Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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A Retrospective Study to Explore Prognostic Factors of Short Survival in Patients with Malignant Pleural Mesothelioma upon the Time of Admission to Palliative Care Unit
Jun SonoNorinaga UrahamaRei UenoFumitaka IsobeKazumasa Yoshinaga
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2021 Volume 16 Issue 1 Pages 109-113

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Abstract

【目的】悪性胸膜中皮腫患者の緩和ケア病棟入院時における早期死亡予後予測因子を後ろ向きに検討する.【方法】2016年1月から2018年4月までに当院緩和ケア病棟で死亡した12例の悪性中皮腫患者を先行研究にならい,入院から死亡までの期間別に,A群:13日以内,B群:14日以上55日以内,C群:56日以上に分類し検討した.【結果】各群の症例数は,A群5例,B群5例,C群2例であった.血痰はA群のみ40%にみられ,A群では全例酸素吸入を必要とした.C群にみられなかった因子のうち,嚥下困難および両側病変がA群で80%,B群で60%に,肺炎がA群で60%,B群で20%にみられた.【結論】症例数が少ない予備的な研究であるが,血痰,嚥下困難,両側病変,肺炎,酸素吸入が,悪性胸膜中皮腫患者の緩和ケア病棟入院時における早期死亡の予後予測因子である可能性が示唆された.

緒言

悪性胸膜中皮腫(malignant pleural mesothelioma: MPM)は,ほとんどがアスベスト暴露に起因する悪性疾患で,治療法が進歩する中でも極めて予後不良である.暴露から発病までの期間は30年以上とされ,本邦でアスベスト使用が全面的に規制された2006年以降も現在に至るまで患者の発生は続き,2016年には死亡数1,550人(男1,299人,女251人)に上っている1).また阪神淡路大震災時から問題となった建物解体に伴う飛散アスベスト吸入によるMPM発生のリスクは,今後も継続すると思われる.従来MPMの発病から死亡までの平均期間は1.3年と報告されている2).当院緩和ケア病棟(palliative care unit: PCU)では入院後のMPM患者は,他の悪性疾患患者よりも急激に症状が悪化し,早期死亡が多い印象を受けた.しかし,著者の検索した限り,MPM患者のPCU入院時の早期死亡の予後予測ついては報告が見当たらなかった.本研究の目的は,PCUに入院したMPM患者や家族に,残された短い時間を有効に使っていただけるよう,とくに日の単位の早期死亡に関連する予後予測因子を予備的に探索することである.

方法

研究デザイン

全該当患者の死後,診療録を調査した後ろ向き観察研究である.

調査対象

2016年1月から2018年4月までの2年4カ月間に,当院PCUで死亡した12例のMPM患者である.全例とも治療効果判定はprogressive diseaseであり,PCUでは酸素吸入やオピオイドおよびステロイドを中心とした緩和ケアが行われた.

調査項目

対象MPM患者の診療録を閲覧し,PCU入院時における年齢,性別,病型,症状出現からPCU入院までの期間,入院から死亡までの期間を抽出した.重篤な自覚症状の代表として,血痰,嚥下困難,酸素吸入を,CTなどで客観的に病変を評価できる項目として,嚥下困難,両側病変,肺炎を抽出した.CT画像では,食道狭窄,両側病変,肺炎,気管浸潤の有無を検討した.Palliative Prognostic Index(PPI)とPalliative Prognosis Score(PaPスコア)は,入院時における評価を全例診療録で確認した.

統計

本研究はA群5例,B群5例,C群2例と症例数が少ないため,各群比較に際し有意差検定は行われなかった.

結果

12例の患者背景を各群別に表1に,各群の平均値や標準偏差と有症状や有所見の割合を表2に示した.A群5例,B群5例,C群2例で,入院から死亡までの平均期間は,それぞれ10.2日,24.8日,128.5日であった.症状出現から入院までの平均期間は,各群でそれぞれ24.8カ月,13.2カ月,21.0カ月であった.病型では上皮型が多く,A群とC群では100%を占め,B群では3例60%で,他は二相型および肉腫型の各1例であった.A群では嚥下困難が80%,両側病変が80%,肺炎が60%,血痰が40%にみられ,いずれもC群には認められなかった.各群の平均値をA群,B群,C群の順に記載すると,一般的な予後予測ツールのPPIは9.8,8.3,6.0であり,PaPは14.1,12.6,7.0であった.血痰はA群のみ40%にみられ,B群,C群にはなかった.A群,B群にみられC群になかった因子は,それぞれ嚥下困難が80%,60%,0%,両側病変が80%,60%,0%,肺炎が60%,20%,0%であった.一方,酸素吸入はA群の全例100%が必要としたが,B群の40%,C群の50%でも必要であった.

表1 患者背景
表2 生存期間別の患者背景の比較

考察

本研究は,さらなる対がん治療を受けない進行期がん患者の症状を用いた予後予測モデルとして知られているPiPSモデルの予後期間分類を取り入れてMPM患者のPCU入院時の諸因子分析を行い,特有の早期死亡予後予測因子を検討した3).PiPSモデル自体は複雑な計算式による算出が必要なため,本研究では簡便で広く用いられているPPIとPaPスコアを算出した4).本研究はA群5例,B群5例,C群2例と症例数が少なく,本来すべての評価項目について統計学的検出力はないため,統計学的検討は行われなかった.

MPM患者特有の症状として,血痰はCTで観察されたMPMの気管浸潤などによると思われ,「日の単位」の早期死亡の予後予測因子である可能性が示唆された.嚥下困難は食道狭窄によると思われ,過去にはMPMの稀な症状として症例報告が散見された511).しかし,Akowuahらは嚥下困難がMPM末期にみられることを指摘11)しており,むしろMPM末期の早期死亡の予後予測因子として重要であることが示唆された.嚥下困難の原因として,A群B群ともCTにて食道周囲の胸膜病変の進行12)によると思われる食道狭窄が多く観察された(図1).食道狭窄の確定診断には食道造影や内視鏡検査が必要であるが,患者の状態を考慮し実施されなかった.両側病変の場合,食道狭窄による嚥下困難をきたす確率が高いと思われ,本研究でもその頻度が一致した.従って,血痰,食道狭窄による嚥下困難,両側病変,肺炎のいずれもないことが,C群の2カ月以上の生存に寄与したと思われた.本研究は全症例数が12例と少なく,限界がある予備的研究であり,今後は症例数を増やしての研究が必要と思われた.

図1 症例A-5の嚥下困難の原因と思われる食道狭窄(⇨)

倫理的対応

本研究は世界医師会のヘルシンキ宣言に則り,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成26年文部科学省,平成29年2月一部改正,厚生労働省告示第3号)を遵守した.すでに死亡退院した患者を対象とした診療録調査による後ろ向き観察研究であるため,インフォームド・コンセントは取得せず,病院の倫理委員会から審査不要である旨の証明書(IRB exemption letter)が発行された.

結論

本研究は症例数が少なく予備的な研究であるが,MPM患者のPCU入院時において,血痰,嚥下困難,両側病変,肺炎,酸素吸入が早期死亡の予後予測因子である可能性が示唆された.今後は症例数を増やしての研究が必要と思われた.

謝辞

これらMPM患者の緩和ケアに尽力された協和マリナホスピタルPCUの看護および介護スタッフとボランティアの皆様に心から感謝する.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

薗,浦浜は研究の構想およびデザイン,研究データの収集分析,データの解釈,原稿の起草および重要な知的内容にかかわる批判的な推敲に貢献;上野,磯部,吉永は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2021 by Japanese Society for Palliative Medicine
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