Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Qualitative Assessment of End-of-life Care Simulation in Nursing University Students Using a Review Sheet: Replication Report for University B
Anri InumaruTomoko TamakiYumie YokoiMakoto FujiiMayumi Tsujikawa
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2021 Volume 16 Issue 1 Pages 59-66

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Abstract

【目的】単一施設(A大学)で評価を行ってきた終末期ケアシミュレーションを,異なる教育環境(B大学)の看護大学生に実施し,振返りを通して評価する.【方法】終末期ケアシミュレーション実施後,参加者に振返り用紙への自由な回答を求め,内容分析を行った.【結果】参加者は12名であった.振返り内容は,13個のカテゴリー:看護に関する自己の理解,看護に関する自己の肯定的見通しの実感,コミュニケーションに関する知の獲得,終末期に関する知の獲得,学習機会の取得,デブリーフィングによる効果の実感,看護に関する自己の肯定的変化,看護の知の獲得,リアリティの実感,教員の関わりに対する評価,実施方法への評価,場の雰囲気に対する評価,経験への評価に集約された.【考察・結論】終末期ケアシミュレーション参加者は,教育環境にかかわらず,同様の学習経験を得ることが期待できる.

緒言

終末期における患者の身体的・心理的状況は複雑であり,慎重で丁寧なケアが求められる.そのため,看護学生が臨地実習で受け持ち患者を通して学ぶ機会は少ない1).このような背景から,厚生労働省2)は,臨地実習で経験できない内容は,シミュレーション等により補完するよう示している.そこで,著者らは看護大学生が終末期ケアを学ぶ教育手法の一つとして終末期ケアシミュレーションを開発し,評価してきた.その結果,シミュレーション参加後の学生の終末期ケアに対する自信は上昇し3),知識・技術も上昇すること4)が確認できた.また,振返りを質的分析した結果,13個のカテゴリー[コミュニケーションに関する知の獲得],[実施方法への評価],[看護に関する自己の理解],[看護に関する自己の肯定的見通し],[終末期に関する知の獲得],[場の雰囲気に対する評価],[学習機会の取得],[看護に関する自己の肯定的変化],[デブリーフィングの効果],[経験への評価],[リアリティの実感],[看護の知の獲得],[教員の関わりに対する評価]が抽出され,終末期に関する知識や実践力を得るとともに自己成長が窺われた5)

一方,看護系大学は増加し,2019年には272校に上っている6).看護系大学におけるカリキュラム構築は,各大学が独自の理念や特色に基づいて行われている7).そのため,各大学での教育内容は統一されておらず,終末期ケアに関する教育も同様に各大学によって教育の多寡や内容の違いが生じている.

これまでに終末期ケアシミュレーション教育を実施し,評価してきた大学(A大学)は,緩和ケアを専門領域とする教員がおり,終末期ケアに関する授業(6時間)や模擬患者を用いた演習(6時間)を導入し,終末期ケアに関する教育に精力的に取り組んでいた.しかし,これらの結果は単一施設(A大学)での検討であるため,異なる教育環境を持つ施設での実施・評価が必要であると考えた.

そこで本研究では,開発した終末期ケアシミュレーション教育を教育環境の異なる大学 (B大学)の看護大学生にも実施し,振返り用紙を内容分析することにより,質的に評価することを目的とした.

方法

用語の定義

終末期ケア:「治療が望めない時期から終末期」にある患者に対して,「無駄で苦痛を与えるだけの延命治療を中止し,人間らしく死を迎えることをささえるケア」を意味する8)

シミュレーションシナリオ:「効果的なシミュレーション学習をねらって指導者が設計する,体系化された計画」を意味する9).目標や目標を達成するためのシミュレーションセッションの内容と指導者のかかわり方,学習者の事前学習などの準備,物品や場の環境,模擬患者やデブリーフィングの内容と支援方法のすべてを含んでいる.

デザイン

B大学の参加者の振返り内容を帰納的に分析する質的研究デザインとした.

設定

終末期ケアシミュレーションは,先行研究で開発・評価されたシナリオ3)をそのままB大学で使用した.また,シミュレーションは先行研究と同一の研究者が実施した.

