Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Case Report
Opioids for Secondary Generalized Hyperhidrosis Associated with Renal Cell Carcinoma
Takeru FujitaHiroaki ItoHiroaki Watanabe
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2020 Volume 15 Issue 4 Pages 355-359

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Abstract

【緒言】悪性腫瘍に合併した続発性全身性多汗症に対して推奨されている治療法はないが,症状緩和にオピオイドが有効であった症例を経験した.【症例】64歳女性.右腎細胞がん(右腎摘除術後),骨転移,肺転移,左副腎転移と診断され,右股関節部のがん疼痛と,突発する全身多量発汗の症状緩和目的で緩和ケア病棟に入院した.がん疼痛に対しては,入院前から使用していたフェンタニル貼付剤を増量することによりレスキューが必要ない状態となった.発汗に対しては,腫瘍熱と考え解熱鎮痛薬とステロイドを使用したが効果を認めず,オキシコドン速放製剤を予防的に使用することにより症状緩和が得られた.【考察】本症例の発汗には視床下部とフェンタニル貼付剤が関与したと考えられる.オピオイドは視床下部に作用し発汗を抑制する可能性がある.

緒言

多汗症は発汗異常症に分類され,発汗過剰を認める疾患である.原発性局所多汗症はQuality of Life(QOL)を低下させることが知られており,国内の有病率は12.76%で1),障害者総合支援法の対象疾病である2).続発性全身性多汗症の有病率は不明である3)が,寝汗はがん患者の一般的な症状であり4),がん患者の5〜28%に発汗がみられる57)ことが報告されているため,続発性全身性多汗症によりQOLが低下しているがん患者は一定の割合で存在し,適切に対処する必要があると考えられるが治療法は確立されていない8).がん患者の発汗に対する治療としてシメチジン9)やガバペンチン10),オランザピン11),サリドマイド12)などが有効であることが報告されているが,今回われわれは,症状緩和にオピオイドが有効であった1例を経験したので報告する.本稿では,個人が特定できないように内容の記述に倫理的配慮を行った.

症例提示

【症 例】64歳女性(52歳時閉経)

【主 訴】右股関節部痛,全身多量発汗

【既往歴】2型糖尿病(神経障害なし,HbA1c 6.0%)

【現病歴】2017年,血尿精査の結果,右腎細胞がん(淡明細胞型),骨転移,肺転移と診断され,右腎摘除術が実施された.2018年,化学療法と放射線療法(左肋骨)が実施され,がん疼痛に対してフェンタニル貼付剤の使用が開始された.2019年2月,放射線療法(右坐骨)が実施された.2019年6月,左副腎転移が出現したが,倦怠感が強く抗がん治療終了方針となった.2019年10月,骨転移による右股関節部のがん疼痛と,数カ月前から出現した,昼頃に突発するほてりを伴う全身多量発汗(以下,発汗症状)の症状緩和目的で緩和ケア病棟に入院した.

【入院時現症】ECOG Performance Status は2であった.体温:36.5℃,血圧:103/80 mmHg,脈拍:70回/分,呼吸数:16回/分,SpO2:96%(室内気)であった.胸腹部に特記する異常を認めなかった.ミオクローヌスや振戦を認めなかった.発汗症状はSupport Team Assessment Schedule(STAS)-2であった.

【入院時使用薬剤】フェンタニル貼付剤(1日用,20時交換)50 μg/時,オキシコドン速放製剤10 mg/回(5回程度/日),セレコキシブ錠200 mg/日,ナルデメジントシル酸塩錠0.2 mg/日,酸化マグネシウム錠990 mg/日,パンテチン錠300 mg/日,ボノプラザンフマル酸塩錠10 mg/日,フェキソフェナジン塩酸塩錠60 mg/日,ブロチゾラム錠0.25 mg/日,オマリグリプチン錠25 mg/週

【血液検査所見】第1病日と第5病日の所見を示す(表1).CRPの軽度高値を認めた.甲状腺機能(TSH・FT3・FT4)に異常を認めなかった.

【胸腹骨盤部CT所見】感染性心内膜炎や結核症,深部膿瘍などの所見を認めず,病的リンパ節腫大や炎症所見も認めなかった.

【入院後経過】発汗症状に関して「入院前に発熱はなかった.発熱があると発汗することもあるが,発汗するからといって発熱があるわけではない.朝の体温が36.3℃程度の日は発汗しないが,36.8℃程度の日は発汗する」という経過を聴取した.がん疼痛に対して,セレコキシブ錠200 mg/日をエトドラク錠400 mg/日に変更し,フェンタニル貼付剤を50 μg/時間から75 μg/時間に増量,15時交換に変更し,レスキューのオキシコドン速放製剤を1回10 mgから20 mgに増量したところ,疼痛軽減し疼痛時レスキューが必要ない状態になった.体温と発汗の関係について本人が気にしていたため,体温計を渡し本人管理で腋窩温を適宜測定した.第2病日に出現した38.0℃の発熱に対して,感染兆候を認めなかったことから腫瘍熱と考え,頓用のアセトアミノフェン錠500 mgとデキサメタゾン錠4 mg/日の使用を開始した.発熱は改善傾向がみられたが,発汗は改善傾向がみられず,発汗時の発熱を確認できなかった.発汗症状に対しては頓用のアセトアミノフェン錠500 mgが無効であり,エアコンの設定温度を細やかに調整し,寝具を多めに渡すケアで対応した.ステロイド開始後も朝食前血糖値は110〜141 mg/dlで安定しており,毎食ほぼ10割摂取できていた.食事内容を適宜変更したが発汗は改善しなかった.第8病日にも「突然全身に汗をかき衣服が濡れ,冷えて寒い.そのたびに寝具を交換しなければならない」という昼頃の発汗症状はSTAS-2で続いていた.発汗症状に関して,入院前からオキシコドン速放製剤が有効で,前駆症状(ほてり)のときに使用すると発汗しないという自己評価から,ほてりが生じる昼前にオキシコドン速放製剤20 mgを試用したところ,自覚症状の軽減が得られた.それ以降,発汗症状の予防目的でオキシコドン速放製剤20 mgを昼前に定期使用したところ,自覚症状として発汗症状がなくなり,発汗による寝具交換も不要となり客観的な発汗量の減少が確認された.また,医療者に対し「病気だから仕方がないと思っていた.今まで我慢していたと気づいた.今後の仕事についてずっと悩んでいたが,辞めなくていいとわかり安心した」など,慢性ストレス状態が緩和された発言がみられた.症状緩和が得られ,レスキュー回数は2回程度/日(発汗予防と体動時痛予防)になり,ステロイドを継続したまま第14病日に退院となった.2019年12月,倦怠感の症状緩和目的で緩和ケア病棟に再入院したが,予防的にレスキューを使用しなくても発汗症状が出現しない状態になっていた.

