスタッフは3回の介入を行う;①初回処方日にオピオイド指導ならびに症状評価,②処方3〜5日目にテレフォンフォローアップ,③次回外来受診日に症状評価.担当する緩和ケアチームスタッフは当院で作成したチェックリスト(図1)に沿って詳細な症状評価を実施し,導入指導時には各製薬会社が発行しているパンフレットとOPTIM[緩和ケア普及のための地域プロジェクト]のパンフレット8) を用いてオピオイドの有効性や副作用,医療用麻薬の誤解について指導し,痛み日誌の記帳方法についても説明する.担当者は介入時に患者の状態を評価し,必要に応じて鎮痛薬の処方設計,副作用に対する処方提案を行う(制吐剤,緩下剤はテレフォンフォローアップ時の対応を容易にするため頓用処方を依頼).院外処方の場合には服薬情報提供書を発行し,当院での指導内容や患者情報がわかるよう情報提供を行う.テレフォンフォローアップは能動的に電話で連絡を取ることで,オピオイド服用状況の確認ならびに効果・副作用の確認を行う.その際,必要に応じて頓用処方の支持療法薬の使用方法の指導を実施し,苦痛症状が強い場合には主治医と相談しながら外来の受診勧奨も行う.テレフォンフォローアップでの患者への指導や受診勧奨については診療科医師の了承を得て実施している.次回外来受診日には医師の診察30分前に面談を行い,初回指導と同様に症状評価を実施する.

図1 当院のオピオイド導入支援活動で使用しているチェックリスト

本活動の変化の評価方法

本活動による変化の評価は2017年1月〜2019年3月に小牧市民病院で苦痛緩和に対して強オピオイドを導入したがん患者を対象として,本活動導入前の2017年1月〜2018年2月(活動前)と2018年3月〜2019年3月(活動後)の2群に分けて後方視的な比較検討を行った.調査項目は①オピオイド導入時のレスキュー薬,制吐剤,下剤の処方率(制吐剤の頓用処方率も含む),②緊急外来受診率(次回外来診察までに予約外の外来診察を受けた患者の割合),③オピオイド導入時,導入後の診療録に苦痛症状の詳細や副作用内容が記載されている患者の割合,④副作用の発現率・程度,⑤がん性疼痛緩和指導管理料の算定件数とし,後ろ向きに診療録から収集した.なお,副作用の程度はSupport Team Assessment Schedule日本語版(STAS-J)9)を用いた.当院では多くの緩下剤の定期服用で排便状況に合わせて自己調節可能と指示が出ていることから,緩下剤の頓用処方割合の算出はしないこととした.

統計解析

各測定値は中央値(範囲)で表し,統計解析はFisher’s exact test,Mann-Whitney’s U testを用いた.p<0.05を統計学的に有意とした.なお,統計解析にはEZR on R Commanderを用いた.

倫理規定

本研究は,臨床研究に関する倫理指針に従い,当院倫理委員会の承認を受けた(承認番号:191017).患者個人情報の保護のために,匿名化してデータ解析を行った.

結果

本活動実績

2019年3月までに本活動実施患者数は68名.院外処方箋の割合は76.5%.処方追加・変更の提案件数は66件(初回導入時29件,次回診察前時37件)であり,提案内容の内訳はオピオイド処方の変更35件(投与量の変更23件,用法の変更4件,レスキュー薬の処方追加・変更2件,オピオイドスイッチング6件),支持療法薬の変更26件(緩下剤の追加・変更18件,制吐剤の追加・変更8件),その他5件(NSAIDsの追加1件,アセトアミノフェンの用量変更1件,緩和ケアチーム介入依頼2件)であった(1症例に複数変更事例あり,提案の採択率は97.0%).テレフォンフォローアップ時は37名(61.7%,相談件数64件)から症状や薬剤に関する相談があり,その内容はレスキュー薬の使用方法18件,副作用対策46件(眠気 15件,吐気 10件,便秘 19件,口渇 2件)であった.テレフォンフォローアップ時に受診勧奨を実施した患者は10名(疼痛増強5名,副作用増悪3名,全身状態の悪化2名)であった.