終末期ケアシミュレーションシナリオを図1に示す.終末期ケアシミュレーションシナリオは,1.事前学習2.ブリーフィング(導入)3.シミュレーションとデブリーフィング(振返り)4.まとめで構成されている.事前学習は,全人的苦痛,痛みの治療・評価,医療用麻薬の種類とその副作用に関する資料をシミュレーションより3日前に配布した.ブリーフィングでは学習目標を提示し,患者設定等の説明を行った.シミュレーション・デブリーフィング・まとめは,所要時間80分とし,1グループずつ実施した.学生1名につき5分のシミュレーション実施,その後7分のデブリーフィング実施を5回繰り返した.時間は学生の理解度に合わせて調整した.デブリファー1名と板書や資料配布を行う補助員1名が関わった.補助員は参加者の発言を事前に用意した項目に沿って,参加者が見えるように板書した.事前に用意した項目は,デブリーフィングにおいて必ず引き出したい項目である体温などのバイタルサインズ,痛みの部位・程度,医療用麻薬の副作用,患者の思い,処方薬の種類などとした.

図1 終末期ケアシミュレーションシナリオ

研究対象者および募集方法

終末期ケアシミュレーションは成人看護学概論・各論の全単位を取得したB大学3年次の看護大学生80名を対象とした.2017年12月から2018年2月の期間,学内の掲示板に研究内容を掲示して参加者を募集した.

参加大学の教育環境

B大学は,緩和ケアを専門領域とする教員はおらず,終末期ケアに関する授業は90分授業のなかの一部分で触れられるのみであり,模擬患者を用いた演習は実施していない.

データ収集期間・方法

2018年3月に実施した.終末期ケアシミュレーション実施直後に各人1枚の振返り用紙を配布した.振返り用紙には,シミュレーション後の感想を詳細かつ理由がわかるよう記してほしいこと,よいことだけでなく悪いことも記すよう依頼文に記載し,それ以下,参加者の自由記載とした.回収BOXを設置し,振返り用紙の提出は参加者の自由意思とした.

データ分析

今回得られた振り返り用紙で得られたデータの分析は,先行研究5)と同様にBerelsonの内容分析10)の手法を用いた.これは,言語的に記述されたものをデータとし,客観的,体系的,数量的に記述する調査方法である.1人の回答全体を文脈単位とし,意味内容がわかる1単文を記録単位とした.平井11)は,先行研究から主要な構造がわかっている場合には,先行研究をもとに理論的な枠組みを使用し,枠組みの妥当性を検証しながらカテゴリーを作成する方法を提言している.そこで本研究では,既存の枠組みをA大学の分析から得られた同一記録単位群およびカテゴリーとし,B大学の記録単位を分析した.記録単位を分類するにあたって,新しい同一記録単位群やカテゴリーが生成されないか丁寧に確認した.全過程において5名の研究者で吟味し,カテゴリー分類の信頼性はScottの式12)にて算出した.Scottの信頼性係数は0.7以上が基準とされている.まず3名の研究者で内容分析を行った後,2名の研究者に1割程度の記録単位,同一記録単位群,カテゴリーの書かれた表を渡した.2名の研究者が分析したものと3名の研究者が分析したものを比較し,信頼性が担保されるか確認した.一致しなかったカテゴリーは再度研究者間で見直した.

倫理的配慮

参加の有無・辞退や結果が成績には無関係であること,研究への拒否や同意の撤回を行っても不利益はないこと,公表に際して匿名にすること等を説明し,文書によって同意を得た.なお,本研究は研究実施機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した.

結果

研究参加者は12名(参加率15%),全員21歳女性であった.中途脱落者はなく,振返り用紙の回収率は100%,107記録単位を抽出した.このうち終末期ケアシミュレーションに関わりのない16記録単位を除外し,91記録単位を分析対象とした.

その結果,本研究で抽出された記録単位は,「参加者自身に対する振返り」と「シミュレーション教育に対する評価」に大別され,13個のカテゴリーに集約された(表1).カテゴリー分類への一致率は72.9%と,信頼性が確保される基準を満たしていた.以下,[ ]はカテゴリー名,〈 〉は同一記録単位群を示す.

表1 B大学における終末期ケアシミュレーション振返り内容

1. 参加者自身に対する振返り

参加者自身に対する振返りは,[看護に関する自己の理解],[看護に関する自己の肯定的見通しの実感],[コミュニケーションに関する知の獲得],[終末期に関する知の獲得],[学習機会の取得],[デブリーフィングによる効果の実感],[看護に関する自己の肯定的変化],[看護の知の獲得],[リアリティの実感]のカテゴリーから成る.