表1 血液検査所見

考察

多汗症は原発性多汗症と続発性多汗症に分類され,続発性多汗症は続発性局所性多汗症と続発性全身性多汗症に分類される.多汗症の診断基準と原因,治療法を示す(図1).続発性全身性多汗症に対して推奨されている治療法はない8)

図1 多汗症の診断基準と原因,治療法8)

(原発性局所多汗症診療ガイドライン2015年改訂版を基に著者作成,許諾取得済)

本症例は原発性多汗症の診断基準に適合せず,基礎疾患があり発汗は全身に生じていたため,続発性全身性多汗症と診断した.原因について述べる.薬剤性に関して,抗うつ薬やホルモン剤,β遮断薬,Ca拮抗薬,テオフィリンは使用していなかった.副作用として多汗があるセレコキシブを使用していたため,エトドラクに変更したが発汗に変化を認めなかった.フェンタニルを使用していたが,増量による疼痛改善後も発汗に変化を認めなかったことからEnd-of-dose-failureは否定的であり,交換時間の変更後も昼頃に発汗していたことからUltra-rapid metabolizerによる離脱症状は否定的であった.オピオイドの使用はSavageらの嗜癖の定義13)に該当せず,疼痛改善後はレスキュー回数が減ったことから,オピオイド乱用・依存は否定的であった.深部感染症や結核症,後天性免疫不全症候群などの所見を認めず,発熱に対して抗微生物薬を使用しなくても症状や炎症反応の増悪を認めなかったことから,感染症は否定的であった.内分泌・代謝疾患に関しては,甲状腺機能亢進症や低血糖,褐色細胞腫は否定的であった.また,脳血管障害や慢性疲労症候群は否定的であった.以上のことから,フェンタニル使用中の,悪性腫瘍に合併した続発性全身性多汗症と診断した.

発汗の機序について述べる.本人は体温を気にしていたが,発汗時の発熱を確認できず,発汗に対して解熱剤が無効であったため温熱性発汗は否定的であった.また,発汗は全身に生じていたため精神性発汗も否定的であり,食事内容と関連がなかったため味覚性発汗も否定的であった.発汗が周期的に生じていたこと,発汗症状の緩和と慢性ストレス状態の緩和が関連していた可能性があることから,発汗症状には概日リズムや自律神経の中枢である視床下部が関与したと考えられる.また,機序は不明であるがフェンタニルの使用は発汗と関連がある5)ことが報告されており,フェンタニル貼付剤の使用が発汗に関与したと考えられる.

続発性全身性多汗症の治療にオピオイドが有効であったという報告はないが,本症例では,患者の入院前後主観的評価でも,医療者の入院後客観的評価でも,フェンタニル貼付剤使用中でのオキシコドン速放製剤の使用が有効であったことを確認した.シメチジンやガバペンチン,オランザピン,サリドマイドは使用していなかった.

オピオイドが発汗を抑制した機序について一つの仮説を述べる.μオピオイド受容体(以下,μOR)は脳内に多く発現し,κオピオイド受容体(以下,κOR)は視床下部や脊髄に多く発現する.μORとκORは活性化されることにより,ともに鎮痛作用が認められるが,相反する作用も認められる14).オピオイドのμOR・κORに対する阻害定数(Ki)15),血液から脳への取り込みクリアランス(CLin)16)を示す(表2).フェンタニルとオキシコドンはともにμOR・κOR作動性に働くが,受容体に対する親和性が異なる.一方,フェンタニルは脂溶性が高く脳移行性がよいが,オキシコドンは濃縮的に脳内に能動輸送される17)ことが報告されており,ともに中枢作用性に効果を発揮していると考えられる.よって,オキシコドンが全体的な親和性の異なるフェンタニルに追加されることにより,視床下部において親和性の偏りを補う作動薬として働き,発汗を抑制したと考えられる.

限界について述べる.発汗の機序として,異所性ホルモン産生などの腫瘍随伴症候群や自律神経障害などが関与した可能性がある.発汗を抑制した機序として,オキシコドンの抗コリン作用が関与した可能性や,他のオピオイド速放製剤でも有効であった可能性がある.機序の確定に至ることは困難であるが,今後の知見が待たれる.

表2 オピオイドの阻害定数(Ki)15)と血液から脳への取り込みクリアランス(CLin)16)

結論

続発性全身性多汗症に伴う突発性の発汗による苦痛緩和に,オピオイドが有効である可能性が示唆された.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

藤田は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;伊藤,渡邊は研究の構想およびデザイン,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

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© 2020 by Japanese Society for Palliative Medicine
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