本活動による変化の評価方法

対象期間内の患者数は122名で活動前54名,活動後68名であった.2群の患者背景を表1に示す.2群間で年齢,性別,がん種に有意な差はなかったが,オピオイドの使用薬剤は活動後ではオキシコドン製剤が多く,フェンタニル製剤が少なかった.本活動前後の各種結果を表2に示す.本活動前後でオピオイド導入時のレスキュー薬,制吐剤,下剤の処方率は増加した.制吐剤の頓用処方は活動前6件(17.6%)から活動後は16件(33.3%)と増加した.緊急外来受診率は本活動のテレフォンフォローアップ時に受診勧奨を行っているため18件(26.5%)と増加していた(10件が受診勧奨).本活動前の診療録には患者の苦痛症状ならびにオピオイドの副作用について十分な記載がされていないことも多く,本活動によりがん性疼痛緩和指導管理料の算定要件に満たした診療録となり,算定件数の増加にも寄与した.

本活動前後の副作用の発現状況を表3に示す.本活動後に多くの便秘,眠気の副作用の発現が確認されており,副作用全体では活動後の方が有意に発現頻度が高かった(p=0.04).また,STAS-J 2以上の副作用は活動前12名(22.2%),活動後9名(13.2%)であった.

表1 患者背景
表2 オピオイド導入支援活動前後の結果
表3 オピオイド導入支援活動前後の副作用

考察

本研究で外来診療に携わった医師はすべて緩和ケア研修会の受講済みの医師であり,緩和医療についての一定の理解が得られていると思われるが,専門スタッフの介入によりレスキュー薬の追加変更や支持療法薬の処方追加変更につながり,患者個々に合わせた薬物治療を提供することができたと思われる.

がん疼痛患者に対するセルフマネジメントの教育は疼痛や副作用の軽減に寄与すると報告されている10).千葉らは医療用麻薬を服用している7.1%の患者が適切に服用していない存在を明らかにしており,外来患者に対する服薬支援を継続的に行うことを推奨している11).我々の活動では緩和ケアチームスタッフによる初回処方日のオピオイド指導と処方3〜5日目のテレフォンフォローアップを実施することで患者のセルフマネジメントの向上を促している.テレフォンフォローアップ時にオピオイドの副作用やレスキュー薬の使用方法について相談される件数は実施患者の61.7%であり,多くの患者がオピオイドに関する情報提供を必要としていたことが明らかとなった.奥田らの報告7)でも約75%の患者が疼痛や副作用についての相談をしており,本研究と同様の結果であった.

オピオイド導入時の制吐剤,緩下剤は症状出現時にいつでも使用できる状況にすることが推奨されていること12)から,我々はテレフォンフォローアップ時に制吐剤,緩下剤の服用調整が可能となるよう,オピオイド導入時に制吐剤・緩下剤の頓用処方を必要時医師に依頼している.本活動では緩下剤の追加・変更18件,制吐剤の追加・変更8件を実施しており,活動後には制吐剤や緩下剤の処方割合は増加した.本研究では活動後のSTAS-J 2以上(日常生活に支障をきたす苦痛)の吐気,便秘の発現頻度は活動前と比較して低下する傾向がみられたことから,専門スタッフによるテレフォンフォローアップにより症状緩和が得られた可能性がある.

本研究では本活動実施後の副作用発現率は全体的に増加傾向であり,とくに便秘や眠気の副作用発現を多く確認した.これは本研究が後方視的な観察研究であるため,専門スタッフによる詳細な症状評価により便秘や眠気などの軽微な副作用が診療録に明記されたことが影響していると考える.

本活動は外来での限られた時間内にオピオイド鎮痛薬の導入指導に対応する人員の確保と,患者個別性に配慮して看護ケアがより必要な場合には看護師が対応できるようにするために緩和ケアチームの薬剤師・看護師で活動を行っている.今後は外来での服用状況ならびに副作用の確認に対しては保険薬局薬剤師による関わりも強化する必要がある.

本研究は単施設での後方視的観察研究であるため,症例の偏りなど一般化するには限界がある.さらにはわれわれの活動では3場面のみの関わりであり,疼痛の軽減や副作用の改善に大きく寄与することは難しいと考え,本研究では疼痛スコアや副作用の詳細について調査項目に含めないこととした.今後は前向き観察研究として追加検証を実施していく必要がある.

結論

当院での本活動の実施により患者個々に合わせた薬物治療の提供,患者の相談機会の増加に寄与することができた.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

山本は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草に貢献;渡邊は研究の構想およびデザイン,分析,解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;近藤は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;浅井,小田切は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;出口,平野,櫻井,公文,村路,持山,奥村は研究の構想およびデザイン,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

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