記録単位数の多いカテゴリーに着目すると,[看護に関する自己の理解]は,二つの同一記録単位群〈振返りによる自己傾向の理解〉,〈自己課題の発見〉から成る.具体的には,「今までは,傾聴しているときにネガティブな発言をされると,それ以上踏み込めないでいる自分がいた」,「とっさにNURSEで対応できなかったので,NURSEを練習しておく必要がある」などがあった.[看護に関する自己の肯定的見通しの実感]は,三つの同一記録単位群〈コミュニケーションに関する自己の肯定的見通しの実感〉,〈今後の実践に対する肯定的見通しの実感〉,〈フィジカルアセスメントに関する自己の肯定的見通しの実感〉から成る.具体的には,「今後の実習でも患者さんとコミュニケーションをとるときに今日のことを振り返って,つなげていくことができると感じた」,「観察やアセスメントはどの領域でも応用していけると思うので,生かしていきたい」などがあった.[コミュニケーションに関する知の獲得]は,四つの同一記録単位群〈コミュニケーション全般の知の獲得〉,〈NURSEの使い方の理解〉,〈NURSEという枠組みの理解〉,〈傾聴方法の理解〉から成る.具体的には,「基本的なコミュニケーションスキルを知ることができた」,「最もよかったと感じたのは,傾聴のスキルを学ぶことができたこと」などがあった.[終末期に関する知の獲得]は,四つの同一記録単位群〈終末期のフィジカルアセスメントに関する知の獲得〉,〈終末期患者との関わりに関する知の獲得〉,〈終末期医療に関する知の獲得〉,〈終末期患者の心理に関する知の獲得〉から成る.具体的には,「看護師も考察しながら患者さんに(疼痛を抑えるための薬を)渡す責任があると感じた」,「この種類の疼痛があるから今はこの薬,早く痛みに作用したいからこの薬まで考えて処方されている(と知った)」などがあった.

2. シミュレーションに対する評価

シミュレーション教育に対する評価は,[教員の関わりに対する評価],[実施方法への評価],[場の雰囲気に対する評価],[経験への評価]から成る.

記録単位数の多いカテゴリーに着目すると,[教員の関わりに対する評価]は,一つの同一記録単位群〈教員の関わりに対する肯定的評価〉から成る.具体的には,「すごくよく褒めてくれて,積極的に発言することができた」などがあった.[実施方法への評価]は,四つの同一記録単位群〈板書に対する評価〉,〈デブリーフィングに対する評価〉,〈物理的環境に対する評価〉,〈実施時期に対する評価〉から成る.具体的には,「字として表すことで頭の中で整理できた」,「恋愛の例え話がわかりやすかった」,「距離があると声かけがしにくいので,シミュレーション部屋が適度な広さでよかった」などがあった.

考察

B大学における終末期ケアシミュレーションの質的評価

本研究により,[実施方法への評価],[終末期に関する知の獲得]に新たな同一記録単位群〈板書に対する評価〉,〈デブリーフィングに対する評価〉,〈物理的環境に対する評価〉,〈終末期医療に関する知の獲得〉が追加された.これは,先行研究5)結果に加えて,われわれの開発した終末期ケアシミュレーションシナリオの有効性が強化されたと考える.

本研究で新たに抽出された同一記録単位群〈板書に対する評価〉,〈デブリーフィングに対する評価〉,〈物理的環境に対する評価〉は,[実施方法への評価]に属し,シミュレーション教育に対する評価にあたる.シミュレーションを行う際,参加者の体験,行動やその時の考えについて振返りながら議論し,それを教員が視覚的に提示し,根拠付けしながら学習目標を達成できるように導く方法(Gather-Analyze-Summarize: GAS)をとった.これは,学習を強化するデブリーフィング法の一つである14).「字として表すことで頭の中で整理できた」といった〈板書に対する評価〉や,「恋愛の例え話がわかりやすかった」といった〈デブリーフィングに対する評価〉が抽出されたのは,この方法が肯定的に評価されたためと考えらえる.また,シミュレーションは病室環境を再現しているため,模擬患者との距離も近くなっている.そのため,「距離があると声かけがしにくいので,シミュレーション部屋が適度な広さでよかった」といった〈物理的環境に対する評価〉が抽出されたと考えられた.

参加者自身に対する振返りである[終末期に関する知の獲得]のカテゴリーに属する〈終末期医療に関する知の獲得〉は,終末期医療に関する重点的な講義や演習がないB大学の学生にとって,新しい知識を得る経験となったため,抽出されたものと考えられた.これは,終末期医療に焦点を当てた講義や演習がない教育環境にある学生であっても,終末期ケアシミュレーションの参加により,終末期医療に関する知識を獲得できる可能性を示していると考える.

教育環境の異なる看護大学生への適用への示唆

本研究で抽出された記録単位は,先行研究5)で得られた13個のカテゴリーに集約された.したがって,教育環境が異なる看護大学生であっても,終末期ケアシミュレーションに参加することにより,同様の振返りおよび評価が得られる可能性がある.さらに,すべての同一記録単位群が先行研究と同様であったカテゴリーは五つあった.そのうち[看護に関する自己の理解],[看護に関する自己の肯定的見通しの実感],[デブリーフィングによる効果の実感],[看護の知の獲得]は,参加者自身に対する振返りにあたる.これらのカテゴリーは,教育環境が異なる看護大学生においても,終末期ケアシミュレーションへ参加することによって,同様の学習経験をすることが可能な内容であると考える.

シミュレーション教育では,内省が大事な要素といわれている15).B大学において記録単位数が最も多い[看護に関する自己の理解]には「今までは,傾聴しているときにネガティブな発言をされると,それ以上踏み込めないでいる自分がいた」等,参加者が内省していたことが示されていた.看護師は終末期患者との関わりにストレスを抱きやすいという報告があることから16),学生も終末期患者との関わりに対する難しさを認識し,自己の看護について内省する機会となったと考える.また,先行研究において終末期ケアシミュレーション参加後に学生が自信を獲得したことが報告されている3).同様に本研究で[看護に関する自己の肯定的見通しの実感]が抽出されたことは,終末期ケアに対する難しさを認識しながらも,終末期ケアシミュレーションの参加によって,終末期患者への〈コミュニケーションに関する自己の肯定的見通しの実感〉や〈フィジカルアセスメントに関する自己の肯定的見通しの実感〉を体験し,学生の自信の獲得に貢献できたと考える.そして,[デブリーフィングによる効果の実感]として,実施とデブリーフィングを交互に行ったことで,「情報が何のために必要なのかが頭に入りやすかった」といった振返りがみられた.これは,具体的経験をして経験を振返り,知識と技術を統合し,新たな状況に適応するというKolbの経験学習理論17)に沿った効果的な学習であったことを示していると考える.

さらに,[看護の知の獲得]では,「収集した情報をどのようにアセスメントし,看護計画につなげていけばいいのかが知ることができた」といった振返りがみられた.これらは,参加者が学習目標「①全身状態を観察・評価し心身の苦痛を査定できる」「②安楽への看護援助を考え一部実施することができる」を一部達成した結果であると考えられた.

また,[経験への評価]は,シミュレーション教育に対する評価にあたる.参加者は「体験できてよかった」と述べており,終末期ケアシミュレーションへの参加自体が,参加者にとって肯定的な経験であると考えられた.

以上のことから,終末期ケアシミュレーション参加者は,教育環境にかかわらず,上記に示した学習目標が達成可能であり,同様の学習経験を得ることが期待できると考える.

本研究の限界

本研究の限界としては以下のことが挙げられる.第1に,本研究は掲示による参加希望者を対象としているため,学習に対して意欲の高い学生や,終末期ケアに関心のある学生であった可能性がある.また,研究参加者は,1大学の学生12名(参加率15%)にとどまり,選択バイアスが生じている可能性があるため,本結果の一般化には限界がある.今後は対象者を増やすことや,異なる教育環境での検証を検討する.第2に,デブリファーである研究者は終末期ケアシミュレーション教育に対し熱意をもって実施しており,参加者に影響を及ぼした可能性がある.しかし,本研究において,デブリファーには緩和ケアを専門領域としない教員も含まれており,教員の専門性による影響は少ないと考える.

結論

1.終末期ケアシミュレーション参加者の振返り用紙に記載された内容を質的に分析した結果,13個のカテゴリーに集約された.

2.13個のカテゴリーは先行研究で抽出されたものと同様であったが,カテゴリー[実施方法への評価],[終末期に関する知の獲得]に新たな同一記録単位群〈板書に対する評価〉,〈デブリーフィングに対する評価〉,〈物理的環境に対する評価〉,〈終末期医療に関する知の獲得〉が追加された.

3.教育環境の異なる看護大学生においても,終末期ケアシミュレーションに参加することで学習目標を達成することが可能であり,学生が同様の学習経験をすることが可能である.

謝辞

研究にご協力いただいた皆様,多大な助言を下さった東京医科大学の阿部幸恵先生に深謝します.結果の一部は第39回日本看護科学学会学術集会(2019年12月,愛媛)にて発表した.

研究資金

本研究は日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究(C)課題番号17K12275による助成を受けて実施したものである.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

犬丸はデータ収集・分析および草稿の作成に貢献;玉木は研究の構想からのデータ収集・分析および草稿の推敲に貢献;横井,藤井はデータ収集・分析および草稿の推敲に貢献;辻川はデータの解釈・草稿への推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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